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雪どけに咲く花は黄色
おんせん⁉ ⑫
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その後二人の誤解を必死に解いたが、終始ニヤニヤしている栞奈には、もう何を言っても「ほえ~」としか返ってこない。
それは、蒲生さんのいない部屋に到着してからも、二人は私をからかい続けて来た。
「もう! 本当にやめて」
「いやいや、ごめん。なんかさぁ、一気に愛が女の子ぽくなって」
「そうそう、めっちゃ可愛いの」
栞奈と鮎子はクスクスと笑い合うが、私が女の子? どういう意味だ。
これまでだって、れっきとした女性として過ごしてきたのに。
そんな私の表情を見て、鮎子は「愛は気にしなくともいいの!」とだけ、言って就寝の準備を開始する。
「そう言えば、会長は大丈夫なんでしょうか?」
停電が復旧してから、会長の姿を見ていない。
先ほど、旅館のスタッフの人が来て、状況を細かく説明してくれ、話を聞く限りではASHINAの存在は感じられなかった。
「え? 兄? あぁ、そう言えば、停電するまえに卓球で栞奈にコテンパンにされて、気絶してたのを置いてきたままだった」
さらっと酷いことをいう鮎子であるが、気絶するほどの負けというのは、いったいどういったものだろうか?
それにしても栞奈はやはり強かった。 会長だって運動神経が悪いわけではないので、それを圧勝する彼女は本当に凄いと思う。
蒲生さんはもう一度お風呂に入ってくると言って出ていったが、今頃はもう寝ているかもしれない。
今日聞いたことは、とても衝撃的だった。 あの後、もう一度記憶を探ってみたが、思い出せない。 それほど幼かったのだろうか?
少しすっきりとした気持ちと、不思議な満足感に満たされながら、電気が消された。
しかし、すぐに寝れるはずもなく、私たち三人の夜は更けていくばかりであった。
次の日、全員で朝食を食べるが、会長の無事な姿を確認できたので少し安心する。
「おはようございます。 お嬢様」
「あ、お、おはよう」
蒲生さんが声をかけてくれた。 なぜか顔を直視できない。
それを見て、栞奈と鮎子はまたニヤニヤしだすと「失礼しましたぁ!」なんて言って去っていく。
それを見た彼も、どうしてよいのか困ったような表情になっている。
会話の無い朝食を済ませ、部屋に戻りまったりと過ごしながら帰りの支度を整えた。
あっという間の旅行だったと思う。 修学旅行というモノとは、違ったとても濃い日であった。
温泉に入ったこと、ご飯を食べたこと。夜に停電になったこと。
昨晩の回想になると、急に頬が熱くなりだし咄嗟に思い出すのをやめる。
玄関に向かう途中、お土産を買いながら待っていると、蒲生さんと会長が合流した。
「どうも、皆さん買えましたか?」
頷く私たちを確認すると、チェックアウトの手続きに入る。
一度料金は会長が集めてくれていたので、チェックアウトも会長の役目であった。
その隙に鮎子と栞奈は揃ってトイレに行こうとする。
「ごめん愛、荷物見ててもらってもいい?」
栞奈が申し訳なさそうに目で合図してきた。
「いいよ。 大丈夫だから」
そう言うと、鮎子も便乗して荷物を預けて二人は消えていく。
後に残されたのは私と蒲生さんだけだった。
「お嬢様、お忘れ物などはございませんか?」
「うん、たぶん大丈夫、問題ない」
今日は昨日とは色合いの違う服を着てみた。
どっちが私に似あうのか、わからないが普段着ないような服に、どこか体が痒くなってきそうだ。
「そうですか、楽しめたようで何よりです」
「すっごく楽しかった。また機会があれば是非って感じかな」
「それはそれは、私も久しぶりに温泉に入れましたし、皆様の私服での普段のお姿も拝見でき、とても満足しております」
「女子高校生の私服みて喜ぶの?」
「そう言う意味ではなく、学園外でのお姿という意味ですよ」
急に気になっている部分を持ってきたものだから、困惑してしまった。
心臓がドキドキと脈打つスピードが速くなっているように思える。
私は思い切ってきいてみた。
「ねぇ、私の服装ってどこか違和感ある?」
こちらの質問に対し、彼は一瞬考えるような素振りをみせるも、すぐに笑顔に変わり、こう言ってきた。
「全然、凄く似合っておられますよ。 昨日の服装もとても素敵でございました」
緊張していた心臓が、今度は躍るような鼓動に変わる。
まるで心臓が口から飛び出してしまいそうになった。
「そ、そう? ならよかった」
平静を装いながら、彼から無理やり視線を外すと、こちらに向かってくる会長の姿があった。
それと同時に、トイレに行っていた二人も戻ってくる。
「さぁ! 諸君、名残惜しいが帰ろうではないか。 明日からは通常の授業が待っているぞ」
「ちょっと、なに要らないこと言ってるのよ! あぁ! もう、本当に現実に戻っちゃうのかぁ」
「おかしなことを言うな妹よ。 今も現実であるぞ」
確かに、これは現実で楽しかった旅行である。
そう、この凄く素敵な想い出はリアルなのだ。
私たちが旅館を出ると、道端には春を告げる黄色い花が咲いている。
風に揺られながら、ユラユラと心地よさそうに街の方へ頭を揺らしていた。
それは、蒲生さんのいない部屋に到着してからも、二人は私をからかい続けて来た。
「もう! 本当にやめて」
「いやいや、ごめん。なんかさぁ、一気に愛が女の子ぽくなって」
「そうそう、めっちゃ可愛いの」
栞奈と鮎子はクスクスと笑い合うが、私が女の子? どういう意味だ。
これまでだって、れっきとした女性として過ごしてきたのに。
そんな私の表情を見て、鮎子は「愛は気にしなくともいいの!」とだけ、言って就寝の準備を開始する。
「そう言えば、会長は大丈夫なんでしょうか?」
停電が復旧してから、会長の姿を見ていない。
先ほど、旅館のスタッフの人が来て、状況を細かく説明してくれ、話を聞く限りではASHINAの存在は感じられなかった。
「え? 兄? あぁ、そう言えば、停電するまえに卓球で栞奈にコテンパンにされて、気絶してたのを置いてきたままだった」
さらっと酷いことをいう鮎子であるが、気絶するほどの負けというのは、いったいどういったものだろうか?
