私の守護者

安東門々

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最終章 私の守護者

私の守護者 ③

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 彼が向かった先は、高速道路からも見えるほど海が近づいてい来る。

「海?」

「そうです。海です」

「なんで? 泳ぐには早いし、水着もないけど」

「なにも、海は泳ぐだけじゃないですよ」

 高速道路から降りて、少し下道を走っていると、ある場所で車は停まった。
 ホームセンターには見えない、昔ながらのお店に見える。

「行きましょう、ここけっこうマニアックな商品置いてあるんですよ」

 車から降りると、肌に風が触れる。 
 すぅっと息を吸い込むと、潮の香りがしてきた。
 とても心地がよく、重さを感じさせる空気に触れたのはいつぶりだろうか。

「どうもぉー!」

 蒲生さんが大声を発しながらお店に入っていくと、奥からお婆ちゃんが現れる。

「おや? 盛矢くんかい? 久しいねぇ、隣のベッピンさんは、もしかして彼女さんかい?」

 笑顔で会釈され、慌てて返すがなにか重要なことを聞き流しているように思える。

「違いますよ! 仕事で担当させていただいてる人です。今日は少し遠出をと思い、カヨ婆の所へと思いまして」

「ほうほう、まぁ、そういうことにしてやろうかなねぇ」

 ニコニコと微笑みながら、含みのある言い方をしていた。
 困ったような表情になる彼は、私をお店の中に招き入れると案内を始めてくれる。

 確かに、地元の文房具屋やホームセンターでは見ない、可愛らしい物から、用途のわからない物まで置いてあり、少し値段ははるが総じてとても素敵であると思えた。

「これなんてどうですかね?」

「? これは、いったいどういう用途に使うの?」

 ペンギンの形をした小さな人形のような文房具。
 一見ただの置物ように思えるが、何かあるのだろうか?

「これですか? これはですね」

 羽を両側から押すと、口が開き中から消しゴムが出てくる。
 うん、正直言いたいがお婆ちゃんの手前、声には出さないけれども、まったく必要性を感じえない。

 それでも、とびきりの笑顔で薦めてくる彼の顔を見ると、私は自然とそれを受け取っていた。

「え、えっと、す、凄く可愛いのね」

「やはりそうでしたか、お嬢様ならきっとお好きだとおもいまして」

 私って彼にそう思われているの? 確かにペンギンは好きであるが、なにもこういった特殊な仕様でなくともよいと思える。
 しかも、持ってみると思いのほか重く、使い勝手が非常に悪い。

 筆入れの中も圧迫してしまうが、なぜだろう。
 断れない。 彼の純粋な好意がとても嬉しい。

 私が黙ってペンギンの消しゴムを見つめていると、それを彼は再度自らの手にもち、お婆ちゃんに持っていく。

「これください」

「まいど」

 チャリーンとレジが鳴り、おつりを手渡すお婆ちゃん、それを持って蒲生さんは私に向かってくると、例のモノを差し出してきた。

「これ、どうぞ、私からお嬢様へのプレゼントでございます」

 
 
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