私の守護者

安東門々

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雪どけに咲く花は黄色

おんせん⁉ ⑤

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 蒲生さんはが、荷物をもってバス停に到着すると、鮎子が再度詳しく今回の日程を説明してくれた。
 説明が終わるタイミングでバスが到着し、各々乗り込むがバスの乗り方に不安を覚える。
 いつもは学園のバスなどを使うが、席だけ決められているので、公共の乗り物の経験が皆少なかった。

 そんな私たちを気にかけてなのか、蒲生さんが一番最初に乗り込み皆を目線で案内してくれる。

 席はガラガラで彼は迷うことなく、一番後ろの席から一つ空けた席に座り、女子三人が一番後ろに座った。
 会長は「し、失礼いたします!!」と言って蒲生さんの隣に腰掛けると、さっそく彼に話しかけられ顔を真っ赤にしながらしどろもどろになりつつも、会話をたのしんでいる。

 窓側から栞奈・私・鮎子の順番で、席に座るなり栞奈はバッグからカップのエスプレッソコーヒーを取り出しストローを刺して飲み始めた。

「へぇ、あなたってそういったの好むのね」

「うん、好きなんだけど普段は飲まないようにしている」

「確かに、栞奈にコーヒーの印象ってあまりなかったかも」

 私も少し驚いた。 普段はお茶や清涼飲料水を飲んでいるイメージしかないので、これも休日の貴重な一面ということになるだろう。

「まぁ、私は皆さんご想像どおりのお茶ですよ~、でも今日はちょっと変わってジャスミンにしてみましたぁ!」

 鮎子が取り出した魔法瓶の蓋を開けて香りを確かめると、ジャスミンの香りが車内を包み込んでいく。

「おや? 鮎子さんジャスミン茶ですか?」

「そうそう、ちょっと明るい感じにしてみた。 ジャスミン茶のどこが明るい感じかって聞かれると答えれないから質問しないでね」

 蒲生さんもその香りに誘われて会話に混ざってくる。
 会長は隣で泡をふきながら気絶しているが、何があったのだろうか……。

「ちょっと蒲生さん、少し聞きたいことあるんだけど、今お付き合いしている女性っているの?」

 お茶の話題で盛り上がっていたときに、栞奈が唐突に彼に話題をふった。

「え?」

「いや、私のまわりの女子がね気になってるみたいだしさ、で? どうなの?」

 ニヤニヤしながら後ろ向きに話している彼に向かって顔を近づける。
 一瞬ドキンと脈が速くなったような気がしたが、蒲生さんが苦笑いしながら顔を遠ざけたのをみてすぐに収まった。

「いや、お付き合いしている人ですか? 特別いませんね、職業柄あまりそういったこともできませんし、そもそも、私には心に決めた人がおりますので」

 最後のセリフを聞いて私以外の女性陣が、瞳を輝かせ身を乗り出しながら蒲生さんに詰め寄っていく。

 余計なことを言ってしまったと言わんばかりに顔をしかめる彼に、そんなことはお構いなしと次々に質問を投げかける彼女たち。
 私も「心に決めた人」の存在を強く知りたいが、口が重く聞けずにいた。

 あまりにも騒がしすぎるので、誰もいない車内ではあるが、運転手さんに強い咳払いの注意を受けてしまう。
 お互いの顔を見合わせながら大人しく席に座ると、すぐに降車するバス停のアナウンスが入る。

 慌ててボタンを押して降りる意思を伝えると、ゆっくりと停まりドアが開いた。
 財布から小銭を取り出して支払いを済ませ降りていく。
 外に出ると暖房の効いた世界から一変し、肌寒さが一気に襲って来た。
 
「うぅ、寒い」

「確かに、心なしか同じ地域のはずなのに街よりも寒い気がするな」

 会長はいつ目を覚ましたのか、何事もなかったかのような振る舞いで降りてきている。

「うげ、そのまま寝てろよな」

 鮎子が心底嫌そうな顔で酷いことを言うが、会長は気にしておらず携帯端末のアプリケーションを起動させて、旅館までの道を案内しはじめた。

「うーん! 空気がうまい!」

 栞奈は縮まった背筋をのばし気持ちよさそうに肺いっぱいに空気を取り込んでいた。
 たしかに、なんと説明すればよいのかわからないが、空気に「雑」さがない。
 とても澄んでいるような気がした。 

 私たちの住む街も田舎だと思っていたが、少しだけ山に来ただけでここまで違うとは思ってもいなかった。
 
「ほら、諸君置いていってしまうぞ!」

 会長はどこから取り出したのか、黄色い旗を取り出して引率を続ける。
 全員ちょっとだけ離れて後をついていく。
 先頭が会長で、最後尾を蒲生さんが務めてくれた。
 
 彼は終始ニコニコしながらも、辺りへの警戒を緩めることはしない。
 プロとしてきっちりと仕事をこなしていた。

 わいわいと路肩に雪が残り、砂利道も湿り気を帯びたままの道を五分ほどあるくと、一軒の旅館が見えて来た。
 旅館の背後からは湯煙が見えだし、体が早く入りたいと疼いてくる。

「頼もう! 予約していたぁああああ」

 勢いよく入っていく会長を無理やり後ろに追いやると、鮎子が丁寧に頭を下げて対応してくれる。

「大変失礼いたしまいた。 本日予約しております田村です」

 一連のやり取りをみていた旅館のスタッフの人が少しだけ驚いたような表情で近寄ってきてくれる。
 その背後から若い男性が全員分の荷物を預かり先に部屋へと運んでくれる。
 
「お待ちしておりました。 一同感謝いたします」

 物腰柔らかな女将さんが挨拶をしてくれた。
 素早くチェックインを済ませると、それぞれの部屋へ案内される。
 少しだけ古い感じがするが、それも味があって好きだ。

 部屋に入るなり栞奈は窓際の椅子に座り、大好きなコーヒーを飲み始める。
 鮎子は沸かしてあったポットのお湯を使いお茶を淹れ始めた。
 一瞬でこの部屋に二種類の香りが漂いだしていく。

「そういえば、愛って紅茶もってきないの?」

 栞奈が聞いてくる。 困ったことに、紅茶のセットを持ってこようかギリギリまで迷ったが、爺と蒲生さんに止められ置いてきてしまった。
 せっかくみんなに美味しい紅茶を振舞える機会だと思ったが、次の機会になってしまった。

「うん、ちょっとワケあって持ってこれなかったけど、栞奈とか鮎子の好きな飲み物のお話聞けていいかも」

 



 
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