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一章 出会い編
多すぎじゃないですか?
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式の日取りなどを決めるために、「近々また連絡する」とアンセル様はおっしゃっていたけど、借金返済した翌日には早速お屋敷に呼ばれた。アンセル様、お仕事大丈夫なのかしら……?
「お待ちしておりました。プリシラ様」
「お久しぶり、ってほどでもないわね。
こんにちは、ビリー」
「アンセル様が首を長くしてお待ちですよ。どうぞ、中へ」
ビリーが扉を開けてくれたので、屋敷に足を踏み入れる。
通されたのは以前のアンセル様の部屋ではなかった。
ライトグリーンを基調とした家具がそろえられていて、女性の部屋のようだ。
私を案内し終えると、ビリーは前回同様さっさと退散してしまった。
(アンセル様のお母様がここに来た時お泊りになる部屋かしら。私が入っていいものなの?)
どぎまぎして足を踏み入れずにいると、ソファーに長い足を組んで腰かけたアンセル様が、焦れたように呼んだ。
「もたもたするな。早く入れ、プリシラ。
僕の隣に座れ」
「は、はい。失礼します。
ごきげんよう、アンセル様」
淑女の礼を取ると、そっとアンセル様の隣に腰かける。
この前の膝の上に座るのよりだいぶマシだけど、隣に座るのも緊張する。
「うん。よく来たなプリシラ」
アンセル様が私の顔を見て、少し表情を緩めた。
不意打ちで笑うのやめてほしい。
(アンセル様みたいな方が急に笑うと心臓に悪い……!)
ドキドキ騒ぐ胸を、私はぎゅうっと抑えた。
「あの……。ここはどなたのお部屋なのですか?」
緊張を隠そうと、おずおずと口を開くと、アンセル様は怪訝そうな顔をした。
「誰の?
君の部屋に決まっているだろう」
「わ、私の!?」
早い!
初めてお会いしたのも、結婚が決まったのも昨日なのに?
(家具って職人さんに頼んでから、数カ月はかかるわよね……?)
もともと未来のお嫁さんのために、用意しておいたのだろうか?
「ああ。僕の独断で揃えたが、気に入らなかったら買い直す。でも、君はこの色が好きだろ?」
「は、はい……。よくご存じですね……」
私は小柄で顔も童顔だし、髪の色のイメージから、可愛らしい色が好きだと思われるんだけど、落ち着いた色のほうが好きだった。服なんかは黒とか濃紺が好きだけど、自分で部屋の家具を新たにするならライトグリーンかなあと思っていた。部屋に暗い色を持ってくると、重たすぎるし、緑なら草原にいるみたいでさわやかだし。
今の部屋は両親が私が生まれた時に用意してくれた部屋で、ピンクを基調としている。そこに私の好みは一切ない。
よく見れば、私が注文したかのように、好みの物ばかり揃えられていた。
「どうして私の好みをご存じなのですか?」
不思議に思って尋ねると、アンセル様は淡々と表情一つ変えずに答えた。
「君が好きだと思った。それだけだ
ドレスも用意してある。隣の部屋が衣装部屋だから」
アンセル様は話を反らすように立ちあがったので、私は追求することなく続いて立ち上がった。
年頃なので、ドレスに興味がある。
(というか。
い、衣装部屋?)
クローゼットじゃなくて?
部屋の両側の壁には扉がついていて、アンセル様はそのうちの一方に向かって歩いていくので、私も続いた。
(ということは、もう一方が夫婦の寝室ね)
そしてその隣が、確かアンセル様のお部屋だったはず。
こうした作りはごく一般的だけど、中で行き来できるというのは、なんだか今から緊張する。
アンセル様が扉に手をかけた。部屋の中は壁一面のドレスがかかっていた。スタンダードなものから、流行のものまで。
色は私の好きな落ち着いた色が多かった。
夜着もたくさんあって、中には私には難易度の高すぎるものもあったけど、見ないフリをした。
靴に、そして宝石箱にはたくさんのアクセサリー。
「すごい…!」
私は思わず声を上げた。
小国のお姫様並ではないだろうか。まあこれは言いすぎかもしれないけど。
「わぁ……。これもかっわいい!」
どれも素敵なので、つい目移りしてしまう。
最近質素な生活をしていたから、余計に興奮してしまった。
「あ、すみません。はしゃいでしまって」
アンセル様をほっといて、夢中になっていたのに気づき、私は謝った。
「いいんだ。君のために集めたんだから」
そう言って私を見つめるアンセル様の目が、幼い子供を見ているみたいに優しくて、私は勘違いしそうになる。
これは、ただの契約なのに。
アンセル様は私に、愛情なんか、これっぽっちもないのに。
「必要最低限しか用意していないから、後々作らせればいい」
「これが最低限ですか?」
引きこもっていた私には十分すぎるほど足りそうに見えるけど……。
目を丸くする私に、アンセル様はあっさりと言う。
「採寸したわけでもないし、これは間に合わせだ」
「そういうものなのですか」
……お金持ちってすごい。
「お待ちしておりました。プリシラ様」
「お久しぶり、ってほどでもないわね。
こんにちは、ビリー」
「アンセル様が首を長くしてお待ちですよ。どうぞ、中へ」
ビリーが扉を開けてくれたので、屋敷に足を踏み入れる。
通されたのは以前のアンセル様の部屋ではなかった。
ライトグリーンを基調とした家具がそろえられていて、女性の部屋のようだ。
私を案内し終えると、ビリーは前回同様さっさと退散してしまった。
(アンセル様のお母様がここに来た時お泊りになる部屋かしら。私が入っていいものなの?)
