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エピローグ 誕生
誕生
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「あら! 凄い‼ 私の言った通り、既にオーラからして違うわね」
「うわぁ――本当ですね。こんなに可愛いなんて、愛に似た? いや、この目のラインとか旦那さんそっくりかも……」
ウトウトと微睡の中にいたのを無理やり現実に引き戻された。
重い瞼を開けると、そこには母が私を見て、ニッコリと笑っている。
「あ! ごめんね、起こしちゃって」
隣にいる女性は、私の学園時代からの友だちで、今では立派な女社長として日々忙しくしている。
「大丈夫だよ栞奈、起きようと思っていたから」
いきなり軽くなった体をベッドから起こして、辺りを見渡すと静かでなんの変哲もない部屋に、色鮮やかな花が飾られていた。
「これ、私から」
母が花瓶に入れてくれ、そっと見える位置においてくれた。
まだ疲れが残っているが、ソワソワして中々休んでいられない。
「それよりも‼ 旦那さんは⁉」
栞奈が呆れた顔をしながら、訪ねてくる。
「えっと、お仕事で、今日の夕方には到着するって言ってたような?」
昨日の夕方、予定日よりも早い陣痛に慌ててしまい、病院に到着してから彼に連絡を入れてしまう。
父は孫に会えないことを悔やみつつ、朝一番の飛行機でアメリカに向かってしまった。
代わりに、母が急いで帰国し今に至っている。
「まったく! こんなはしっかり傍にいてあげなくちゃ!」
怒った口調で母が言葉をこぼすも、内心はそれほど怒っていないのがわかる。
そして、優しく私に声をかけてくれた。
「もう大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
また視線が別の場所に移る。 そこには、誕生したばかりの赤ちゃんが静かに寝ていた。
すぐに抱きしめたいが、体が動かない。
これから、順に私のトレーニングも始まっていく。
不安なことはたくさんあるけれど、彼とならなんとかやっていけるかもしれない。
そう思っていたけれど、今になって改めて感じた。
「ほら! 見てみて、眉毛は絶対ママに似たよ」
栞奈が先ほどから、楽しそうに笑っている。
更に、廊下が一気に騒がしくなってきた。
その喧騒が病室の前でピタリと止まると、小さくノックされ人が入ってくる。
「おぉ! 愛くん! ここが噂のホスピタルかな?」
「お邪魔しますぅ」
「皆、久しいな! つつがなく過ごしていたかな?」
「ちょっと、うるさいから声のトーン下げてよね」
田村兄妹が部屋に入ってくると、賑やかさが増した。
この二人も相変わらずで、お互い会社を引き継ぎ、事業を分けて取り組んでいる。
部屋に入ってくるなり、白馬さんは、ジロジロと赤ちゃんを見つめ、鮎子はチラッと確認し、最初に私の方に来てくれた。
「これ、食べて」
「ありがとう」
持ってきてくれたのは、フルーツの盛り合わせ、さっそく母が果物ナイフを取り出して切りはじめた。
私にお土産を置いてから、鮎子も栞奈の隣に移動し、寝ている赤ちゃんを見始める。
お兄さんに至っては、変な踊りを始めて栞奈に怒られていた。
このわちゃわちゃした空間というのは、久しい感じで、なんだかとても落ち着く。
この賑やかな空間でも、赤ちゃんはスヤスヤと眠っている。
ちゃんと聞こえているのかな? そんな心配がよぎるけれど、今は祝福されていることを喜ばないと‼
こうして、皆が集まってくれる。
学園生活が始まったころなら、絶対思わなかったけれど、今は違う。
滅多に会えなくなっても、年に一度は時間を作って会うようにしていた。
そんな関係が続き、こうして祝われている。
「皆、ありがとうね」
「何言っているのよ! もう、まっすぐ過ぎる! 羨ましいよ本当に」
栞奈がベッドに腰かけて私と彼が写っている写真を見ていった。
「まるでドラマのような話だけど、結ばれるべくして結ばれた! って感じが、なんとも言えなくて」
「そうそう、見習いたいけどねぇ」
わいわい、がやがや。
楽しそうに話し始める。 白馬さんも、結婚が間近と聞いていたが、お相手にはまだ会ったことがない。
今度会わせると言われてから、数年経過した。
母が林檎を切って、お皿に盛りつけてくれ、それを皆で食べる。
「美味しい」
「うん! さすが田村のお土産、違うね」
楽しい、楽しい世界、事の発端は私が招いてしまい。 大変な時期もあったけれど、最終的にはこうしていられることに感謝しなければならない。
そして、私をずっと護ってくれていた人……。
「あ、旦那さんから連絡入ったわよ!」
母が彼からの連絡を受け取ったらしく、私にメッセージアプリの画面を見せてくれた。
「何々? へぇ、もう少しで到着するんだ! よっし‼ 皆でビックリさせよう!」
栞奈が私の横でメッセージの内容を確認すると、全員に告げる。
「ひょ! ま、待てて、こ、心の準備が――」
未だに彼に会うと緊張してしまう白馬さん、それもずっと変わっていない。
鮎子はそんな彼を無理やり落ち着けさせ、栞奈のアイディアに乗ろうとしていた。
「よっし、まずは……」
母もそんな光景を微笑ましく見つめており、私に小さな声で囁いてくる。
「よかったわね」
「うん、本当によかった」
もう少しで、愛しい人が来てくれると思うだけでウキウキしてくる。
首から下げられたペンダントと薬指にはめている指輪の花を見つめた。
