おれはお前なんかになりたくなかった

倉入ミキサ

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第四章:風太と美晴と春日井雪乃

男子がやってるカードゲーム

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 「おれ……風太なんだ……!」

 『美晴フウタ』は雪乃に、はっきりと本当のことを伝えた。

 「おれも風太だぜ」
 「えぇっ……!?」

 予想していなかった答えが返ってきた。

 「おう、おれも風太だぜ。……だめ、わたし似てないね。あははっ」
 「いや……、冗談じょうだんじゃ……なくてっ……!」
 「あ、あー、コホン。おれは6年1組の二瀬風太だぜ。趣味しゅみは、なんかドラゴンが出てくるカードゲームだぜ。キリッ」
 「なんだよ……その……悪意ある……モノマネは……! たしかに……『バトルドラゴンウォーズ』の……カード……集めてる……けど……! いや……そうじゃなくて……!」
 「男子は何故かみんな持ってるよね、あのカードゲーム。風太くんはルールとか説明してくれたけど、よく分かんなかったし、興味ないよ。わたし」
 「そんなこと……より……、おれが……風太……なんだよっ……!」
 「そうなの? じゃあ、風太くんが二人になっちゃうんじゃない?」
 「へっ……?」
 「わたしの目の前にいる美晴ちゃんの姿をした風太くんと、キッチンでホットケーキを焼いてる風太くん」
 「いや……、あっちが……本当は……美晴で……おれが……風太……」
 「あ! もしかして、男の子みたいなしゃべり方してるのは、風太くんのモノマネだったのかな? 風太くんが来たら、ちゃんと女の子のしゃべり方に戻さなきゃだめだよ?」
 「だから……、おれが……本当の……風太……だって……!」

 話が進まない問答もんどうを繰り返しているうちに、キッチンでホットケーキが焼き上がってしまった。
 
 「できたよ。三人分」
 
 『風太』がダイニングへやって来た。
 おぼんに載せて運んできたのは、真ん中にバターが乗っていて、全体にとろ~りしたメイプルシロップがかかっている、スタンダードなホットケーキだ。
 
 「わぁー! ホットケーキだー!!」

 雪乃は見たままの感想を言った。
 今の興味は完全にホットケーキに向いているらしく、『美晴』の話についてはもうすっかりわすれている。

 「はぁ……」
 「風太く……美晴、どうかした? さっき雪乃ちゃんと何を話してたの?」
 「いや……なんでも……ない……。です……」
 「?」
 
 『風太』に言ったところで、おそらく味方はしてくれない。
 不満げな表情を浮かべながら、『美晴』は甘くて美味しいホットケーキを頬張ほおばった。

 *

 「「「ごちそうさまでした」」」
 
 雪乃が食器しょっきを運び、『美晴』がそれを洗う。料理をしていた『風太』には、その間に休んでもらうことにした。

 「美晴ちゃん、もう食器はこれで全部だよ」
 「ああ……。こっちも……もうすぐ……終わ……終わりますよ……」
 「この後、三人でメガロパに行こうと思うんだけど、美晴ちゃんもそれでいい?」
 「うん……」
 
 この家の近所には、メガロパという名前の大型ショッピングモールがある。
 
 「じゃあ、わたしたちは先に玄関の外で待ってるから、美晴ちゃんも準備ができたら、外に出てきてね」
 「分かり……ました……」

 『美晴』は皿洗さらあらいを終えると、手を拭いて美晴の部屋へと向かった。
 しかし、部屋に向かう途中、外に出ているはずの『風太』とばったり出会った。『風太』は男らしい健康的な両腕で、キレイにたたまれ積み上げられた女物の洋服を抱えている。
 
 「おい……、ここで……何やってるんだ……。お前……」
 「わたしの服を、クローゼットにしまっておこうと思って……」
 「だから……、そういう……のは……おれが……やるって……言ってるだろうが……!」
 「で、でもっ! 風太くん、お皿洗いで忙しそうだったからっ!」
 「あのな……、一応……今……お前は……風太……なんだぞ……! こんなところ……もし雪乃に……見られたら……、どう説明する……つもり……なんだよ……!」
 「ゆ、雪乃ちゃんなら、先に玄関の外へ行きましたよ……?」
 「そういう……問題じゃ……」
 
