私の守護者

安東門々

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雪どけに咲く花は黄色

おんせん⁉ ⑩

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 楽しい食事の時間が過ぎると、各々の自由な時間になる。
 無謀にも栞奈に卓球勝負を挑んだ会長は、鮎子を審判に遊戯室へと連れていった。

 栞奈も栞奈で、「私、弱いですよ」なんて言っていたが、きっと強い。
 彼女が体育の授業で苦手だった種目を私は知らなかった。

 あとに取り残された私と蒲生さんは、ゆっくりと部屋へ戻ろうとする。
 しかし、廊下を通っていると館内の灯りに紛れつつも、綺麗に輝く月明かりを私は見つけた。

「うわぁ、綺麗……」

 綺麗に洗われている窓ガラスに触れないように身体を近づけ、月を眺める。
 それを見ていた彼は後ろから、そっと近づいてくるとおもむろに鍵をあけた。

「え?」

「出入りは自由と書いてありますよ。 どうですか? 少し寒いとは思いますが、外にでてみますか?」

 少し迷ったが、確かに二十一時までは自由に中庭を解放しているよだ。
 ただし、飲食や喫煙はできないうえに、まだ肌寒いためか誰もいなかった。
 外用の靴が置かれており、それに履き替えて外に出ていく。
 中の温かさとは違い、風が冷たさを纏っている。
 
 それでも、丁寧に管理された中庭と月明かりが合わさると、なんとも言えない幻想的な空間を作り出している。

「綺麗……。 本当に、綺麗」

 私の後を追うように彼も外に出て来た。
 
「おお、これは見事ですね」

 蒲生さんもこの美しさに目を細くさせる。
 しばらく、私たちは無言になって空と庭を見つめていくが、あまりにも集中していたのか、外にだいぶいたようで、体が冷えてしまった。

 小さく体を震わせると、背後にいた蒲生さんが動くと、私に自分が羽織っている袢纏はんてんを被せてくれた。
 袢纏が二枚になり、少し不格好な姿になったが、彼の温もりが残っておりとても温かい。

「ありがとう」

「いえいえ、大丈夫ですか? 戻りましょう、凍えてしまいます」

 小さく頷きながら、旅館の中へと戻る。 中に入ると耳に温かさが染み込むので、かなり体は冷えていた。

「どうでしょうか? もう一度お風呂に入られますか?」

「そうね、それもいいかもね」

 それから、また二人で廊下を進んでいく。 心なしか、少しだけ彼が近いような気がした。
 横をすれ違う人たちは、私の袢纏の姿をみて眉を近づける人もいるが、特段気にならない。
 だって、身も心もなぜかとても温かくなるのだから。

 部屋に戻る手前でお土産コーナーに立ち寄った。
 凍えた体は思いのほか早くポカポカになるのは、きっと彼のおかげであろう。
 サラリと見渡し、明日の目星をつけて外で待っている蒲生さんの元へと戻る。
 横に並ぶ彼は逞しく、それでいてとても優しい。
 こんな私でも一生懸命に守ってくれる。

 
「それでは、おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」

 未だに戻らない三人よりも早めに到着した私と彼は挨拶を交わして部屋に戻る。
 布団か敷かれ、どこに寝ようか迷っていると急に周りが暗くなった。

「え!」

 動けない。 咄嗟に身を屈めたが、何が起こっているのか理解できずにいた。
 外からは人の声が聞こえてくるので、きっと旅館が停電したのだろう。
 携帯端末の明かりを頼りに外へ出ようとしたとき、急に扉が開いた。

「お嬢様! ご無事ですか⁉」

 蒲生さんが慌てた様子で飛び込んでくる。 鍵をかけたつもりだが、どうやら彼には無駄なようだ。
 
「ええ、大丈夫だけど、これはいったい?」

「わかりません、いきなり停電になりました。 もしかすると……」

 私も脳裏にはASHINAの文字が浮かんでいる。 この停電が彼らの仕業ならば、身を守らねばいけないうえに、周りの人の安否も考えなければならない。
 
「失礼いたします」
 
 私が考えている間に、彼は部屋へ私の手を引っ張りながら連れて行く。
 
「とりあえず、現状がわかるまでここで待機いたしましょう、下手に動くのは危険です。 それに明かりは消してください、暗闇の中だと場所が特定されます」

 急いで携帯端末の明かりを消して部屋の中央部で待機をはじめた。
 真っ暗で安全のためカーテンは閉じたままであるが、うっすらと差し込む月明かりを頼りにしていく。

「でも、本当に彼らなのかしら? だったら会長たちも心配ね」

「確かに、でも今動くのは絶対だめです。 ただでさえ外は混乱しておりますので、敵が紛れていたら守りきれません」
 
 この暗闇の中、なぜか平静でいられる自分がいた。
 先ほども、きっと彼が助けに着てくると思っていたら、扉が開いたのだ。
 たった一人の人間が私を変えてくれる。 どこにいても、駆け付けてくれるこの安心感に私は浸かっているのかもしれない。

 しばらくすると、外の騒ぎも落ち着いてきたのか、静かさが広まっていく。
 今のところ動きはないので、単純な停電なのかもしれない。

「動きはなさそうですね。 油断できませんが」

 彼の細くも逞しい腕が私の腰を掴むと、優しく引き寄せられた。
 引き締まった胸板に頬があたると、彼の香りがしてくる。 嫌ではない。
 
 目がなれてきて、彼の顔が見える。 険しく、緊張した顔になっていた。
 そんな姿をみて、私は以前から疑問であったことを彼に質問する。

「ねぇ、なんであなたは、私の護衛を買ってでたの? こんな不利な条件なのに」

 
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