上 下
10 / 37
第一章 始動! 恋愛研究会

不穏な空気

しおりを挟む
 次の日の放課後、一番最後の授業が苦手な数学だったこともあり、必要以上に脳が疲れている状態で研究会の部屋にたどり着いた。

 晴香は、今日はジャージー・デビルの特集だ! と、喜んで全力で走って向かってしまう。
 彼女の脳内は、常にUMAで溢れていると言っても、過言ではないかもしれない。
 一人で来たが、宮古くんとは会っていないので、もしかすると既に部屋にいるかも?
 そう思って、小さくノックをしてから入る。
 連日、一関先輩に恋愛の名言? を、唐突に言われ続けているので、心構えをしっかりと持ち、部屋に入った。

「やっほー! ヒナちゃん! いらっしゃい♪」

「ゔうぅ‼」

 油断していた。 まさか、部屋に入るなり一関先輩が椅子に縛り付けられ、口は布で覆われているなんて、誰も想像できないだろう。
 
「え、えっと、失礼しました‼」

 見てはいけない現場を見てしまった感があるので、全力でその場から逃げようとする。
 
「あ! ちょっと、待ってこれは違うんだから!」

 先輩の声が聞こえるが、あえて無視をしよう。
 そう思って振り返り、逃げ出そうとしたとき、ボフっと誰かの体にぶつかってしまった。

「ふぐぅ……」

 突然視界が真っ黒になり、ほんのりとシトラス系の香りが漂ってくる。
 それに、なんだろう、思った以上に筋肉質な胸筋から伝わる熱に驚いてしまう。

「あ、二戸さん! ごめんなさい」

 声の感じからいって、宮古くんであろう。
 最初は細い印象だったけれど、体育や今触れた感じからいって、意外と鍛えている。
 それに、ちょっと良い匂いがする。

「す、すみません、こっちがぶつかってしまって」

 いつまで彼の胸に顔を埋めているのか! 心地よい感じがして、思わず少しだけ離れがたいと思ってしまったが、よくよく考えたら、かなり恥ずかしいことだ。

「えい! ヒナちゃん捕まえた」

 そんな事をしているうちに、矢島先輩に背中から抱き着かれ、捕まってしまう。
 現状を理解できていない彼は、部屋と私たちを交互に見つめて、苦笑を浮かべていた。

「お? イオくんも、ようこそ! 覚は気にしなくていいから、部屋に入って」

 私も無理やり向きを変えられ、そのままソファーに座らせられる。
 視界の端には、ジタバタと暴れる一関先輩がいるも、あまり見ないように心がけた。

「実は、昨日ヒナちゃんには連絡したけど、恋研に念願の新人さんが入ってくれました! と、言うことで急遽、歓迎会と題してプチ遠足をやりたいと思います! イエーイ♪」

 
 プ、プチ遠足⁉ 突然の企画に内心で驚いてしまう。
 それで、なぜ一関先輩が縄で縛られているのか理解できない。

「それで、コレが企画書ね」

 そう言って、矢島先輩は私たちにプチ遠足なるものの企画書を配ってくれた。
 学園から一駅離れた海沿いの街にある公園に行き、お昼を食べようという内容で、特になにするわけでもなく。ただ行ってお昼を食べるだけのようだ。

「どう? 最初の親睦会にしては、名案だと思うだけど」

「そうですね。その日でしたら特に用事はありませんし、雨が降っても近くに雨を防げる施設もありますし、どちらにせよ楽しめそうですね」

 宮古くんが嬉しそうに補足してくれた。
 なるほど、天候に左右されずに開催は可能ということか、確かに、先輩たちや彼と一気に仲良くなれるチャンス。
 入りたての学園で、ずっと緊張状態が続いていたが、程よい息抜きになりそうだ。

