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第三話「須川」
3-2 援交 ※
しおりを挟むちゅっ、と音を立てて唇が離された頃には、美果はすっかり息が上がっていた。
(…何だかぼーっとする…何も考えられない)
耳まで赤く染めて、息を乱す美果の姿は扇情的だった。城木は美果を抱き寄せ、その耳元で囁いた。
「気持ちよかったか?」
「…っ」
低く欲情した城木の声に、美果はハッとした。抱き寄せる城木の腕から逃れようとしても、何だか身体の力が抜けてしまって軽く押すことしかできない。
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
「へえ」
城木の腕は美果の背中から、臀部へと移動した。再びぐいっと引き寄せられて美果はショーツ越しの秘部に、また硬いものをぐいぐいと押し付けられた。
「や、やだ」
「そう怖がるなよ、こいつで一度お前のマンコをズボズボしてやっただろ」
城木は卑猥なことを恥ずかしげもなく言いながら美果の首筋をべろりと舐めた。美果は喉の奥で小さな悲鳴を上げて背筋を震わせた。そうしながらも城木は美果のショーツの奥地目掛けて腰を押し付ける。
二人の下半身が密着するその場所は、酷く熱くなっていた。
「…っ…く…ぅ」
完全に身体が密着させられている為、美果は城木にもたれ掛かるしかない。城木が下半身を小刻みに押し付けてスカートの中の無防備なショーツを小さく穿つ度に、美果は城木の服をきゅっと掴みながら声を潜めて小さく声を漏らした。その様子をじっくりと見つめていた城木はつくづく思った。
「あー…挿れてえな」
「身体にっ、障りますよ!」
ぎくりとした美果は必死に言った。これ以上の密着は危険である。
「も、もうキスは済んだんですから、離してください」
「…ふー…」
城木は興奮を落ち着けようとするかのように大きめに息を吐き、無言で美果から手を離した。
「じゃあ次はフェラだな」
「…」
もうこのまま帰りたい、と美果は思ったが口にはしなかった。また写真をネタに脅されるに決まっている。
「俺は今片手が使えないから、美果ちゃんがズボンと下着を下ろしてくれよ」
にやにやしながら城木が言う。この男は美果に意地の悪い命令をするとき、本当に嬉しそうににやつくのだ。大人げないサディストである。
(…翔さん、ごめんなさい)
心の中で恋人の時村翔に謝りながら、美果は恐る恐る城木の衣服に触れた。
ズボンと下着を脱がすと、城木の性器が美果の眼前に現れた。半立ち状態のそれを見て、思わずふいっと目を逸らすと、城木に頭を鷲掴みにされて再び前を向かされる。
「…っ」
「どうした、彼氏のしゃぶった事くらいあるだろ?」
「い、一度だけ…」
美果は恋人の翔にお願いされて、一度だけ彼のペニスを口に含んだことがあった。初めてだった美果は、何をどうすれば良いのか分からず、翔を満足させることは出来なかった。だが翔は「美果ちゃんが一生懸命してくれるだけで凄く嬉しいよ」と言って本当に幸せそうに微笑んだ。
好きでもない男の肉棒を口を使って満足させる何てことをしたら、翔との大切な思い出が汚されてしまう。美果はベッドの淵に座る城木の前で膝立ちになり、小さく震えながら最後の抵抗をした。
「本当に…咥えなきゃ駄目ですか?」
「…」
城木の表情がすっと無くなる。機嫌が悪くなっている。それは分かるが美果は目に涙を溜めて上目使いに懇願した。
「私、好きな人以外のおちんちんを咥えるなんて、やっぱり嫌で」
「今すぐ生でマンコに突っ込まれるのと、チンコにフェラするのと、どっちか選べ」
「ひっ」
ぐい、と前髪を掴まれ、城木のペニスが頬に押し付けられる。
