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番外編 ランバートはエリオノールが大好き
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「……それで、よく使用人たちを休ませたよね? 湯あみはまぁ清拭ですませるとして、一日食事しないのは無理でしょ。いざとなったら君唯一のお得意のお茶で、食事すませる気だった?」
食堂で待っていたランバートに、作った食事を出すと、ちらっと一瞥してからちくり、と嫌味を言われた。
「簡単なものだったら何とかなると思ったの。ごめんなさい」
確かに言われた通りなので、エリオノールはおとなしく謝罪し、しゅん、としょげた。
朝は起き上がれないエリオノールのために、ランバートが清拭して着替えさせてくれ、パンとジュース、フルーツを探して持ってきてくれた。だから昼食こそは、と何とか起き上がれるようになったエリオノールが腕を振るったのだが。
一時間近く待たせたあげく、持ってきたのは焦げたオムレツ(殻入り)に、切るのに失敗してぼろぼろになってしまったパン、生煮えの野菜のスープ(薄味)。もう少しなんとかなると思ったのだが、これではランバートもがっかりしただろう。
はぁーとランバートは深く嘆息する。
「しおらしい君も悪くないけど、いつもの生意気な君のほうがいいな」
あきれたのだろうか?
立ち上がる。
「座って。十分待ってて」
しょんぼりしながら、エリオノールはおとなしく言われた通り座って待っていた。
きっかり十分後、ランバートは戻ってきた。手に持ったトレーには、スープとサンドイッチが載っている。
「すごい!ランバートが作ったの?」
「大したものじゃないけどね。君もお腹空いてるだろうから、簡単なものにした」
何でもないように言っているが、料理人が作ったものと比べても、少なくとも見た目と匂いは遜色はない。
サンドイッチには野菜や薄切りのハムが挟まっていて、多分スープはエリオノールの作ったものを作り直したらしい。
トレーをエリオノールの前において、隣にランバートも座った。
「あ、でも一人分?」
「オレは君の作ったものを食べる。食べても死ぬことはなさそうだし」
「そ、そう?」
出したものとは言え、正直自分でも美味しくなさそうに見えるものを、ランバートに食べてもらうのは申し訳ない気がした。
食事の前の挨拶をしてから、まずサンドイッチを食べる。
「おいしい……!」
ぴりっと利いたマスタードがまた美味しさを引き立てている。思わずエリオノールが声をあげると、ランバートは顔色も変えずに平然と答えた。
「まぁそれくらいはね」
素直に喜べば可愛いのに。ランバートは特にまずそうな顔もしないで、エリオノールの作った食事を口に運んでいる。
「お、おいしい……?」
文句を言わないということは意外と美味しいのだろうかと思い、恐る恐る尋ねたが、
「普通にマズいよ? 卵は焦げて固くてしかも殻入り。スープは薄くて味がしないし、具が大きいから生煮え。柔らかかったはずのパンは、切り口がぼろぼろの上乾いていて固い」
「む、無理して食べなくていいわよ?」
第一せめてスープは戻して作り直せばよかったのに、なぜそうしなかったのだろう。
皿を取り上げようとしたエリオノールの手を、ランバートのそれがおさえた。薄く微笑む。
「だってこれは、君がオレのために初めて作ってくれた料理だから。可愛いエレンが一生懸命作ったんだ。どんなにマズかろうが、嬉しいに決まってるだろ」
「そ、そんな……」
ふいに褒められて、エリオノールは動揺してしまった。そんなに喜んでいるのだとは、思ってもみなかった。
「あ、じゃあ半分こしましょう? ランバートもサンドイッチ一緒に食べましょう」
「それは君のために作ったんだけど?」
「一緒に食べたらもっと美味しいもの。はいあーん」
サンドイッチをランバートの口元に持っていくと、照れたような顔をして一口口にした。
「美味しい?」
「まあね」
「私にもちょうだい?」
あーんと口を開けると、ランバートが小さく切ったオムレツを入れてくれた。できるだけ焦げていない部分をエリオノールにくれたようだ。
「あむっ。う……!」
もぐもぐと咀嚼するたびに、まずい味が口の中に広がる。幸い殻はなかったようだが、吐き出したい気持ちを必死にこらえて嚥下した。
すぐにお茶を飲み干す。
「まずっ。やっぱり私、私が作ったものいらないわ。ランバート一人で食べて」
「……君ねぇ」
正直に言うと、ランバートはあきれた顔をした。
「晩御飯はもう少しいいもの作るから。君はお茶を入れて」
「分かったわ」
それくらいは、とエリオノールは喜んで了承する。
「湯あみもオレがするから」
「え、いや、いいわよ。さっきランバートが清拭してくれたし」
「エレン自分で洗えるの?」
「じ、自信はないけど……」
「じゃあ一緒に入ろうね? オレに全部任せて」
エリオノールはやっぱりランバートには敵わないようだった。
食堂で待っていたランバートに、作った食事を出すと、ちらっと一瞥してからちくり、と嫌味を言われた。
「簡単なものだったら何とかなると思ったの。ごめんなさい」
確かに言われた通りなので、エリオノールはおとなしく謝罪し、しゅん、としょげた。
朝は起き上がれないエリオノールのために、ランバートが清拭して着替えさせてくれ、パンとジュース、フルーツを探して持ってきてくれた。だから昼食こそは、と何とか起き上がれるようになったエリオノールが腕を振るったのだが。
一時間近く待たせたあげく、持ってきたのは焦げたオムレツ(殻入り)に、切るのに失敗してぼろぼろになってしまったパン、生煮えの野菜のスープ(薄味)。もう少しなんとかなると思ったのだが、これではランバートもがっかりしただろう。
はぁーとランバートは深く嘆息する。
「しおらしい君も悪くないけど、いつもの生意気な君のほうがいいな」
あきれたのだろうか?