「そ、それなら、私も参加できます。特にやることも無いし、せっかくなので」
 
「OK! じゃぁ決まりね、あ、それと覚は強制ね」

 ギロリと睨みつけて一関先輩を脅している。
 今まで抵抗していたが、諦めたかのように項垂れてしまった。
 だから、一体何があるというのだ⁉

「それで、当日なんだけど、お互いお手製のお弁当を作って持参ね」

 ニッコリと微笑みながら提案してくれる。
 料理はあまりしたことがないけれど、不得意ではないので、私は問題なかった。

「料理ですか? ちょっと自信ないですが、頑張ります!」
 
 宮古くんも、ノッテきた。しかし、微笑む彼女の後ろで虚ろな瞳に変わってしまっている人がいる。
 顔が真っ青で、魂が抜けているように見えてしまう。

 ゾクっと嫌な感じがしてきた。この太陽のような笑顔と、沈んだ表情に何かが隠されている。
 そして、研究会が解散になる直前まで一関先輩は解放されることはなく、終わると同時に、縄が解かれた。

「お、終わった……あぁ、終わってしまう」

 ポトポトと涙を流しながら、一人沈んでいる先輩、宮古くんが声をかけようとしたとき、矢島先輩が停止させた。

「ストップ! 覚のことは気にしないでいいから、ほら、今日はもうお終い! 終了ォ‼」

 ググっと背中を押され、強制的に部屋の外に追い出されてしまう。

「じゃぁ、準備があるから、研究会は週末までお休みね♪」

「え⁉ それってどういう意味……」

 ピシャンッ‼ 
 勢いよくドアが閉められてしまう。
 
「じゅ、準備って?」

 隣にいる彼に聞いてみた。

「わからない、けれど、なんだろう、胸騒ぎしかしないんだよね」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

あさはんのゆげ

深水千世
児童書・童話
【映画化】私を笑顔にするのも泣かせるのも『あさはん』と彼でした。 7月2日公開オムニバス映画『全員、片想い』の中の一遍『あさはんのゆげ』原案作品。 千葉雄大さん・清水富美加さんW主演、監督・脚本は山岸聖太さん。 彼は夏時雨の日にやって来た。 猫と画材と糠床を抱え、かつて暮らした群馬県の祖母の家に。 食べることがないとわかっていても朝食を用意する彼。 彼が救いたかったものは。この家に戻ってきた理由は。少女の心の行方は。 彼と過ごしたひと夏の日々が輝きだす。 FMヨコハマ『アナタの恋、映画化します。』受賞作品。 エブリスタにて公開していた作品です。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

ちょっとだけマーメイド~暴走する魔法の力~

ことは
児童書・童話
星野桜、小学6年生。わたしには、ちょっとだけマーメイドの血が流れている。 むかしむかし、人魚の娘が人間の男の人と結婚して、わたしはずっとずっと後に生まれた子孫の一人だ。 わたしの足は水に濡れるとうろこが生え、魚の尾に変化してしまう。 ――わたし、絶対にみんなの前でプールに入ることなんてできない。もしそんなことをしたら、きっと友達はみんな、わたしから離れていく。 だけど、おぼれた麻衣ちゃんを助けるため、わたしはあの日プールに飛び込んだ。 全14話 完結

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

ペンギン・イン・ザ・ライブラリー

深田くれと
児童書・童話
小学生のユイがペンギンとがんばるお話! 図書委員のユイは、見慣れた図書室の奥に黒い塊を見つけた。 それは別の世界を旅しているというジェンツーペンギンだった。 ペンギンが旅をする理由を知り、ユイは不思議なファンタジー世界に足を踏み入れることになる。

フツーさがしの旅

雨ノ川からもも
児童書・童話
フツーじゃない白猫と、頼れるアニキ猫の成長物語 「お前、フツーじゃないんだよ」  兄弟たちにそうからかわれ、家族のもとを飛び出した子猫は、森の中で、先輩ノラ猫「ドライト」と出会う。  ドライトに名前をもらい、一緒に生活するようになったふたり。  狩りの練習に、町へのお出かけ、そして、新しい出会い。  二匹のノラ猫を中心に描かれる、成長物語。

処理中です...