契約溺愛婚~眠り姫と傲慢旦那様には秘密がある~

水無瀬雨音

文字の大きさ
上 下
9 / 52
一章 出会い編

多すぎじゃないですか?

しおりを挟む
 式の日取りなどを決めるために、「近々また連絡する」とアンセル様はおっしゃっていたけど、借金返済した翌日には早速お屋敷に呼ばれた。アンセル様、お仕事大丈夫なのかしら……?

「お待ちしておりました。プリシラ様」
「お久しぶり、ってほどでもないわね。
 こんにちは、ビリー」
「アンセル様が首を長くしてお待ちですよ。どうぞ、中へ」
 ビリーが扉を開けてくれたので、屋敷に足を踏み入れる。
 通されたのは以前のアンセル様の部屋ではなかった。
 ライトグリーンを基調とした家具がそろえられていて、女性の部屋のようだ。
 私を案内し終えると、ビリーは前回同様さっさと退散してしまった。
(アンセル様のお母様がここに来た時お泊りになる部屋かしら。私が入っていいものなの?)
 どぎまぎして足を踏み入れずにいると、ソファーに長い足を組んで腰かけたアンセル様が、焦れたように呼んだ。
「もたもたするな。早く入れ、プリシラ。
 僕の隣に座れ」
「は、はい。失礼します。
 ごきげんよう、アンセル様」
 淑女の礼を取ると、そっとアンセル様の隣に腰かける。
 この前の膝の上に座るのよりだいぶマシだけど、隣に座るのも緊張する。
「うん。よく来たなプリシラ」
 アンセル様が私の顔を見て、少し表情を緩めた。
 不意打ちで笑うのやめてほしい。
(アンセル様みたいな方が急に笑うと心臓に悪い……!)
 ドキドキ騒ぐ胸を、私はぎゅうっと抑えた。
「あの……。ここはどなたのお部屋なのですか?」
 緊張を隠そうと、おずおずと口を開くと、アンセル様は怪訝そうな顔をした。
「誰の?
 君の部屋に決まっているだろう」
「わ、私の!?」
 早い!
 初めてお会いしたのも、結婚が決まったのも昨日なのに?
(家具って職人さんに頼んでから、数カ月はかかるわよね……?)
 もともと未来のお嫁さんのために、用意しておいたのだろうか?
「ああ。僕の独断で揃えたが、気に入らなかったら買い直す。でも、君はこの色が好きだろ?」
「は、はい……。よくご存じですね……」
 私は小柄で顔も童顔だし、髪の色のイメージから、可愛らしい色が好きだと思われるんだけど、落ち着いた色のほうが好きだった。服なんかは黒とか濃紺が好きだけど、自分で部屋の家具を新たにするならライトグリーンかなあと思っていた。部屋に暗い色を持ってくると、重たすぎるし、緑なら草原にいるみたいでさわやかだし。
 今の部屋は両親が私が生まれた時に用意してくれた部屋で、ピンクを基調としている。そこに私の好みは一切ない。
 よく見れば、私が注文したかのように、好みの物ばかり揃えられていた。

「どうして私の好みをご存じなのですか?」
 不思議に思って尋ねると、アンセル様は淡々と表情一つ変えずに答えた。
「君が好きだと思った。それだけだ
 ドレスも用意してある。隣の部屋が衣装部屋だから」
 アンセル様は話を反らすように立ちあがったので、私は追求することなく続いて立ち上がった。
 年頃なので、ドレスに興味がある。
(というか。
 い、衣装部屋?)
 クローゼットじゃなくて?
 部屋の両側の壁には扉がついていて、アンセル様はそのうちの一方に向かって歩いていくので、私も続いた。
(ということは、もう一方が夫婦の寝室ね)
 そしてその隣が、確かアンセル様のお部屋だったはず。
 こうした作りはごく一般的だけど、中で行き来できるというのは、なんだか今から緊張する。
 アンセル様が扉に手をかけた。部屋の中は壁一面のドレスがかかっていた。スタンダードなものから、流行のものまで。
 色は私の好きな落ち着いた色が多かった。
 夜着もたくさんあって、中には私には難易度の高すぎるものもあったけど、見ないフリをした。
 靴に、そして宝石箱にはたくさんのアクセサリー。
「すごい…!」
 私は思わず声を上げた。
 小国のお姫様並ではないだろうか。まあこれは言いすぎかもしれないけど。
「わぁ……。これもかっわいい!」
 どれも素敵なので、つい目移りしてしまう。
 最近質素な生活をしていたから、余計に興奮してしまった。
「あ、すみません。はしゃいでしまって」
 アンセル様をほっといて、夢中になっていたのに気づき、私は謝った。
「いいんだ。君のために集めたんだから」
 そう言って私を見つめるアンセル様の目が、幼い子供を見ているみたいに優しくて、私は勘違いしそうになる。
 これは、ただの契約なのに。
 アンセル様は私に、愛情なんか、これっぽっちもないのに。
「必要最低限しか用意していないから、後々作らせればいい」
「これが最低限ですか?」
 引きこもっていた私には十分すぎるほど足りそうに見えるけど……。
 目を丸くする私に、アンセル様はあっさりと言う。
「採寸したわけでもないし、これは間に合わせだ」
「そういうものなのですか」
 ……お金持ちってすごい。


 

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン
恋愛
エグマリン国の第二王女アルエットは、家族に虐げられ、謂れもない罪で真冬の避暑地に送られる。 そこでも孤独な日々を送っていたが、ある日、隻眼の青年に出会う。 互いの正体を詮索しない約束だったが、それでも一緒に過ごすうちに彼に惹かれる心は止められなくて……。 彼はアルエットを幸せにするために、大きな決断を……!? ※Rシーンにはタイトルに「※」印をつけています。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

処理中です...