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田村兄妹
ニューフェイス ⑩
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お昼休みが終わり、放課後になると一斉に人が帰りだした。
部活が盛んでない学園なので、帰宅する人の割合が多い、しかし、家で個別に習い事をしたり、有名なクラブへ通っている人もいるので、スポーツに興味が無いというわけでない。
もちろん、私は運動が苦手なので極力スポーツというものには触れてこないようにしていた。
私も帰ろうと支度を終えて席から立ち上がると、不意に声をかけられた。
「五色さん、今日の放課後って暇?」
声の主は速水さんで、疲れ切った顔をしながら近寄ってくる。
「えっと、帰るだけだけど」
返答を聞くなり目が輝くと一気に詰め寄ってきてある提案をしてくれた。
「そう⁉ じゃあ、ちょっと付き合って欲しい場所があって」
意外な提案をしてくれた。 今日は立て続けに試合をこなしてきたので、今週は部活がフリーの期間らしく、せっかくの暇を楽しみたいということで、私を誘ってくれたようだ。
なぜ私なの? と聞くと、「仲良くなりたいから」と言われ、少しだけ気恥ずかしいと感じてしまった。
そもそも、答えになっていない。 なぜ私と仲良くしたいのだろうか? そこが一番重要なのだろうが、あえて聞かないことにする。
せっかく誘ってくださったのだから、私も純粋にだれかと出かけるのは久しく、ワクワクしてきている。
教室を出て、電話を取り出して蒲生さんに連絡をいれようとしたとき、背後から最近よく聞く声が聞こえてきた。
「おぉ! 愛くん! ちょっといいかな」
「やほーお二人さん」
振り返ると、お昼に会ったばかりの田村兄妹が立っていた。
「あ! 会長に鮎子も、ちょうどよかった。 ねぇ、これから二人で出かけるんだけど、一緒にどう?」
お互い顔を見合わせてすぐに頷くと、合流して歩き出した。
いきなり大所帯になったが、不思議と受け入れている自分がいる。
こんなふうに近い年齢の人と帰るなんて凄く久しい気がした。
いつも帰る玄関からでなく、裏手から商店街へ抜けるように出ていくと、速水さんはお目当てのお店目指して案内してくれた。
まだ早い時間帯であるが、日は傾きかけ寒くなってきている。
彼女が案内してくれたのは、華やかな商店街から少し外れた裏路地にある暖簾に歴史を感じる和菓子屋だった。
彼女はそこに慣れたように入っていくと、一番奥の席へとまっすぐに向かっていく。
「あら、栞奈ちゃんいらっしゃい、今日はお友だちも? 嬉しいねぇ」
ニコニコと人当たりのよさそうなおばさんが奥からでてきて、温かいお茶を私たちに淹れてくれた。
色の鮮やかな緑茶で香りに甘みが含まれている。
「ほう、ここはなんとも雰囲気のよいお店だね速水くん、それで本日は私たちになにを紹介してくれるのかね?」
ワクワクと楽しそうに話し出す会長の横で、鮎子もキョロキョロと周りを見て楽しそうにしている。
そんな二人に対し、悪戯っぽい笑顔で答えた彼女は、手を振って元気な声で注文を言う。
「すみませぇーん! いつものを人数分お願いします!」
奥から「はいよー」とこれまた元気な声が聞こえてくると、速水さんはお茶を飲んだ。
私もそれにつられひと口いただくと、緑茶の甘みを凝縮したような独特の甘みが口いっぱいに広がり、そのあとに訪れる爽やかな香りが印象的な美味しいお茶だった。
おもわず「ふぅ」と言いそうになるが、お店が静かすぎるのでグッとこらえた。
「ふぅ」
「ふぅ」
「ふぅ」
私以外の三人が、同時に同じような反応をしめし、タイミングが重なったことに小さく笑い始める。
私も言っていたら、四重奏だったな。
冗談を言いたくとも言えない性格なので、今考えたことはそっと心の奥底にしまっておく。
そして、雑談をしていると「いつもの」が運ばれてくる。
飲食店などで「いつもの」が通じるのは、とてもカッコいいと感じた。
よくドラマや小説の世界ではあるが、実際に使った人を初めてみる。
小さく小奇麗なセンスのよい平皿に乗せられてきた食べ物は意外にもたい焼きで、速水さん以外は少し驚いた表情をしていた。
そんな私たちをみてニヤニヤと笑うと、丁寧に手をあわせていただきますと呟くと、ひと口お腹の部分から食べた。
「うーん! 美味しい!!」
出来立てで食べ口から湯気が見える。
甘い香りが漂い、鼻の奥があんこに満たされた。
「どれどれ」
次に会長が頭からひと口食べ、数回咀嚼すると大きく目を見開きすぐに、頬が緩み幸せそうな表情になる。
「うんまい……」
鮎子もそれをみて背中から食べると、驚いてすぐにふた口めを食べた。
「あふぅ、幸せ」
私もたい焼きの鯛の口のあたりからいただくと、熱々の生地に若干の塩気がアクセントになった餡の味が体を駆け巡った。
ほんのりと甘い生地に、上品な甘さの餡子のバランスが絶妙で舌が胃が喜んでいるのがわかる。
棘の無い甘みが余韻を残し、次に店員さんが淹れてくれたお茶は渋みはマイルドながら、餡子に負けない香りで口の中がリセットされたい焼きを引き立ててくれる。
「美味しい」