「いつもだったらフル勃起してんのにな、今は怪我が響いてんのか半勃ち何だわ…おら、さっさと咥えろよ美果ちゃん」
「…うぅ」
美果はぽろりと涙を一筋溢して、口を開いたのだった。
「うぐっ…んぐっ…っ…う、ぅ…ふうぅ…」
城木はようやく観念して口を開けた美果が、ちろちろと舌先で肉棒をそっと舐めるだけだった事に不満を抱き、もっと口を大きく開いて肉棒を咥えるように指示を出した。
「おら、舌絡ませろよ、そんなんじゃ全然イケないんだよ」
「うぅ…んぅ…んぐ…」
ーーーぐぽっ、ぐぽっ、じゅぽっ、ぐぷっ
美果は苦しさに呻きながら必死に頭を動かしていた。美果の口を大きく開かせ、城木はやや興奮しながらも冷たい言葉を上から投げつけていた。
「あー…下手くそ、もういいわ、そのまま口開けてろよ」
城木はそう言うと大きく腰を動かした。
「んぐう!? ぐぅっ、んぅっ! んぐっ、んくっ!!」
唇で肉棒の上部を撫でるだけに留まっていた美果に業を煮やした城木は、彼女の後頭部の髪を掴み、強引に喉奥にペニスを押し込んできたのである。
「んぶっ、ふぐっ、うぐぅっっ!!」
「はあっはあっ…女子高生の喉マンコ!」
城木が恍惚とした表情で、何か呟いているが美果は聞き取るほどの余裕はなかった。
ジュボジュボジュボジュボジュボッッッ!!!
舌を使え、手を使え、もっと吸い上げろ、と次々に指示をされても、美果はもうパニックになってしまい、息をすることもままならない。
(苦しいよぉ…翔さん、翔さんっ)
翔はこんな風に喉の奥まで挿れてなどこなかった。美果は恋人の顔を思い出しながら吐き気を必死に抑えつつ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして心の中で翔に助けを求めていた。
一方城木は快感を感じているらしく、徐々に彼の肉棒は硬く大きくなっていった。美果は口の中に苦い液体が広がるのを感じた。それと同時に口内の水分量が増えていく。
しかしあまりの苦しさから開放されたくて美果は必死に城木の足をばんばんと叩いたが、後頭部を掴む手の力はさっぱり緩まない。
「うっ、出る!!」
「んう、んんー!!!」
終わりはあっと言う間だった。
城木が宣言するのと、美果の口内に精子がぶちまけられるのは同時だった。
ドピュッ、ドビュルルルゥー!!!
「んむー! んんぅーー!!!」
必死に口を離そうと抵抗する美果を押さえ込み、城木はぶるりと身体を震わせて全ての精子を口内に出しきった。
じゅぽっ、と口から城木の肉棒が引き抜かれる。それと同時に床にへたり込む美果が口の中の物を吐き出そうとしたが、その顎を強い力で掴まれ上を向かされる。
「全部飲め」
「…!?」
射精した事で少しだけ息を乱した城木は、サディスティックな笑みを浮かべて美果を見下ろしていた。
「吐いたらこのままマンコに突っ込む」
「…っ」
飲、め、と区切って言うことで圧をかけて再び命令される。美果は顔を青くしながら、必死に口の中に出された城木の精子をごくり、ごくりと飲み込んだ。
「う、うぅー…」
全てを飲み干し、苦さと嫌悪感で美果はぼろぼろと大粒の涙を溢して泣いた。
「ちゃんと飲んだな…良い子だ」
城木は床に座り込んでいる美果の片腕を引っ張って立ち上がらせると、再び座っている自分の足の間に美果を向かい合う形で座らせた。
「もう嫌…嫌ぁ」
「今日はもうしねーよ」
そう言いながら城木は美果の胸に顔を押し付けた。ぐりぐりと頭を左右に振って美果の胸の弾力を顔面で堪能しながら言うのでは説得力がかなり薄い。
「…嫌い…城木さん何か大嫌い…」
「お、俺の名前覚えた? …やっぱり可愛いな美果ちゃんは、次からはマサトさんって呼べよ」
字は正しい人な、と説明され、美果はこれほど似合わない名前もないなと心底思ったのだった。
