私の守護者

安東門々

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呻る双腕重機は雪の香り

第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑮

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 アンテナが屋根から落ちていく。 それと同時に動きを止める双腕重機は、ディーゼル音だけを低く鳴らしながら、ピクリとも動かなくなった。

「や、やった!」

 私は嬉しさのあまりにその場で少し飛び跳ねて喜んでしまうが、着地のときに、雪に足をとられ不覚にも転んでしまう。

「いたぁ……」
 
「お! お嬢様!」

 それを確認した彼は急いで降りてくると、私のもとへ駆け寄っていくる。
 そのとき、少しだけ右足に違和感を覚えた。
 
「大丈夫ですか!?」
 
「私は大丈夫だけど、あなたは?」

「え?」
 
 とぼけた返事をするが、溶けた雪がスカートを通り越して下着に冷たい感触が伝わってくる。
 しかし、私はそれを気にする間もなく無理やり彼のスーツの裾をめくると、靴下で隠れていてもわかるほど、腫れ上がっていた。

「ちょっと! 大丈夫じゃないでしょう」

「え、えっと……。 少しだけ痛みますかね」

 嘘だとわかる。 きっとアンテナを壊すときに痛めたに違いない。
 今度は私が彼に肩を貸す格好をとった。

「そ、そんな! 歩けます」

「いいの、それにこれ以上悪化して私を守れなくなっては困るもの」

 最後まで渋っていたが、私が小さなクシャミをすると、小さなため息をついて私に体を預けてくる。

「し、失礼します」

 ずっしりと鍛えあげられた体の重みと、この寒さでも汗ばんだ体の香りに包みこまれた。
 
「重くないですか?」

「平気、だからいきましょう」

 もうつま先の感覚なんて気にしない。 降り積もりつつある雪は私たち二人の体温を奪おうとするが、それは叶わないず、ただ優しく撫でるだけだ。
 とても心地が良い。

「お疲れ様」

「いいえ、最後はお嬢様がいないと無理でした。 でも、今後はあのような危険な行為は慎んでいただけると助かります」

「そう? でもなんとかなったじゃない」

「そうですけど……。 やっぱり危険です」

「ん、分かった。 留意しておくわね」

「便利な言葉ですね」

 クスリと彼が笑うと、自然と私も笑みがこぼれる。
 そんなやり取りをしながら百メートルほど歩くと、目の前に爺が乗ったシルバーのワンボックスカーが停まる。

「ご無事ですか⁉」

 私は笑顔で右手を振って答えた。
 彼を車に乗せ、私も隣に腰掛けると家に向かって車は走りだした。

「今日学園無理?」

「無理でしょうね」

「そっか。 じゃあ帰りの本屋も無理?」

「無理でしょうね」

 外を見つめていると、息で窓ガラスが白く濁る。
 私はそこに指で文字を書いた。

『ありがとう』

 反対側の窓ガラスに彼は同じように文字を書く。

『ご無事でなにより』

 家に到着するなり、医務室へ彼は運ばれ、爺は私を部屋まで送ってくれる。

「お嬢様、なにかご用意いたしますか?」

「そうね。 とりあえずお風呂に入りたいかも」

 ASHINAが動いた。 けれども、初手はこちらが防いだのは大きい。
 きっとヤツらはもっと慎重になって行動してくるだろう。
 だけど、今願うことはどうか彼の足が酷くならないようにと、ただそれだけだった。


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