 と、『美晴』は途中まで言いかけて、やめた。
 これ以上声が大きくなれば、外にいる雪乃の耳にも届いてしまうかもしれない。そしてまた、あいつはケンカの仲裁ちゅうさいをしにやってくる……。

 「と……、とにかく……来い……!」
 
 『美晴』はそのまま『風太』を連れて、美晴の部屋へと向かった。

 *

 二人で手分てわけをしながら、全ての洋服をクローゼットに片付け終えると、『美晴』は『風太』を勉強机のイスに座らせ、ハッキリと言った。
 
 「これぐらい……のことは……、おれが……やる……! お前は……今……おれなんだ……から……、こういうことは……しなくていい……! あと……、近くに……雪乃が……いるってことを……考えて……行動しろ……よ……! 風太が……美晴の服を……勝手に畳んだり……クローゼットにしまったりするなんて……おかしいだろうが……!」
 「は、はい……」

 『美晴』は一方的いっぽうてきに、『風太』をめた。
 責められた『風太』も、黙ってうつむいたまま、自分がやってしまったことを反省していた。
 
 「……」
 「……」
 
 怒られてしょんぼりする『風太』を見ているうちに、『美晴』はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 今回の『風太』の行動は、皿洗いで忙しい自分のためをおもってのことだ。悪気わるぎがあったわけではない。
 さらに、さっきからケンカばかりして雪乃を困らせているので、「雪乃のことを考えていない」のは、どちらかと言うと自分の方かもしれない。

 (うーん、ちょっと言い過ぎたかな。おれも美晴をめられるほど周りが見えてるわけじゃないし……)

 少し考えてから、『美晴』は言った。
 
 「あ……、あの……さ……!」
 「はい……?」
 「もういい……から……、おれの……服……選んで……くれよ……」
 「えっ? 服を……?」
 「これから……三人で……かけるん……だろ……? お前の……遊びに出かける……時の……服装とか……、おれ……知らないし……」
 「わ、分かりました。わたしが選びますねっ」
 
 『美晴』は一度、『風太』の善意の行動にまかせてみることにした。

 *

 「お、おいっ……! これを……おれが……着るのか……!?」

 『風太』が選んだコーディネートは、花柄はながらのワンピースと、ひよこ色のカーディガンだった。
 
 「ど、どうですか……?」
 「お前なぁ……」
 「お母さんとお出かけする時に着る、とっておきの服なんですけど……。や、やっぱりイヤですかっ?」

 『風太』は『美晴』の反応を見て、出した服を片付けようとした。

 「いいよ……片付けなくて……! せよ、それ……! 女が……着れば……その服……か、かわいいと……思う……よ……」
 「かっ、かわいい!? 風太くん、い、今、かわいいって言いました!?」
 「なっ、なんだよ……!」
 「こ、この服っ、お母さんがかわいいってめてくれてっ! 風太くんから見ても、か、かわいい、ですかっ!?」
 「女が着れば、な……!」
 「でも、風太くんは今女の子だから……」
 「うるさいなっ……! 言われなくても……分かってるよっ……!!」
 
 なかばやけくそになりながら、『風太』からお出かけ用のワンピースをぶんどり、『美晴』は今着ている服を思い切り脱いだ。脱ぎ捨てた。
 鏡の前で、ブラジャーとパンツだけの姿になり、自分の身体にワンピースをあてがう。サイズも丁度ちょうど良く、着られないということはなさそうだ。
 
 「なぁ……美晴……。やっぱり……これ……って……」
 「いちゃだめっ!!!」

 突然、『風太』が大声でさけんだ。
 ワケも分からず、『美晴』は鏡の方を向いたまま、『風太』にたずねた。
 
 「えっ……!? なんだ……!?」
 「そのまま、前を向いていてっ!」
 「うん……? わ、分かった……!」
 
 と言っても、『美晴』の正面にあるのはかがみ。前を向いたまま背後はいごの様子も分かるのが、鏡の利点りてんなのだ。
 『美晴』は鏡越かがみごしに、『風太』の様子を確認した。

 (あっ……!)

 『風太』は後退あとずさりして、ゆっくりとイスに腰を降ろした。
 その動作の時に少しだけ見えたに、『美晴』の目は釘付くぎづけになっていた。
 
 「美晴……」
 「……」
 「ウソだろ……お前……」
 「い、言わないでっ」
 「まさか……お前……今……、興奮こうふん……してるのか……?」
 
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