私の守護者

安東門々

文字の大きさ
上 下
21 / 54
田村兄妹

ニューフェイス ②

しおりを挟む
 今日は特別なこともなく、無事に学園までこれた。
 未だに足のケガが完治していない蒲生さんのことも、これで少し休ませてあげられる。

 迎えの時間になるころに連絡をいれると告げ、私は車を降りて玄関に向かっていく。
 途中、数名のクラスメイトが挨拶をしてくるが、誰も休んだことを聞いてこない。
 むしろ、それで助かっている。
 
 どうやって説明すればよいのか、まったくけんとうがつかない。
 ただ、少しだけ寂しいような気持ちになってしまうのは、私の心が弱いせいなのだろうか?

 そう思って靴棚に靴をしまっていると、急に後ろから声をかけられた。

「あ、あの! 五色さんですか?」

「え?」

 後ろを振り返ると、短めに丁寧に切られた髪に、少しそばかすが目立つ頬をしているが、瞳も大きく身長も低いので幼い印象を受けたが、制服のリボンをみると、私と同じ学年であることがわかった。

「そうだけど、あなたは?」

「わ、私は同じ学年のFクラスに在籍している田村たむら 鮎子あゆこと申します」

 ニコリと微笑む彼女の顔はどこまでも透き通っていて、とても可愛らしい。
 しかし、田村という苗字は多いがなにか胸に刺さるきがした。

「えっと、田村さん……」

「あ、鮎子でよいです。 それに、実は私以前から五色さんにお話があって」

「そう、なら私も愛でいいわ。 よろしくね鮎子さん」

 私に名前を呼ばれ、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる姿は、小動物を連想させ、なぜか体が疼いてくる。
 
「それで? 私に用があるって言ってたけど?」

「あぁ、それなんですが、一度私の兄に合っていただけませんか?」

「兄?」
 
 嫌な予感がしてきた。 頬を寒いのに汗が一筋流れ落ちる。

「はい! 現生徒会長の田村たむら 白馬はくばです」

 思い出した。 現生徒会長でこの学園のTOPでもある田村 白馬を、彼女は彼の妹なのか。
 以前、生徒会の手伝いをしたさいに生徒会へ入らないかと強く薦められたが、結局断りをいれた。

「そ、そうお兄様が私にいったいどんな御用が?」

「あ、そうそう、愛さん今大変らしいですね。 ちょっとその件も含め兄からご提案があると」

 ゾクッ。
 悪寒が背中を伝う。 まさかASHINAの息がかかった人たちなのだろうか?

 太陽の光が学園内に入り込んでくる。 それに一瞬目の前の彼女が照らされたかと思うと、今までの笑顔は消え。
 怪しげな笑みを浮かべていた。 無意識に体は後ろに下がるが、ゴツンと冷たい無機質な靴棚に背中が触れた。

「いやですね~。 私たちはなんにもしませんよ。 ただ、ちょっとだけお話がしたいだけなんです――」

 小柄な体を近づけ、両腕を掴まれると首筋に彼女の吐息が感じられるまで、顔を近づけてくる。
 
「い、いや」

「うふ、可愛い……。 本当に食べちゃいたいくらいです」

 スッと離れると、先ほどまでの不気味な表情ではなく、今までのような可愛らしい見た目に戻っている。

「それじゃ、放課後にお待ちしております♪」

 そう言って、彼女は自らの教室へ向かって歩き出していく。
 私はその場にしゃがみ込むと、そっと胸にしまっていたペンダントを取り出し、なんどもそれを親指の腹で撫でる。

 
 静かになった廊下を進み、教室へ入るなり私に向かって視線が送られ来た。
 さきほどの件といい、私がASHINAに狙われていることは、既に知られているようで、元々話しかけられなかったのに、更に遠巻きに「観察」される対象になってしまった。

 これで、この学園生活は今まで以上に枯れたものになってしまうのかと思うと、なぜかスッキリするような、寂しいようなそんな複雑な温い感情ができる。

 授業に移っても、先生はあえて私を遠ざけ質問もせず淡々と授業をこなしているのがわかった。
 当たり前だ。 下手に手助けなどしようものなら自らが危険にさらされてしまう。
 保身を優先するのは、当たり前なことだ。

 そして昼休みになると、爺が用意してくれたお弁当箱を一人で広げ食べようとしたとき、二人の男女が教室へ入ってくる。
 その瞬間、教室内はざわめきだし全員の視線がその二人に向けられた。

「おやおや――随分と辛気臭い教室ですね」

 スラっと伸びた足に、さらさらと流れるような綺麗な銀髪と女性を虜にしてしまう美貌を兼ね備えた人物、それが現生徒会長である田村 白馬であった。
 その横を姿勢を正し、丁寧に歩いているのが妹の田村 鮎子で、書記を務めている。

 一見地味な彼女であるが、今朝の一件で印象が変わった。

 田村生徒会長は、教室を眺めながら小馬鹿にしたように鼻で笑うと、まっすぐ私の席めがけて歩いてくる。
 そして、目の前に立つとこちらを見降ろしながら優しく言葉を投げかけてくれた。

