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雪どけに咲く花は黄色
おんせん⁉ ⑨
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周りも変化したが、私も変わったのだろう。
このくすぐったい気持ちを大切にしていきたいと思った。
栞奈が戻ってくる。 会長は未だに料理を吟味しながら鮎子に上手に誘導され周囲の人の邪魔にならないようにしている。
「それじゃあ、私たちもいきますか」
「そうね。 せっかくだから色々食べたいかも」
「うん、待ってるから」
栞奈が席に座り、私たちは立ち上がる。
最初に訪れたのは主菜のコーナーで焼き魚やお肉料理など数多くの料理が綺麗に並べられていた。
そう言えば、会長が興奮して騒いだのに意識を向けてしまったため、鍋がどんな内容なのかをしっかりと理解していなかった。
「火が消えたらもう大丈夫ですよ」
と、だけ聞いた覚えがあるが詳しい中身を覚えていないのは致命的である。
もしお肉ならば、お魚を選ぶし『いちご煮』のような食べ物ならば、お肉を選ぶ、そう考えると全然選べない。
そんな私の後ろに控えている彼は、軽く肩を上下させると話しかけてきた。
「お好きなように、食べたい料理を召し上がってください」
この程度で悩むのは変なのだろうか? しかし、彼のいうとおり、ずっとこの場で立ち止まっているのは迷惑にもなるうえに、席で待っている友だちにも申し訳ない。
私は覚悟を決めて「好きな」料理を手にとりだした。
まずは、主菜に鰆の西京焼きと、魳の生干しが置で迷ったが、旬を考え鰆を選ぶ。
次にサラダだが、先ほどは魚の旬にこだわったわりに、トマトやコーンなど、旬に囚われないサラダを更に盛りつけていく。
私個人的にはサラダは「見た目」重視な場合もあった。
副菜はきんぴらごぼうに、菜の花の胡麻あえなどを選び全体的に茶色い感じになってしまったが、せっかくの旅館で食べるご飯なのだから、こういった感じのも悪くないとおもっている。
飲み物も悩む、普段はお茶一択なのだが、このような場所だと普段飲まないものを飲みたくなってしまうのは、私だけではないはずだ。
メロン味と称した炭酸飲料を飲むのか、それとも隣の果汁百パーセントのオレンジジュースを飲むのか……。
散々迷ったあげく、ウーロン茶を選んでしまった。
ますますトレーの上が茶色で染まっていくが、いざ席に戻ってみると、全員好みの食べのもばかりを集め、色合いなどは一つも整っていない。
「ね、大丈夫でしょ?」
蒲生さんは私の隣に来ると、小声でそう言ってくれた。
なにか全て見抜かれているような気もするが、ゆっくりと座り、鍋が煮れるまで、全員でご飯をゆっくりと楽しんだ。
鍋の火が落ち着き、全員ソワソワしながら蓋を開けるとそこには、プルプルとした食材とあまり見たことのないお肉が煮られていた。
「うわぁ、どうしよう、あんまり美味しそうじゃないかも……」
最初に声を漏らしたのは鮎子だった。 確かに、知っている食材ではないようには思えた。
会長ですら、箸でツンツンとしながら様子を見ている。
栞奈は何が面白いのか、ニヤニヤしながら携帯端末で写真をたくさん撮っている。
しかし、この場に四人もいるのに全員が鍋の説明を聞いていないのは驚きだ。
お品書きがあると助かるのだが、ちょっとだけ周りの人を見渡すと、同じような反応をしている家族がいて、お父さんらしき人が「これがスッポンかぁ」と言っているのが聞こえた。
「え? これがスッポン鍋?」
私がつぶやくと、最初に栞奈がそれに反応してくれる。
「これが? 嘘ぉ、めっちゃ食べてみたいとは思っていたけど」
「スッポンって亀みたいなやつ?」
「そうだな妹よ。 して、どうやって食べる?」
会長の問いに対し、栞奈が手に持っていた携帯端末で調べた。
「えっと、普通の鍋と同じように最後は雑炊にして食べるのが良いみたい?」
なぜ最後が疑問形なのだろう。 しかし、スッポンの姿を思い出すと手が出しにくい。
そんな私たちをよそに、蒲生さんは躊躇することなく食べ始める。
「お! 美味しいですね。 凄くよい出汁が出ております」
やはり、美味しいのは知っている。 それでももう一歩何かが必要だ。
そんなとき、栞奈が携帯で調べていて何かを見つけたのか、その画面を見せてくる。
「ちょっとコレ見て!」
彼女の指が指している文面にはこう書かれていた。
『美容面で効果が期待できる』と。 それを見た瞬間、田村兄妹の目の色が変わり、鮎子はひと口食べた。
「――‼ う、うまぁ~い!」
続けて会長も食べる。
「ふむ、これはなかなかの美味!」
栞奈も続けといわんばかりに食べ始めた。 私もそれにならって食べる。
上品な出汁と、コラーゲンが多く含まれたお肉はとても美味しく、すぐに次の箸がのびた。
「あ、おいしい」
気が付けば、小さな鍋はほぼ空っぽになり、急いでご飯と卵を持ってくると、同時に入れた。
