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第三章 夏のホタルは儚い

蛍を見にいくだけなのでは?

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「良いですねホタル、私って見たことないんですよ」

「ぼ、僕も無いかもしれない。映像ではあるので想像はできますが」

 昆虫が発する光、よく幻想的、素敵などの表現がよく用いられるが、本当にそうだろうか?
 あの小さな個体が放つ力はかなり小さいとしか思えない。

「よっし! なら、さっそく学園に野外活動の許可と、これ、今週中に持ってきてね」

 更に手渡されたのは、夜に学園の活動に参加するために必要な親の許諾書だった。
 これを提出し、学園にも活動が通ると夜に集まることができる。
 ただし、終わった後にも必ず種類を提出しなけれなならない。
 
 面倒なことであるが、告先輩はそういったことを進んでしてくれる。
 また、書類に不備が無いかを覚先輩が調べてくれるので、今までどんな書類がきても一発で通ることが殆どだった。

「でも? 夜は流石に僕たちだけでは無理ですよね?」

 伊織くんが心配そうに呟いた。

「それはご心配なく、これ、通ると教員は無理だけど、守衛さんがついてくれるよ。時間は短いけど、しっかり見てくれるから安心できる」

 覚先輩が補足を入れてくれる。 
 先生は参加できないけれど、代わりに守衛さんが見守ってくれるので、大丈夫とのことだった。

「それでは、今週中に必ず提出してよね!」

「了解しました。だけど、素朴な疑問なのですが? なぜホタル?」

 ここは恋愛研究会、なにか目的があってこそ野外活動が許可されるのであって、単純にホタルが見たい! なんて、ことは通らないと思う。

「あぁ、それは、蛍が見たいってだけなんだけど、昆虫の恋愛におけるアピールの研究っていう名目で届けているの」

 なるほど、確かに――ん? いや、人間の恋愛だけでなく、昆虫や動物、もしくは魚類まで広い意味での恋研なのだろうか?
 
「それじゃあ、各自、今月末までにホタルの研究しておいてね! 後でレポート提出しなくちゃいけないから、ある程度は知識を入れておくと便利だよ」

 私と伊織くんが同時に顔を合わせる。
 少し火照った感じの頬が西日に当てられ、オレンジ色をしていた。
 まぁ、言うまでもなく、今日の活動が終わったら本屋に行く流れになりそうだ。

 私たち二人は、何かあれば参考資料を買うようにしている。
 幸いなことに、今月はまだ一人千円のアレを使っていない。

 それから、書類の作成に入った先輩たちに挨拶をし、私たちは外にでる。
 学園を出て、まっすぐに本屋さんを目指していく。

「えっと、陽さん」

「なに?」

「実は相談があって」

 少し躊躇ためらい気味に言葉を発する。
 ギリっと歯に力を入れながら言葉を選んでいるようだった。

「奇遇ね、私も伊織くんに相談があったんだ」

「え? 陽さんから相談⁉」

 唾を飲み込んで、立ち止まり大きく瞬きをした。
 
「そ、それで? 相談って?」

「私のは後で良いから、伊織くんの相談って?」

 なんだか、場の雰囲気が変わってしまったように思える。
 そんな改まれてしまうと、こっちが緊張してきた。

「僕のは、いいよ! 本当に、忘れて」

 若干強めに言われてしまい、伊織くんの相談を遮ってしまった。 
 私もチラッと周りを見て、小さく歩くのを再開すると、横に並んで着いてきてくれる。
 
「実は……先輩たちのことなんだけど」

「へ?」

 意外だったのか、間の抜けた返事が返ってくる。
 今まで緊張していたのか、一気に砕けた雰囲気になった。

「先輩たちって、恋研の?」

「そうそう、あの二人のことなんだけど、実は――」

 私は本当は良くないとこだと分かっている。
 でも、せっかく素敵な二人なのだから、付き合ってほしい。
 そのためには、協力者が必要で、部屋で覚先輩と話したことをかいつまんで、伊織くんに伝えていく。

「うっそ、覚先輩って告先輩のことが好きだったの⁉」

 うっ……まさか、気が付いていない? まぁ、彼が鈍感なのはわかったので、いちいちツッコんでいたら、日が暮れてしまいそうなため、スルーすることにした。
 
「で、私に考えがあるの」

 そっと近づいて、背伸びをする。
 耳を近づけてと、ジェスチャーで伝えると、真っ赤な顔が近づいてきた。
 私のために、腰を屈めてくれると、背伸びの必要がなくなる。

「……――…―」

 私が学園からここまで来るまで、考えた作戦を伝えていく。
 息がかかってしまうためか、耳まで真っ赤になった伊織くん、だけど、真剣に相槌あいづちをしてくれたので、きちんと聞いてくれているとわかる。

 最後まで伝え終わると、そっと離れた。
 だけど、彼はいつまでもそのままの恰好から動けないでいる。

「どうかしたの?」

「‼ え、えっとごめん、なんでもないよ」

「なら良いけど、内容は覚えている?」

 もちろん! と、答えてくれたので、信じよう。

「でも、本当にできるかな? 守衛さんもいるし」

「大丈夫、心配ないから」

 また歩き出し、目的地へつま先が向く方角を変えると、風が正面から当たる。
 大丈夫、お節介かもしれないが、きっと上手くいきそうだ。
 私の後ろをきちんと着いてきてくれる彼を頼りに、本屋以外にも揃えなくてはいけないモノがでてきた。

「ねぇ? 明日は買い物に行かない?」

「⁉ 明日? もちろん、是非行こう!」

 もしかすると、私から誘ったことはないかもしれない。
 そう思うと、随分彼との距離がちぢまったと感じる。
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