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一章 出会い編
私の家は
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ドレスを注文し終えるといつも結構疲労するのだけど、今日は特に疲れた。
(多分精神的に……。アンセル様が不意打ちで甘い言葉を言ってくるから)
メイドの持ってきてくれたお茶を飲んで一息つき終えると、
「じゃあアンセル様。私は今日は帰りますね」
アンセル様もお仕事があるだろうし、さっさと退散しなくては。
そう思って立ち上がろうとしたのだけれど、
「帰るってどこに?君の家はここだろう」
アンセル様は平然ととんでもないことを言った。
(な、何言いだしたの。アンセル様)
アンセル様の言葉にぎょっとする。でも真面目な顔をしていて、とても冗談を言っているようには見えない。
「え?まだ結婚してませんし、私身の回りのものを何も持ってきておりません。やはり今日は戻ったほうがよろしいかと思うのですが」
結婚前に花嫁修行を兼ねて相手の家に住むこともあるにはあるが、さすがにその身ひとつでと言うのはあり得ない。そして大抵そういうことをするのは歴史のある家で女主人から色々教えてもらうから、お姑さんがいないと成り立たない。
「だめだ。執事頭のウォルトには手紙で伝えてある。もう君の家はここだ」
だけど、私の申し出はすげなくアンセル様に却下された。
「僕はそろそろ仕事に行くが、部屋でおとなしくしているように。必要なものがあればメイドを呼べ。少しなら本も置いてあるし、足りなければ図書室に行ってもいい」
「で、ですが、私には伯爵の仕事が」
「今日から君の仕事は僕が引き受ける」
厳しい顔をしたアンセル様が、つかつかと長い足で部屋を横切り出て行った。念を押すようにもう一度顔をのぞかせた。
「いいな。屋敷の中なら自由に出歩いてもいいが基本的には部屋にいろ」
「お、お庭はよろしいでしょうか」
「散歩がしたいのなら、僕が戻ってから一緒に行ってやる。とにかく屋敷から出るな。いいな」
ぱたんと扉が閉まり、つかつかとした早足の足音が過ぎ去った。
今度こそ行ったようだ。
「え、ええー……」
(な、何なのかしら。軟禁じゃないの)
ひとまずウォルトに伝えてあって、伯爵の仕事もしてくれるというなら、取り立ててどうしても帰りたいわけではない。
私は書棚を見てみることにした。
アンセル様が選んだのだから、堅苦しい経済書ばかりなのかと思ったが、ロマンス小説やおとぎ話など、私好みの物が並んでいた。男性のアンセル様の好みとは思えないから、メイドにでも本を選ぶように頼んだのだろうか。
「わぁー。懐かしい」
幼い頃よく見た大好きなおとぎ話の本を見つけて、私は書棚から抜き取った。
これは確かもう絶版で、書店では手に入らない。もし今手に入れようと思ったら、かなり大変だと思う。
大好きな本だったのに、いつの間にかなくしてしまって、しばらく泣いてお父様とお母様を困らせた覚えがある。
久しぶりに読めて嬉しい。
アンセル様も小さい頃読んだのかしら?
ソファーに座った私は、夢中でアンセル様が帰宅するまで本を読んでいた。
★★★
「寡黙な騎士団長は花嫁を溺愛する」が発売しております。よろしくお願いします(*´ω`*)
(多分精神的に……。アンセル様が不意打ちで甘い言葉を言ってくるから)
メイドの持ってきてくれたお茶を飲んで一息つき終えると、
「じゃあアンセル様。私は今日は帰りますね」
アンセル様もお仕事があるだろうし、さっさと退散しなくては。
そう思って立ち上がろうとしたのだけれど、
「帰るってどこに?君の家はここだろう」
アンセル様は平然ととんでもないことを言った。
(な、何言いだしたの。アンセル様)
アンセル様の言葉にぎょっとする。でも真面目な顔をしていて、とても冗談を言っているようには見えない。
「え?まだ結婚してませんし、私身の回りのものを何も持ってきておりません。やはり今日は戻ったほうがよろしいかと思うのですが」
結婚前に花嫁修行を兼ねて相手の家に住むこともあるにはあるが、さすがにその身ひとつでと言うのはあり得ない。そして大抵そういうことをするのは歴史のある家で女主人から色々教えてもらうから、お姑さんがいないと成り立たない。
「だめだ。執事頭のウォルトには手紙で伝えてある。もう君の家はここだ」
だけど、私の申し出はすげなくアンセル様に却下された。
「僕はそろそろ仕事に行くが、部屋でおとなしくしているように。必要なものがあればメイドを呼べ。少しなら本も置いてあるし、足りなければ図書室に行ってもいい」
「で、ですが、私には伯爵の仕事が」
「今日から君の仕事は僕が引き受ける」
厳しい顔をしたアンセル様が、つかつかと長い足で部屋を横切り出て行った。念を押すようにもう一度顔をのぞかせた。
「いいな。屋敷の中なら自由に出歩いてもいいが基本的には部屋にいろ」
「お、お庭はよろしいでしょうか」
「散歩がしたいのなら、僕が戻ってから一緒に行ってやる。とにかく屋敷から出るな。いいな」
ぱたんと扉が閉まり、つかつかとした早足の足音が過ぎ去った。
今度こそ行ったようだ。
「え、ええー……」
(な、何なのかしら。軟禁じゃないの)
ひとまずウォルトに伝えてあって、伯爵の仕事もしてくれるというなら、取り立ててどうしても帰りたいわけではない。
私は書棚を見てみることにした。
アンセル様が選んだのだから、堅苦しい経済書ばかりなのかと思ったが、ロマンス小説やおとぎ話など、私好みの物が並んでいた。男性のアンセル様の好みとは思えないから、メイドにでも本を選ぶように頼んだのだろうか。
「わぁー。懐かしい」
幼い頃よく見た大好きなおとぎ話の本を見つけて、私は書棚から抜き取った。
これは確かもう絶版で、書店では手に入らない。もし今手に入れようと思ったら、かなり大変だと思う。
大好きな本だったのに、いつの間にかなくしてしまって、しばらく泣いてお父様とお母様を困らせた覚えがある。
久しぶりに読めて嬉しい。
アンセル様も小さい頃読んだのかしら?
ソファーに座った私は、夢中でアンセル様が帰宅するまで本を読んでいた。
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