どちらも同じ花、カランコエがキラリと光に反射し、私たちを照らしてくれた。
『私の守護者』 完
「うわぁ――本当ですね。こんなに可愛いなんて、愛に似た? いや、この目のラインとか旦那さんそっくりかも……」
ウトウトと微睡の中にいたのを無理やり現実に引き戻された。
重い瞼を開けると、そこには母が私を見て、ニッコリと笑っている。
「あ! ごめんね、起こしちゃって」
隣にいる女性は、私の学園時代からの友だちで、今では立派な女社長として日々忙しくしている。
「大丈夫だよ栞奈、起きようと思っていたから」
いきなり軽くなった体をベッドから起こして、辺りを見渡すと静かでなんの変哲もない部屋に、色鮮やかな花が飾られていた。
「これ、私から」
母が花瓶に入れてくれ、そっと見える位置においてくれた。
まだ疲れが残っているが、ソワソワして中々休んでいられない。
「それよりも‼ 旦那さんは⁉」
栞奈が呆れた顔をしながら、訪ねてくる。
「えっと、お仕事で、今日の夕方には到着するって言ってたような?」
昨日の夕方、予定日よりも早い陣痛に慌ててしまい、病院に到着してから彼に連絡を入れてしまう。
父は孫に会えないことを悔やみつつ、朝一番の飛行機でアメリカに向かってしまった。
代わりに、母が急いで帰国し今に至っている。
「まったく! こんなはしっかり傍にいてあげなくちゃ!」
怒った口調で母が言葉をこぼすも、内心はそれほど怒っていないのがわかる。
そして、優しく私に声をかけてくれた。
「もう大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
また視線が別の場所に移る。 そこには、誕生したばかりの赤ちゃんが静かに寝ていた。
すぐに抱きしめたいが、体が動かない。
これから、順に私のトレーニングも始まっていく。
不安なことはたくさんあるけれど、彼とならなんとかやっていけるかもしれない。
そう思っていたけれど、今になって改めて感じた。
「ほら! 見てみて、眉毛は絶対ママに似たよ」
栞奈が先ほどから、楽しそうに笑っている。
更に、廊下が一気に騒がしくなってきた。
その喧騒が病室の前でピタリと止まると、小さくノックされ人が入ってくる。
「おぉ! 愛くん! ここが噂のホスピタルかな?」
「お邪魔しますぅ」
「皆、久しいな! つつがなく過ごしていたかな?」
「ちょっと、うるさいから声のトーン下げてよね」
田村兄妹が部屋に入ってくると、賑やかさが増した。
この二人も相変わらずで、お互い会社を引き継ぎ、事業を分けて取り組んでいる。
部屋に入ってくるなり、白馬さんは、ジロジロと赤ちゃんを見つめ、鮎子はチラッと確認し、最初に私の方に来てくれた。
「これ、食べて」
「ありがとう」
持ってきてくれたのは、フルーツの盛り合わせ、さっそく母が果物ナイフを取り出して切りはじめた。
私にお土産を置いてから、鮎子も栞奈の隣に移動し、寝ている赤ちゃんを見始める。
お兄さんに至っては、変な踊りを始めて栞奈に怒られていた。
このわちゃわちゃした空間というのは、久しい感じで、なんだかとても落ち着く。
この賑やかな空間でも、赤ちゃんはスヤスヤと眠っている。
ちゃんと聞こえているのかな? そんな心配がよぎるけれど、今は祝福されていることを喜ばないと‼
こうして、皆が集まってくれる。
学園生活が始まったころなら、絶対思わなかったけれど、今は違う。
滅多に会えなくなっても、年に一度は時間を作って会うようにしていた。
そんな関係が続き、こうして祝われている。
「皆、ありがとうね」
「何言っているのよ! もう、まっすぐ過ぎる! 羨ましいよ本当に」
栞奈がベッドに腰かけて私と彼が写っている写真を見ていった。
「まるでドラマのような話だけど、結ばれるべくして結ばれた! って感じが、なんとも言えなくて」
「そうそう、見習いたいけどねぇ」
わいわい、がやがや。
楽しそうに話し始める。 白馬さんも、結婚が間近と聞いていたが、お相手にはまだ会ったことがない。
今度会わせると言われてから、数年経過した。
母が林檎を切って、お皿に盛りつけてくれ、それを皆で食べる。
「美味しい」
「うん! さすが田村のお土産、違うね」
楽しい、楽しい世界、事の発端は私が招いてしまい。 大変な時期もあったけれど、最終的にはこうしていられることに感謝しなければならない。
そして、私をずっと護ってくれていた人……。
「あ、旦那さんから連絡入ったわよ!」
母が彼からの連絡を受け取ったらしく、私にメッセージアプリの画面を見せてくれた。
「何々? へぇ、もう少しで到着するんだ! よっし‼ 皆でビックリさせよう!」
栞奈が私の横でメッセージの内容を確認すると、全員に告げる。
「ひょ! ま、待てて、こ、心の準備が――」
未だに彼に会うと緊張してしまう白馬さん、それもずっと変わっていない。
鮎子はそんな彼を無理やり落ち着けさせ、栞奈のアイディアに乗ろうとしていた。
「よっし、まずは……」
母もそんな光景を微笑ましく見つめており、私に小さな声で囁いてくる。
「よかったわね」
「うん、本当によかった」
もう少しで、愛しい人が来てくれると思うだけでウキウキしてくる。
首から下げられたペンダントと薬指にはめている指輪の花を見つめた。
どちらも同じ花、カランコエがキラリと光に反射し、私たちを照らしてくれた。
『私の守護者』 完
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