力が抜けて城木に抱きしめられるままの美果の髪を、城木は妙に優しい手つきで撫でた。
(この人、もしかして長い髪が好きなのかな…)
そう言えば、美果が助けなければいつも痴漢被害に遭っていた森野舞も美果と同じような長い黒髪である。
「…」
一瞬ばっさり切ってしまおうかとも思ったが、恋人の翔も美果の髪を好きだと言っていた事を思い出した。
(翔さんの為に、切らないでおこう)
そんな事を考えながら、まだ小さくグズっている美果の髪を指先に絡めながら、城木は上機嫌な様子で提案してきた。
「こんどメガネプレゼントしてやるから、それかけてセックスしような」
「…嫌です」
「メガネ嫌いなの?」
ごく普通に次などと言うその神経が、美果にはまるで理解できない。こんなに泣いて嫌がっているというのに、この男に人としての情はないのだろうかと美果は気が遠くなった。
「―――貴方とこういう事をするのが、い、嫌なんです…」
言いながらまた泣き出す美果の顔を見て、城木は僅かに頬を赤らめた。
「…はあ、俺の右腕が折れてなくて肋骨にヒビが入ってなきゃこのまま押し倒してたのになあ」
と切なそうにつぶやくので、美果はスンと真顔になって涙が引っ込んだ。この痴漢強姦魔に何を言っても無駄なようである。
「もう帰ります!」
「ああ、じゃあこれ受け取れ」
城木は引き出しから白い封筒を取り出して無造作に美果に渡した。
美果が怪訝に思いつつ、城木に促されて封筒の中身を見るとそこには一万円札が三枚入っていた。
「なっ、何ですかこれ!?」
「あ? まあ移動費だな」
ぱくぱく、と美果は口を開けたり閉じたりしながらも、どうにかその封筒を城木に押し返そうとした。
「電車賃に三万円も払ってません!」
「良いからもってけよ」
「だって、これじゃ」
「援助交際みたいだって?」
また城木がにやつきながら言う。美果は無言で頷いた。
「貰えるもんは貰っとけよ、美果ちゃんだってお金欲しいだろ?」
「私、そんなつもりじゃ」
「ああ…俺にただでも良いから抱かれたくて来たのか?」
「ち、違います!!!」
美果が何を言っても城木は貰っていけの一点張りだ。だんだんと面倒くさがり始めた様子の城木が再び美果の写真を見せてきた。
「上のマンコ使わせてもらった礼だっつってんだろ、あんまり騒ぐんなら今すぐ下のマンコも使うぞ」
「…」
せっかく事が終わったというのに、また城木が発情してしまっては困る。美果は、困り顔で白い封筒を受け取った。
「お礼は言いませんし、このお金も使いませんから…」
「好きにしろよ」
城木は勝ち誇った笑顔で美果を見ていた。美果はどうすれば良いのか分からず、落としても困るのでカバンの奥深くに封筒をしまいこんだのだった。
一分一秒でもここから早く離れたい思いつつ、美果は乱れた服と、髪型を最小限直してから慌てて病室を出ようとした。
「また連絡するからな」
そんな恐ろしい言葉に聞こえないふりをして、美果は病室から飛び出していった。
「いじめ甲斐あるんだよなぁ」
城木がにやにやしながら呟いた言葉は、美果の耳には入らなかった。
さすがに城木も追いかけては来ないと思いつつも、美果は病院の廊下を走ってしまい、すれ違う看護師に走らないでくださいと注意を受けてしまった。
「あれ、城木さんの妹さん、もう面会は良いんですか?」
「え、あ…はい、もう、いいです」
「城木さんっていつも笑顔でとっても優しい方で、あんなお兄さんが居て羨ましいわ」
気をきかせたのか、看護師はにこにこ笑いながら城木が入院中、いかに優しい男であるかということを美果に教えてくれる。美果の前に現れるあの大人げないサディスト男とはもしや別人のことを話しているのではないかと美果は耳を疑った。
「あの…あなたのお兄さんって独身かしら?」
恋する乙女の表情で、目をキラキラさせた看護師は聞いてきた。美果は遠い目をして呟いた。
「あの人は、おすすめしません…」
美果にはそう言うのが精一杯だった。
***
「…」
病院から出て行く美果を、一人の男が離れた場所からじっと見つめていた。
パーカーのフードを目深に被り、少し長めの髪を後ろで一つに縛っている。やや猫背気味だが、背筋を伸ばせばそれなりに身長はありそうだった。
男は中々に整った顔をしているのだが、目の下に出来ている深い隈と、やや悪い目つきのせいで女性からは敬遠されていた。その上この男の卑屈な性格とすぐに人を見下した発言のせいで、二十歳を超えた今でも彼は誰かと交際した経験はない。
「周りのブス何てこっちから願い下げなんだよ」
そんな風に考えていたある日のこと、男はある動画をたまたま閲覧したことでその配信者である少女に興味を持った。男は動画にコメントなどをしたり、SNSをフォローして少しずつ距離を縮めるなどという手法は使わない。男はまずその少女の身辺を独自に調査した。
少女の名前は宮間早織。高校二年生の少女だった。
するとタイミングの良いことに沙織は悪い友人達に唆されて万引きをして捕まってしまい、商品代を弁償する為の金に困っているという情報をSNSのアカウントを乗っ取って入手したのだ。
この情報を掴んだ男は目を輝かせて喜んだ。男は金に困っていない。なので沙織に金を渡して代わりに交際してもらおうと考えたのである。
残念なことに、この男は自分の良いところを金がある所としか思っていないのである。
そして全くの初対面であるにも関わらず男は突然学校帰りの沙織の前に現れ、事情をすべて知っている旨を話して援助交際を申し出た。
顔を真っ青にして怯える沙織に、男は頬を上気させて詰め寄った。
断れば全てを学校や親に知らせると脅そうとした時、美果が現れたのだ。
(な、なんだ? この女は…)
美果はあまりにもタイミングよく現れた。まるであの日、あの時間に男が沙織に会いに来る事を知っているかのようなタイミングである。
美果は男に背を向け、沙織を先輩、と呼んで優しく語りかけた。
美果は少女を説得し、友達にそそのかされて万引きをした事や、その事でお金に困っていた事などを正直に話すように諭した。
(何でお前が知ってるんだよ!?)
沙織も驚いていたようだが、美果の言葉を聞くうちに彼女はみるみる表情を変えた。そして美果の手をとったのだ。
結局、沙織は初犯であること、他の女子生徒の差金であること、きちんとした謝罪をした事などを考慮され、店側は沙織を許し、学校も寛大な処分で彼女を許した。
「―――クソがっ!!」
男の思惑がすべて外れてしまった。
金を渡すことで、彼女を救うのは自分のはずだった。そして沙織は金の代わりに身体を差し出すことで、男は晴れて可愛い恋人を手に入れていたはずだった。少なくとも、男はそれが一番良い方法だと考えていたのである。常識のある人物が聞いたら耳を疑いそうな考えだが、男は本気だったのだ。
そして男は自分の恋人になるはずだった沙織を目の前で奪った犯人として、美果を逆恨みしていた。
城木の入院する病院から出て駅に向かって歩いていく美果の後ろ姿を見ながら、男は手元のスマートフォンを操作した。
―――私、好きな人以外のおちんちんを咥えるなんて、やっぱり嫌で
耳に刺したイヤホンから聞こえてきたのは、先ほどの美果の声だった。
―――お礼は言いませんし、このお金も使いませんから…
盗聴した城木の部屋でのやり取りを聞きながら、男は再び歩いていく美果をじっと見つめた。
「とか言いながら、どうせ使うくせに…自分は援交してるじゃねえか」
ちっ、と舌打ちしながら、美果を睨みつけた。
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