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最終章 真夏の夜に馳せる音色
お誘いは彼から
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先輩たち二人は正式にお付き合いをすることになった。
ただし、今まであまり変わらない感じがすると、告先輩が言っている。
「なんだか、想像していたのと違う気がする」
トキメキを求めていたのはわかるけれど、二人の関係性がある程度構築されていたので、特別変わることがなかった。
「でも、毎日、寝る前におやすみなさい――って、言うのは悪くないかも」
テーブルに顔を埋めて、表情を隠している。
恥ずかしいなら言わないという選択肢もありなのだが……。
自分たちでは、あまり感じ取れないかもしれない。
それでも、周りから見るとしっかり変化していた先輩たち、大丈夫だと思う。
「それで? 晴香はどうかしたの?」
「ん? ちょっとね……」
今日は珍しく、女子三人で学園の近くのファミレスでトークを楽しんでいる。
キッカケは晴香の相談があるという一言だった。
「いや、彼氏との――」
内容は予想通りで、彼女の彼氏さんとの出来事について、心配事があるようだ。
男性陣も混ぜるか迷ったけど、最終的に告先輩が『たまには! 女だけで話すぞぉ‼』と、言うなり私たちを引き連れてここまでやってきた。
冷えたメロンソーダをひと口飲むと、この喉にはりつきそうな甘さと、炭酸の清涼感がなんとも言えない。
「いいじゃん! ハルちゃんは、覚ってば全然変わんないんだよ? なんだか、こっちばかり意識しているようで」
付き合うまでは良いが、それ以降の課題が山積みのようで、それを私に相談されても困る。
二人であーでもない、こーでもないと話し合っているのを眺めながら、外を見つめた。
すっかりと、夏の色が濃くなり、太陽と雲がアスファルトの上に奇妙な模様を描く季節になっている。
くすぶった熱気が常にまとわりつき、黙っていても汗が滲みでてきた。
「あつい……」
あの日、伊織くんが言った言葉の続きを私は知らない。
知りたい! と、強くも思えないが、ずっと心の隅っこでボスボスと燃えている。
蝉の鳴き声が、窓越しに聞こえてくるけれど、どこか虚ろな私の意識はまるで陽炎のように、いつまでも定まることはなかっ 夏本番、女子トークを終えて帰宅すると、急いでエアコンのスイッチを押して部屋の温度を下げる。
ブーンっと、動き出した機械音をかき消すように、音楽を聴き始めた。
「えっと、千六百年は……」
苦手な日本史の課題をしつつ、サラサラと参考書と課題を視界が行き来すると、母に呼ばれご飯の時間になる。
小さく返事をして、立ち上がると携帯電話にメッセージが届く。
相手を確認すると、心臓が一瞬飛び跳ねるような感覚になった。
「伊織くん」
今、私の心をザワザワとさせている本人からのメッセージ、内容を開く前に、もう一度机に座り、告先輩のようにうずくまってしまう。
「参ったなぁ、これって」
この気持ちには心当たりがある。
今まで触れてこないようにしていたけど、向き合わないといけないのかもしれない。
むくっと顔を上げて、画面をタップすると、彼からの送られてきた文章を目で追うと、顔が熱くなるのを感じた。
『今週末! 遊びに行かない⁉』
たった、この短い文でここまで高鳴るとは、いよいよ私も始まったのかな?
そう思わずにはいられない。
手帳を開き、週末の予定を確認してみるも、真っ白な予定欄に小さくピンクのペンで印をつけた。
『いいけど、どこに?』
凄く簡素な返事を送るのに、数分もかかってしまう。
返事を見るのが怖くなり、ベッドに携帯電話を放り投げると、慌ただしく階段をおりていく。
「どうかしたの? 遅かったじゃない」
母が困った感じで言ってきた。
「うん、なんでもないよ。ちょっと、キリの良いところまで勉強してた」
私の前に白い炊き立てのご飯が置かれる。
ホカホカと湯気をたて、作りたてのチキン南蛮と千切りキャベツがのった皿がコトンと差し出された。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
父は今日も遅いのか、夕ご飯はラップで覆われ冷蔵庫へ入れられてしまう。
熱々のご飯をひと口食べようにも、食欲がわかない。
これは、夏の暑さのせいではなく、私の心の問題であった。
それでも、無理やり胃の中に押し込むと、食器を下げて軽く洗い、食洗器の中に入れると「ごちそうさま」と母に言って、部屋に戻っていく。
「ちょっと! お風呂に入りなさいよ!」
「はぁーい」
パタン。
ドアをゆっくり閉め、返信があったことを知らせる点滅を見つけると、また心臓が大きく動き出していく。
一度、軽く深呼吸を済ませ、彼の名前が書かれた画面をタップすると、こう書かれている。
『ありがとう、それじゃぁ、学園の近くで夏祭りがあるから、そこに一緒に行かない?』
