私の守護者

安東門々

文字の大きさ
上 下
54 / 54
エピローグ 誕生

誕生

しおりを挟む
「あら! 凄い‼ 私の言った通り、既にオーラからして違うわね」


「うわぁ――本当ですね。こんなに可愛いなんて、愛に似た? いや、この目のラインとか旦那さんそっくりかも……」

 
 ウトウトと微睡の中にいたのを無理やり現実に引き戻された。
 重い瞼を開けると、そこには母が私を見て、ニッコリと笑っている。

「あ! ごめんね、起こしちゃって」

 隣にいる女性は、私の学園時代からの友だちで、今では立派な女社長として日々忙しくしている。

「大丈夫だよ栞奈、起きようと思っていたから」

 いきなり軽くなった体をベッドから起こして、辺りを見渡すと静かでなんの変哲もない部屋に、色鮮やかな花が飾られていた。

「これ、私から」

 母が花瓶に入れてくれ、そっと見える位置においてくれた。
 まだ疲れが残っているが、ソワソワして中々休んでいられない。


「それよりも‼ 旦那さんは⁉」

 栞奈が呆れた顔をしながら、訪ねてくる。

「えっと、お仕事で、今日の夕方には到着するって言ってたような?」

 昨日の夕方、予定日よりも早い陣痛に慌ててしまい、病院に到着してから彼に連絡を入れてしまう。
 父は孫に会えないことを悔やみつつ、朝一番の飛行機でアメリカに向かってしまった。

 代わりに、母が急いで帰国し今に至っている。

「まったく! こんなはしっかり傍にいてあげなくちゃ!」

 怒った口調で母が言葉をこぼすも、内心はそれほど怒っていないのがわかる。
 そして、優しく私に声をかけてくれた。

「もう大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

 また視線が別の場所に移る。 そこには、誕生したばかりの赤ちゃんが静かに寝ていた。
 すぐに抱きしめたいが、体が動かない。

 これから、順に私のトレーニングも始まっていく。
 不安なことはたくさんあるけれど、彼とならなんとかやっていけるかもしれない。

 そう思っていたけれど、今になって改めて感じた。


「ほら! 見てみて、眉毛は絶対ママに似たよ」
 
 栞奈が先ほどから、楽しそうに笑っている。
 更に、廊下が一気に騒がしくなってきた。


 その喧騒が病室の前でピタリと止まると、小さくノックされ人が入ってくる。

「おぉ! 愛くん! ここが噂のホスピタルかな?」

「お邪魔しますぅ」


「皆、久しいな! つつがなく過ごしていたかな?」

「ちょっと、うるさいから声のトーン下げてよね」

 

 田村兄妹が部屋に入ってくると、賑やかさが増した。
 この二人も相変わらずで、お互い会社を引き継ぎ、事業を分けて取り組んでいる。

 
 部屋に入ってくるなり、白馬さんは、ジロジロと赤ちゃんを見つめ、鮎子はチラッと確認し、最初に私の方に来てくれた。


「これ、食べて」

「ありがとう」

 
 持ってきてくれたのは、フルーツの盛り合わせ、さっそく母が果物ナイフを取り出して切りはじめた。

 私にお土産を置いてから、鮎子も栞奈の隣に移動し、寝ている赤ちゃんを見始める。

 お兄さんに至っては、変な踊りを始めて栞奈に怒られていた。
 このわちゃわちゃした空間というのは、久しい感じで、なんだかとても落ち着く。

 この賑やかな空間でも、赤ちゃんはスヤスヤと眠っている。
 ちゃんと聞こえているのかな? そんな心配がよぎるけれど、今は祝福されていることを喜ばないと‼


 こうして、皆が集まってくれる。
 学園生活が始まったころなら、絶対思わなかったけれど、今は違う。

 滅多に会えなくなっても、年に一度は時間を作って会うようにしていた。
 そんな関係が続き、こうして祝われている。


「皆、ありがとうね」

「何言っているのよ! もう、まっすぐ過ぎる! 羨ましいよ本当に」


 栞奈がベッドに腰かけて私と彼が写っている写真を見ていった。

「まるでドラマのような話だけど、結ばれるべくして結ばれた! って感じが、なんとも言えなくて」

「そうそう、見習いたいけどねぇ」

 わいわい、がやがや。
 楽しそうに話し始める。 白馬さんも、結婚が間近と聞いていたが、お相手にはまだ会ったことがない。
 今度会わせると言われてから、数年経過した。