どぎまぎして足を踏み入れずにいると、ソファーに長い足を組んで腰かけたアンセル様が、焦れたように呼んだ。
「もたもたするな。早く入れ、プリシラ。
僕の隣に座れ」
「は、はい。失礼します。
ごきげんよう、アンセル様」
淑女の礼を取ると、そっとアンセル様の隣に腰かける。
この前の膝の上に座るのよりだいぶマシだけど、隣に座るのも緊張する。
「うん。よく来たなプリシラ」
アンセル様が私の顔を見て、少し表情を緩めた。
不意打ちで笑うのやめてほしい。
(アンセル様みたいな方が急に笑うと心臓に悪い……!)
ドキドキ騒ぐ胸を、私はぎゅうっと抑えた。
「あの……。ここはどなたのお部屋なのですか?」
緊張を隠そうと、おずおずと口を開くと、アンセル様は怪訝そうな顔をした。
「誰の?
君の部屋に決まっているだろう」
「わ、私の!?」
早い!
初めてお会いしたのも、結婚が決まったのも昨日なのに?
(家具って職人さんに頼んでから、数カ月はかかるわよね……?)
もともと未来のお嫁さんのために、用意しておいたのだろうか?
「ああ。僕の独断で揃えたが、気に入らなかったら買い直す。でも、君はこの色が好きだろ?」
「は、はい……。よくご存じですね……」
私は小柄で顔も童顔だし、髪の色のイメージから、可愛らしい色が好きだと思われるんだけど、落ち着いた色のほうが好きだった。服なんかは黒とか濃紺が好きだけど、自分で部屋の家具を新たにするならライトグリーンかなあと思っていた。部屋に暗い色を持ってくると、重たすぎるし、緑なら草原にいるみたいでさわやかだし。
今の部屋は両親が私が生まれた時に用意してくれた部屋で、ピンクを基調としている。そこに私の好みは一切ない。
よく見れば、私が注文したかのように、好みの物ばかり揃えられていた。
「どうして私の好みをご存じなのですか?」
不思議に思って尋ねると、アンセル様は淡々と表情一つ変えずに答えた。
「君が好きだと思った。それだけだ
ドレスも用意してある。隣の部屋が衣装部屋だから」
アンセル様は話を反らすように立ちあがったので、私は追求することなく続いて立ち上がった。
年頃なので、ドレスに興味がある。
(というか。
い、衣装部屋?)
クローゼットじゃなくて?
部屋の両側の壁には扉がついていて、アンセル様はそのうちの一方に向かって歩いていくので、私も続いた。
(ということは、もう一方が夫婦の寝室ね)
そしてその隣が、確かアンセル様のお部屋だったはず。
こうした作りはごく一般的だけど、中で行き来できるというのは、なんだか今から緊張する。
アンセル様が扉に手をかけた。部屋の中は壁一面のドレスがかかっていた。スタンダードなものから、流行のものまで。
色は私の好きな落ち着いた色が多かった。
夜着もたくさんあって、中には私には難易度の高すぎるものもあったけど、見ないフリをした。
靴に、そして宝石箱にはたくさんのアクセサリー。
「すごい…!」
私は思わず声を上げた。
小国のお姫様並ではないだろうか。まあこれは言いすぎかもしれないけど。
「わぁ……。これもかっわいい!」
どれも素敵なので、つい目移りしてしまう。
最近質素な生活をしていたから、余計に興奮してしまった。
「あ、すみません。はしゃいでしまって」
アンセル様をほっといて、夢中になっていたのに気づき、私は謝った。
「いいんだ。君のために集めたんだから」
そう言って私を見つめるアンセル様の目が、幼い子供を見ているみたいに優しくて、私は勘違いしそうになる。
これは、ただの契約なのに。
アンセル様は私に、愛情なんか、これっぽっちもないのに。
「必要最低限しか用意していないから、後々作らせればいい」
「これが最低限ですか?」
引きこもっていた私には十分すぎるほど足りそうに見えるけど……。
目を丸くする私に、アンセル様はあっさりと言う。
「採寸したわけでもないし、これは間に合わせだ」
「そういうものなのですか」
……お金持ちってすごい。
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