私の守護者

安東門々

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田村兄妹

ニューフェイス ④

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 とても意外な言葉がきた。 まさか彼に会いたいと言われるとは、まったく考えていなかった。
 それだけに、また体が固まってしまい。 返事が一瞬遅れた。

「だから、兄にあなたのナイトさんを会わせてほしいの、頼める?」

「た、頼めるもなにも、放課後になれば私を迎えに必ず学園に来ますので、その時でしたら可能かと」

 落ち着いて言えたきがする。 そして、私の言葉を聞いた白馬会長は嬉しそうに瞳を輝かせながら小さくガッツポーズしている。
 
「あのぉ、よろしければなぜ会長は蒲生さんにお会いしたいのでしょうか?」

 私の質問に対し、ニタリと笑う鮎子。

「へぇ、やっぱり蒲生って言うんだ」

 しまった。 軽率に名を口に出してしまった。 自分の言動がいかに何も考えていないのかを露見してしまった。
 彼の苗字を聞いた会長は、大急ぎで胸ポケットから取り出したメモ帳に何かを書き込んでいっている。
 
「愛って賢そうに見えて、意外と抜けているのね」

「そ、そうですか? 自分では賢いと思ったことはございませんが……」

「でも、そこが素敵ね――ギャップ萌えって言うのかしら? なんだか、とても可愛らしい」

 そう言ってお茶を片手に、なぜか恍惚な表情をする鮎子に、私の背筋は一瞬ブルっと震える。
 視界の端に映っている会長は、メモ帳を一生懸命見つめ惚けた顔をしながら、机に戻り外を見つめている。

「はぁ……。 もう、だらしがないんだから、ほら愛も食べちゃいな、もう少しでお昼終わっちゃうよ」

 壁に掛けられている時計を確認すると、既に十五分をきっていた。
 次は移動教室なので、早めに準備をしなければならない。
 急いで口に詰め込むと、美味しいほうじ茶で流し込む。

「えっと、それじゃあ」

 なんと言って別れればよいのかわからず、いつもはあまり言わない言葉でわかれを告げる。
 鮎子は笑顔で軽く手を振りながら見送り、それを確認するとドアを閉めて急いで教室へ向かう。
 勢いよく扉を開けると、全員の視線が私に刺さるが、気のせいか先ほどまでの鋭さは感じなくなっていた。

 私が慣れたということもるが、会長が言ってくださったおかげなのかもしれない。
 少しだけ心の中で感謝を述べると、次の授業の準備を私は開始した。

 授業が終わり、帰りの準備をしていると突如として開かれる教室のドア。
 そこから登場したのはお昼休みに一緒にご飯を食べた田村兄妹だった。

「お疲れ様諸君、しかし、冬だというのに学園というところはなぜ、こうも頭がぼんやりとするのだろうか」

「たぶん、暖房のせいだとおもいますけど」

 理解しがたいやり取りを行いながら、二人はまっすぐにこちらに向かってくると、私を囲みながらニコニコと笑っている。

「あ、あの?。 なにか御用で?」

「何がって、お昼に話したとおり、帰りまで待っていたのさ」

 瞳を輝かせながら会長が言う。 まさか本当に彼に会うために出向いてきたのだろうか?
 しかし、そうとしか考えられない。 思考回路が読めなさ過ぎて自然と頬がひきつる。

「兄はやるときはやるので」

 愛くるしい笑顔でいるが、なるほど、これが彼女の営業スマイルなのだろう。
 本当の姿をしる人は少なく、猫を被っているという表現がこれほど似合う人物を私は知らない。

「ささ、愛くん、行こうか」

 そう言って、スタスタと先に歩き出す会長の後ろを私は慌ててついてく。
 その後ろを鮎子がついてくる。 先ほどから一言も喋っていないが、物事というものは不思議で、それでも進んでいく。

 靴を履いて、階段をおりていくと同時に家の迎えの車が到着する。
 なぜか凄く緊張してきた。
 後部座席の扉が開き足の長い彼が顔を出した。

「おかえりなさいませお嬢様」

「うわぁ……。 なにこれ超イケメン」

 隣で関心した声をだす彼女と打って変わって会長は、瞳を大きく開き頬を真っ赤に染めている。
 それはまるで、話に聞く「恋する乙女」のようなそぶりであった。

「た、ただいま」
 
 気まずい感じがして、目を逸らしながら挨拶を返した。

「おや? そちらのお二方はご学友様ですか?」

 ニッコリと微笑みながらやさしい口調で問いかける。

「はぐぅ! なんつう破壊力! ま、眩しい直視できない」

 いったい、彼女はどれだけのキャラをもっているだろうか、今朝から口調が常に変わっているように思えた。
 そして会長はというと。

「ど、どうも! 愛さんと同じ生徒会の会長を務めております田村 白馬と申します! よろしくお願いいたします」

 いつ、私が生徒会へ入ったのかわからないが、物凄い勢いでお辞儀をしたあと手を差し伸べている。
 握手を求めているのだろうか? いきなりのことで困惑している蒲生さんだが、ちょっとだけ考えるとその手を握り返した。

「いつもお嬢様をありがとうございます。 これからもよろしくお願いします」

 
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