 母が林檎を切って、お皿に盛りつけてくれ、それを皆で食べる。

「美味しい」

「うん! さすが田村のお土産、違うね」


 楽しい、楽しい世界、事の発端は私が招いてしまい。 大変な時期もあったけれど、最終的にはこうしていられることに感謝しなければならない。
 
 そして、私をずっと護ってくれていた人……。

「あ、旦那さんから連絡入ったわよ!」

 母が彼からの連絡を受け取ったらしく、私にメッセージアプリの画面を見せてくれた。

「何々? へぇ、もう少しで到着するんだ! よっし‼ 皆でビックリさせよう!」

 栞奈が私の横でメッセージの内容を確認すると、全員に告げる。


「ひょ! ま、待てて、こ、心の準備が――」

 未だに彼に会うと緊張してしまう白馬さん、それもずっと変わっていない。
 鮎子はそんな彼を無理やり落ち着けさせ、栞奈のアイディアに乗ろうとしていた。


「よっし、まずは……」

 母もそんな光景を微笑ましく見つめており、私に小さな声で囁いてくる。

「よかったわね」

「うん、本当によかった」

 
 もう少しで、愛しい人が来てくれると思うだけでウキウキしてくる。
 首から下げられたペンダントと薬指にはめている指輪の花を見つめた。

 どちらも同じ花、カランコエがキラリと光に反射し、私たちを照らしてくれた。



 『私の守護者』 完
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

蹉跌/通りすぎた女たち

紫 李鳥
現代文学
青春時代を振り返ると、そこには汚泥と虚飾にまみれた己れの醜態しかなかった。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木
ライト文芸
番外編は時系列順ではありません。 更新日 2/12 『受け継ぐ者』 更新日 2/4 『秘密を持って生まれた子 3』(全3話) 02/01『秘密を持って生まれた子 2』 01/23『秘密を持って生まれた子 1』 01/18『美之の黒歴史 5』(全5話) 12/30『とわずがたり~思い出を辿れば~2,3』 12/25『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』 本編は完結。番外編を不定期で更新。 11/11~11/19『夫の疑問、妻の確信1~3』  10/12 『いつもあなたの幸せを。』 9/14  『伝統行事』 8/24  『ひとりがたり~人生を振り返る~』 お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで 『日常のひとこま』は公開終了しました。 7/31 『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。 6/18 『ある時代の出来事』 -本編大まかなあらすじ- *青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。 林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。 そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。 みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。 令和5年11/11更新内容(最終回) *199. (2) *200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6) *エピローグ ロンド~廻る命~ 本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。  ※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。 現在の関連作品 『邪眼の娘』更新 令和7年1/25 『月光に咲く花』(ショートショート) 以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。 『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結) 『繚乱ロンド』の元になった2作品 『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』

君のために僕は歌う

なめめ
青春
六歳の頃から芸能界で生きてきた麻倉律仁。 子役のころは持てはやされていた彼も成長ともに仕事が激減する。アイドル育成に力を入れた事務所に言われるままにダンスや歌のレッスンをするものの将来に不安を抱いていた律仁は全てに反抗的だった。 そんな夏のある日、公園の路上でギターを手に歌ってる雪城鈴菜と出会う。律仁の二つ上でシンガーソングライター志望。大好きな歌で裕福ではない家族を支えるために上京してきたという。そんな彼女と過ごすうちに歌うことへの楽しさ、魅力を知ると同時に律仁は彼女に惹かれていった……… 恋愛、友情など芸能界にもまれながらも成長していく一人のアイドルの物語です。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、 これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...