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一章 出会い編
急ぎすぎです
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「アンセル様、プリシラ様。
お針子の方がいらっしゃいました」
ノックとともにビリーの声がする。
「入れろ」
「……お針子の方、ですか?」
首を傾げると、
「結婚式の衣装を作らせる」
「ええ?早い……」
一瞬驚いたものの、でも、まあドレスだけ先に作り始めてもおかしくないか、と私は納得した。
こったドレスなら、作るのに一年かかったりもするみたいだし。私はそんなに豪華じゃなくていいけど。
数人の女性たちが部屋の中に入ってくる。
「初めまして。早速採寸いたしますね」
少し年配のマダムがドレスのデザインをしてくれるらしい。若いお針子が私のドレスに手をかけた。ドレス脱がないと採寸できないのは分かるけど、同室にアンセル様がいるんだけど。
私の焦った顔で伝わったのか、マダムがにこやかに言った。
「大丈夫です。レディ。アンセル様にはお隣の衣裳部屋で採寸していただいています」
(……よかった)
それを聞いてほっと安堵する。言われてみれば、いつの間にかアンセル様の姿はない。
「ご夫婦になられるのに、慎み深くてお可愛らしい奥様ですこと」
スケッチブックに羽ペンを走らせながら、マダムはほほえましそうに眼を細めた。
(夫婦になったらあれやこれやしないといけないのは、覚悟を決めるけど……)
恥ずかしいものは恥ずかしい。
手慣れたお針子がささっと採寸し終えて、またドレスを着つけてくれた。ドレスを着終えると、夫婦の寝室から採寸を終えたアンセル様が戻ってきた。
アンセル様と私を二人並べて、マダムが難しそうな顔をしながら私たちとスケッチブックを交互に眺める。ひたすらペンを走らせている。
「何枚かデザインを考えてみたのですけれど、どのようなものがお好みでしょう?」
ソファーに腰かけると、マダムはテーブルの上にデザイン画を広げた。デザイン画には補足として、私たちの髪と目の色も描いてある。
(んー。あまり華美じゃないもののほうが好きなんだけど、アンセル様はどう思ってらっしゃるんだろう)
アンセル様の顔をちらりと見上げる。
するとアンセル様は一枚のデザイン画を指さした。中で一番シンプルなものだった。
「これがいい。装飾がないほうがプリシラの美しさが映える。……プリシラは?」
「わ、私も、それがいいと思いました!」
戸惑いながら、同意する。
本当に急に優しくしたり、甘い言葉を言ったりするのやめてほしい。
(……アンセル様、女の子に勘違いされそうだわ)
ただでさえ綺麗なお顔立ちに惹かれて、好意を寄せる女の子は多そうだ。
アンセル様と私の意見が一致したので、マダムも頷いた。
「かしこまりました。確かに美しい方なら、装飾でごまかす必要がありませんものね」
(お世辞かもしれないけど、『美しい』ってところは同意しなくてもいい……)
「制作にはどのくらいかかる?」
アンセル様の問いに、マダムは顎に手を当てて考え込んだ。
「んー。そうですね……。装飾がそこまでないので、一か月と言ったところでしょうか」
ごく一般的な期間だ。一生に一度の花嫁衣裳なのを考えると、かなり急いでくれていると考えてもいい。デザイン自体はシンプルなのだけれど、細かいところに刺繍が入っていたり、こだわりはあるものなのだ。
だけどアンセル様は首を振った。
「そんなに待てない。一週間」
「一週間!?それは無理です。アンセル様。せめて、二週間はいただかなくては」
マダムは目を丸くした。
(一か月かかるって言ってるのに、一週間は無理よね)
アンセル様が無茶なことを言いだしたので、私はマダムに同情した。
「分かった。じゃあ二週間。だが、できるだけ急いでくれ。賃金は弾む」
「かしこまりました。この衣装を優先で取りかからせていただきます」
アンセル様の譲歩に、マダムは力強く頷く。
デザイン画をテーブルの隅に寄せ、次は布を並べ始めた。
花嫁衣裳はこの国では白と決まっているので色の選択肢がないから、私にはどの布地を選んでもそう大差ないと思える。マダムに言われるがまま頷きながら、ぼんやりとさっきのことを考えていた。
何をアンセル様は急いでいるのだろう?
