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しおりを挟む事件の概要は第一審における里香さんの尋問調書から抜粋、要約する形で記述する。
※彼女の要望に沿って証言内容については改変を加えていないが、実際の企業名や人名が用いられている箇所は適宜変名や仮名としている。
以下は検察官の最初の質問に里香さんが応じたものである。
「――『シェアリング』という、世界中に支社を持つ制作会社が制作する恋愛リアリティショーの日本版の出演者のオーディションを事務所から勧められて応募したのがきっかけです。
内容は私くらいの年齢の男女それぞれ三人ずつ、計六人が沖縄県にある無人島に建てられたコテージで共同生活を送り、その様子をありのまま放送するというものでした。
当時はチャンスが欲しくて色んなオーディションを受けていた時期だったので合格した時は嬉しかったです。かなり大きな企画ですし、これが転機になる。やっと有名になれると思いました。またメンバーに選ばれた人たちも友達や、よくオーディションで顔を見る人たちばかりだったのでやりやすいだろうなと感じました。
友達同士を採用するのは恋愛リアリティショーとしては少しおかしいのかな、とも思いましたが、よくあることだと言われたので納得しました」
質問は他の五人の人となりに及んだ。
「――女子メンバーは私とさやかちゃん、優利奈ちゃんの三人で、男子メンバーは勇輝くん、雅人くん、亮くんの三人です。
優利奈ちゃんとは同じ事務所だったのでもともと気心の知れた仲だったし、さやかちゃんは同い年ということが分かって、行きのバスでもう打ち解けて、たくさんおしゃべりしたのを憶えています。
そのさやかちゃんと勇輝くんも元々仲が良く、その繋がりをきっかけにバスの中で男の子たちが混じってきて、自然に自己紹介が始まりました。雅人くんはバイトでダンスインストラクターをしているそうで、向こうに着いたら連続バク転を見せてあげると言っていました。亮くんは水泳が得意で、中学のとき県大会で優勝したこともあったそうです」
次に事件当日の動きが語られた。
「夜、石垣島空港に着くと現地のホテルで一泊して、翌朝港まで行き、チャーターした海上タクシーで現地に向かうという日程でした。そこまでに一時間半ほどかかりましたが、だんだん見えてきた島の景色と豪華なコテージに私も皆も感動して、疲れも忘れるほどでした。しかもコテージは番組のためにわざわざ作られたものだと聞いて驚いた記憶があります」
ところで彼女たちが上陸する際、ちょっとした事件が起きたそうだ。
「コテージに行く途中、スマホでちょっと景色を撮ろうと列を離れると何かが足にぶつかりました。森の中で迷彩柄の布をかぶせていたので気付かなかったんです。おかしいなと思ってめくってみると四角い、アンプみたいな機材が少しだけ見えました。そしたらいきなりディレクターの人が駆け寄ってきて、『何でもない』と割って入り、早く先に進むように促してきました。その通りにしましたが気になって振り返ってみるとその人がADさんに対してすごく怒っているのが見えました。何であそこまで怒るんだろうと不思議に思いました」
六人はプロモーション映像を撮影するということで集められたが、形式的なものに過ぎなかった。スタッフたちはただ夜が来るのを待っていたのである。
「水着に着替えて砂浜で遊んでいればいいと言われたのでそうしました。その様子をさっきのディレクターの人がカメラを構えて撮っていたのですが、私たちばかり撮っていると感じました。よくあることなので気にしませんでしたけど……」
それはのちに加害者となる田口だった。
証言はついに事件の発端に及んだ。
「夕方からバーベキューをして、夜八時ごろにそれが終わるとリビングで打ち合わせをする予定でした。
皆が集まって少し経つと、突然電気が消えました。もう日は完全に沈んでいたので真っ暗でした。
私たちがざわつきだすとスタッフさんが『大丈夫。すぐ直るから動かないで』と声をかけてくれて、停電だと分かったので安心しました。
実際にすぐ明るくなりましたが、さっきまでスタッフさんたちがいたところにマスクを被った人たちが並んでいました。
でも立ち位置が変わってないし、カメラを持ったままの人もいたのですぐスタッフさんたちだと分かりましたが、わけのわからない状況ではあったので皆きょとんとしていました。
何かのイタズラなのかなと思っていると突然男の一人が拳銃を取り出してこちらに向けてきて、一気にパニックになりました。そのあと銃声が聞こえると、皆一斉に逃げ出しました。ソファの後ろにある窓が全部開いていたので、そこから次々に飛び出していったという感じでした。
そしたらまたコテージの明かりが消されて、自分がどこにいるか分からなくなりました。手ぶらで、靴も履いてない状態でしたが、懐中電灯の光がいっぱい追って来ているのが見えたので引き返せず、とりあえず走りました。
月明かりを頼りに進んでいると亮くんがどんどん先に行くのが見えましたがすぐに消えました。私も夢中で、どこに向かっているのかも分からない状況だったので、他の皆のことは考えられませんでした」
前述のように彼女以外の五人は全員死亡している。それぞれ死因こそばらばらだが、人為的に殺害されたという点では一致している。私はその一部始終を見た。全てはカメラの前で起こったからだ。
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