45 / 54
雪どけに咲く花は黄色
おんせん⁉ ⑫
しおりを挟む
その後二人の誤解を必死に解いたが、終始ニヤニヤしている栞奈には、もう何を言っても「ほえ~」としか返ってこない。
それは、蒲生さんのいない部屋に到着してからも、二人は私をからかい続けて来た。
「もう! 本当にやめて」
「いやいや、ごめん。なんかさぁ、一気に愛が女の子ぽくなって」
「そうそう、めっちゃ可愛いの」
栞奈と鮎子はクスクスと笑い合うが、私が女の子? どういう意味だ。
これまでだって、れっきとした女性として過ごしてきたのに。
そんな私の表情を見て、鮎子は「愛は気にしなくともいいの!」とだけ、言って就寝の準備を開始する。
「そう言えば、会長は大丈夫なんでしょうか?」
停電が復旧してから、会長の姿を見ていない。
先ほど、旅館のスタッフの人が来て、状況を細かく説明してくれ、話を聞く限りではASHINAの存在は感じられなかった。
「え? 兄? あぁ、そう言えば、停電するまえに卓球で栞奈にコテンパンにされて、気絶してたのを置いてきたままだった」
さらっと酷いことをいう鮎子であるが、気絶するほどの負けというのは、いったいどういったものだろうか?
それにしても栞奈はやはり強かった。 会長だって運動神経が悪いわけではないので、それを圧勝する彼女は本当に凄いと思う。
蒲生さんはもう一度お風呂に入ってくると言って出ていったが、今頃はもう寝ているかもしれない。
今日聞いたことは、とても衝撃的だった。 あの後、もう一度記憶を探ってみたが、思い出せない。 それほど幼かったのだろうか?
少しすっきりとした気持ちと、不思議な満足感に満たされながら、電気が消された。
しかし、すぐに寝れるはずもなく、私たち三人の夜は更けていくばかりであった。
次の日、全員で朝食を食べるが、会長の無事な姿を確認できたので少し安心する。
「おはようございます。 お嬢様」
「あ、お、おはよう」
蒲生さんが声をかけてくれた。 なぜか顔を直視できない。
それを見て、栞奈と鮎子はまたニヤニヤしだすと「失礼しましたぁ!」なんて言って去っていく。
それを見た彼も、どうしてよいのか困ったような表情になっている。
会話の無い朝食を済ませ、部屋に戻りまったりと過ごしながら帰りの支度を整えた。
あっという間の旅行だったと思う。 修学旅行というモノとは、違ったとても濃い日であった。
温泉に入ったこと、ご飯を食べたこと。夜に停電になったこと。
昨晩の回想になると、急に頬が熱くなりだし咄嗟に思い出すのをやめる。
玄関に向かう途中、お土産を買いながら待っていると、蒲生さんと会長が合流した。
「どうも、皆さん買えましたか?」
頷く私たちを確認すると、チェックアウトの手続きに入る。
一度料金は会長が集めてくれていたので、チェックアウトも会長の役目であった。
その隙に鮎子と栞奈は揃ってトイレに行こうとする。
「ごめん愛、荷物見ててもらってもいい?」
栞奈が申し訳なさそうに目で合図してきた。
「いいよ。 大丈夫だから」
そう言うと、鮎子も便乗して荷物を預けて二人は消えていく。
後に残されたのは私と蒲生さんだけだった。
「お嬢様、お忘れ物などはございませんか?」
「うん、たぶん大丈夫、問題ない」
今日は昨日とは色合いの違う服を着てみた。
どっちが私に似あうのか、わからないが普段着ないような服に、どこか体が痒くなってきそうだ。
「そうですか、楽しめたようで何よりです」
「すっごく楽しかった。また機会があれば是非って感じかな」
「それはそれは、私も久しぶりに温泉に入れましたし、皆様の私服での普段のお姿も拝見でき、とても満足しております」
「女子高校生の私服みて喜ぶの?」
「そう言う意味ではなく、学園外でのお姿という意味ですよ」
急に気になっている部分を持ってきたものだから、困惑してしまった。
心臓がドキドキと脈打つスピードが速くなっているように思える。
私は思い切ってきいてみた。
「ねぇ、私の服装ってどこか違和感ある?」
こちらの質問に対し、彼は一瞬考えるような素振りをみせるも、すぐに笑顔に変わり、こう言ってきた。
「全然、凄く似合っておられますよ。 昨日の服装もとても素敵でございました」
緊張していた心臓が、今度は躍るような鼓動に変わる。
まるで心臓が口から飛び出してしまいそうになった。
「そ、そう? ならよかった」
平静を装いながら、彼から無理やり視線を外すと、こちらに向かってくる会長の姿があった。
それと同時に、トイレに行っていた二人も戻ってくる。
「さぁ! 諸君、名残惜しいが帰ろうではないか。 明日からは通常の授業が待っているぞ」
「ちょっと、なに要らないこと言ってるのよ! あぁ! もう、本当に現実に戻っちゃうのかぁ」
「おかしなことを言うな妹よ。 今も現実であるぞ」
確かに、これは現実で楽しかった旅行である。
そう、この凄く素敵な想い出はリアルなのだ。
私たちが旅館を出ると、道端には春を告げる黄色い花が咲いている。
風に揺られながら、ユラユラと心地よさそうに街の方へ頭を揺らしていた。
それは、蒲生さんのいない部屋に到着してからも、二人は私をからかい続けて来た。
「もう! 本当にやめて」
「いやいや、ごめん。なんかさぁ、一気に愛が女の子ぽくなって」
「そうそう、めっちゃ可愛いの」
栞奈と鮎子はクスクスと笑い合うが、私が女の子? どういう意味だ。
これまでだって、れっきとした女性として過ごしてきたのに。
そんな私の表情を見て、鮎子は「愛は気にしなくともいいの!」とだけ、言って就寝の準備を開始する。
「そう言えば、会長は大丈夫なんでしょうか?」
停電が復旧してから、会長の姿を見ていない。
先ほど、旅館のスタッフの人が来て、状況を細かく説明してくれ、話を聞く限りではASHINAの存在は感じられなかった。
「え? 兄? あぁ、そう言えば、停電するまえに卓球で栞奈にコテンパンにされて、気絶してたのを置いてきたままだった」
さらっと酷いことをいう鮎子であるが、気絶するほどの負けというのは、いったいどういったものだろうか?
