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二章 スピード婚と結婚生活
初めての夜会の感想は
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窓から差し込む、陽の光で目覚めた。
「体、痛い……」
ついでに頭も痛いし、声もかすれている。
グエン様とアンセル様が、バチバチ火花を散らしていたのまでは覚えているのだけれど……。
部屋を見渡すと、見覚えがなかった。アンセル様のお屋敷ではない。多分舞踏会の会場であるお屋敷の一室だろうとは思う。
知らない場所にいることに多少の不安は覚えたが、アンセル様が隣にいることで、少し安心した。まぁ目覚めたらアンセル様の綺麗な顔があるのにはいまだ慣れないんだけど……。大抵私が目覚めた時には、お仕事に行かれているから。
「きゃっ?」
ふと体を見下ろすと、何も着ていなかった。慌てて上掛けを羽織る。
私は起こさないようにそっとベッドから出ると、サイドテーブルの水差しから水をコップに注いだ。一気に飲み干したコップをサイドテーブルに置く。
「ん……。プリシラ。起きたのか?」
「アンセル様」
少しまだ眠たそうな顔をしながら、アンセル様がこっちを見ている。
(かわ、可愛いー……!)
いつもきりっとしている表情ばかり見ているけれど、こういう顔を見ると、年下っぽいというか、可愛い気がする。恐れ多くも頭を撫でたい衝動にかられたけれど、きっと怒られるからぐっとこらえた。口に出すのも。
「お水は飲まれますか?」
「もらう」
新しいコップに水を注ぎ、手渡す。アンセル様も喉が渇いていたのか、一息に飲み干した。アンセル様から受け取ったコップを、サイドテーブルに戻す。
「ここは舞踏会のあったお屋敷の一室ですか?」
首を傾げながら聞くと、
「……ああ」
アンセル様の目は悲しそうに揺れていて。
私にはその理由が分からないから、慌てて言葉をつむぐ。
「申し訳ございません。アンセル様とグエン様がお話になっているあたりまでしか覚えていなくて。ええと、私何かご迷惑をおかけしなかったでしょうか?」
「いや、迷惑はかけていない。君が気分を悪くしたので、この部屋を貸していただいた。夫妻にご挨拶してから屋敷に戻ろう」
「はい。分かりました。あの、私、全身がすごく痛いのですが何かご存知ですか?アンセル様何かされました?」
アンセル様はにやっと笑った。
「何か僕がしたかもな」
「……そうですか」
服をみにつけていないから大体予想はついたけど、詳しいことを聞くのはやめた。
それから朝食を夫妻といただいて、玄関ホールまで見送っていただいた。奥さまからは「今度はお茶会にいらっしゃい」と嬉しいお言葉もいただいた。
馬車に乗り込んで、私たちは屋敷への帰路についた。
揺れる馬車の中で、隣同士に座りながら、
「夜会はもうアンセル様と行きたくありません」
「なんだと?」
アンセル様は私の言葉に、苛立ちを隠せない顔をした。私が行きたいと言ったのを連れて行ってくださったのだから、それは不快になるだろう。私は慌てて言いつくろった。恥ずかしかったが。
「……ただでさえ美形なアンセル様が盛装をしたら、本物の王子様みたいで。私だけが目にするなら嬉しいですけど、人前に出したくないです。
知ってました?アンセル様、会場の令嬢の視線独り占めでしたよ?隣に私がいるのにですよ?あわよくば愛人に収まりたいって気持ちを感じました!」
そのアンセル様の隣に並んでいるということが嬉しい反面、苛立ちが隠せなかった。アンセル様がすでに既婚者であることも社交界には知れ渡っているはずなのに、隙あらば火遊びをしようというギラギラした視線をビシバシ感じたから。
「……プリシラ」
一気に私が言うと、アンセル様の目が優しく細められた。頬が、かすかに赤くなっている気がする。ほんのわずかだけど。
私は言い訳がましく付け加えた。
「……偽りの妻でも、嫉妬くらいするんですよ」
「僕は、君以外の女に欲情しない。愛人を作るつもりも、一夜限りの関係を持つことも絶対にない」
その言い方はどうなのだろう、と思ったけれど、嬉しかった。
偽りの妻であっても、アンセル様が他の女性を抱くなんて、絶対に嫌だった。
「全く……そんなの、君だって本物のお姫様のようだった。昨夜似たようなことを言っていたことも、やはり忘れてしまったんだな」
最後の言葉はため息交じりだったので、よく聞こえなかった。
「まだ酒が残っているのか?」
(え?まだ?)