(もし他のご令嬢から縁談を申し込まれるのが嫌なのだったら、私との婚約を公にすれば済む話なのに)
私からすれば、一か月も一週間もそう大差はないと思うのだけど。
お針子の方がいらっしゃいました」
ノックとともにビリーの声がする。
「入れろ」
「……お針子の方、ですか?」
首を傾げると、
「結婚式の衣装を作らせる」
「ええ?早い……」
一瞬驚いたものの、でも、まあドレスだけ先に作り始めてもおかしくないか、と私は納得した。
こったドレスなら、作るのに一年かかったりもするみたいだし。私はそんなに豪華じゃなくていいけど。
数人の女性たちが部屋の中に入ってくる。
「初めまして。早速採寸いたしますね」
少し年配のマダムがドレスのデザインをしてくれるらしい。若いお針子が私のドレスに手をかけた。ドレス脱がないと採寸できないのは分かるけど、同室にアンセル様がいるんだけど。
私の焦った顔で伝わったのか、マダムがにこやかに言った。
「大丈夫です。レディ。アンセル様にはお隣の衣裳部屋で採寸していただいています」
(……よかった)
それを聞いてほっと安堵する。言われてみれば、いつの間にかアンセル様の姿はない。
「ご夫婦になられるのに、慎み深くてお可愛らしい奥様ですこと」
スケッチブックに羽ペンを走らせながら、マダムはほほえましそうに眼を細めた。
(夫婦になったらあれやこれやしないといけないのは、覚悟を決めるけど……)
恥ずかしいものは恥ずかしい。
手慣れたお針子がささっと採寸し終えて、またドレスを着つけてくれた。ドレスを着終えると、夫婦の寝室から採寸を終えたアンセル様が戻ってきた。
アンセル様と私を二人並べて、マダムが難しそうな顔をしながら私たちとスケッチブックを交互に眺める。ひたすらペンを走らせている。
「何枚かデザインを考えてみたのですけれど、どのようなものがお好みでしょう?」
ソファーに腰かけると、マダムはテーブルの上にデザイン画を広げた。デザイン画には補足として、私たちの髪と目の色も描いてある。
(んー。あまり華美じゃないもののほうが好きなんだけど、アンセル様はどう思ってらっしゃるんだろう)
アンセル様の顔をちらりと見上げる。
するとアンセル様は一枚のデザイン画を指さした。中で一番シンプルなものだった。
「これがいい。装飾がないほうがプリシラの美しさが映える。……プリシラは?」
「わ、私も、それがいいと思いました!」
戸惑いながら、同意する。
本当に急に優しくしたり、甘い言葉を言ったりするのやめてほしい。
(……アンセル様、女の子に勘違いされそうだわ)
ただでさえ綺麗なお顔立ちに惹かれて、好意を寄せる女の子は多そうだ。
アンセル様と私の意見が一致したので、マダムも頷いた。
「かしこまりました。確かに美しい方なら、装飾でごまかす必要がありませんものね」
(お世辞かもしれないけど、『美しい』ってところは同意しなくてもいい……)
「制作にはどのくらいかかる?」
アンセル様の問いに、マダムは顎に手を当てて考え込んだ。
「んー。そうですね……。装飾がそこまでないので、一か月と言ったところでしょうか」
ごく一般的な期間だ。一生に一度の花嫁衣裳なのを考えると、かなり急いでくれていると考えてもいい。デザイン自体はシンプルなのだけれど、細かいところに刺繍が入っていたり、こだわりはあるものなのだ。
だけどアンセル様は首を振った。
「そんなに待てない。一週間」
「一週間!?それは無理です。アンセル様。せめて、二週間はいただかなくては」
マダムは目を丸くした。
(一か月かかるって言ってるのに、一週間は無理よね)
アンセル様が無茶なことを言いだしたので、私はマダムに同情した。
「分かった。じゃあ二週間。だが、できるだけ急いでくれ。賃金は弾む」
「かしこまりました。この衣装を優先で取りかからせていただきます」
アンセル様の譲歩に、マダムは力強く頷く。
デザイン画をテーブルの隅に寄せ、次は布を並べ始めた。
花嫁衣裳はこの国では白と決まっているので色の選択肢がないから、私にはどの布地を選んでもそう大差ないと思える。マダムに言われるがまま頷きながら、ぼんやりとさっきのことを考えていた。
何をアンセル様は急いでいるのだろう?
(もし他のご令嬢から縁談を申し込まれるのが嫌なのだったら、私との婚約を公にすれば済む話なのに)
私からすれば、一か月も一週間もそう大差はないと思うのだけど。
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