31 / 37
最終章 真夏の夜に馳せる音色
食レポみんなうますぎへん?
しおりを挟む
「どうぞ」
そう言われて恐る恐る、付属のスプーンですくいあげ、ひと口入れると驚いてしまう。
「‼」
「良かった」
私の表情を見て、安堵した伊織くん、それほど分かりやすかったのかな?
でも、確かにこれは――。
「美味しい!」
コーヒーが苦手な私でも食べられる。
アイスクリームだと思っていたのは、ジェラートで溶けているのではなく、ただ柔らかいのだと、それに、このビターな感じのコーヒーがうまく甘いジェラートと混ざり、なんとも言えないバランスで美味しい。
「よかった。ちょっとどうかな? って思って、ドキドキしていたけど」
「うん、凄く美味しい。私って実はコーヒーが苦手なんだけど、これは驚き」
「そ、そうだったの? でも、とりあえず、良かったのかな?」
彼もひと口たべて、ゆっくりと頷く、私も続けて食べていくと、冷たい感じが体の芯にも届き、暑い感覚が和らいだ。
そして、食べ終えそうなときに、ぽっと際程の店員さんがこちらに、小皿を持ってくる。
「?」
不思議がる伊織くん、私も最後のひと口を名残惜しいが食べて、鞄に入ったウェットティッシュで口元を拭こうとしたときだった。
「すみませーん、こちら、試作なのですがよろしければ感想を聞かせていただけませんか?」
小皿にあるモノに、私は目を奪われた。
「綺麗――」
思わず口に出してしまうほど、綺麗な食べ物がそこにある。
「これは?」
伊織くんがお皿を受け取って店員さんに聞いてみた。
「こちらはゲッターシュパイゼと言いまして、ノルウェーのお菓子なんですよ。色のついたゼリーに生クリームやミント、中身にナッツなどを入れております。清涼感があって、この夏に提供したいと思いまして」
スプーンでちょんっと突っついてみると、プルンっと動くゼリー。
綺麗な生クリームの上にのせらたミントに、食感を楽しむためのナッツが目を惹く。
「いいんですか?」
念のため、確認してみると、大きく頷いてくれた。
私は、軽く手をあわせて「いただきます」と、小声で言うと、そろそろとスプーンですくってたべてみる。
ちょっと、崩すのが勿体ない感じもする。 だけど、どんな味なのだろう?
好奇心の方が勝り、その味を確かめるべく食べてみた。
「――!」
心配そうに私を見つめてくる店員さん、だけど、次第にニッコリと笑顔になっていく。
なぜなら、自分の顔が笑っているのが、わかるからだ。
「美味しいです。 ヒンヤリしていて、柑橘系のゼリーに程よい甘さの生クリームと、ビターなナッツがとてもマッチしています!」
「す、凄い的確な食レポだね……」
伊織くんもひと口食べてみると、大きく頷いて「美味しい」と言っている。
店員さんも喜んでくれ、おまけにもう一つくれた。
なんだか、幸せな気持ちになれる。
「ありがとうございました。それではごゆっくり」
最後まで丁寧に頭を下げて対応してくれる店員さん、お店に戻る間際に、こちらに向かって笑顔でとんでもないことを言ってきた。
「彼女さんとても可愛らしいですね♪」
カランッ――。
思わず固まってしまう。
そして、プラスチックのスプーンを落としてしまった。
全部食べ終えていたから、良かったけど、不意打ちすぎる。
「か、彼女?」
隣にいる伊織くんに話しかけてみるが、返事が返ってこない。
不思議に思い、彼の方を向くと私以上に固まっていた。
「え、えっと……」
とりあえず、落ち着こう。 心臓が張り裂けそうなほど脈打ち、右手で落としたスプーンを拾おうとしても、左手が出てしまう。
ロボットのように、ガクガクとしか動かない体に、一気に喉が渇いていく。
二人同時に黙ってしまい、なんとか片付けて、トレーを返却すると「ありがとうございました!」と元気な声が返ってくる。
