私の守護者

安東門々

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雪どけに咲く花は黄色

おんせん⁉ ②

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「はぁ!? ちょっとなに言ってんのよ馬鹿兄」

 鮎子の口調は今では常にこうだ。 今までのような感じは一切見受けられない。
 しかし、普段の生活で私や会長、栞奈の前以外ではおしとやかな雰囲気をまとっている。
 どちらが本当の彼女なのかという疑問は、もうもたない。
 どちらも彼女なのだから。

「心外だね妹よ。 どうも最近順調すぎてつまらない! そう、私は刺激を求めているのだよ!」

「刺激が欲しいなら、自分でやって! 私たちは順調なのがいいの、このまま何も起こらないのがハッピーなの」

 子犬が怒ったような表情で会長を睨みつけるが、それをまったく気にしない会長は淡々とスケジュールを言いだした。

「手始めに雪どけの最中、薄い氷の上でワカサギ釣りなどはどうだ?」

「自分だけでやって、割れて沈んだら命にかかわるから」

「ふむ、なかなか刺激的だと思ったのだが、ならばこれはどうだ⁉ 冬眠あけの熊を探して山の中を散策」

「却下……。 意味わかんないうえに、特段冬眠あけの熊に興味ないし」

 ズバズバっと会長の提案を一刀両断する鮎子、その二人のやり取りに自然と笑いが漏れてしまう。
 それを見た会長は会話を一度やめ、優しい笑顔を私にむけてくる。

「そうか、愛くんは更に素敵になったな」

「え? そういう意味ですか?」

「言葉のとおりだよ。 私が君を生徒会に入れたかったのは、その正確無比な仕事っぷりを見てなのだが、今の愛くんはあの頃よりもずっと素敵だ」

 そうだろうか? 自覚していないが、どこか変化があったのか自分ではわからない。
 隣で話を聞いていた鮎子も首を縦に振っているので、会長だけの意見ではないようだ。

「ならば、これはどうか? 皆で温泉などは?」

 温泉・・というキーワードに不覚にも反応してしまった。
 それを見逃さない会長は先ほどまでの優しい笑顔ではなく、にったりと含みのある笑顔をつくるとこう言った。

「決まりだな」

 鮎子もまんざらでなさそうで、最終的には「しょうがないですね」と言って諦めていた。
 一応手帳を開いて確認するが、まっさらなスケジュール帳を閉じると鞄から携帯端末を取り出して蒲生さんにメッセージを送信する。

『今週末、急ですが会長や鮎子と一緒に温泉に行くことになりそうです。蒲生さんは温泉お好きですか?』

 一応彼に確認をとらなければならない。 随分自由にさせていただいているが、本当ならばもっと彼の意見を聞くべきなのだろうが。
 数分もしないうちに返事が返ってくる。

『温泉ですか? 好きです。 もし、お邪魔でなければ私もご同行したいのですがよろしいでしょうか?』

 この問いに関しては返事はYESであるが、私の視線はなぜか文の途中の文字に一瞬止まってしまった。
 ちいさく胸の奥がトクンと波打つような感じと体が軽くなるような感覚を覚えた。
 
「あのぉ、皆さんもご存知だと思いますが、蒲生さんもご一緒でもかまいませんか?」

 私の質問に会長は当然のごとく、鮎子も快諾してくれた。
 それに、栞奈も忙しいだろうが参加しないかとメッセージを送ってみる。
 その返事が返ってくるのは数時間後であるが、なんとか時間をつくるとのことであった。

 温泉に行くという目的が定まると会長の行動力は凄い。
 今まで行ったことのあるメジャー・マイナー問わず温泉処をピックアップしていく。
 鮎子はしっかりと予算組を行う。 あまり親の手を借りないで今回は行きたいらしい。
 保護者として蒲生さんがつくかたちとなった。

「むむむむむーん! 閃いた! 閃いたぞ愛くん! ここはどうだ⁉」

 渾身の一撃を放つ勢いで、会長が日本地図を埃が溜まっている棚から無理やりひっぱりだすと、ある地域のページを開き指さした。

「ここって、近場ですがよく知りませんね」

「だろう? しかし、ここは豊富なお湯と、そのお湯を使った特産品で一部界隈では有名なのだよ」

 一部界隈という単語が気になるが、とても魅力的な内容だと思う。
 特にお湯を使った特産品に私はとても興味を惹かれた。
 温泉地のだいご味は何と言っても温泉とその地域の特産品を食せることであろう。
 
 私も少なからず……。 いや、かなり食べ物に興味がある。
 鮎子は既に旅館へ連絡をとってくれており、この行動力の速さは見習うべきところがあった。
 
 そもそも、急に思い立ったので予約が可能なのか、そこも重要なポイントである。
 数分待つと、彼女が予約を取れたことを知らせてくる。
 あとは栞奈が参加するかどうかで後日人数を増やせばよい。

「ちょっと待てぇ! これってもしかすると、女子は女子部屋で、蒲生さんとこの私がお、同じ部屋ということかぁ⁉」

 発狂気味に謎な発言をしだす会長に対し、鮎子は怖い顔をつくると近づき胸ぐらをつかんで彼に何かを囁いている。

「あんたいい加減にしなさいよ。 もちろん、部屋は別よ別。 あんたは便所にでも寝てろぉ!」

 訂正したい。 囁きではなく、こっちに駄々洩れである。
 しかし、こんなやり取りを自分が経験できるとは思ってもいなかった。
 とても心地よく、心が軽くなったような気がする。

 大好きな読書の時間は減ったけれども、別の大切ななにかを得れているような気がした。
 
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