立ち上がる。
「座って。十分待ってて」
しょんぼりしながら、エリオノールはおとなしく言われた通り座って待っていた。
きっかり十分後、ランバートは戻ってきた。手に持ったトレーには、スープとサンドイッチが載っている。
「すごい!ランバートが作ったの?」
「大したものじゃないけどね。君もお腹空いてるだろうから、簡単なものにした」
何でもないように言っているが、料理人が作ったものと比べても、少なくとも見た目と匂いは遜色はない。
サンドイッチには野菜や薄切りのハムが挟まっていて、多分スープはエリオノールの作ったものを作り直したらしい。
トレーをエリオノールの前において、隣にランバートも座った。
「あ、でも一人分?」
「オレは君の作ったものを食べる。食べても死ぬことはなさそうだし」
「そ、そう?」
出したものとは言え、正直自分でも美味しくなさそうに見えるものを、ランバートに食べてもらうのは申し訳ない気がした。
食事の前の挨拶をしてから、まずサンドイッチを食べる。
「おいしい……!」
ぴりっと利いたマスタードがまた美味しさを引き立てている。思わずエリオノールが声をあげると、ランバートは顔色も変えずに平然と答えた。
「まぁそれくらいはね」
素直に喜べば可愛いのに。ランバートは特にまずそうな顔もしないで、エリオノールの作った食事を口に運んでいる。
「お、おいしい……?」
文句を言わないということは意外と美味しいのだろうかと思い、恐る恐る尋ねたが、
「普通にマズいよ? 卵は焦げて固くてしかも殻入り。スープは薄くて味がしないし、具が大きいから生煮え。柔らかかったはずのパンは、切り口がぼろぼろの上乾いていて固い」
「む、無理して食べなくていいわよ?」
第一せめてスープは戻して作り直せばよかったのに、なぜそうしなかったのだろう。
皿を取り上げようとしたエリオノールの手を、ランバートのそれがおさえた。薄く微笑む。
「だってこれは、君がオレのために初めて作ってくれた料理だから。可愛いエレンが一生懸命作ったんだ。どんなにマズかろうが、嬉しいに決まってるだろ」
「そ、そんな……」
ふいに褒められて、エリオノールは動揺してしまった。そんなに喜んでいるのだとは、思ってもみなかった。
「あ、じゃあ半分こしましょう? ランバートもサンドイッチ一緒に食べましょう」
「それは君のために作ったんだけど?」
「一緒に食べたらもっと美味しいもの。はいあーん」
サンドイッチをランバートの口元に持っていくと、照れたような顔をして一口口にした。
「美味しい?」
「まあね」
「私にもちょうだい?」
あーんと口を開けると、ランバートが小さく切ったオムレツを入れてくれた。できるだけ焦げていない部分をエリオノールにくれたようだ。
「あむっ。う……!」
もぐもぐと咀嚼するたびに、まずい味が口の中に広がる。幸い殻はなかったようだが、吐き出したい気持ちを必死にこらえて嚥下した。
すぐにお茶を飲み干す。
「まずっ。やっぱり私、私が作ったものいらないわ。ランバート一人で食べて」
「……君ねぇ」
正直に言うと、ランバートはあきれた顔をした。
「晩御飯はもう少しいいもの作るから。君はお茶を入れて」
「分かったわ」
それくらいは、とエリオノールは喜んで了承する。
「湯あみもオレがするから」
「え、いや、いいわよ。さっきランバートが清拭してくれたし」
「エレン自分で洗えるの?」
「じ、自信はないけど……」
「じゃあ一緒に入ろうね? オレに全部任せて」
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