私お酒なんか口にした覚えはないのだけれど。不思議に思いながらも否定する。昨日口にしたものも甘くておいしい果実水だったし。
「いいえ。酔ってはいません」
アンセル様は優しい目を向けて、私の髪を撫でた。昨日は湯あみをしていないので、髪の色は変わったままだ。軽く体は清めてあるみたいだけど。私には覚えがないので、多分アンセル様が……。このことは深く考えるのはやめよう。
「唯一無二の髪がなくても、君はいつも男を惹きつける。君も知らなかっただろう。会場の男たちの視線を惹きつけていたのを。
僕だって、少しは嫉妬するんだ。……鼻が高くもあったがな」
最後はぶっきらぼうに言ったアンセル様が可愛くて、私は思わず吹き出してしまった。アンセル様がむっとした顔になる。
「なんだ」
「私たち、偽りの夫婦かもしれませんが、嫉妬しあうことは許されますか?」
アンセル様の目が少し優しくなった。
「……許される」
アンセル様が優しく私の頬を撫でていたと思ったら、目が伏せられ、そっと端正な顔が近づいてくる。
(あ、キスされる)
私はそっと目を閉じた。
思った通り私の唇に優しく触れたそれは、いつものように激しくなることなく、離れてしまう。少し残念に思っていたところで、すぐにまた触れた。
「……ん」
優しく触れるだけの、ついばむようなキス。何度も繰り返されるそれは、ひたすらに甘くて優しくて。
まるで「好きだ」と言われているようで。
(……勘違いしそうになる)
アンセル様に触れられたり話したりすると、最近特に胸が締め付けられるようになる。体をかさねればそれはドキドキしていたけど、最近はそれだけではなくて。
ただ一緒にいるだけで、目を合わせるだけで、私の心臓はおかしい。
息もできないほど苦しいのに、たまらない多幸感。
その理由に、私は見当がついていた。
私がアンセル様の傍にいられるのは、偽りの妻だから。体を重ねたり、キスしたりするのも、一応夫婦だから。それ以上の理由はない。
アンセル様はお好きな方がいて、それは私とは全く違う方で。私と結婚したのは、私が結婚するのに適当な条件だったから。アンセル様が優しいから、私を助けてくれただけ。
弾んでいた胸がきりきりと痛んだから、私はそこを押さえた。
(もし、私が気持ちを打ち明けてしまったら)
アンセル様はきっと困った顔をする。優しいから、離縁はされないだろうけれど、きっと困らせる。
だから、絶対に誰にも言ってはいけない。知られてはいけない。
私は私をも欺かないといけない。
(まだ、大人しくしてて)
私は私の心臓に話しかける。
どきどきと跳ねる心に、私はぐるぐると包帯を巻きつけて綺麗な箱にしまった。
そしてまた、アンセル様との優しいキスに、没頭した。屋敷に馬車が到着するまで。
キスの合間に、アンセル様が悲し気に呟いた言葉は、吐息に紛れて私の耳には入らなかった。
「……ほら、やはり君は、忘れてしまった」
「体、痛い……」
ついでに頭も痛いし、声もかすれている。
グエン様とアンセル様が、バチバチ火花を散らしていたのまでは覚えているのだけれど……。
部屋を見渡すと、見覚えがなかった。アンセル様のお屋敷ではない。多分舞踏会の会場であるお屋敷の一室だろうとは思う。
知らない場所にいることに多少の不安は覚えたが、アンセル様が隣にいることで、少し安心した。まぁ目覚めたらアンセル様の綺麗な顔があるのにはいまだ慣れないんだけど……。大抵私が目覚めた時には、お仕事に行かれているから。
「きゃっ?」
ふと体を見下ろすと、何も着ていなかった。慌てて上掛けを羽織る。
私は起こさないようにそっとベッドから出ると、サイドテーブルの水差しから水をコップに注いだ。一気に飲み干したコップをサイドテーブルに置く。
「ん……。プリシラ。起きたのか?」
「アンセル様」
少しまだ眠たそうな顔をしながら、アンセル様がこっちを見ている。
(かわ、可愛いー……!)
