契約溺愛婚~眠り姫と傲慢旦那様には秘密がある~

水無瀬雨音

文字の大きさ
上 下
27 / 52
二章 スピード婚と結婚生活

里帰り2

しおりを挟む
「ここがプリシラ様が育ったところですかー。素敵ですね」
「そうでしょう? もうすぐ麦の収穫ね」

 風になびく黄金色の麦がきれいだ。
 馬車に揺られながら、フェンリルと並んで窓から外を眺めていた。
 ちなみにフェンリルはいつものメイド服ではなく、お出かけ用のドレス。アンセル様が新調してくれたものだ。さすがアンセル様優しい。私もいっしょに新調してもらって、同じデザインの色違いだ。
 一緒に袖を通したとき、お揃いが嬉しくて手を取り合った。姉妹がいないので経験がないのだけれど、もしいたらこんな感じなのかなぁと思った。
 時折気づいた領民が挨拶してくれるので、私も手を振り返す。
 実家を離れてさほどたっていないのに、もうすでに懐かしい。
 ほどなくして屋敷に着いた。
 ウォルトを始めとした使用人たちが、玄関の前で出迎えてくれる。わざわざ待っていてくれたらしい。
 私は急いで飛び降りると、彼らにかけよった。一緒に屋敷の中に入る。

「久しぶりー! 皆元気にしてた?」
「プリシラ様もお元気そうですね」

 アンセル様のお屋敷の使用人にもよくしてもらっているんだけど、やっぱり慣れ親しんだ実家はいいなぁー。
 使用人たちと再会を喜んでいると、少し間を開けてフェンリルも馬車から降りてきた。

「初めまして。プリシラ様付のフェンリルです。しばらくお世話になります。何かありましたら、なんなりとお申し付けくださいませ。掃除でも洗濯でも料理でも」

 丁寧に頭を下げるフェンリル。

「まぁ。お客さまですもの。何もさせられませんわ」
「ただ漫然と過ごすのは退屈ですし申し訳なくて。ああ、私の働いている屋敷とのやり方の違いに興味があります。良かったら見せていただいても?」
「私たちも興味がありますわ。教えていただいても?」
「ええもちろんです」
「じゃ、行きましょう」

 フェンリルは使用人たちと意気投合したらしい。キャッキャウフフしながら、歩いて行く。
 あっちはー……洗濯室ね。
 勉強熱心で感心するわ。

 後に残ったウォルトが、にこやかに微笑む。

「お嬢様。ああ、もう奥さまですね。不自由はありませんか? ああ、お荷物お運びします。お部屋で休まれますか?」

 ウォルトに奥さまと呼ばれるのを、照れくさく感じながら、

「不自由なんか、何もないわよ。よくしてくださっているもの。そうね。とりあえず部屋で休むわ」
「そうですか。よくしていただいているのなら、よかったです」

 部屋に向かう私の後を、ウォルトが荷物を持ってついてきてくれる。

「こっちも変わりない?」
「ええ。アンセル様が、伯爵の仕事も完璧にしてくださっているので問題ありません。むしろ効率的な収穫方法を考案してくださったりして、収益は伸びているくらいです」
「さすがね」

 さすがアンセル様。事業のかたわらで伯爵の仕事も完璧にこなすなんて。
 部屋について、ウォルトが荷物を下ろす。

「片づけるのはわたしがするわ」

 さすがに気心しれたウォルトとはいえ、荷物を見られるのは気が引ける。

「かしこまりました。お茶をお持ちしましょうか?」
「ええ。よろしく。お菓子はいらないわ」


「ではプリシラ様。何かございましたらお申し付けくださいませ」

 一旦部屋を出て行ったウォルトが、お茶の用意をして再び退室した。
 久しぶりのウォルトのお茶をゆっくり飲み終わった私は、「さて」と立ち上がった。

 家探しの開始だ。自分の実家だけれど。


 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...