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三章 疑惑編
アンセル様の裏切り
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グエン様との楽しい時間が終わり、私は迎えに来てもらった馬車でアンセル様のお屋敷に向かっていた。
カーテンを細く開けて、「あのお店新しくできたのね。今度行きたいわ」なんて思いながら窓の外を眺めていると、公園のベンチにアンセル様がいた。雑踏の中でも、アンセル様の姿はすぐに分かった。
声をかけて一緒にお屋敷に戻ろう、と考え、すぐに「ケンカ中だった」と思い出す。
そして、アンセル様と背中合わせになるように置いてあるベンチに座っているのは……ドウェイン。
「どう、して……?」
なぜ、アンセル様が、……ドウェインと一緒にいるの?
(たまたま、たまたまよね?)
心臓が、どくどくと音を立てて鼓動する。
向かい合って会話しているわけではないし、たまたま近くにいるだけ。
そう信じたいのに。
「ごめんなさい。少し止めてくださる? 外の空気が吸いたいの」
「かしこまりました。酔われてしまわれましたか? 飲み物でも買ってきましょうか?」
御者さんにお願いすると、すぐに道の端に馬車を寄せて止めてくれ、心配そうにしてくれて申し訳なく思う。
「大丈夫よ。少ししたら戻るわね」
御者さんの手を借りて馬車を降りると、私はアンセル様のそばに近寄った。大きな木の陰に隠れたので、アンセル様からは見えないだろう。
何もないのを、確かめるだけ。
確かめたらすぐに帰る。
アンセル様とドウェインの間になんの関係もあるはずがない。
そう思っていたのに。
二人の様子を見ていると、仲がよさそうなわけでもなさそうだが、たまたま近くに座ったというわけでもなさそうだ。
明らかに背中合わせのまま、他人を装って会話をしている。
このようなやり方を、慣れているようだ。
アンセル様が背中合わせのままで、そっと分厚い封筒をドウェインに差し出す。ドウェインは受け取ったそれをその場で開いて、中身を確かめた。分厚い札束だった。確かめ終えたドウェインが、にっと笑う。
確かに。
そう唇が動いた気がした。その後も何か言っていたけれど、分からなかった。
アンセル様が立ち上がって歩き出して、ドウェインもしばらくして真逆の方向に歩いていく。まるで二人の間には何もなかったかのように。
でも、私は確かに見てしまった。
二人の間に、何かがあるのを。
それからしばらくしてから馬車に戻ったけれど、屋敷に着いてからも私はしばらくぼうっとしていた。
カーテンを細く開けて、「あのお店新しくできたのね。今度行きたいわ」なんて思いながら窓の外を眺めていると、公園のベンチにアンセル様がいた。雑踏の中でも、アンセル様の姿はすぐに分かった。
声をかけて一緒にお屋敷に戻ろう、と考え、すぐに「ケンカ中だった」と思い出す。
そして、アンセル様と背中合わせになるように置いてあるベンチに座っているのは……ドウェイン。
「どう、して……?」
なぜ、アンセル様が、……ドウェインと一緒にいるの?
(たまたま、たまたまよね?)
心臓が、どくどくと音を立てて鼓動する。
向かい合って会話しているわけではないし、たまたま近くにいるだけ。
そう信じたいのに。
「ごめんなさい。少し止めてくださる? 外の空気が吸いたいの」
「かしこまりました。酔われてしまわれましたか? 飲み物でも買ってきましょうか?」
御者さんにお願いすると、すぐに道の端に馬車を寄せて止めてくれ、心配そうにしてくれて申し訳なく思う。
「大丈夫よ。少ししたら戻るわね」
御者さんの手を借りて馬車を降りると、私はアンセル様のそばに近寄った。大きな木の陰に隠れたので、アンセル様からは見えないだろう。
何もないのを、確かめるだけ。
確かめたらすぐに帰る。
アンセル様とドウェインの間になんの関係もあるはずがない。
そう思っていたのに。
二人の様子を見ていると、仲がよさそうなわけでもなさそうだが、たまたま近くに座ったというわけでもなさそうだ。
明らかに背中合わせのまま、他人を装って会話をしている。
このようなやり方を、慣れているようだ。
アンセル様が背中合わせのままで、そっと分厚い封筒をドウェインに差し出す。ドウェインは受け取ったそれをその場で開いて、中身を確かめた。分厚い札束だった。確かめ終えたドウェインが、にっと笑う。
確かに。
そう唇が動いた気がした。その後も何か言っていたけれど、分からなかった。
アンセル様が立ち上がって歩き出して、ドウェインもしばらくして真逆の方向に歩いていく。まるで二人の間には何もなかったかのように。
でも、私は確かに見てしまった。
二人の間に、何かがあるのを。
それからしばらくしてから馬車に戻ったけれど、屋敷に着いてからも私はしばらくぼうっとしていた。
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