私の守護者

安東門々

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最終章 私の守護者

私の守護者

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 春が終わり、会長がいなくなった生徒会から解放されるかと思いきや、そうでもなかった。

「あ、おはよう愛、座って」

「おはようございます。 お茶飲みますか?」

 新学期が始まっても、なぜか私はここに通っている。 むしろ、新しい期に入ってやることが山のようにあり、連日授業が終わると同時に籠っている。

「ふぃー。 しっかし、鮎子のお兄さん凄いね。 これ一人でやっていたなんて」

「えぇ、やっている風に見せかけて、ほとんど私やっていましたがね」

 生徒会長の椅子に腰かけているのは、新年度になってもクラスが一緒だった栞奈だ。
 鮎子はそのままスライドで役職を引き継ぎ、私も栞奈の頼みとあって生徒会を引き継いでいる。
 驚く点は、なぜ彼女が生徒会長になっているのかだ。

 あれだけ、のんびりしていた白馬前会長は、卒業式に完璧なスピーチを披露し、やはり普段の行動だけでは人というのはわからないと思えた。
 そんな彼は、なんと選挙で選ぶ生徒会長選を廃止し、後継を指名し、その不信任案の投票だけにしていたのだ。

 これは、かなり際どい政策だと思われたが、大きな混乱はなく、いつの間に話し合っていたのか、後継者に栞奈が指名されていた。

「でもでも、二人がサポートしてくれてるから全然苦じゃないかな。部活はちょうど引退するし、また別のものに打ち込めて私は楽しいよ」

「そう、ならよかったけど、無理だけはしないでね」

 栞奈と鮎子は会話をしながらも、仕事をこなしていく。
 私はそんな余裕はなく、一心不乱になってこなしていった。

「愛も休憩しながらやってね」

「ありがとう栞奈、もう少しでキリがいいから」

「それじゃあ、お茶でも淹れますかね」

「おぉ! 大賛成!」

 鮎子がゆっくりと立ち上がり、お茶を淹れ始めた。
 ほうじ茶の良い香りが、私の脳と心を緊張から解いてくれる。
 優しい日差しが窓から入り込み、ホッと一息ついたとき、なんとも言われないホワホワとした心地よい空気に包まれる感覚が訪れてきた。

 前会長が突然消えたような感じになるが、生徒会の仕事はスムーズにはじめれた。
 これはきっと入念に引継ぎを行ったことが要因であろう。
 新生徒会が発足したとき、栞奈になぜ会長を引き受けたのかをきいたが、彼女は。

「うーん、特に大きな理由はないけれど。何か残したいって思ったんだ」

 そう言って、はにかんだ彼女はどこか影をもっているようにも思えたが、栞奈から引き続き生徒会をと言われたときは、素直に嬉しかった。

「栞奈のこと一生懸命サポートできたらいいなぁ」

「大丈夫、愛なら大丈夫だから」

 そんなやり取りをして、始まった新体制。 とても充実していた。
 蒲生さんとの関係も相変わらず、ASHINAの存在は薄れているが、気は抜けないと彼は言っている。
 
「よーし! もう一踏んだり、頑張ろう!」

 女性三人の生徒会、本音を言えばもう少し人員が欲しいが、それは現状が落ち着いてからにしようと決めている。
 小難しい表現を綴った紙を見つめながら、一枚一枚丁寧にファイルにとじていく。

「なんで、こういった書類って表現難しいのかな。 もっと簡単な日本語にしてくれても罰はあたらないと思うんだけどね」

 栞奈も嫌そうな顔をしながら、書類を確認していく。
 
「まぁ、小難しい文章にも利点とかあったりするし、そもそも、読もうって気力を無くすっていう効果も期待できるけど」

「確かに、読む前から読もうとさせない、無言の圧力みたいなのあるよね」

 物語のような内容でないので、本当にその言葉のもつ意味を理解していないと、解読すら不可能になりそうになる。
 何度辞書をひいたのか覚えていない。 もちろん、私がつかう言葉があっているのかもチェックするためもあった。

「電子は使わないの?」

 鮎子が問いかけてくる。

「うん、なるべく紙でひくようにしている。 そっちだと、なんだか覚えれるような気がして」

「ふーん、なんか愛が言うと説得力あるけど、私は電子だなぁ、スピードが違いすぎる。 あと、何に使うのかわからない機能で遊べるし」

「そもそも、二人とも辞書持ってるの⁉ 私なんて一つも持ってないんですが」

 自慢げに話す栞奈を見て、鮎子が「いや! そこは自慢するところじゃねぇし」と鋭いツッコミをいれているのをみると、なんだかここも以前とさほど変わらないように思えてきた。

「んにゃー! 終わった。 いや、終わろう! 終わるべき、むしろ無理」

 ふしゅう~と、空気のぬけた風船のように萎んでいく栞奈をみて、鮎子が一つ提案した。
「じゃぁさ、焼き芋食べない?」

 焼き芋の言葉に反応する栞奈、一瞬目が光ったように思えた。

「愛も一緒に行かない? 学園の近くのスーパーに焼き芋買いに!」

「そ、そうね。 小腹も空いているし、食べたいかな」

 糖分を脳が欲しており、とても魅力的な提案だった。
 以前の反省を踏まえ、まずは蒲生さんに報せを送っていく。

『了解いたしました。 是非楽しんでください』

 特に止められたりするわけでもなく、すんなり了承をもらえた。 
 私の報せを待っている二人に、頷きで返事をすると揃って鞄に荷物をしまい始める。 
 
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