夏祭り? カレンダーを見ても、まだ夏祭りが開催されるような時期ではないと思い、そのまま携帯電話で調べてみると、確かにあった。
ただし、今まであまり変わらない感じがすると、告先輩が言っている。
「なんだか、想像していたのと違う気がする」
トキメキを求めていたのはわかるけれど、二人の関係性がある程度構築されていたので、特別変わることがなかった。
「でも、毎日、寝る前におやすみなさい――って、言うのは悪くないかも」
テーブルに顔を埋めて、表情を隠している。
恥ずかしいなら言わないという選択肢もありなのだが……。
自分たちでは、あまり感じ取れないかもしれない。
それでも、周りから見るとしっかり変化していた先輩たち、大丈夫だと思う。
「それで? 晴香はどうかしたの?」
「ん? ちょっとね……」
今日は珍しく、女子三人で学園の近くのファミレスでトークを楽しんでいる。
キッカケは晴香の相談があるという一言だった。
「いや、彼氏との――」
内容は予想通りで、彼女の彼氏さんとの出来事について、心配事があるようだ。
男性陣も混ぜるか迷ったけど、最終的に告先輩が『たまには! 女だけで話すぞぉ‼』と、言うなり私たちを引き連れてここまでやってきた。
冷えたメロンソーダをひと口飲むと、この喉にはりつきそうな甘さと、炭酸の清涼感がなんとも言えない。
「いいじゃん! ハルちゃんは、覚ってば全然変わんないんだよ? なんだか、こっちばかり意識しているようで」
付き合うまでは良いが、それ以降の課題が山積みのようで、それを私に相談されても困る。
二人であーでもない、こーでもないと話し合っているのを眺めながら、外を見つめた。
すっかりと、夏の色が濃くなり、太陽と雲がアスファルトの上に奇妙な模様を描く季節になっている。
くすぶった熱気が常にまとわりつき、黙っていても汗が滲みでてきた。
「あつい……」
あの日、伊織くんが言った言葉の続きを私は知らない。
知りたい! と、強くも思えないが、ずっと心の隅っこでボスボスと燃えている。
蝉の鳴き声が、窓越しに聞こえてくるけれど、どこか虚ろな私の意識はまるで陽炎のように、いつまでも定まることはなかっ 夏本番、女子トークを終えて帰宅すると、急いでエアコンのスイッチを押して部屋の温度を下げる。
ブーンっと、動き出した機械音をかき消すように、音楽を聴き始めた。
「えっと、千六百年は……」
苦手な日本史の課題をしつつ、サラサラと参考書と課題を視界が行き来すると、母に呼ばれご飯の時間になる。
小さく返事をして、立ち上がると携帯電話にメッセージが届く。
相手を確認すると、心臓が一瞬飛び跳ねるような感覚になった。
「伊織くん」
今、私の心をザワザワとさせている本人からのメッセージ、内容を開く前に、もう一度机に座り、告先輩のようにうずくまってしまう。
「参ったなぁ、これって」
この気持ちには心当たりがある。
今まで触れてこないようにしていたけど、向き合わないといけないのかもしれない。
むくっと顔を上げて、画面をタップすると、彼からの送られてきた文章を目で追うと、顔が熱くなるのを感じた。
『今週末! 遊びに行かない⁉』
たった、この短い文でここまで高鳴るとは、いよいよ私も始まったのかな?
そう思わずにはいられない。
手帳を開き、週末の予定を確認してみるも、真っ白な予定欄に小さくピンクのペンで印をつけた。
『いいけど、どこに?』
凄く簡素な返事を送るのに、数分もかかってしまう。
返事を見るのが怖くなり、ベッドに携帯電話を放り投げると、慌ただしく階段をおりていく。
「どうかしたの? 遅かったじゃない」
母が困った感じで言ってきた。
「うん、なんでもないよ。ちょっと、キリの良いところまで勉強してた」
私の前に白い炊き立てのご飯が置かれる。
ホカホカと湯気をたて、作りたてのチキン南蛮と千切りキャベツがのった皿がコトンと差し出された。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
父は今日も遅いのか、夕ご飯はラップで覆われ冷蔵庫へ入れられてしまう。
熱々のご飯をひと口食べようにも、食欲がわかない。
これは、夏の暑さのせいではなく、私の心の問題であった。
それでも、無理やり胃の中に押し込むと、食器を下げて軽く洗い、食洗器の中に入れると「ごちそうさま」と母に言って、部屋に戻っていく。
「ちょっと! お風呂に入りなさいよ!」
「はぁーい」
パタン。
ドアをゆっくり閉め、返信があったことを知らせる点滅を見つけると、また心臓が大きく動き出していく。
一度、軽く深呼吸を済ませ、彼の名前が書かれた画面をタップすると、こう書かれている。
『ありがとう、それじゃぁ、学園の近くで夏祭りがあるから、そこに一緒に行かない?』
夏祭り? カレンダーを見ても、まだ夏祭りが開催されるような時期ではないと思い、そのまま携帯電話で調べてみると、確かにあった。
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