余熱で半熟になった卵が白米に絡み、出汁をいっぱい吸っていく。
それをレンゲですくってほうばると、とても幸せになれる。
このくすぐったい気持ちを大切にしていきたいと思った。
栞奈が戻ってくる。 会長は未だに料理を吟味しながら鮎子に上手に誘導され周囲の人の邪魔にならないようにしている。
「それじゃあ、私たちもいきますか」
「そうね。 せっかくだから色々食べたいかも」
「うん、待ってるから」
栞奈が席に座り、私たちは立ち上がる。
最初に訪れたのは主菜のコーナーで焼き魚やお肉料理など数多くの料理が綺麗に並べられていた。
そう言えば、会長が興奮して騒いだのに意識を向けてしまったため、鍋がどんな内容なのかをしっかりと理解していなかった。
「火が消えたらもう大丈夫ですよ」
と、だけ聞いた覚えがあるが詳しい中身を覚えていないのは致命的である。
もしお肉ならば、お魚を選ぶし『いちご煮』のような食べ物ならば、お肉を選ぶ、そう考えると全然選べない。
そんな私の後ろに控えている彼は、軽く肩を上下させると話しかけてきた。
「お好きなように、食べたい料理を召し上がってください」
この程度で悩むのは変なのだろうか? しかし、彼のいうとおり、ずっとこの場で立ち止まっているのは迷惑にもなるうえに、席で待っている友だちにも申し訳ない。
私は覚悟を決めて「好きな」料理を手にとりだした。
まずは、主菜に鰆の西京焼きと、魳の生干しが置で迷ったが、旬を考え鰆を選ぶ。
次にサラダだが、先ほどは魚の旬にこだわったわりに、トマトやコーンなど、旬に囚われないサラダを更に盛りつけていく。
私個人的にはサラダは「見た目」重視な場合もあった。
副菜はきんぴらごぼうに、菜の花の胡麻あえなどを選び全体的に茶色い感じになってしまったが、せっかくの旅館で食べるご飯なのだから、こういった感じのも悪くないとおもっている。
飲み物も悩む、普段はお茶一択なのだが、このような場所だと普段飲まないものを飲みたくなってしまうのは、私だけではないはずだ。
メロン味と称した炭酸飲料を飲むのか、それとも隣の果汁百パーセントのオレンジジュースを飲むのか……。
散々迷ったあげく、ウーロン茶を選んでしまった。
ますますトレーの上が茶色で染まっていくが、いざ席に戻ってみると、全員好みの食べのもばかりを集め、色合いなどは一つも整っていない。
「ね、大丈夫でしょ?」
蒲生さんは私の隣に来ると、小声でそう言ってくれた。
なにか全て見抜かれているような気もするが、ゆっくりと座り、鍋が煮れるまで、全員でご飯をゆっくりと楽しんだ。
鍋の火が落ち着き、全員ソワソワしながら蓋を開けるとそこには、プルプルとした食材とあまり見たことのないお肉が煮られていた。
「うわぁ、どうしよう、あんまり美味しそうじゃないかも……」
最初に声を漏らしたのは鮎子だった。 確かに、知っている食材ではないようには思えた。
会長ですら、箸でツンツンとしながら様子を見ている。
栞奈は何が面白いのか、ニヤニヤしながら携帯端末で写真をたくさん撮っている。
しかし、この場に四人もいるのに全員が鍋の説明を聞いていないのは驚きだ。
お品書きがあると助かるのだが、ちょっとだけ周りの人を見渡すと、同じような反応をしている家族がいて、お父さんらしき人が「これがスッポンかぁ」と言っているのが聞こえた。
「え? これがスッポン鍋?」
私がつぶやくと、最初に栞奈がそれに反応してくれる。
「これが? 嘘ぉ、めっちゃ食べてみたいとは思っていたけど」
「スッポンって亀みたいなやつ?」
「そうだな妹よ。 して、どうやって食べる?」
会長の問いに対し、栞奈が手に持っていた携帯端末で調べた。
「えっと、普通の鍋と同じように最後は雑炊にして食べるのが良いみたい?」
なぜ最後が疑問形なのだろう。 しかし、スッポンの姿を思い出すと手が出しにくい。
そんな私たちをよそに、蒲生さんは躊躇することなく食べ始める。
「お! 美味しいですね。 凄くよい出汁が出ております」
やはり、美味しいのは知っている。 それでももう一歩何かが必要だ。
そんなとき、栞奈が携帯で調べていて何かを見つけたのか、その画面を見せてくる。
「ちょっとコレ見て!」
彼女の指が指している文面にはこう書かれていた。
『美容面で効果が期待できる』と。 それを見た瞬間、田村兄妹の目の色が変わり、鮎子はひと口食べた。
「――‼ う、うまぁ~い!」
続けて会長も食べる。
「ふむ、これはなかなかの美味!」
栞奈も続けといわんばかりに食べ始めた。 私もそれにならって食べる。
上品な出汁と、コラーゲンが多く含まれたお肉はとても美味しく、すぐに次の箸がのびた。
「あ、おいしい」
気が付けば、小さな鍋はほぼ空っぽになり、急いでご飯と卵を持ってくると、同時に入れた。
余熱で半熟になった卵が白米に絡み、出汁をいっぱい吸っていく。
それをレンゲですくってほうばると、とても幸せになれる。
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