私の守護者

安東門々

文字の大きさ
上 下
48 / 54
最終章 私の守護者

私の守護者 ③

しおりを挟む
 彼が向かった先は、高速道路からも見えるほど海が近づいてい来る。

「海?」

「そうです。海です」

「なんで? 泳ぐには早いし、水着もないけど」

「なにも、海は泳ぐだけじゃないですよ」

 高速道路から降りて、少し下道を走っていると、ある場所で車は停まった。
 ホームセンターには見えない、昔ながらのお店に見える。

「行きましょう、ここけっこうマニアックな商品置いてあるんですよ」

 車から降りると、肌に風が触れる。 
 すぅっと息を吸い込むと、潮の香りがしてきた。
 とても心地がよく、重さを感じさせる空気に触れたのはいつぶりだろうか。

「どうもぉー!」

 蒲生さんが大声を発しながらお店に入っていくと、奥からお婆ちゃんが現れる。

「おや? 盛矢くんかい? 久しいねぇ、隣のベッピンさんは、もしかして彼女さんかい?」

 笑顔で会釈され、慌てて返すがなにか重要なことを聞き流しているように思える。

「違いますよ! 仕事で担当させていただいてる人です。今日は少し遠出をと思い、カヨ婆の所へと思いまして」

「ほうほう、まぁ、そういうことにしてやろうかなねぇ」

 ニコニコと微笑みながら、含みのある言い方をしていた。
 困ったような表情になる彼は、私をお店の中に招き入れると案内を始めてくれる。

 確かに、地元の文房具屋やホームセンターでは見ない、可愛らしい物から、用途のわからない物まで置いてあり、少し値段ははるが総じてとても素敵であると思えた。

「これなんてどうですかね?」

「? これは、いったいどういう用途に使うの?」

 ペンギンの形をした小さな人形のような文房具。
 一見ただの置物ように思えるが、何かあるのだろうか?

「これですか? これはですね」

 羽を両側から押すと、口が開き中から消しゴムが出てくる。
 うん、正直言いたいがお婆ちゃんの手前、声には出さないけれども、まったく必要性を感じえない。

 それでも、とびきりの笑顔で薦めてくる彼の顔を見ると、私は自然とそれを受け取っていた。

「え、えっと、す、凄く可愛いのね」

「やはりそうでしたか、お嬢様ならきっとお好きだとおもいまして」

 私って彼にそう思われているの? 確かにペンギンは好きであるが、なにもこういった特殊な仕様でなくともよいと思える。
 しかも、持ってみると思いのほか重く、使い勝手が非常に悪い。

 筆入れの中も圧迫してしまうが、なぜだろう。
 断れない。 彼の純粋な好意がとても嬉しい。

 私が黙ってペンギンの消しゴムを見つめていると、それを彼は再度自らの手にもち、お婆ちゃんに持っていく。

「これください」

「まいど」

 チャリーンとレジが鳴り、おつりを手渡すお婆ちゃん、それを持って蒲生さんは私に向かってくると、例のモノを差し出してきた。

「これ、どうぞ、私からお嬢様へのプレゼントでございます」

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俯く俺たちに告ぐ

青春
【第13回ドリーム小説大賞優秀賞受賞しました。有難う御座います!】 仕事に悩む翔には、唯一頼りにしている八代先輩がいた。 ある朝聞いたのは八代先輩の訃報。しかし、葬式の帰り、自分の部屋には八代先輩(幽霊)が! 幽霊になっても頼もしい先輩とともに、仕事を次々に突っ走り前を向くまでの青春社会人ストーリー。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始
青春
中学生の陽向の前に、ある夜突然現れたのは、一匹のキジトラ猫。 「やっと開けたか」 窓を叩き、堂々と部屋に入り込んできたその猫は、「トラ老師」と名乗り、陽向にだけ言葉を話す不思議な存在だった。 「本を読め。人生がちょっとはマシになるかもしれんぞ」 そんな気まぐれな言葉に振り回されながらも、陽向は次第に読書の魅力に気づき始める。 ただの文字の羅列だったはずの本が、いつしか新しい世界の扉を開いていく。 けれど、物語のような劇的な変化は、現実には訪れないはずで──。 「現実の中にも、物語はある」 読書を通して広がる世界。 そして、陽向とトラ老師の奇妙な関係の行方とは。 これは、一人の少年と一匹の猫が織りなす、終わりのない物語の始まり。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

俺は決してシスコンではないはず!〜周りはシスコンと言うが、ただたんに妹が可愛すぎるだけなのだが?〜

津ヶ谷
青春
 東條春輝は私立高校に通う2年生だった。 学校では、書道部の部長を務め、書の世界でも、少しずつ認められてきていた。  プロのカメラマンを父に持ち、1人で生活することの多かった春輝。 そんな時、父の再婚が決まった。 春輝は特に反対せず、父の再婚を受け入れた。  新しい母は警察官僚で家にほとんど帰らないが、母の連子である新しい妹は人見知りな所があるが、超絶美少女だった。  ほとんど家に帰らない両親なので春輝は新しい妹、紗良とのほぼ2人暮らしが幕を開ける。  これは、兄妹の甘々な日常を描いたラブコメディ。

処理中です...