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受け継ぐ
別れと出会い
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私と伊織が付きあって、半年が経過した。
順調とは言い難いけれど、それなりに楽しく過ごしている。
当初は周りが騒ぎ、西賀さんにはどう思われるかビクビクしていたけど、彼女は「おめでとう! 羨ましいぃぃ‼」と言ってくれた。
それから、なんとなく一緒に遊ぶようになり晴香に次いで一緒の時間を過ごすようになっていた。
そして、今日はいよいよ引継ぎの日本当はもっと早くに行うのが普通であるのだが、先輩たちは早々に大学受験を成功させゆっくりと過ごしている。
それに、この研究会は先輩たちが創ったものだし、私も彼も二人のことは大好きだった。
「ひ、ひぐぅ……」
「お、おい告、人の袖で涙を拭かないでくれないか?」
このなんとも締りの悪い最期を迎えている。
終始泣きっぱなしの告先輩に、冷静な覚先輩、この名コンビももう見れなくなるのか……。
「ちょっと! ヒナちゃん、名コンビって‼ 私たちは芸人じゃないわよ!」
「え? もしかして、漏れてました?」
おっと、思わず心の声が漏れてしまっていたようだ。
だけど、誰も不快にはならずに全員が笑ってくれる。
「先輩、お疲れ様でした。それと、ありがとうございます」
伊織が丁寧に頭を下げたので、私もそれにならって下げると、手に持った紙袋がガサリと音を鳴らした。
中には、二人で描いた色紙が入っている。
あの面積を二人で埋めるのは、大変かな? と、思っていたけれど、やってみると意外と足りなくて――それで、描ききれないよ……。
「うんん、お礼を言うのは私たちよ。二人が入ってきてくれて、本当に嬉しかったし、楽しかった」
「そうだよ。こちらからも、改めて言わせてくれ――ありがとう」
覚先輩が言い終わるのを待って、私は二人に色紙を渡した。
それを受け取ると、また泣いてしまう告先輩。
「うぅ、ありがとう、本当にありがとう」
「いえ、せん……ぱい、たちも――」
あれ? 言葉が出てこない、一気に視界が滲むと、息がつまりそうになった。
それを見て、告先輩はグイっと涙を拭き、私を抱きしめてくる。
「これからも二人仲良くね……二人の先輩で嬉しかった」
「う、うぐぅぅ……せ、先輩‼」
「そうそう、あっという間に付き合って羨ましいよ。これから、この部屋はキミたちのだよ。もし、後輩が入ってきたら、よろしく頼む」
「はい! 任せてください」
「頼りにしているよ」
握手を交わす男性陣、女性陣はお互いの涙が枯れるまで、抱き合ったままでいた。
それだけ名残惜しい、もう少し学園にはいるけれど来る機会はグッと減る。
だから、笑顔でって思ったけど、無理だよね。
でも大丈夫、私は――。
霞んだ目で隣に立つ人を見る。 頼りになる私の彼氏。
この人とだったら、なんでも大丈夫だと思えた。
そして、春になる。
騒がしい先輩たちが居なくなり、静まり返った部屋を私たちは片付けていた。
「今年も来るかな?」
「わからない、けど、いつ来ても良いようにしとかないとね」
二人から受け継いだ部屋に、日焼けした資料、それに鍵。
チラシは作って、既に掲示板に貼っている。
でも、誰か見てくれるかな? 一番端っこで、目立たないかもしれない。
そんな不安が押し寄せてくる。
既に、新学期が始まって一週間、私たちは二学年になって、それなりに忙しい毎日を過ごしていた。
だけど、研究会のことは第三者が絡むので、どうしようもできない。
ただ祈るだけしかできないのが歯がゆい。
もう、何度目になるかわからない掃除を済ませ、二人でお茶を飲み始める。
まったりとした、何とも言えない緩い空間になる。
「さて、今日も誰も来ないかもね、帰ろうか?」
彼が立ち上がり、鞄に手をかけようとしたとき、小さく部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「‼」
伊織は何を思ったのか、焦り、覚先輩の座っていた椅子に座ると目を閉じだしてしまう。
「し、失礼しまう、あの……ここって恋愛の――」
「良い結婚よりも、美しく、友情があり、魅力的な関係や団体、集まりはない」
え?
「⁉」
いきなり、変なことを呟いた伊織、しかもなぜか決めポーズまでしていた。
「知らないのかい? ルター……!」
「はいはい、邪魔邪魔、ほら彼女引いちゃっているじゃない、どいて」
グイっと邪魔者を端に追いやると、呆然としている彼女を部屋へ招きいれた。
まったく、この研究会の男性は予想外のことが起きると、なぜああなってしまうのだろうか?
