私の守護者

安東門々

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田村兄妹

ニューフェイス ②

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 今日は特別なこともなく、無事に学園までこれた。
 未だに足のケガが完治していない蒲生さんのことも、これで少し休ませてあげられる。

 迎えの時間になるころに連絡をいれると告げ、私は車を降りて玄関に向かっていく。
 途中、数名のクラスメイトが挨拶をしてくるが、誰も休んだことを聞いてこない。
 むしろ、それで助かっている。
 
 どうやって説明すればよいのか、まったくけんとうがつかない。
 ただ、少しだけ寂しいような気持ちになってしまうのは、私の心が弱いせいなのだろうか?

 そう思って靴棚に靴をしまっていると、急に後ろから声をかけられた。

「あ、あの! 五色さんですか?」

「え?」

 後ろを振り返ると、短めに丁寧に切られた髪に、少しそばかすが目立つ頬をしているが、瞳も大きく身長も低いので幼い印象を受けたが、制服のリボンをみると、私と同じ学年であることがわかった。

「そうだけど、あなたは?」

「わ、私は同じ学年のFクラスに在籍している田村たむら 鮎子あゆこと申します」

 ニコリと微笑む彼女の顔はどこまでも透き通っていて、とても可愛らしい。
 しかし、田村という苗字は多いがなにか胸に刺さるきがした。

「えっと、田村さん……」

「あ、鮎子でよいです。 それに、実は私以前から五色さんにお話があって」

「そう、なら私も愛でいいわ。 よろしくね鮎子さん」

 私に名前を呼ばれ、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる姿は、小動物を連想させ、なぜか体が疼いてくる。
 
「それで? 私に用があるって言ってたけど?」

「あぁ、それなんですが、一度私の兄に合っていただけませんか?」

「兄?」
 
 嫌な予感がしてきた。 頬を寒いのに汗が一筋流れ落ちる。

「はい! 現生徒会長の田村たむら 白馬はくばです」

 思い出した。 現生徒会長でこの学園のTOPでもある田村 白馬を、彼女は彼の妹なのか。
 以前、生徒会の手伝いをしたさいに生徒会へ入らないかと強く薦められたが、結局断りをいれた。

「そ、そうお兄様が私にいったいどんな御用が?」

「あ、そうそう、愛さん今大変らしいですね。 ちょっとその件も含め兄からご提案があると」

 ゾクッ。
 悪寒が背中を伝う。 まさかASHINAの息がかかった人たちなのだろうか?

 太陽の光が学園内に入り込んでくる。 それに一瞬目の前の彼女が照らされたかと思うと、今までの笑顔は消え。
 怪しげな笑みを浮かべていた。 無意識に体は後ろに下がるが、ゴツンと冷たい無機質な靴棚に背中が触れた。

「いやですね~。 私たちはなんにもしませんよ。 ただ、ちょっとだけお話がしたいだけなんです――」

 小柄な体を近づけ、両腕を掴まれると首筋に彼女の吐息が感じられるまで、顔を近づけてくる。
 
「い、いや」

「うふ、可愛い……。 本当に食べちゃいたいくらいです」

 スッと離れると、先ほどまでの不気味な表情ではなく、今までのような可愛らしい見た目に戻っている。

「それじゃ、放課後にお待ちしております♪」

 そう言って、彼女は自らの教室へ向かって歩き出していく。
 私はその場にしゃがみ込むと、そっと胸にしまっていたペンダントを取り出し、なんどもそれを親指の腹で撫でる。

 
 静かになった廊下を進み、教室へ入るなり私に向かって視線が送られ来た。
 さきほどの件といい、私がASHINAに狙われていることは、既に知られているようで、元々話しかけられなかったのに、更に遠巻きに「観察」される対象になってしまった。

 これで、この学園生活は今まで以上に枯れたものになってしまうのかと思うと、なぜかスッキリするような、寂しいようなそんな複雑な温い感情ができる。

 授業に移っても、先生はあえて私を遠ざけ質問もせず淡々と授業をこなしているのがわかった。
 当たり前だ。 下手に手助けなどしようものなら自らが危険にさらされてしまう。
 保身を優先するのは、当たり前なことだ。

 そして昼休みになると、爺が用意してくれたお弁当箱を一人で広げ食べようとしたとき、二人の男女が教室へ入ってくる。
 その瞬間、教室内はざわめきだし全員の視線がその二人に向けられた。

「おやおや――随分と辛気臭い教室ですね」

 スラっと伸びた足に、さらさらと流れるような綺麗な銀髪と女性を虜にしてしまう美貌を兼ね備えた人物、それが現生徒会長である田村 白馬であった。
 その横を姿勢を正し、丁寧に歩いているのが妹の田村 鮎子で、書記を務めている。

 一見地味な彼女であるが、今朝の一件で印象が変わった。

 田村生徒会長は、教室を眺めながら小馬鹿にしたように鼻で笑うと、まっすぐ私の席めがけて歩いてくる。
 そして、目の前に立つとこちらを見降ろしながら優しく言葉を投げかけてくれた。

「こんなヤツらの視線や態度など気にするな。 それよりも僕は君に用がある。 放課後と言っていたが待ちきれなくてね、来てしまった」

「もう、すみません……。 兄がどうしてもって」

 その言葉を聞いて、私も何か言わなければと思い口を開こうとしたとき、目の前に置かれていたお弁当をヒョイと簡単に奪われると、鮎子に手渡し私の腕を掴んでくる。

「え?」

「こんな辛気臭いところで食べていても、料理が不味くなるだけだ。 どうだい? 一緒に食べよう」

 ザワっと先ほど違った感じでざわめきだす教室へ会長は一言残し、私を連れて出ていった。

「ごめんごめん、辛気臭いってのは失礼した。 皆さんの大切な休憩時間を乱し申し訳なかった。 ごゆるりとお過ごしください」

 教室の外へ出ても私の手を離さず、鮎子はニコニコしながら横を歩いていく。

「ちょ、ちょっと! どこに行くんですか?」

「あぁ、伝えていなかったね。 僕たちの城だよ」

 そう言って連れてこられたのは、生徒会室で鍵を鮎子が開けると、勢いよく中に入るなり、会長はお茶の用意を始めた。

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