私の守護者

安東門々

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最終章 私の守護者

私の守護者 ⑤

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 パカっと開いて、中の花を見つめる。
 心が落ち着いていくような気がした。

(カランコエ……)

 小声でつぶやく、この花の意味する言葉を知りたい。
 今まで何も感じずに私は身に着けていたが、花には花言葉というものがある。
 きっとこの花にも何か意味があると思えた。
 それはきっと、大切な何かだと感じられる。

(気配がしますね……)

 ビックっと体が硬直する。 
 コツコツと品のない足音が近づいてくる。
 こんな香りのどこがいいのかわからないが、葉巻独特の咽るような匂いもした。
 間違いない、蘆名 重斗だ。

(やつですか?)

(きっと、間違いない)

「あぁ、んだよ。 あいつら、どこ行きやがったんだ」

 足音は数人分、イライラした声が聞こえてくる。
 隠れようとするが、なぜか彼の体が強張るのがわかる。

(何する気?)

(いや、一か八かですかね)

(ちょっと! やめ――ッ‼)

 私の静止を聞かずに、人影が角を過ぎようとしたとき、彼は突然飛び出してく。

「ああん! なんだてめぇ‼」

 気が付いた男の一人が反射的に拳をくりだした。 
 それを紙一重で避けると、左手で腕の関節を掴み、そのままグイっと手前に引いた。
 
「うお⁉」

 男は勢いを失うことなく、ただ彼が上げた膝に腹部がめりこんでいく。

「ごぱぁ!」

 口から何かの液が飛び散り、そのまま仰向けになって悶絶していた。
 
「き、きさまぁ!」

 驚いた重斗たち、彼の横にいた男性が飛びかかってくる。
 軽くステップを踏みながら掴みかかる相手をいなし、ちょんとつま先で足を絡めとる。

「うぉ! はぁああ!」

 もたつく足取り、その背中めがけて強烈な蹴りを一撃お見舞いした。
 
「ぺぎょおおお!」

 何かを潰されたような奇声を発しながら壁にぶつかり、そのまま意識を失っている。

「お、おい、情報で知っていたが、お前五色愛の用心棒だな!」

 ポケットからナックルダスターを取り出して、指にはめて威嚇をしてくる。
 そんな彼に対し、表情を崩さない蒲生さん。

「な、なんだよ。 今、皆来るから! そしたらお前ら終わりだ!」

「そうですね。 さすがにあの人数は相手できませんが、集まる前にあなた程度なら懲らしめることは可能かと」

「ヒッ! ふ、ふざけるな! 俺に逆らうのか⁉ この俺に」

「えぇ、逆らうもなにも、元々喧嘩を売ってきたのはあなた側だと聞いております。こちらが後手ばかりにまわっておりましたが、今回のように、ワザワザ親玉が出向いてくださり、とても感謝しております」

 不敵な笑みを浮かべる。
 まさか……‼ 彼はワザとここへおびき寄せた?

 先ほどの不可解なパンク、遠くへ逃げようともせず、待ち構えていた。
 
「ま、待てよ、なぁ俺の元へ来いよ。いくらだ? 金! 金ならいくらでもある!」

「はぁ? スカウトですか? そうですね。そう言った場合は、社を通していただけるとスムーズにやり取りができるのですが、至極残念なことに、私はお嬢様と契約中の身、いかなる勧誘にも首を縦に振るつもりなどありません!」

 地面を蹴る。 一瞬で重斗の前に移動すると、慌てた彼はナックルダスターを装備した手で、蒲生さんの顔めがけて殴りかかる。
 それを右手で受け止めた。

「グッ!」

「どうしました? いつもの威勢の良い感じがしませんね、それと仲間を待っていても無駄です。聞こえますか?」

 遠くから、緊急車両の音が聞こえてくる。
 パトカーに消防車? 彼の車が停まっているためだろうか?

「この音を聞いて、先ほどまでブンブンと蚊トンボのように飛び回っていたお仲間は消えたようですね」

「はぁ⁉ 離せ、離せぇ」

「一度、ご自身で痛みというものを経験してみるとよろしいかと」

 真っ青になる重斗の顔。
 それをにこやかに見つめたまま、彼は腕をはらいのけると、懐に潜り込み、右肩を彼の腹部に当てながら屈み、腰を持ち上げる。

「うぉぉお!」

 バタバタと足をばたつかせながら大の大人が持ち上げられた。
 そして、右手を腰にもっていき、左手を首にもっていくと、空中で自由がきかなくなった重斗の体を押しつける。

 ドンっと、床にたたきつけられた形になり、呼吸がしずらいのかヒューヒューとした息をしていた。

「苦しいですか? その苦しみを糧に生きてきたのですから、ご自身でも味わえれば楽しいかと思いましたが」

 ヤレヤレと首を横に振りながら後ろをむく、それを見ていた重斗は無理やり体を起こした。

「く、くそがぁああああ!」

「あぶなぁあああああい!」

 私の声が彼に届く前に、くるりと向きを変えながら拳を受け流していた。
 そして、右足で重斗の足をはらうと、なんの抵抗もなく転ぶ。

 そこに彼は腕を掴むと、腰から縄手錠を取り出して、両腕を後ろで結ぶ。
 
「お! おい! きさま、解け! 解くんだぁ!」

「そのまま、警察が来るまで地面に這いつくばっていなさい。 もし、それでもまたお嬢様を狙うのなら、こんなものでは済ません」

「グ……」

「いかに財力を使えど、どれほどの兵隊をもってきても、私がいるうちは、指一本触れさせません」

 言葉にならない声を漏らしだした重斗。
 私が近寄っていくと、道路にパトカーが停まり警察官が降りて来た。

「あぁ、えっと。 なんだこりゃ?」

 にっこり微笑みながら、蒲生さんは「襲われました」と伝え、事情を詳しく説明していく。
 
「お、終わったの?」

 全ての終わりを告げるかのように、パトカーの警告灯の点滅が私の視界をうめていく。
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