「こんなヤツらの視線や態度など気にするな。 それよりも僕は君に用がある。 放課後と言っていたが待ちきれなくてね、来てしまった」

「もう、すみません……。 兄がどうしてもって」

 その言葉を聞いて、私も何か言わなければと思い口を開こうとしたとき、目の前に置かれていたお弁当をヒョイと簡単に奪われると、鮎子に手渡し私の腕を掴んでくる。

「え?」

「こんな辛気臭いところで食べていても、料理が不味くなるだけだ。 どうだい? 一緒に食べよう」

 ザワっと先ほど違った感じでざわめきだす教室へ会長は一言残し、私を連れて出ていった。

「ごめんごめん、辛気臭いってのは失礼した。 皆さんの大切な休憩時間を乱し申し訳なかった。 ごゆるりとお過ごしください」

 教室の外へ出ても私の手を離さず、鮎子はニコニコしながら横を歩いていく。

「ちょ、ちょっと! どこに行くんですか?」

「あぁ、伝えていなかったね。 僕たちの城だよ」

 そう言って連れてこられたのは、生徒会室で鍵を鮎子が開けると、勢いよく中に入るなり、会長はお茶の用意を始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

C-LOVERS

佑佳
青春
前半は群像的ラブコメ調子のドタバタ劇。 後半に行くほど赤面不可避の恋愛ストーリーになっていきますので、その濃淡をご期待くださいますと嬉しいです。 (各話2700字平均) ♧あらすじ♧ キザでクールでスタイリッシュな道化師パフォーマー、YOSSY the CLOWN。 世界を笑顔で満たすという野望を果たすため、今日も世界の片隅でパフォーマンスを始める。 そんなYOSSY the CLOWNに憧れを抱くは、服部若菜という女性。 生まれてこのかた上手く笑えたことのない彼女は、たった一度だけ、YOSSY the CLOWNの芸でナチュラルに笑えたという。 「YOSSY the CLOWNに憧れてます、弟子にしてください!」 そうして頭を下げるも煙に巻かれ、なぜか古びた探偵事務所を紹介された服部若菜。 そこで出逢ったのは、胡散臭いタバコ臭いヒョロガリ探偵・柳田良二。 YOSSY the CLOWNに弟子入りする術を知っているとかなんだとか。 柳田探偵の傍で、服部若菜が得られるものは何か──? 一方YOSSY the CLOWNも、各所で運命的な出逢いをする。 彼らのキラリと光る才に惹かれ、そのうちに孤高を気取っていたYOSSY the CLOWNの心が柔和されていき──。 コンプレックスにまみれた六人の男女のヒューマンドラマ。 マイナスとマイナスを足してプラスに変えるは、YOSSY the CLOWNの魔法?! いやいや、YOSSY the CLOWNのみならずかも? 恋愛も家族愛もクスッと笑いも絆や涙までてんこ盛り。 佑佳最愛の代表的物語、Returned U NOW!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冬の夕暮れに君のもとへ

まみはらまさゆき
青春
紘孝は偶然出会った同年代の少女に心を奪われ、そして彼女と付き合い始める。 しかし彼女は複雑な家庭環境にあり、ふたりの交際はそれをさらに複雑化させてしまう・・・。 インターネット普及以後・ケータイ普及以前の熊本を舞台に繰り広げられる、ある青春模様。 20年以上前に「774d」名義で楽天ブログで公表した小説を、改稿の上で再掲載します。 性的な場面はわずかしかありませんが、念のためR15としました。 改稿にあたり、具体的な地名は伏せて全国的に通用する舞台にしようと思いましたが、故郷・熊本への愛着と、方言の持つ味わいは捨てがたく、そのままにしました。 また同様に現在(2020年代)に時代を設定しようと思いましたが、熊本地震以後、いろいろと変わってしまった熊本の風景を心のなかでアップデートできず、1990年代後半のままとしました。

お嬢様なんて、冗談じゃない!

スズキアカネ
青春
本編連載中の【お嬢様なんて柄じゃない】の主人公がもしも男の子だったら? という設定で書かれたコメディ話。 脳筋男子バレー部員である男子高生がセレブ校のお嬢様に憑依してしまった!? 果たして彼はどう生きる?(全10話) ※※※ 憑依TS表現がありますので、苦手な方はご注意ください。物語の特性上、同性愛風味(誤解)もあるのでご了承くださいませ。 単体でも楽しめるかなと思います。 著作権は放棄してません。無断転載転用は禁止致しております。Do not repost.

僕らが守るから

華愁
青春
僕らだけは信じて下さい。 絶対に貴方を傷つけません‼ ある日の学校帰りに どしゃ降りの中で 他校だが一学年上の知人を 見つけた少年 〈秋鹿徹也〉 分かってた。 親父にとって 俺が邪魔者だって…… 父親に捨てられ、徹也に助けられた少年 〈旧姓七夜空煌〉 二人の少年の物語。

さよならのかわりに

mahina
青春
短編集です まぁこれまた書いてる私がとんでもないくらいに文才がない為、面白くないとは思いますが楽しんで読んで頂けたら幸いです´`* さよならのかわりに…なんて書きましたけど、たぶん、そんな関係のない話まで書きます、たぶん(笑) また何かこんな感じのお話を書いて欲しいってのがあったら感想などでぜひ教えてください 出来るだけ希望にかなうように考えて書きます

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

エスパーを隠して生きていたパシリなオレはネクラな転校生を彼女にされました

家紋武範
青春
人の心が読める少年、照場椎太。しかし読めるのは突発なその時の思いだけ。奥深くに隠れた秘密までは分からない。そんな特殊能力を隠して生きていたが、大人しく目立たないので、ヤンキー集団のパシリにされる毎日。 だがヤンキーのリーダー久保田は男気溢れる男だった。斜め上の方に。 彼女がいないことを知ると、走り出して連れて来たのが暗そうなダサイ音倉淳。 ほぼ強制的に付き合うことになった二人だが、互いに惹かれ合い愛し合って行く。

処理中です...