それにしても栞奈はやはり強かった。 会長だって運動神経が悪いわけではないので、それを圧勝する彼女は本当に凄いと思う。
蒲生さんはもう一度お風呂に入ってくると言って出ていったが、今頃はもう寝ているかもしれない。
今日聞いたことは、とても衝撃的だった。 あの後、もう一度記憶を探ってみたが、思い出せない。 それほど幼かったのだろうか?
少しすっきりとした気持ちと、不思議な満足感に満たされながら、電気が消された。
しかし、すぐに寝れるはずもなく、私たち三人の夜は更けていくばかりであった。
次の日、全員で朝食を食べるが、会長の無事な姿を確認できたので少し安心する。
「おはようございます。 お嬢様」
「あ、お、おはよう」
蒲生さんが声をかけてくれた。 なぜか顔を直視できない。
それを見て、栞奈と鮎子はまたニヤニヤしだすと「失礼しましたぁ!」なんて言って去っていく。
それを見た彼も、どうしてよいのか困ったような表情になっている。
会話の無い朝食を済ませ、部屋に戻りまったりと過ごしながら帰りの支度を整えた。
あっという間の旅行だったと思う。 修学旅行というモノとは、違ったとても濃い日であった。
温泉に入ったこと、ご飯を食べたこと。夜に停電になったこと。
昨晩の回想になると、急に頬が熱くなりだし咄嗟に思い出すのをやめる。
玄関に向かう途中、お土産を買いながら待っていると、蒲生さんと会長が合流した。
「どうも、皆さん買えましたか?」
頷く私たちを確認すると、チェックアウトの手続きに入る。
一度料金は会長が集めてくれていたので、チェックアウトも会長の役目であった。
その隙に鮎子と栞奈は揃ってトイレに行こうとする。
「ごめん愛、荷物見ててもらってもいい?」
栞奈が申し訳なさそうに目で合図してきた。
「いいよ。 大丈夫だから」
そう言うと、鮎子も便乗して荷物を預けて二人は消えていく。
後に残されたのは私と蒲生さんだけだった。
「お嬢様、お忘れ物などはございませんか?」
「うん、たぶん大丈夫、問題ない」
今日は昨日とは色合いの違う服を着てみた。
どっちが私に似あうのか、わからないが普段着ないような服に、どこか体が痒くなってきそうだ。
「そうですか、楽しめたようで何よりです」
「すっごく楽しかった。また機会があれば是非って感じかな」
「それはそれは、私も久しぶりに温泉に入れましたし、皆様の私服での普段のお姿も拝見でき、とても満足しております」
「女子高校生の私服みて喜ぶの?」
「そう言う意味ではなく、学園外でのお姿という意味ですよ」
急に気になっている部分を持ってきたものだから、困惑してしまった。
心臓がドキドキと脈打つスピードが速くなっているように思える。
私は思い切ってきいてみた。
「ねぇ、私の服装ってどこか違和感ある?」
こちらの質問に対し、彼は一瞬考えるような素振りをみせるも、すぐに笑顔に変わり、こう言ってきた。
「全然、凄く似合っておられますよ。 昨日の服装もとても素敵でございました」
緊張していた心臓が、今度は躍るような鼓動に変わる。
まるで心臓が口から飛び出してしまいそうになった。
「そ、そう? ならよかった」
平静を装いながら、彼から無理やり視線を外すと、こちらに向かってくる会長の姿があった。
それと同時に、トイレに行っていた二人も戻ってくる。
「さぁ! 諸君、名残惜しいが帰ろうではないか。 明日からは通常の授業が待っているぞ」
「ちょっと、なに要らないこと言ってるのよ! あぁ! もう、本当に現実に戻っちゃうのかぁ」
「おかしなことを言うな妹よ。 今も現実であるぞ」
確かに、これは現実で楽しかった旅行である。
そう、この凄く素敵な想い出はリアルなのだ。
私たちが旅館を出ると、道端には春を告げる黄色い花が咲いている。
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