契約溺愛婚~眠り姫と傲慢旦那様には秘密がある~

水無瀬雨音

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二章 スピード婚と結婚生活

初夜を迎えます1

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 いつもより丁寧に湯あみをすませたあと、フェンリルに髪と全身に香りのよい香油を塗りたくられた。
 仕上げに結構な露出度の夜着を着せつけられた。そもそも生地自体が透けていて恥ずかしい。
 さらに肩の部分は簡単にリボンで止められているだけだし、胸のリボンをほどくと、全部脱げてしまうという仕組みだ。下にはいているのもドロワーズではなく、ひもみたいなたよりないものだ。

「こ、この夜着は私には難易度が高いわ!別の物にしましょう?」
 羞恥のあまりフェンリルに縋り付いたけど、あっさりと断られてしまった。
「最初が肝心なんですよ、プリシラ様!アンセル様に愛されているというおごりはよくありません。
 最初に旦那様の心をがっつりつかまなくては!」
「ええー……」
(奢るどころか、愛されていないし……)

 自分で考えて、自分でがっかりする。
「ほらほら、アンセル様お待ちかねですよ。
 アンセル様、お待たせしました。どうぞご賞味ください」
 フェンリルは夫婦の寝室をおざなりにノックしてドアを開けた。。
「ご、ご賞味?」
(そんな、果物じゃないんだから!)
 背中を勢いよく押すようにして、私を中へ押し込んだ。すぐにドアがぱたんと閉められ、がちゃりと鍵のかかる音がする。

「わわ……!」
 よろけて転びそうになっている私を、ソファーから立ち上がったアンセル様が抱きかかえてくれた。
「大丈夫か?」
 耳元で聞こえたアンセル様の声に、どきっと胸が震える。
(近い近い……!なんか男の人なのに、いい匂いがするー!)
 香水、かな?どこかで嗅いだ気がするけれど、思い出せない。
「は、はい。ありがとうございます……」
 いい匂いはするわ、細身ながらがっちりした体は、男の人を感じさせるわで、私はくらっとしそうになりながら、なんとか返事をする。
 なんだかドキドキが止まらなくて大変なことになりそうだったので、幼いときに近所の犬が逃げ出したのをほかの子供たちと一緒に探し回ったことを記憶の中から掘り起こした。

(べ、別のところに意識をむけないと……!)
 私の浅はかな考えもむなしく、
「……君に、触れてもいいか?」
 アンセル様はどこか緊張した様子で言ったので、私はまたドキドキした。
 触れる、という意味がどういうことなのかは、経験の少ない私にだって分かる。
 一応成人したときに、お母さまに夫婦の営みについて、教えていただいたのだ。
(初めて聞いた時は、本当に衝撃的だった……!)
 
 「夫となる方のものを、妻のある器官に受け入れる」
 教えていただいたのはそれだけで、「もっと詳しくはプリシラの縁談が決まった時にね」と言われたけれど、結局それはかなうことはなかった。
 だから具体的にはまだ分からないのだけれど、それだけで私はものすごくいたたまれない気持ちになったのを覚えている。思い出してドキドキしたけれど、聖堂でアンセル様に言われたことに少なからず傷ついた私は、つい慇懃無礼な冷たい口調で言ってしまった。
「あなたは私をお金で買ったのです。だからお好きになさってください。ただ、心は私のものです。アンセル様には渡しません」
 アンセル様も聖堂で言っていた事実なのに、なぜか傷ついた顔をしたので、私は罪悪感を感じた。でもその表情はすぐにいつもの冷たいものに戻って、多分先ほどの表情は気のせいだったのだろうと思った。

「……いいだろう。では君の体は、好きにさせてもらう」
 アンセル様は私をベッドに押し倒した。口調は冷たいのに、まるで壊れ物みたいに、そっと私をベッドに降ろした。

「あ、あの。初めてなので、無作法がありましたら申し訳ありません」
 震える上ずった声の私に、アンセル様はぶっきらぼうに言った。
「作法とか余計なことを考える必要はない。君はただ、快感を追うことだけ考えておけ」
「かい、かん?……あ……!」
 『かいかん』というのはどういう意味だっただろう、ときょとんとする。
 思いあたって私が頬を熱くするのとほとんど同時に、アンセル様はいきなり夜着の上から、胸の頂に吸い付いてきた。
「は……やぁっ!アンセル様、何でそんなところ……」
 予想していなかったことをされ、私は思わず変な声を出してしまった。
 もちろんそんなところ、誰にも舐められたことなんかない。
(アンセル様ったら、赤ちゃんでもないのに……)
「わ、私、ミルクは出ませんよ?」
 アンセル様が勘違いしているのかと一応言ってみたが、
「知っている」
 アンセル様はぶっきらぼうに答えて、私の胸を舐め続けた。
「ん……あ……!」
 じゅっと吸い上げられたり、舌の先で転がされたりして、だんだん変な気持ちになってくる。触られているのは胸なのに、なぜか足の間がなんだかむずむずしてきた……。

「ふ、夫婦の営みに、こんなことをする必要があるのですか?体を繋げるだけなのですよね?」
 恥ずかしくて、必死に訴えると、アンセル様は珍しく面白そうな表情を浮かべた。
「母上から聞いているのか?なんと聞いている?」
「ん……。あ、アンセル様のものを、私の体の器官で受け入れると……。やっ、具体的には聞かないままでしたが、だからむ、胸は関係ありませんよね?」
 私の決死の訴えにもアンセル様は唇を緩ませて、手を止めないままだ。
「ふうん。では、僕が君に教えることになるんだな?」
 アンセル様の問いに、快感をどうにかやり過ごそうとしながら、私は無言で頷く。口を開いたら、変な声が出てしまうから。
「確かに夫婦の営みについて、君の教えられたことは正解だ。だがな。そこに至るまでに、夫は妻の体を開くために様々な愛撫する」
 アンセル様は胸を触っていない方の手で、私の太ももをすぅっと撫で上げた。
「ひゃん!」
 それだけで、私の背中はびくっと反応してしまう。
「う、嘘です!」
 こ、こんな恥ずかしいこと色々していたら、死んでしまいそうだ。
 おもいきり睨みつけたのに、アンセル様は腹立たしいくらい愉快そうな顔をした。普段はこんな顔絶対しないのに。私が嫌がっているときにばかりアンセル様は機嫌のよさそうな顔をする。

「まぁこの辺はおいおいかわいがるとして……。
 固くなってきた。……夜着を着たままなのに、濡れて透けて見える。君の胸の頂も、髪と同じ綺麗な桃色なんだな。……誰にも触れられていないんだな」
 アンセル様がしげしげと私の胸を眺めた。
「あ、当たり前です!」
(誰かに触られててたまるもんですか!結婚してなかったんだから)
 つられて思わず私もちらっとそこに眼をやる。アンセル様の言うように、うっすらと胸の頂がピンク色に染まっている。濡れた薄い夜着が胸に張り付いていて、いっそ裸のほうがマシなのでは、と思う程に卑猥だ。
 私は顔を背けて、羞恥心で頬を熱くして懇願した。

「やだ……!アンセル様、お願いです。明かり、明かり消してください……!」
 壁の燭台に火はともっていなくて、ついている明かりはサイドテーブルのランプのかすかな明かりだけなのだけれど、それすら私の肌を照らされると恥ずかしい。
「『好きにしろ』と言ったのは、君だろう?」
 私の胸から唇を離して、意地悪くアンセル様が囁いた。
「でも、これは嫌なんです……。恥ずかしいぃー……!」
 いやいやと駄々をこねるように首を振ると、アンセル様は深いため息をついた。
「とりあえず消してやる」
 アンセル様はランプを吹き消した。
(今日、は?)
 言い方が気になったけど、とりあえずアンセル様が消してくれて、ほっとする。
 カーテンの隙間から月の光が差し込んでいるが、さすがにそれを消すのは無理だ。雲が月を覆ってくれなければ。
 アンセル様が煩わしそうに普段は見せない粗野な動きで、自分の夜着を脱ぎ捨てた。いつも洗練された品の良い仕草なので、このような乱暴な動きは珍しい。
 かすかな月の光が、アンセル様を照らして、彫像のように薄く筋肉のついた端正な体が浮き彫りになる。
 私は思わず見入ってしまった。

「なんだ?」
 私の目線に気づいたアンセル様が、一瞬怪訝そうにした後、にやりとした。
「僕の裸を凝視するなら、君も見せてくれないとフェアじゃないな?」
「あ、アンセル様が、勝手に脱いだんじゃないですか!」
 さっきは「脱いだ方がいっそマシなのでは」と思ったけど、いざ裸にされるのはやっぱり恥ずかしい。
 私は必死に胸をかき抱いたけれど、アンセル様にあっさりと片手で両手を封じられた。
「……や……!」
 封じられた両手は頭上に縫い留められる。
 こ、この体制、胸が目立つ気がして恥ずかしい……。
 私が恥ずかしがっているのを気にも留めず、アンセル様はあっさりと肩と胸のリボンをほどいてしまった。あっという間に夜着は服としての役目をなくし、ただの布切れになってしまう。
「やだ……!アンセル様ぁ……」
 胸があらわになってしまったのが恥ずかしくて、私は身をよじった。
 アンセル様が胸を凝視してくるので、かすかな月の光だけではそんなに見えないだろうとは分かっていても恥ずかしい。

「み、見ないでください……!恥ずかしいぃ……」
「見るぞ。君だって見ただろう。ランプをつけないだけありがたいと思え」
 アンセル様が瞬きもせず見ているのが恥ずかしくて、私は目をつぶった。
「身長に対して大きいから、嫌なんです……。変、ですよね」
「全く変じゃない」
 優しい口調でアンセル様が言って、そっと胸に触れた。
「ん……!」
 目をつぶっていると感覚が敏感になるのか、軽く触られただけなのに私は思わずびくっと身を震わせた。
 ゆっくりとアンセル様がやわやわと両手で胸を揉みしだく。
「大きいほうがもみごたえがある。……もっとも、君なら大きかろうが小さかろうがどちらでも構わないがな」
 耳元でアンセル様が囁いた。
「目を開けろ、プリシラ。君が誰に抱かれているのか、自覚しろ」
「……」
 恐る恐る目を開くと、思ったより近くにアンセル様の整った顔があった。と思ったら、
「んん……!」
 あっという間に唇をふさがれて、唇の間を強引に割り入ったアンセル様の舌が入ってきた。
 口の中はアンセル様の舌が動き回って翻弄されて。もまれている胸はひたすらに気持ちよくて。ぎゅうっと胸の先端をつまみあげられると、体の奥がじん、とたまらなくて。
 私は快感を追うのに必死だった。
(な、なに……?)
 先ほども違和感があったけれど、足の間がなんだか気持ち悪い。下着が濡れた感覚がする。
(ま、まさか私、もらした……?)
 今明るいところで鏡を見たら、顔面がさーっと蒼白になっていただろう。
 気持ち悪さをどうにかしたくて、足をもぞもぞ動かしていると、アンセル様が唇を離した。
「どうした、プリシラ」
「い、いえ。なんでもありません……」
 アンセル様が私の両手を離してくれたら、こっそり下着を脱ごう。
 そう思っていたのに、アンセル様は私が足を落ち着かなく動かしているのを見下ろして、
「……ああ」
 と意地悪く口角を持ち上げた。
「たまらなくなったか?次はこっちを可愛がってやる」
(たまらない?かわいがる?)
 言葉の意味が分からなくてきょとんとしていると、アンセル様は胸から手を離した。それをこともあろうに私の下半身に持っていった。もっとも触って欲しくない、足の付け根に。

「……濡れてるな」
 なぜかアンセル様は嬉しそうだった。
「わ、私大人なのに恥ずかしいです……」
「なぜ?」
 私の言葉に、アンセル様は目を細める。
「も、漏らしてしまって……」
 おずおずと言うと、アンセル様はふっと笑った。
(な、何で笑うの!?)
「これは漏らしてない。愛撫に気持ちよくなってくれた証であって、僕は嬉しい。だからむしろ君が大人だという証だ」
「大人の……証?」
 私はきょとんと眼を丸くした。



 
 
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