ジャリっと、熱により柔らかくなったアスファルトを踏みながら、歩いて行く。
しっかり、体が冷えたおかげで、暑さはそれほど気にならない。
それに、もう少しで夕暮れなので、段々と陽の色に赤色が増していく時間帯になっていた。
駅に到着するまで無言でいた私たち、だけど、別々のホームに行くときになり、伊織くんが声を出した。
「素敵でした」
「え? な、何が?」
「笑顔が凄く……」
微妙に開いた距離、目の前には反対側のホームに渡るための階段がある。
だけど、私の足はしっかりと彼を向いていた。
「僕は陽さんの笑顔が大好きです。だから、また笑顔になってくれると嬉しい」
パキパキ――。 パリン‼
私の中にあった何かが割れる音が聞こえた。
単純に美味しいモノを食べて嬉しかったのかもしれない。いや、ちょっと違う――だって、私は今まで美味しいモノを食べても、笑顔になることなんて……。
「あ、ありがとう」
ぎこちなく、そして何を返してよいのかわからないので、とりあえず、お礼を述べておく。
「それじゃぁ、また明日!」
彼も照れた表情のまま、小さく手を振って自分の進む方角に体を向かせると、足早に去っていった。
「な、なんなのよ」
その日の夜から、私はついに何も口に入らなくなる。
母からは夏バテだと言われ、素麺を茹でてもらい、数本ちゅるちゅると勢いなく食べた。
すぐに、お腹がいっぱいになる感覚になってしまう。
これが、俗に言う胸がいっぱいになる現象なのかと、随分久しい感覚に戸惑いを覚えてしまった。
そんな気持ちを払拭するために、お風呂に入る。
それも、いつも以上に念入りに洗いだしていく、細かく泡立てながら、そっと丁寧に汚れを落としていった。
そう言われて恐る恐る、付属のスプーンですくいあげ、ひと口入れると驚いてしまう。
「‼」
「良かった」
私の表情を見て、安堵した伊織くん、それほど分かりやすかったのかな?
でも、確かにこれは――。
「美味しい!」
コーヒーが苦手な私でも食べられる。
アイスクリームだと思っていたのは、ジェラートで溶けているのではなく、ただ柔らかいのだと、それに、このビターな感じのコーヒーがうまく甘いジェラートと混ざり、なんとも言えないバランスで美味しい。
「よかった。ちょっとどうかな? って思って、ドキドキしていたけど」
「うん、凄く美味しい。私って実はコーヒーが苦手なんだけど、これは驚き」
「そ、そうだったの? でも、とりあえず、良かったのかな?」
彼もひと口たべて、ゆっくりと頷く、私も続けて食べていくと、冷たい感じが体の芯にも届き、暑い感覚が和らいだ。
そして、食べ終えそうなときに、ぽっと際程の店員さんがこちらに、小皿を持ってくる。
「?」
不思議がる伊織くん、私も最後のひと口を名残惜しいが食べて、鞄に入ったウェットティッシュで口元を拭こうとしたときだった。
「すみませーん、こちら、試作なのですがよろしければ感想を聞かせていただけませんか?」
小皿にあるモノに、私は目を奪われた。
「綺麗――」
思わず口に出してしまうほど、綺麗な食べ物がそこにある。
「これは?」
伊織くんがお皿を受け取って店員さんに聞いてみた。
「こちらはゲッターシュパイゼと言いまして、ノルウェーのお菓子なんですよ。色のついたゼリーに生クリームやミント、中身にナッツなどを入れております。清涼感があって、この夏に提供したいと思いまして」
スプーンでちょんっと突っついてみると、プルンっと動くゼリー。
綺麗な生クリームの上にのせらたミントに、食感を楽しむためのナッツが目を惹く。
「いいんですか?」
念のため、確認してみると、大きく頷いてくれた。
私は、軽く手をあわせて「いただきます」と、小声で言うと、そろそろとスプーンですくってたべてみる。
ちょっと、崩すのが勿体ない感じもする。 だけど、どんな味なのだろう?
