後継社長奮闘す

tathufuntou

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第一章 現実を直視する

社長は自社を意外に知らない・・

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40代のベテラン部長が、
退職する事になった。

残念だが、体調が良くない親の
そばにいながら働きたいと、
地元で再就職すると言う。

達社長自身、
何度も本人と話し合いを持ち、
留ってくれる方法を模索したが
叶わなかった。

正直、退職願いを出して来た時
「説得は無理」と半ばわかっていたが
粘ったのは、

顧客や協力業者の方からの評判も良く
真面目で責任感が強いこともあり、
現場ではある意味、
「おんぶにだっこ」状態。

つまり、
彼の力は、多大だったからだ。

「ピンチはチャンス」
達社長切り替えは早い。

引き継ぎを兼ね、これを機会に
重要顧客や工事パートナーと
達社長自身も定期接触しようと、

40ほどの会社や団体などを
ピックアップしてもらった。

この40件、会社の命運を左右する
と言っても過言ではない
先ばかりである。

しかし、現場を仕切る
父親世代から活躍する会社の三役
(専務、常務、取締役)が
きちんと定期接触できている数は、
わずか23件。

なんと8社に至っては、
三役がこの2年、接触すら
出来ていないことが判明した。

薄々わかっていた事だが、
現場任せになっていたのだ。

「会社の事を一番知らないのは
その会社の社長である」

もう一度、
会社を客観的に見つめよう。
達社長は、この時そう決意した。

そして、総務チームと一緒に
「自社再発見」
という長い格闘が始まった。

過去10年に渡る発注先(事業主)一覧や
会社のあらゆる契約書類やお金の流れ
(キャッシュフロー表)の確認。

社員名簿を作り直し、経歴や強みを
出来るだけ詳細に記載。

そして、可能な限りの工事クレームや
小さな事故までも慎重に
整理していった。

「ヒト・モノ・カネ・決済・リスク」
の客観化への挑戦である。

すると、色々なものが見えてきた。

・受注の半分近くは、
         ある部長の人脈つながり。
・自信があると、皆が言っていた、
    設計やデザイン。しかし、
    それが理由の受注は、あまりない。
・クレームの三割近くは、
        ある事業主のある担当。
・毎月夏場に、資金ショート
        しそうになる事がある。
・発注書を後回しにした、
        資材発注が散見されている
・辞める人の多くはなぜか3年目。
・介護が必要な親を持つ社員も
         少なからずいる

「なんとなく感じていた事も
あったが、事実として、
知らないことだらけだった」

達社長は、会社経営の奥深さに、
少し怖さすら感じずには、
いられなかった。

「会社も人間と同じように
定期的な健康診断が必要なのですね」

一緒に格闘してくれた、
総務課長の言葉が心に響いた。
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