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彼の特別
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もともと、エリオノールはランバートを嫌ってはいなかった。むしろ、幼い頃の彼はエリオノールを始め誰にでも優しくて、笑顔が穏やかで彼女はランバートを慕っていた。
それが一変したのは10年前。エリオノールが8歳、ランバートが12歳の時だ。
「私、ランバートが大好き!大きくなったらお嫁さんにしてね?」
子供がよくする口約束だ。笑ってうなづいてくれればそれで幼いエリオノールは満足しただろうし、将来彼が別の伴侶を選んだとしても怒り狂ったりはしなかっただろう。
だが、ランバートはエリオノールの言葉に笑うどころか困惑した顔をした。そしてたっぷり一呼吸分まった彼の返事は、イエスとノーのどちらでもなかった。
「君だけはオレの特別にする。君にもオレを特別にしてもらう」
「……え? ランバートの言っていること、よく分からないわ」
彼が何を言いたいのか分からず、幼いエリオノールは困惑した。
「分からなくていい。オレを嫌いになってくれればそれで。ずっとね」
明言しなかったが、ランバートはエリオノールのことが嫌いで、彼女にもそうあって欲しいということなのだろう。わざわざ宣告されなくても、エリオノールの慕っていた彼とは別人のようになったランバートを、今までと同じように好きでいられるはずがなかった。
それからは顔を合わせれば何かしらエリオノールに意地悪を言ってくるので、自然と彼を避けるようになった。他の誰かがいるときはそうでもないのに、エリオノールと二人きりの時だけ。
それなのに、ランバートは何かとエリオノールに付きまとっていたが。嫌いなら近寄らなければいい。それだけなのに。
やむを得ないこととはいえ、まさかそんなランバートと婚約することになるなんて、思ってもみなかった。
用事があるというランバートを、玄関ホールまで見送ることになった。「わざわざ見送らなくても……」と渋ったエリオノールは母にどやしつけられて渋々一緒に玄関ホールに行った。
「またね。ハニー。君は今度の夜会も行くの?」
「そんなのあなたに関係ないじゃない。それにそんな呼び方しないで!」
つんとエリオノールは顔をそむける。
今は二人きりだ。
仲の良い婚約者のふりをする必要なんてないのに、仲睦まじいようにふるまおうとする意味が分からない。
「オレは君の婚約者だからね。君が行くのなら、エスコートしなくちゃ。すぐにでも婚約公表するつもりだから。悪い虫が愚かにも君に婚約を申し出る前に」
「少なくとも今まで男の人に言い寄られたことないわよ?」
エリオノールが婚約を申し込まれたからと言って、ランバートが気にすることでもないはずだ。彼はエリオノールが好きだから婚約したわけではなく、彼女の純潔を奪った責任をとっただけなのだから。
そう言うと、ランバートは苦々しい顔になった。
「だいたい君がそんな風に鈍感だから、こんなことしないといけなくなったんだろ」
「鈍感? こんなこと?」
きょとんと目を丸くすると、ランバートは取り繕ったような笑顔を浮かべた。
「君とずっと話していたいところだけど、オレはもう行くよ。夜会の前に迎えに来るから。またね。ハニー」
「だからその呼び方はや・め・て。じゃあね、ランバート」
ランバートを強引に外に押しやると、エリオノールはぱたん、とドアを閉めた。
それが一変したのは10年前。エリオノールが8歳、ランバートが12歳の時だ。
「私、ランバートが大好き!大きくなったらお嫁さんにしてね?」
子供がよくする口約束だ。笑ってうなづいてくれればそれで幼いエリオノールは満足しただろうし、将来彼が別の伴侶を選んだとしても怒り狂ったりはしなかっただろう。
だが、ランバートはエリオノールの言葉に笑うどころか困惑した顔をした。そしてたっぷり一呼吸分まった彼の返事は、イエスとノーのどちらでもなかった。
「君だけはオレの特別にする。君にもオレを特別にしてもらう」
「……え? ランバートの言っていること、よく分からないわ」
彼が何を言いたいのか分からず、幼いエリオノールは困惑した。
「分からなくていい。オレを嫌いになってくれればそれで。ずっとね」
明言しなかったが、ランバートはエリオノールのことが嫌いで、彼女にもそうあって欲しいということなのだろう。わざわざ宣告されなくても、エリオノールの慕っていた彼とは別人のようになったランバートを、今までと同じように好きでいられるはずがなかった。
それからは顔を合わせれば何かしらエリオノールに意地悪を言ってくるので、自然と彼を避けるようになった。他の誰かがいるときはそうでもないのに、エリオノールと二人きりの時だけ。
それなのに、ランバートは何かとエリオノールに付きまとっていたが。嫌いなら近寄らなければいい。それだけなのに。
やむを得ないこととはいえ、まさかそんなランバートと婚約することになるなんて、思ってもみなかった。
用事があるというランバートを、玄関ホールまで見送ることになった。「わざわざ見送らなくても……」と渋ったエリオノールは母にどやしつけられて渋々一緒に玄関ホールに行った。
「またね。ハニー。君は今度の夜会も行くの?」
「そんなのあなたに関係ないじゃない。それにそんな呼び方しないで!」
つんとエリオノールは顔をそむける。
今は二人きりだ。
仲の良い婚約者のふりをする必要なんてないのに、仲睦まじいようにふるまおうとする意味が分からない。
「オレは君の婚約者だからね。君が行くのなら、エスコートしなくちゃ。すぐにでも婚約公表するつもりだから。悪い虫が愚かにも君に婚約を申し出る前に」
「少なくとも今まで男の人に言い寄られたことないわよ?」
エリオノールが婚約を申し込まれたからと言って、ランバートが気にすることでもないはずだ。彼はエリオノールが好きだから婚約したわけではなく、彼女の純潔を奪った責任をとっただけなのだから。
そう言うと、ランバートは苦々しい顔になった。
「だいたい君がそんな風に鈍感だから、こんなことしないといけなくなったんだろ」
「鈍感? こんなこと?」
きょとんと目を丸くすると、ランバートは取り繕ったような笑顔を浮かべた。
「君とずっと話していたいところだけど、オレはもう行くよ。夜会の前に迎えに来るから。またね。ハニー」
「だからその呼び方はや・め・て。じゃあね、ランバート」
ランバートを強引に外に押しやると、エリオノールはぱたん、とドアを閉めた。
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