好奇心の方が勝り、その味を確かめるべく食べてみた。
「――!」
心配そうに私を見つめてくる店員さん、だけど、次第にニッコリと笑顔になっていく。
なぜなら、自分の顔が笑っているのが、わかるからだ。
「美味しいです。 ヒンヤリしていて、柑橘系のゼリーに程よい甘さの生クリームと、ビターなナッツがとてもマッチしています!」
「す、凄い的確な食レポだね……」
伊織くんもひと口食べてみると、大きく頷いて「美味しい」と言っている。
店員さんも喜んでくれ、おまけにもう一つくれた。
なんだか、幸せな気持ちになれる。
「ありがとうございました。それではごゆっくり」
最後まで丁寧に頭を下げて対応してくれる店員さん、お店に戻る間際に、こちらに向かって笑顔でとんでもないことを言ってきた。
「彼女さんとても可愛らしいですね♪」
カランッ――。
思わず固まってしまう。
そして、プラスチックのスプーンを落としてしまった。
全部食べ終えていたから、良かったけど、不意打ちすぎる。
「か、彼女?」
隣にいる伊織くんに話しかけてみるが、返事が返ってこない。
不思議に思い、彼の方を向くと私以上に固まっていた。
「え、えっと……」
とりあえず、落ち着こう。 心臓が張り裂けそうなほど脈打ち、右手で落としたスプーンを拾おうとしても、左手が出てしまう。
ロボットのように、ガクガクとしか動かない体に、一気に喉が渇いていく。
二人同時に黙ってしまい、なんとか片付けて、トレーを返却すると「ありがとうございました!」と元気な声が返ってくる。
ジャリっと、熱により柔らかくなったアスファルトを踏みながら、歩いて行く。
しっかり、体が冷えたおかげで、暑さはそれほど気にならない。
それに、もう少しで夕暮れなので、段々と陽の色に赤色が増していく時間帯になっていた。
駅に到着するまで無言でいた私たち、だけど、別々のホームに行くときになり、伊織くんが声を出した。
「素敵でした」
「え? な、何が?」
「笑顔が凄く……」
微妙に開いた距離、目の前には反対側のホームに渡るための階段がある。
だけど、私の足はしっかりと彼を向いていた。
「僕は陽さんの笑顔が大好きです。だから、また笑顔になってくれると嬉しい」
パキパキ――。 パリン‼
私の中にあった何かが割れる音が聞こえた。
単純に美味しいモノを食べて嬉しかったのかもしれない。いや、ちょっと違う――だって、私は今まで美味しいモノを食べても、笑顔になることなんて……。
「あ、ありがとう」
ぎこちなく、そして何を返してよいのかわからないので、とりあえず、お礼を述べておく。
「それじゃぁ、また明日!」
彼も照れた表情のまま、小さく手を振って自分の進む方角に体を向かせると、足早に去っていった。
「な、なんなのよ」
その日の夜から、私はついに何も口に入らなくなる。
母からは夏バテだと言われ、素麺を茹でてもらい、数本ちゅるちゅると勢いなく食べた。
すぐに、お腹がいっぱいになる感覚になってしまう。
これが、俗に言う胸がいっぱいになる現象なのかと、随分久しい感覚に戸惑いを覚えてしまった。
そんな気持ちを払拭するために、お風呂に入る。
それも、いつも以上に念入りに洗いだしていく、細かく泡立てながら、そっと丁寧に汚れを落としていった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―
島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」
落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。
ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~
ことは
児童書・童話
星野桜、小学6年生。わたしには、ちょっとだけマーメイドの血が流れている。
むかしむかし、人魚の娘が人間の男の人と結婚して、わたしはずっとずっと後に生まれた子孫の一人だ。
わたしの足は水に濡れるとうろこが生え、魚の尾に変化してしまう。
――わたし、絶対にみんなの前でプールに入ることなんてできない。もしそんなことをしたら、きっと友達はみんな、わたしから離れていく。
だけど、おぼれた麻衣ちゃんを助けるため、わたしはあの日プールに飛び込んだ。
全14話 完結
悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~
天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。
ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!
ペンギン・イン・ザ・ライブラリー
深田くれと
児童書・童話
小学生のユイがペンギンとがんばるお話!
図書委員のユイは、見慣れた図書室の奥に黒い塊を見つけた。
それは別の世界を旅しているというジェンツーペンギンだった。
ペンギンが旅をする理由を知り、ユイは不思議なファンタジー世界に足を踏み入れることになる。
フツーさがしの旅
雨ノ川からもも
児童書・童話
フツーじゃない白猫と、頼れるアニキ猫の成長物語
「お前、フツーじゃないんだよ」
兄弟たちにそうからかわれ、家族のもとを飛び出した子猫は、森の中で、先輩ノラ猫「ドライト」と出会う。
ドライトに名前をもらい、一緒に生活するようになったふたり。
狩りの練習に、町へのお出かけ、そして、新しい出会い。
二匹のノラ猫を中心に描かれる、成長物語。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる