甘い夜の夢から覚めたら絶望が待っていました~腹黒幼なじみの甘美な罠~

水無瀬雨音

文字の大きさ
上 下
12 / 15

番外編 ランバートはエリオノールが大好き

しおりを挟む
「……それで、よく使用人たちを休ませたよね? 湯あみはまぁ清拭ですませるとして、一日食事しないのは無理でしょ。いざとなったら君唯一のお得意のお茶で、食事すませる気だった?」

 食堂で待っていたランバートに、作った食事を出すと、ちらっと一瞥してからちくり、と嫌味を言われた。

「簡単なものだったら何とかなると思ったの。ごめんなさい」

 確かに言われた通りなので、エリオノールはおとなしく謝罪し、しゅん、としょげた。
 朝は起き上がれないエリオノールのために、ランバートが清拭して着替えさせてくれ、パンとジュース、フルーツを探して持ってきてくれた。だから昼食こそは、と何とか起き上がれるようになったエリオノールが腕を振るったのだが。
 一時間近く待たせたあげく、持ってきたのは焦げたオムレツ(殻入り)に、切るのに失敗してぼろぼろになってしまったパン、生煮えの野菜のスープ(薄味)。もう少しなんとかなると思ったのだが、これではランバートもがっかりしただろう。
 はぁーとランバートは深く嘆息する。

「しおらしい君も悪くないけど、いつもの生意気な君のほうがいいな」

 あきれたのだろうか?
 立ち上がる。

「座って。十分待ってて」

 しょんぼりしながら、エリオノールはおとなしく言われた通り座って待っていた。
 きっかり十分後、ランバートは戻ってきた。手に持ったトレーには、スープとサンドイッチが載っている。

「すごい!ランバートが作ったの?」
「大したものじゃないけどね。君もお腹空いてるだろうから、簡単なものにした」

 何でもないように言っているが、料理人が作ったものと比べても、少なくとも見た目と匂いは遜色はない。
 サンドイッチには野菜や薄切りのハムが挟まっていて、多分スープはエリオノールの作ったものを作り直したらしい。
 トレーをエリオノールの前において、隣にランバートも座った。

「あ、でも一人分?」
「オレは君の作ったものを食べる。食べても死ぬことはなさそうだし」
「そ、そう?」

 出したものとは言え、正直自分でも美味しくなさそうに見えるものを、ランバートに食べてもらうのは申し訳ない気がした。
 食事の前の挨拶をしてから、まずサンドイッチを食べる。

「おいしい……!」

 ぴりっと利いたマスタードがまた美味しさを引き立てている。思わずエリオノールが声をあげると、ランバートは顔色も変えずに平然と答えた。

「まぁそれくらいはね」

 素直に喜べば可愛いのに。ランバートは特にまずそうな顔もしないで、エリオノールの作った食事を口に運んでいる。

「お、おいしい……?」

 文句を言わないということは意外と美味しいのだろうかと思い、恐る恐る尋ねたが、

「普通にマズいよ? 卵は焦げて固くてしかも殻入り。スープは薄くて味がしないし、具が大きいから生煮え。柔らかかったはずのパンは、切り口がぼろぼろの上乾いていて固い」
「む、無理して食べなくていいわよ?」

 第一せめてスープは戻して作り直せばよかったのに、なぜそうしなかったのだろう。
 皿を取り上げようとしたエリオノールの手を、ランバートのそれがおさえた。薄く微笑む。

「だってこれは、君がオレのために初めて作ってくれた料理だから。可愛いエレンが一生懸命作ったんだ。どんなにマズかろうが、嬉しいに決まってるだろ」
「そ、そんな……」

 ふいに褒められて、エリオノールは動揺してしまった。そんなに喜んでいるのだとは、思ってもみなかった。

「あ、じゃあ半分こしましょう? ランバートもサンドイッチ一緒に食べましょう」
「それは君のために作ったんだけど?」
「一緒に食べたらもっと美味しいもの。はいあーん」

 サンドイッチをランバートの口元に持っていくと、照れたような顔をして一口口にした。

「美味しい?」
「まあね」
「私にもちょうだい?」

 あーんと口を開けると、ランバートが小さく切ったオムレツを入れてくれた。できるだけ焦げていない部分をエリオノールにくれたようだ。

「あむっ。う……!」

 もぐもぐと咀嚼するたびに、まずい味が口の中に広がる。幸い殻はなかったようだが、吐き出したい気持ちを必死にこらえて嚥下した。
 すぐにお茶を飲み干す。

「まずっ。やっぱり私、私が作ったものいらないわ。ランバート一人で食べて」
「……君ねぇ」

 正直に言うと、ランバートはあきれた顔をした。

「晩御飯はもう少しいいもの作るから。君はお茶を入れて」
「分かったわ」

 それくらいは、とエリオノールは喜んで了承する。

「湯あみもオレがするから」
「え、いや、いいわよ。さっきランバートが清拭してくれたし」
「エレン自分で洗えるの?」
「じ、自信はないけど……」
「じゃあ一緒に入ろうね? オレに全部任せて」

 エリオノールはやっぱりランバートには敵わないようだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...