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三章 疑惑編
グエンドール様とお茶会
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アンセル様と挨拶以外の会話を交わすことがなくなって、二週間ほど経った。当然部屋もそのまま自室で寝ている。
朝は私が眠っている間に出て行ってしまうので、朝食を一緒にとることもない。自然と顔を合わせなくなってしまった。同じ家に住んでいるのに。
アンセル様が元気なのかどうかだけ気になって、たまにフェンリルに様子を聞く。そうするといつも呆れた顔で、
「なんでケンカされているのかは存じませんが、そんなに気になるなら仲直りすればいいじゃないですか。
アンセル様、お元気ではありますが、最高潮にすっごく機嫌悪いですよ。プリシラ様がかまってあげないから」
「私がかまわないからなんて」
(そんなこと、ない)
だって私は、真実を教えてももらえない、偽りの妻だから。
でもそんなことはフェンリルに言えないから、
「そのうち仲直りするわ」
とだけ答える。
「そうだ!グエンドール様からお手紙が届いていましたよ」
フェンリルがエプロンのポケットから、手紙を差し出してくれた。
ウェッダーバーン公爵家の封蝋入りだ。
「ありがとう」
受け取って、ペーパーナイフで丁寧に封を開ける。
出てきた手紙は、お茶会のお誘いだった。本当に誘ってくださったらしい。
「ねぇ、グエンドール様とアンセル様って、仲がよろしくないの?」
「お父上同士の親交があって、小さい頃からのお知り合いなんです。確かに会話されているのを聞いていると、ケンカしているみたいですけど、そんなに仲は悪くないと思いますよ。お二人とも、興味のない相手なら完全に無視する方ですから」
「そうなんだ」
確かに二人ともそんな感じ。相手にすることすらしなさそう。
「あ、仲がいいと言っても、そういう意味ではないですよ?もちろん。アンセル様にはプリシラ様だけなので」
フェンリルが明るくフォローしてくれる。
「あ、ありがとう」
偽りの妻としてはそのフォローもむなしいんだけど、私は一応お礼を言った。
(アンセル様、行ってもいいとは言ったけど、いやな顔してたわよね。なんなら一緒にいきたそうだったし)
でもまあ日中ならそんなに危険もないだろうし。
アンセル様に怒られたって知らない。
「いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ。プリシラ」
「私もお会いできてうれしいです。グエン様」
庭の一角にガーデンテーブルとチェアがセットされ、グエン様がいた。ティーカップを片手ににこやかに微笑んでくれる。
あー今日も可愛い。
絵画のよう。
「座って? お茶も色々用意してあるのよ。甘いものやすっきりしたもの。プリシラはどんなものが好き? ああ、これはうちの庭の薔薇で作ったローズティーなの」
グエン様の隣に座ると、にこにこと色々とお茶を勧めてくれる。
「ええと、ではグエン様と同じ物を」
「ローズティーね!」
「失礼いたします」
傍に控えていたメイドが、可愛らしいティーカップにお茶を注いで私の前においてくれる。グエン様の物と色違いだ。
すぐ飲むことはせずに、香りを楽しんでみる。
薔薇のいい香りが漂ってきた。
「いい香りですね」
「でしょう? 一番香りのいいものを選んでお茶にしたのよ。あとはポプリを作ったり……」
にこにこと説明してくれるグエン様。
かわいい……。
どうしてアンセル様はグエン様を選ばなかったのだろう。グエン様はアンセル様のことをお好みではなかったみたいだけれど、私がアンセル様だったら、私とグエン様ならばグエン様を選ぶ。
「なぁに? 私の顔に何かついている?」
ゆっくりと首を傾げるグエン様。
あんまり凝視しすぎていたらしい。
「あ、も、申し訳ございません。何もついておりません。今日も可愛いなぁと思って、見とれていました」
何か適当な言い訳をすればよかったのに、つい正直に言ってしまって、慌てて口元に手をあてる。
グエン様はくすくすと笑いながら説明してくれた。
「お父様同士が仲が良かったから、昔からお付き合いはあったんだけど、お互いそういう感情は全くなかったの。貴族だから政略結婚からは逃げられないと思ってて、変な人とするくらいなら気心知れているアンセル様のほうがましかとも思ったのだけどね。私の好みからは対極に位置してると言っても過言じゃないけど」
「……まし、ですか……」
(ア、アンセル様がこんなに貶されるなんて……)
アンセル様といえば、社交界の皆の憧れ、みんなアンセル様の奥さんになろうとして必死だったのに。なんなら今でもあわよくば愛人でもいいから収まりたい、って人もいるみたいだし。もちろんアンセル様は全く相手にしてないけれど。
「でも、アンセル様はお好きな方がいらっしゃるみたいだったのよね。じゃあアンセル様との結婚はないのね。と思ってたら急に婚約してて、婚約破棄されたと思ったら、直後にプリシラと結婚してるでしょ? 訳がわからなかったわー」
「なんだか申し訳ございません」
それはグエン様からしたら訳が分からないわよね……。
私にも責任の一端があるわけだから謝罪すると、グエン様は「気にしないで」とにこにこ笑った。
「全く気にしてないから。むしろ、『また婚約破棄されかもしれないと思うと、しばらく婚約したくないです……!』ってお父様に泣きまねして猶予を得られてるから助かったわー。おかげでお父さまのアンセル様への好感度は下がったけどね?ま自業自得よねウフフ」
「それは……よかったです」
グエン様って見た目に反して結構図太いところがあるわよね……。だから好きなんだけれど。
そういえば。
「この前舞踏会でお話するっておっしゃっていた方は、どうなったのですか?」
グエン様のような見目が良くて家柄もよい方なら、落とせない男性いないと思うのよね。
「伯爵家の次男なのだけれど、お父さまも認めてくださって近いうちに婚約することになったの。うちに婿に入る予定よ」
「おめでとうございます!」
やっぱりグエン様に落とせない男性はいなかった。そして展開が早い。
「婚約されたらお祝いに伺いますね」
「プリシラだけでいいわよ? アンセル様には別に会っても楽しくないから。あ、でもなにかくださるのならプリシラが受け取って私に持ってきて」
嫌われてるわね……。アンセル様……。
朝は私が眠っている間に出て行ってしまうので、朝食を一緒にとることもない。自然と顔を合わせなくなってしまった。同じ家に住んでいるのに。
アンセル様が元気なのかどうかだけ気になって、たまにフェンリルに様子を聞く。そうするといつも呆れた顔で、
「なんでケンカされているのかは存じませんが、そんなに気になるなら仲直りすればいいじゃないですか。
アンセル様、お元気ではありますが、最高潮にすっごく機嫌悪いですよ。プリシラ様がかまってあげないから」
「私がかまわないからなんて」
(そんなこと、ない)
だって私は、真実を教えてももらえない、偽りの妻だから。
でもそんなことはフェンリルに言えないから、
「そのうち仲直りするわ」
とだけ答える。
「そうだ!グエンドール様からお手紙が届いていましたよ」
フェンリルがエプロンのポケットから、手紙を差し出してくれた。
ウェッダーバーン公爵家の封蝋入りだ。
「ありがとう」
受け取って、ペーパーナイフで丁寧に封を開ける。
出てきた手紙は、お茶会のお誘いだった。本当に誘ってくださったらしい。
「ねぇ、グエンドール様とアンセル様って、仲がよろしくないの?」
「お父上同士の親交があって、小さい頃からのお知り合いなんです。確かに会話されているのを聞いていると、ケンカしているみたいですけど、そんなに仲は悪くないと思いますよ。お二人とも、興味のない相手なら完全に無視する方ですから」
「そうなんだ」
確かに二人ともそんな感じ。相手にすることすらしなさそう。
「あ、仲がいいと言っても、そういう意味ではないですよ?もちろん。アンセル様にはプリシラ様だけなので」
フェンリルが明るくフォローしてくれる。
「あ、ありがとう」
偽りの妻としてはそのフォローもむなしいんだけど、私は一応お礼を言った。
(アンセル様、行ってもいいとは言ったけど、いやな顔してたわよね。なんなら一緒にいきたそうだったし)
でもまあ日中ならそんなに危険もないだろうし。
アンセル様に怒られたって知らない。
「いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ。プリシラ」
「私もお会いできてうれしいです。グエン様」
庭の一角にガーデンテーブルとチェアがセットされ、グエン様がいた。ティーカップを片手ににこやかに微笑んでくれる。
あー今日も可愛い。
絵画のよう。
「座って? お茶も色々用意してあるのよ。甘いものやすっきりしたもの。プリシラはどんなものが好き? ああ、これはうちの庭の薔薇で作ったローズティーなの」
グエン様の隣に座ると、にこにこと色々とお茶を勧めてくれる。
「ええと、ではグエン様と同じ物を」
「ローズティーね!」
「失礼いたします」
傍に控えていたメイドが、可愛らしいティーカップにお茶を注いで私の前においてくれる。グエン様の物と色違いだ。
すぐ飲むことはせずに、香りを楽しんでみる。
薔薇のいい香りが漂ってきた。
「いい香りですね」
「でしょう? 一番香りのいいものを選んでお茶にしたのよ。あとはポプリを作ったり……」
にこにこと説明してくれるグエン様。
かわいい……。
どうしてアンセル様はグエン様を選ばなかったのだろう。グエン様はアンセル様のことをお好みではなかったみたいだけれど、私がアンセル様だったら、私とグエン様ならばグエン様を選ぶ。
「なぁに? 私の顔に何かついている?」
ゆっくりと首を傾げるグエン様。
あんまり凝視しすぎていたらしい。
「あ、も、申し訳ございません。何もついておりません。今日も可愛いなぁと思って、見とれていました」
何か適当な言い訳をすればよかったのに、つい正直に言ってしまって、慌てて口元に手をあてる。
グエン様はくすくすと笑いながら説明してくれた。
「お父様同士が仲が良かったから、昔からお付き合いはあったんだけど、お互いそういう感情は全くなかったの。貴族だから政略結婚からは逃げられないと思ってて、変な人とするくらいなら気心知れているアンセル様のほうがましかとも思ったのだけどね。私の好みからは対極に位置してると言っても過言じゃないけど」
「……まし、ですか……」
(ア、アンセル様がこんなに貶されるなんて……)
アンセル様といえば、社交界の皆の憧れ、みんなアンセル様の奥さんになろうとして必死だったのに。なんなら今でもあわよくば愛人でもいいから収まりたい、って人もいるみたいだし。もちろんアンセル様は全く相手にしてないけれど。
「でも、アンセル様はお好きな方がいらっしゃるみたいだったのよね。じゃあアンセル様との結婚はないのね。と思ってたら急に婚約してて、婚約破棄されたと思ったら、直後にプリシラと結婚してるでしょ? 訳がわからなかったわー」
「なんだか申し訳ございません」
それはグエン様からしたら訳が分からないわよね……。
私にも責任の一端があるわけだから謝罪すると、グエン様は「気にしないで」とにこにこ笑った。
「全く気にしてないから。むしろ、『また婚約破棄されかもしれないと思うと、しばらく婚約したくないです……!』ってお父様に泣きまねして猶予を得られてるから助かったわー。おかげでお父さまのアンセル様への好感度は下がったけどね?ま自業自得よねウフフ」
「それは……よかったです」
グエン様って見た目に反して結構図太いところがあるわよね……。だから好きなんだけれど。
そういえば。
「この前舞踏会でお話するっておっしゃっていた方は、どうなったのですか?」
グエン様のような見目が良くて家柄もよい方なら、落とせない男性いないと思うのよね。
「伯爵家の次男なのだけれど、お父さまも認めてくださって近いうちに婚約することになったの。うちに婿に入る予定よ」
「おめでとうございます!」
やっぱりグエン様に落とせない男性はいなかった。そして展開が早い。
「婚約されたらお祝いに伺いますね」
「プリシラだけでいいわよ? アンセル様には別に会っても楽しくないから。あ、でもなにかくださるのならプリシラが受け取って私に持ってきて」
嫌われてるわね……。アンセル様……。
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