このままでは、来訪者が去ってしまう。
だから、私は告先輩まではいかないにしても、とびきりの笑顔で話しかける。
言葉は決めていた。 そう、絶対に言うんだって。
「ようこそ、恋愛研究会、通称【恋研】へ!」
恋研‼ ~恋する研究会!?~ 完
順調とは言い難いけれど、それなりに楽しく過ごしている。
当初は周りが騒ぎ、西賀さんにはどう思われるかビクビクしていたけど、彼女は「おめでとう! 羨ましいぃぃ‼」と言ってくれた。
それから、なんとなく一緒に遊ぶようになり晴香に次いで一緒の時間を過ごすようになっていた。
そして、今日はいよいよ引継ぎの日本当はもっと早くに行うのが普通であるのだが、先輩たちは早々に大学受験を成功させゆっくりと過ごしている。
それに、この研究会は先輩たちが創ったものだし、私も彼も二人のことは大好きだった。
「ひ、ひぐぅ……」
「お、おい告、人の袖で涙を拭かないでくれないか?」
このなんとも締りの悪い最期を迎えている。
終始泣きっぱなしの告先輩に、冷静な覚先輩、この名コンビももう見れなくなるのか……。
「ちょっと! ヒナちゃん、名コンビって‼ 私たちは芸人じゃないわよ!」
「え? もしかして、漏れてました?」
おっと、思わず心の声が漏れてしまっていたようだ。
だけど、誰も不快にはならずに全員が笑ってくれる。
「先輩、お疲れ様でした。それと、ありがとうございます」
伊織が丁寧に頭を下げたので、私もそれにならって下げると、手に持った紙袋がガサリと音を鳴らした。
中には、二人で描いた色紙が入っている。
あの面積を二人で埋めるのは、大変かな? と、思っていたけれど、やってみると意外と足りなくて――それで、描ききれないよ……。
「うんん、お礼を言うのは私たちよ。二人が入ってきてくれて、本当に嬉しかったし、楽しかった」
「そうだよ。こちらからも、改めて言わせてくれ――ありがとう」
覚先輩が言い終わるのを待って、私は二人に色紙を渡した。
それを受け取ると、また泣いてしまう告先輩。
「うぅ、ありがとう、本当にありがとう」
「いえ、せん……ぱい、たちも――」
あれ? 言葉が出てこない、一気に視界が滲むと、息がつまりそうになった。
それを見て、告先輩はグイっと涙を拭き、私を抱きしめてくる。
「これからも二人仲良くね……二人の先輩で嬉しかった」
「う、うぐぅぅ……せ、先輩‼」
「そうそう、あっという間に付き合って羨ましいよ。これから、この部屋はキミたちのだよ。もし、後輩が入ってきたら、よろしく頼む」
「はい! 任せてください」
「頼りにしているよ」
握手を交わす男性陣、女性陣はお互いの涙が枯れるまで、抱き合ったままでいた。
それだけ名残惜しい、もう少し学園にはいるけれど来る機会はグッと減る。
だから、笑顔でって思ったけど、無理だよね。
でも大丈夫、私は――。
霞んだ目で隣に立つ人を見る。 頼りになる私の彼氏。
この人とだったら、なんでも大丈夫だと思えた。
そして、春になる。
騒がしい先輩たちが居なくなり、静まり返った部屋を私たちは片付けていた。
「今年も来るかな?」
「わからない、けど、いつ来ても良いようにしとかないとね」
二人から受け継いだ部屋に、日焼けした資料、それに鍵。
チラシは作って、既に掲示板に貼っている。
でも、誰か見てくれるかな? 一番端っこで、目立たないかもしれない。
そんな不安が押し寄せてくる。
既に、新学期が始まって一週間、私たちは二学年になって、それなりに忙しい毎日を過ごしていた。
だけど、研究会のことは第三者が絡むので、どうしようもできない。
ただ祈るだけしかできないのが歯がゆい。
もう、何度目になるかわからない掃除を済ませ、二人でお茶を飲み始める。
まったりとした、何とも言えない緩い空間になる。
「さて、今日も誰も来ないかもね、帰ろうか?」
彼が立ち上がり、鞄に手をかけようとしたとき、小さく部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「‼」
伊織は何を思ったのか、焦り、覚先輩の座っていた椅子に座ると目を閉じだしてしまう。
「し、失礼しまう、あの……ここって恋愛の――」
「良い結婚よりも、美しく、友情があり、魅力的な関係や団体、集まりはない」
え?
「⁉」
いきなり、変なことを呟いた伊織、しかもなぜか決めポーズまでしていた。
「知らないのかい? ルター……!」
「はいはい、邪魔邪魔、ほら彼女引いちゃっているじゃない、どいて」
グイっと邪魔者を端に追いやると、呆然としている彼女を部屋へ招きいれた。
まったく、この研究会の男性は予想外のことが起きると、なぜああなってしまうのだろうか?
このままでは、来訪者が去ってしまう。
だから、私は告先輩まではいかないにしても、とびきりの笑顔で話しかける。
言葉は決めていた。 そう、絶対に言うんだって。
「ようこそ、恋愛研究会、通称【恋研】へ!」
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