私の守護者

安東門々

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最終章 私の守護者

私の守護者 ②

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「ん~! 美味しい! 凄く美味しい!」

「ほっくほくも美味しいけど、このネットリしたのも美味しい」

 栞奈と鮎子が喜びの声を上げる。 私は若干の猫舌なのでゆっくりめに食べ始めた。
 ほろっと取れてくる皮の奥に見える、黄金色のサツマイモをひと口たべると、おもわず顔がゆるむ。
 サツマイモの繊維が溶けていくような感覚をうけ、それと同時に甘みが広がる。
 
「ほふぅ。 おいしい」

「ね! 本当美味しいよね。 いや、本当はもっと寒い時期に食べるといんだろうけど、春に食べる焼き芋もこれまた、美味しいもんだね」

 栞奈が肩を動かしながら、続きを食べる。
 鮎子は口の中が甘くなったということで、お茶を購入するためにスーパーの中へと入っていく。
 
「ねぇ、愛」

「なに栞奈」

「今日は蒲生さんいないの? 珍しいよね。こうやって外出しているのに、いないなんて」

「たぶん私たちのことに気を使ってくれていると思うの、きっとどこかで待機しているハズだから」

「うっそ、それはそれで怖いなぁ」
 
 私の返事に苦笑する栞奈。 最初は私もそんな気持ちになることもあったが、今では彼が護ってくれているという安心感がとてもあり、居心地が逆によいぐらいだ。
 
「お待たせぇ、皆のぶんも買ってきたよ。 冷たいけどそこは許して」

 栞奈と私が会話をしていると、鮎子が袋に入った飲み物を私たちにくれた。

「いいの? お金、ちゃんと渡すけど」

「気にしないで、そのかわり生徒会の仕事バンバンこなしてもらうから」

 怪しい笑みを浮かべる鮎子は、私にペットボトルに入った無糖のストレートティーをくれた。
 お芋で甘くなった口が、さっぱりとしすぐに続きが食べられた。

「あと、一年しかない」

「そうね。 あと一年かぁ」

「なんだか、寂しいこと言わないでよ」

「そうだな、愛の言う通り! この一年を最高の一年にしたい! 皆んで」

 栞奈の気持ちを聞いて、私と鮎子がうまずく、そうこの学園最後の一年を最高にしたい。
 そのために、頑張れる私がいた。 

 最後のひと口を食べ終えるとちょうど、蒲生さんから着信が入る。
 それを確認し、二人も自分の家に連絡を入れた。 
 すぐに迎えの車がきて、別れを告げ乗り込んでいく。

「どうでしたか?」

「どうって言われても、主語がないけれど、そうね。とても楽しかった」

「そうですか、それは何よりです」

 自分の口の周りにサツマイモが付いていないか、手鏡で確認しながら念のためウェットティッシュで拭った。

「ねぇ、今日の晩御飯は少なくしようかしら」

「そうですね。 お任せいたしますが、今日の献立はキムチ鍋とお伺いしておりますが」

「むぅ、それってしめにご飯入れるの?」

「チーズもたっぷりの予定です」

「そっか……。 凄く美味しそうね」

「美味しいでしょうね」

 きりのない、無意味な会話が続くが、バックミラーごしに見つめる運転手の顔はとても微笑んでいた。
 
 次の休日、私たちは急遽外に出かけることにした。
 私|っていうのは、私と蒲生さんのことで、春に行われる
地区大会に向けての壮行式に使う小道具の準備だった。

 式に小道具というのは、どうかと思うが、前会長は校歌の最中に体育館を真っ暗にし、天井からミラーボールを出して騒ぎ出した記憶がある。
 あのときは、急遽全校集会になり、授業がまる一日潰れた日でもあった。

 あそこまではいかないものの、私たちなりに選手を激励できるなにかがないかと、模索していた。
 
「ところで、本日はどこまで?」

 今日は私の運転手が休みの日で、車は彼が出してくれた。

「そうね。だいたいホームセンターと文具店かな?」

「了解しました」

「お願いします」

 クラッチとブレーキを踏みエンジンのスイッチを入れると、逞しい音を出す車、ドッドッドと、特殊な揺れが心地よい。
 彼の体に合わせてつくられたシートは、私にしては大きいが体が固定されているように思え、安定感があった。

「出発します!」

 ギアを入れて走り出した。 軽い走りだしにいつも乗っていて感じる重厚さがまったくない。
 これはこれで、運転してみると楽しいのかもしれない。

 風を切りながら進む車、ときおりオウトツのある道では、特殊な走り方をするようで、なぜと聞いた。

「えっと、そうですね。 段差があると、下を擦ってしまいますので」
 
「へぇ、そうなの? なんで擦るの?」

「えっと、詳しく聞かないでいただけると幸です」

「そ、わかった。聞かない」

「ありがとうございます」

 ブオーンっと、今まで違った音が聞こえたかと思うと、いつの間にか高速道路に乗っている。

「え? どこにいくの?」

「せっかくなので、ちょっと遠出しましょう」

 インターチェンジを海外のほうへ曲がり、道は二車線になると、ますます快調に走り出す車、その中では陽気なアステカ音楽がながれ、私の心も自然と弾んでいく。
 ふと、隣座る人の横顔を見ると真剣に運転をしていた。
 当たり前なのだが、視線だけは常に動き回り周囲の情報を素早くキャッチしている。

 静と動が重なっているような感覚を受けた。 
 そして、なぜかこの横顔をずっと見ていたいと思える。
 理由を述べろと言われても、全然言葉にできないが、こう胸のあたりがぽわっと温かくなる気がした。
 
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