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第三章 夏のホタルは儚い

いつから気が付いていた

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「彼女は、研究会の雰囲気を壊すかもしれない的なことを言っていたけれど、そもそも二人しかいないんだから、壊れるもなにもないのよ」

「そう、彼女が抜ければまた一人に戻るだけ、UMAのことを調べるなら、なにも研究会にこだわる必要は無いんだよ。つまり、それを理由にして悩んでいるフリをしていたんだ」

 もう心の中で晴香は決めていた。だけど、恋愛に関し経験が無さすぎることを不安に思い、一歩を踏み出せない。
 それで、昨日電話してきたの?。

 誰かに背中を押して貰いたかったかもしれない。
 怖い? 不安? そんな気持ちを少しでも取り除いて欲しいから、私に相談してきたんだ。

「そっか、ならよかったです。二人が結ばれて」

「うん、良かったね。しかし船渡もやるねぇ、まったく女性に興味が無いって思わせて、あんな可愛い後輩を射止めるなんて隅に置けないなぁ」

「本当に、彼とは卒業まで彼女いない同盟を貫けると思っていたが、もう一歩のところで抜け出されてしまった」

 母の手作りホイコーローを食べると、ジンワリとキャベツの甘さが口に広がる。
 告先輩は食後のデザートを買いに行くと言って、部屋を出ていく。
 そんな彼女の背中を見つめている覚先輩、どこまでも優しそうな瞳が若干揺らいでいた。

「先輩は、その同盟から抜け出したいとは思わないのですか?」

「ん? そりゃ、抜け出せるなら抜け出したいけれど、中々世の中はうまくいかないもんだよ」

 小さなため息をつく、私が友だちの恋愛の熱にあてられたからなのか、少し余計な事とはわかっていても、ついつい口に出してしまう。

「そうですか? つくろうと思えばすぐにできそうですけど」

「そう言ってくれるのは、二戸さんだけだよ」

 整った顔が崩れ、苦笑してしまった。
 私も卵焼きをひと口食べ飲み込んでから、話を再開する。

「告先輩とかどうですか? 凄く素敵な方だと思いますし、お二人は幼馴染だって言ってたので」

 あくまで淡々と、自然な流れで伝えたみた。
 すると、一瞬ビクっと小さく震えたかと思うと、いきなりソワソワと落ち着きなく動き始める。
 
 この間の二人の距離感に、覚先輩の行動を見ていれば誰だって気が付く。
 二人が恋したことが無いなんて嘘だ。

「な! 何を急に言うんだ、告は幼馴染で、大切な友人で……」

 慌てて飲み物を飲み、口を拭う。
 夏の暑さに負けないほど、顔が真っ赤になっていた。
 ウルウルとしだした瞳を隠すように、手で覆うと後ろを向いてしまう。

「いつから気が付いていた?」

「いつからって、もしかすると――気が付かれていないって思っていました?」

 一瞬大きく目を見開き、すぐに困惑した表情に変わる。
 いつも冷静そうな顔をしているが、親しくなるとコロコロと表情を変えてくれるので、親密度のバロメーターになっていた。

「もしかして、宮古くんも?」

 その問いに関しては、私は素直にわからないと伝える。
 彼が気が付いているのかは、本当に知らないし、気が付いていないかもしれない。

「恋しているじゃないですか」

「そうかな? わかなんない。あまりにも近すぎて、そして、たくさんの時間を一緒に過ごしてしまった。淡い恋心というものが理解できないうちに、気が付くと彼女を追っていたよ」

 これが恋なのか? そう思ったときもあったらしい。
 だけど、告先輩を大切にしたい。その想いは確かなものらしく、それは自分でも気が付いていた。

「行動に移さないんですか?」

 私の問いに、一呼吸置いてから答えようとしていると、廊下からバタバタと足音が聞こえてくる。
 告先輩のだと思い、私たちは会話をやめて、急いで本を読むふりを始まる。

 ガラガラと建付けの悪いドアが開き、明るい雰囲気が入ってきた。

「およ? 二人ともマジメだね」

 きょろっとした瞳で、私たちを見つめるとウンウンと小さく頷いて、自分の定位置に戻り、ブツブツと何かを呟き始める。
 そこに伊織くんも合流し、全員が揃った。

「すみません、遅くなりました」

「よっし! 全員揃ったことで、恋研の定例行事について、報告があります」

 待ってました! と、言わんばかりに立ち上がり、A4用紙に印字された資料を手渡し始める。

「告、定例って……もしかして、今年も行くの?」

「もちろん! だって、あれを二人占めなんて勿体ないでしょ」

「それはそうだけど、条件厳しいよ?」

 何々? いったい何が始まるというのだ? 今回は先輩の料理が絡まないのか、覚先輩は前回ほど絶望はしていない。
 手渡された紙に視線を持っていき、内容を確認してみた。
 
 タイトルにはこう書かれている。

『ホタル見学』

「ホタル?」

 伊織くんが小さな声で呟いた。

「そう! ホタル、学園の近くにホタルが見られるポイントがあるの! 是非、そこに行ってみようと思って」

 手書きの地図が載せられおり、確かに学園から近い。
 マル秘ポイントと書かれていた。
 そう言えば、私はこれまでの人生で一度も自然の中でホタルを見たことがない。

「ホタルって、あの夜になると光る昆虫のですか?」

「そう! そのホタルが今月の末ごろが最盛期になるの、いつも覚と二人で見ていたけれど、今年は後輩たちと一緒にと思って」
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