それにしても栞奈はやはり強かった。 会長だって運動神経が悪いわけではないので、それを圧勝する彼女は本当に凄いと思う。
蒲生さんはもう一度お風呂に入ってくると言って出ていったが、今頃はもう寝ているかもしれない。
今日聞いたことは、とても衝撃的だった。 あの後、もう一度記憶を探ってみたが、思い出せない。 それほど幼かったのだろうか?
少しすっきりとした気持ちと、不思議な満足感に満たされながら、電気が消された。
しかし、すぐに寝れるはずもなく、私たち三人の夜は更けていくばかりであった。
次の日、全員で朝食を食べるが、会長の無事な姿を確認できたので少し安心する。
「おはようございます。 お嬢様」
「あ、お、おはよう」
蒲生さんが声をかけてくれた。 なぜか顔を直視できない。
それを見て、栞奈と鮎子はまたニヤニヤしだすと「失礼しましたぁ!」なんて言って去っていく。
それを見た彼も、どうしてよいのか困ったような表情になっている。
会話の無い朝食を済ませ、部屋に戻りまったりと過ごしながら帰りの支度を整えた。
あっという間の旅行だったと思う。 修学旅行というモノとは、違ったとても濃い日であった。
温泉に入ったこと、ご飯を食べたこと。夜に停電になったこと。
昨晩の回想になると、急に頬が熱くなりだし咄嗟に思い出すのをやめる。
玄関に向かう途中、お土産を買いながら待っていると、蒲生さんと会長が合流した。
「どうも、皆さん買えましたか?」
頷く私たちを確認すると、チェックアウトの手続きに入る。
一度料金は会長が集めてくれていたので、チェックアウトも会長の役目であった。
その隙に鮎子と栞奈は揃ってトイレに行こうとする。
「ごめん愛、荷物見ててもらってもいい?」
栞奈が申し訳なさそうに目で合図してきた。
「いいよ。 大丈夫だから」
そう言うと、鮎子も便乗して荷物を預けて二人は消えていく。
後に残されたのは私と蒲生さんだけだった。
「お嬢様、お忘れ物などはございませんか?」
「うん、たぶん大丈夫、問題ない」
今日は昨日とは色合いの違う服を着てみた。
どっちが私に似あうのか、わからないが普段着ないような服に、どこか体が痒くなってきそうだ。
「そうですか、楽しめたようで何よりです」
「すっごく楽しかった。また機会があれば是非って感じかな」
「それはそれは、私も久しぶりに温泉に入れましたし、皆様の私服での普段のお姿も拝見でき、とても満足しております」
「女子高校生の私服みて喜ぶの?」
「そう言う意味ではなく、学園外でのお姿という意味ですよ」
急に気になっている部分を持ってきたものだから、困惑してしまった。
心臓がドキドキと脈打つスピードが速くなっているように思える。
私は思い切ってきいてみた。
「ねぇ、私の服装ってどこか違和感ある?」
こちらの質問に対し、彼は一瞬考えるような素振りをみせるも、すぐに笑顔に変わり、こう言ってきた。
「全然、凄く似合っておられますよ。 昨日の服装もとても素敵でございました」
緊張していた心臓が、今度は躍るような鼓動に変わる。
まるで心臓が口から飛び出してしまいそうになった。
「そ、そう? ならよかった」
平静を装いながら、彼から無理やり視線を外すと、こちらに向かってくる会長の姿があった。
それと同時に、トイレに行っていた二人も戻ってくる。
「さぁ! 諸君、名残惜しいが帰ろうではないか。 明日からは通常の授業が待っているぞ」
「ちょっと、なに要らないこと言ってるのよ! あぁ! もう、本当に現実に戻っちゃうのかぁ」
「おかしなことを言うな妹よ。 今も現実であるぞ」
確かに、これは現実で楽しかった旅行である。
そう、この凄く素敵な想い出はリアルなのだ。
私たちが旅館を出ると、道端には春を告げる黄色い花が咲いている。
風に揺られながら、ユラユラと心地よさそうに街の方へ頭を揺らしていた。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜
藍沢咲良
青春
小さな頃には当たり前に会っていた、その人。いつしか会えなくなって、遠い記憶の人と化していた。
もう一度巡り会えたことに、意味はあるの?
あなたは、変わってしまったの──?
白雪 桃歌(shirayuki momoka) age18
速水 蒼 (hayami sou) age18
奥手こじらせ女子×ツンデレ不器用男子
⭐︎この作品はエブリスタでも連載しています。
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる