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第二章 風が運んできたものは?

手紙

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「はぇ?」

 思わず変な声がでてしまう。この声は最近になってよく聞いていた。
 名前で呼ばれた感じに、少しだけトクンっと心臓が動く、そして、姿を見て更に驚いてしまう。

「え? え?」

 今までトレンドマークだった前髪が綺麗サッパリ切られ、あの小奇麗な顔が出されている。
 緊張しているのか、顔が若干強張っていた。

「えっと、宮古くん、おはようございます」

 私が挨拶を返すと、ニッコリと笑ってくれた。
 変わりたいと言ってはいたが、確かに、これは凄い効果だと思う。
 何が凄いのかと言うと、周りの反応が明らかに違っている。
 
「……ねぇ、あれって宮古くん?」

「あんな人いたっけ?」

 など、特に女性陣からの視線に熱がこもっていた。
 単純でも前髪を切るといった行為が、どれだけ彼にとって勇気が必要なのか、それを私は知っている。

「僕、変われましたか?」

 まだ恥ずかしそうに、ウルウルと瞳を滲ませている。
 だから、私は言う。しっかりと、宮古くんの目をみて、一度立ち上がり、すっと近くに寄った。

「うん、凄く素敵だよ!」

 私の答えは、彼を笑顔にさせ軽く頷くと、自分の教室へと戻っていく。
 宮古くんの後を追うように、ギャラリーも居なくなっていた。

「ちょっと、あのイケメン、まさかあの宮古 伊織?」

 晴香が驚いた表情のまま話しかけてくる。

「そうだよ」

「そうだよって、あれじゃぁ別人じゃない」

 別人、そうかもしれない……今までの彼とは違う。
 私たちの生活空間内で、彼の前髪を切るといった行為はほんの少しの変化にしかならない。 
 だけど、宮古くんを含め、周りへの影響は大きい。

「よっし、私も頑張ろう」

 朝一番に勇気を貰えた。
 そして、今は言えなかった言葉を言おう彼もそうしてくれた。
 ぐっと、拳に力をいれ、席に戻るとちょうど担任の先生が入ってくる。

 今日は憂鬱な数学の授業から開始するけれど、いつもより霧は少なく感じた。
 それと、唯一気になるのは、彼に話しかけられたことにより、クラスの女性陣が私を気にしだしている。
 これは、ちょっと面倒なことになりそうだと思った。

 私の予想は的中し、ホームルームが終わり、数学の先生が来るまでの十分に人が集まってきた。
 あまり、目立つ存在ではなかったけれど、朝の件で注目されてしまう。

「ねぇ、二戸さん、えっと、彼って知り合い?」

「彼って宮古くんですか? 知り合いというより、一緒の研究会ですよ」

 本当のことを言ってみた。 すると、三人組の一人西賀にしがさんが、嬉しそうに私に手紙を渡してきた。

「じゃぁ、これを宮古くんに渡してくれてくれない?」

 笑顔で手渡された紙には、彼女の連絡先のアプリのIDが記載されている。 
 なるほど、恐るべし宮古くん。西賀さんは、クラスの中でも可愛い人で、明るく何かと話題の中心になる人だった。
 誰も彼女のことは嫌っていないし、性格も全然悪くないむしろ、ちょっとひねくれている私よりもしっかりしているので、尊敬していた。

「えっと、わかりました。きっちり渡しておきます」

 私の答えに満足したのか、小さく「ありがとうね」と言って、席に戻っていく。
 こういった行動力が本当は必要なのだろうが、私には無理だ。
 そもそも、恋というのがわからなくなっている。

「はぁ」

 小さく机の木目に向かってため息をついてしまう。
 自分がどうやって変われるか、そればかり考えていた時期があり、受験のとき思い切ったことをしよう! 親と先生を説得させてここを選んだ。

 だけど、私の心はまだ殻を被っている。
 小さなヒビもまだ見えないだけど、自分でも言ったではないか、焦ってもしょうがない。
 小さな一歩を確実に踏んで行く必要がある。

「ほらぁ、席につけぇ」

 気だるそうな先生が入ってくる。いくら先生と言っても、さすがに月曜日の初めの授業は体が重いのか、口数も普段より少なかった。

 一限目の授業が終わっても、西賀さん以外の女性は来ない。
 晴香は、朝に驚いただけで既に興味を失っていた。
 まぁ、彼女が興味があるのは現状UMAだけなので、それを凌ぐ人が現れないと彼女は振り向かないだろう。

 これは男性陣にとって春香とお付き合いするというのが、実は最難関なのでは? そう思わずにいられない。
 
 ただ、変わったのは普段あまり会話がない人と会話ができるようになったのは確かで、話の切っ掛けは宮古くんだった。
 私のクラスでこの影響力なのだから、きっと今彼のクラスは大変なことになっているだろう。
 
「ねぇ、晴香」

「ん? なに?」

「なんで、これなの?」

 次の授業の準備をしていると、彼女が鞄からお菓子を取り出して、目の前に置いてくれる。
 それ自体は、凄く嬉しいのだけど、少し変わったセレクトで貰う側としては、いつも困惑してしまう。
 今日は、エイリアンの姿をしたチョコで、しかもカカオ七十九パーセントと記載されている。
 
 どちらかと言うと、ビターなよりも甘いのが好きな私、貰って嬉しいのは嬉しいけれど、ぐわっと口を開けたエイリアンが睨みつけてきているので、非常に食べにくく、意外とボリュームもあった。

「これ知らない? あの有名な映画のエイリアンの親玉」

 し、知らない……知っていて当たり前のような雰囲気に、苦笑を浮かべて「ありがとう」と伝えるしかできない。
 その場では食べずに、鞄の中にいれる。
 まだ、それほど熱くないので、溶ける心配はない。

 お昼休みも無事に過ごし、放課後が近づいてくる。
 あまり、彼のことを捜すチャンスは無かったけれど、研究会に来ると会えるので、特段心配していなかった。
 
 そして、放課後になり、西賀さんに貰った紙を無くさないように持って、教室をでる。
 今日は晴香と一緒に別館まで向かっていく。
 途中、別れの挨拶を済ませ、お互いの目的地へ足を向けた。
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