私の守護者

安東門々

文字の大きさ
上 下
30 / 54
田村兄妹

ニューフェイス ⑪

しおりを挟む
 美味しい感動を皆で分け合い、壁にかけられている時計を確認すると、背筋が凍りそうな感覚をうけた。
 蒲生さんとの約束の時間は過ぎ、慌てて連絡しようとするが鞄から取り出した携帯端末の充電が無くなり、連絡がとれない状況になっている。

 しかたがないので、鮎子の携帯端末を借りて家に電話をすると、安堵した声色で「伝えておきます」と告げられた。
 なにか罪滅ぼしはできないものかと、お店のたい焼きを数個持ち帰ることにした。
 
「へぇ、五色さんみたいな人でも忘れることあるんだ」

 私を過大評価しすぎていますが、 忘れもしますし、失敗だって人一倍してきた自信がある。
 それでも、この時間はとても有意義で楽しいと感じた。

 周りで談笑しながら、出来立てのたい焼きを抱えて帰路につく。
 夕日が沈みかけ、いよいよ寒さが増してきている。
 帰ったら初めに謝ろう。 そもそもGPSとかの機能はこのペンダントについていないのだろうか?

 でも、四六時中監視されているのも、なんだか嫌になるがそんなところを気遣ってくれたのだろうか?

 そんなことを考えていると、前を歩く鮎子が立ち止まり何かを言っている。

「やっば! ちょっと、なによあれ⁉」

 隣の会長も鮎子が見つめる先をみて、顔を真っ青にさせた。

「おいおい! これはちょっとまずいかも!? 全員逃げろぉ‼」

 二人が勢いよく振り返るなり、私と速水さんの腕を掴むなり来た道を戻りだしていく。
 
「ちょ、ちょっと! どうしたんだ⁉」

 速水さんが鮎子の手を振りほどいて走り出した。 
 綺麗なフォームに上下に揺れる豊かな胸部に自然と目がいってしまう。
 
「な、なにって、後ろみてみなさいよ!」

 会長に手を繋がれながら、後ろを少しみるといつぞや家の周りを取り囲んだ改造車や改造バイクの集団が私たちを目指して走ってきている。
 
「あれって!」

「うむ、間違いなくASHINAの下っ端だな!」

 白銀会長が変な顔で走りながら説明してくれる。
 きっと私を狙ってきたに違いない、ならばこの人たちは関係ないのだから。
 そう思って手を解こうとしたとき、全員が信じられない発言をした。
 

「くっそぉー! しつこいっていうの、もうなんなのよ!」

「まこと! 何度も何度も追い払っているのに、しつこいったらありゃしない!」

 ん? 今鮎子と会長が変なことを言ったような……。

「うへぇ――前回やりすぎたかな、手加減したんだけどなぁ」

 息がまったく荒くならずに走り続ける速水さんも、なにか物騒なことを言っていた。
 もしかすると、ここにいる人たちは何かしらASHINAに対し因縁があるのではないだろうか?
 そんなことを考えていたが、不意に隣から苦しそうな声が聞こえてくる。
 
「ぜはぁ、ぜはぁ」

 会長が今にも倒れそうな顔になっている。 体力が無さすぎるのではないだろうか?

「んもぉ! だらしない兄が! ちょっと路地裏に逃げよ」

 相手を見ると直ぐそこまで迫ってきている。 しかし、大きな車やバイクでは入れそうもない裏路地に入り込むと、下品な笑い声と下衆な怒号が背後から聞こえてくる。

 全員息を整えながら、速水さんの案内のもと裏路地を歩いて行く。
 遠くから警察車両のサイレンの音が聞こえてくるが、全員が逃げるとは思えない。
 きっと何人かは乗り物から降りて、こちらを目指しているに違いない。
 
「ぜぇ、ぜぇ……。 いやー、この間オーストラリアの農地でやったことがここまで尾をひくなんて」

「こうなるんだったら、もっと閉じ込めておけばよかった」

 聞こえない聞こえない。 頬をビンタした程度の私なんてとても小さく見えてきそうな囁きを聞き流しながら、空を見つめる。
 コンクリートの穴から見える空は既に暗くなり、窓から夜の香りが漂いだしていた。

「まずいなぁ、けっこう囲まれちゃっているかも」

 先を偵察してきた速水さんが私たちに伝えてくれる。
 軽いため息をつきながら、冷たいコンクリートの壁に背中を預けて一休みし、様子を伺っていた。

 捕まった場合どうなるかわからないが、きっとろくなことにはならないであろう。
 殺されはしないけれども、あの下品な人の前に突き出されるなんてことを想像しただけでもう少し頑張れそうなきがしてきた。

 そのとき、私のとなりで休んでいた鮎子のお腹が小さく鳴ってしまう。

「ぐぅ」

 慌てて両手でお腹を押さえるが、会長がからかうようにニヤニヤしながら鮎子に詰め寄ると、会長の腹部に強烈な突きが一撃入った。

「ぐぅ」

 兄妹そろってお腹を抑えながらうずくまってしまう。
 私は抱えていたたい焼きを全員に渡した。

「いいの? これって家にもって帰るつもりだったんじゃ?」

「いいよ。 だって、冷めっちゃったし、それに持ったままだと走りづらくて」

 私の返答を聞くと、遠慮がちに受け取った鮎子のほかに速水さんや会長にも渡し食べ始めた。

「冷えても美味しいのね。 ありがとう」

 鮎子がたい焼きを小さくかじりながらお礼を言ってくれた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜

藍沢咲良
青春
小さな頃には当たり前に会っていた、その人。いつしか会えなくなって、遠い記憶の人と化していた。 もう一度巡り会えたことに、意味はあるの? あなたは、変わってしまったの──? 白雪 桃歌(shirayuki momoka) age18 速水 蒼 (hayami sou) age18 奥手こじらせ女子×ツンデレ不器用男子 ⭐︎この作品はエブリスタでも連載しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

野球小説「二人の高校球児の友情のスポーツ小説です」

浅野浩二
青春
二人の高校球児の友情のスポーツ小説です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...