いつもきりっとしている表情ばかり見ているけれど、こういう顔を見ると、年下っぽいというか、可愛い気がする。恐れ多くも頭を撫でたい衝動にかられたけれど、きっと怒られるからぐっとこらえた。口に出すのも。
「お水は飲まれますか?」
「もらう」
新しいコップに水を注ぎ、手渡す。アンセル様も喉が渇いていたのか、一息に飲み干した。アンセル様から受け取ったコップを、サイドテーブルに戻す。
「ここは舞踏会のあったお屋敷の一室ですか?」
首を傾げながら聞くと、
「……ああ」
アンセル様の目は悲しそうに揺れていて。
私にはその理由が分からないから、慌てて言葉をつむぐ。
「申し訳ございません。アンセル様とグエン様がお話になっているあたりまでしか覚えていなくて。ええと、私何かご迷惑をおかけしなかったでしょうか?」
「いや、迷惑はかけていない。君が気分を悪くしたので、この部屋を貸していただいた。夫妻にご挨拶してから屋敷に戻ろう」
「はい。分かりました。あの、私、全身がすごく痛いのですが何かご存知ですか?アンセル様何かされました?」
アンセル様はにやっと笑った。
「何か僕がしたかもな」
「……そうですか」
服をみにつけていないから大体予想はついたけど、詳しいことを聞くのはやめた。
それから朝食を夫妻といただいて、玄関ホールまで見送っていただいた。奥さまからは「今度はお茶会にいらっしゃい」と嬉しいお言葉もいただいた。
馬車に乗り込んで、私たちは屋敷への帰路についた。
揺れる馬車の中で、隣同士に座りながら、
「夜会はもうアンセル様と行きたくありません」
「なんだと?」
アンセル様は私の言葉に、苛立ちを隠せない顔をした。私が行きたいと言ったのを連れて行ってくださったのだから、それは不快になるだろう。私は慌てて言いつくろった。恥ずかしかったが。
「……ただでさえ美形なアンセル様が盛装をしたら、本物の王子様みたいで。私だけが目にするなら嬉しいですけど、人前に出したくないです。
知ってました?アンセル様、会場の令嬢の視線独り占めでしたよ?隣に私がいるのにですよ?あわよくば愛人に収まりたいって気持ちを感じました!」
そのアンセル様の隣に並んでいるということが嬉しい反面、苛立ちが隠せなかった。アンセル様がすでに既婚者であることも社交界には知れ渡っているはずなのに、隙あらば火遊びをしようというギラギラした視線をビシバシ感じたから。
「……プリシラ」
一気に私が言うと、アンセル様の目が優しく細められた。頬が、かすかに赤くなっている気がする。ほんのわずかだけど。
私は言い訳がましく付け加えた。
「……偽りの妻でも、嫉妬くらいするんですよ」
「僕は、君以外の女に欲情しない。愛人を作るつもりも、一夜限りの関係を持つことも絶対にない」
その言い方はどうなのだろう、と思ったけれど、嬉しかった。
偽りの妻であっても、アンセル様が他の女性を抱くなんて、絶対に嫌だった。
「全く……そんなの、君だって本物のお姫様のようだった。昨夜似たようなことを言っていたことも、やはり忘れてしまったんだな」
最後の言葉はため息交じりだったので、よく聞こえなかった。
「まだ酒が残っているのか?」
(え?まだ?)
私お酒なんか口にした覚えはないのだけれど。不思議に思いながらも否定する。昨日口にしたものも甘くておいしい果実水だったし。
「いいえ。酔ってはいません」
アンセル様は優しい目を向けて、私の髪を撫でた。昨日は湯あみをしていないので、髪の色は変わったままだ。軽く体は清めてあるみたいだけど。私には覚えがないので、多分アンセル様が……。このことは深く考えるのはやめよう。
「唯一無二の髪がなくても、君はいつも男を惹きつける。君も知らなかっただろう。会場の男たちの視線を惹きつけていたのを。
僕だって、少しは嫉妬するんだ。……鼻が高くもあったがな」
最後はぶっきらぼうに言ったアンセル様が可愛くて、私は思わず吹き出してしまった。アンセル様がむっとした顔になる。
「なんだ」
「私たち、偽りの夫婦かもしれませんが、嫉妬しあうことは許されますか?」
アンセル様の目が少し優しくなった。
「……許される」
アンセル様が優しく私の頬を撫でていたと思ったら、目が伏せられ、そっと端正な顔が近づいてくる。
(あ、キスされる)
私はそっと目を閉じた。
思った通り私の唇に優しく触れたそれは、いつものように激しくなることなく、離れてしまう。少し残念に思っていたところで、すぐにまた触れた。
「……ん」
優しく触れるだけの、ついばむようなキス。何度も繰り返されるそれは、ひたすらに甘くて優しくて。
まるで「好きだ」と言われているようで。
(……勘違いしそうになる)
アンセル様に触れられたり話したりすると、最近特に胸が締め付けられるようになる。体をかさねればそれはドキドキしていたけど、最近はそれだけではなくて。
ただ一緒にいるだけで、目を合わせるだけで、私の心臓はおかしい。
息もできないほど苦しいのに、たまらない多幸感。
その理由に、私は見当がついていた。
私がアンセル様の傍にいられるのは、偽りの妻だから。体を重ねたり、キスしたりするのも、一応夫婦だから。それ以上の理由はない。
アンセル様はお好きな方がいて、それは私とは全く違う方で。私と結婚したのは、私が結婚するのに適当な条件だったから。アンセル様が優しいから、私を助けてくれただけ。
弾んでいた胸がきりきりと痛んだから、私はそこを押さえた。
(もし、私が気持ちを打ち明けてしまったら)
アンセル様はきっと困った顔をする。優しいから、離縁はされないだろうけれど、きっと困らせる。
だから、絶対に誰にも言ってはいけない。知られてはいけない。
私は私をも欺かないといけない。
(まだ、大人しくしてて)
私は私の心臓に話しかける。
どきどきと跳ねる心に、私はぐるぐると包帯を巻きつけて綺麗な箱にしまった。
そしてまた、アンセル様との優しいキスに、没頭した。屋敷に馬車が到着するまで。
キスの合間に、アンセル様が悲し気に呟いた言葉は、吐息に紛れて私の耳には入らなかった。
「……ほら、やはり君は、忘れてしまった」
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