私が声を漏らすと、それを聞いた店員さんが「満場一致! ありがとうございます」と頭を下げてくれた。
部活が盛んでない学園なので、帰宅する人の割合が多い、しかし、家で個別に習い事をしたり、有名なクラブへ通っている人もいるので、スポーツに興味が無いというわけでない。
もちろん、私は運動が苦手なので極力スポーツというものには触れてこないようにしていた。
私も帰ろうと支度を終えて席から立ち上がると、不意に声をかけられた。
「五色さん、今日の放課後って暇?」
声の主は速水さんで、疲れ切った顔をしながら近寄ってくる。
「えっと、帰るだけだけど」
返答を聞くなり目が輝くと一気に詰め寄ってきてある提案をしてくれた。
「そう⁉ じゃあ、ちょっと付き合って欲しい場所があって」
意外な提案をしてくれた。 今日は立て続けに試合をこなしてきたので、今週は部活がフリーの期間らしく、せっかくの暇を楽しみたいということで、私を誘ってくれたようだ。
なぜ私なの? と聞くと、「仲良くなりたいから」と言われ、少しだけ気恥ずかしいと感じてしまった。
そもそも、答えになっていない。 なぜ私と仲良くしたいのだろうか? そこが一番重要なのだろうが、あえて聞かないことにする。
せっかく誘ってくださったのだから、私も純粋にだれかと出かけるのは久しく、ワクワクしてきている。
教室を出て、電話を取り出して蒲生さんに連絡をいれようとしたとき、背後から最近よく聞く声が聞こえてきた。
「おぉ! 愛くん! ちょっといいかな」
「やほーお二人さん」
振り返ると、お昼に会ったばかりの田村兄妹が立っていた。
「あ! 会長に鮎子も、ちょうどよかった。 ねぇ、これから二人で出かけるんだけど、一緒にどう?」
お互い顔を見合わせてすぐに頷くと、合流して歩き出した。
いきなり大所帯になったが、不思議と受け入れている自分がいる。
こんなふうに近い年齢の人と帰るなんて凄く久しい気がした。
いつも帰る玄関からでなく、裏手から商店街へ抜けるように出ていくと、速水さんはお目当てのお店目指して案内してくれた。
まだ早い時間帯であるが、日は傾きかけ寒くなってきている。
彼女が案内してくれたのは、華やかな商店街から少し外れた裏路地にある暖簾に歴史を感じる和菓子屋だった。
彼女はそこに慣れたように入っていくと、一番奥の席へとまっすぐに向かっていく。
「あら、栞奈ちゃんいらっしゃい、今日はお友だちも? 嬉しいねぇ」
ニコニコと人当たりのよさそうなおばさんが奥からでてきて、温かいお茶を私たちに淹れてくれた。
色の鮮やかな緑茶で香りに甘みが含まれている。
「ほう、ここはなんとも雰囲気のよいお店だね速水くん、それで本日は私たちになにを紹介してくれるのかね?」
ワクワクと楽しそうに話し出す会長の横で、鮎子もキョロキョロと周りを見て楽しそうにしている。
そんな二人に対し、悪戯っぽい笑顔で答えた彼女は、手を振って元気な声で注文を言う。
「すみませぇーん! いつものを人数分お願いします!」
奥から「はいよー」とこれまた元気な声が聞こえてくると、速水さんはお茶を飲んだ。
私もそれにつられひと口いただくと、緑茶の甘みを凝縮したような独特の甘みが口いっぱいに広がり、そのあとに訪れる爽やかな香りが印象的な美味しいお茶だった。
おもわず「ふぅ」と言いそうになるが、お店が静かすぎるのでグッとこらえた。
「ふぅ」
「ふぅ」
「ふぅ」
私以外の三人が、同時に同じような反応をしめし、タイミングが重なったことに小さく笑い始める。
私も言っていたら、四重奏だったな。
冗談を言いたくとも言えない性格なので、今考えたことはそっと心の奥底にしまっておく。
そして、雑談をしていると「いつもの」が運ばれてくる。
飲食店などで「いつもの」が通じるのは、とてもカッコいいと感じた。
よくドラマや小説の世界ではあるが、実際に使った人を初めてみる。
小さく小奇麗なセンスのよい平皿に乗せられてきた食べ物は意外にもたい焼きで、速水さん以外は少し驚いた表情をしていた。
そんな私たちをみてニヤニヤと笑うと、丁寧に手をあわせていただきますと呟くと、ひと口お腹の部分から食べた。
「うーん! 美味しい!!」
出来立てで食べ口から湯気が見える。
甘い香りが漂い、鼻の奥があんこに満たされた。
「どれどれ」
次に会長が頭からひと口食べ、数回咀嚼すると大きく目を見開きすぐに、頬が緩み幸せそうな表情になる。
「うんまい……」
鮎子もそれをみて背中から食べると、驚いてすぐにふた口めを食べた。
「あふぅ、幸せ」
私もたい焼きの鯛の口のあたりからいただくと、熱々の生地に若干の塩気がアクセントになった餡の味が体を駆け巡った。
ほんのりと甘い生地に、上品な甘さの餡子のバランスが絶妙で舌が胃が喜んでいるのがわかる。
棘の無い甘みが余韻を残し、次に店員さんが淹れてくれたお茶は渋みはマイルドながら、餡子に負けない香りで口の中がリセットされたい焼きを引き立ててくれる。
「美味しい」
私が声を漏らすと、それを聞いた店員さんが「満場一致! ありがとうございます」と頭を下げてくれた。
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