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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑭
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急いで曲がり、身を隠すと敵はまるでこちらに気が付いていないのか、すぐ横を通り過ぎていった。
「す、すごい……‼」
私の予想通り、ここ周辺を一望できるのは、南にある大きな建設会社のビルだけ、しかし、そのビルからはここの通路は死角になっているので、気付かれる心配はなかった。
それでも、いつまでもここが安全とか限らない、相手はこちらを見失ったことにより、なりふり構わず探しだすだろう。
それまでの小休止はできそうだ。
「お嬢様、凄いです! よく死角だってわかりましたね」
関心したように、若干乱れかかった息を整えながら、私を見つめて来る蒲生さんの額に、うっすらと汗が見える。
「そ、その。 もう、降ろして……」
あまりの距離感に恥ずかしくなり、慌てて降ろしてもらうように頼むと、彼は気が付き、私を丁寧に降ろしてくれた。
「申し訳ございません。 気が付かずに、それにしても敵はどこから、我々を監視しているのでしょうか?」
その問いに関して、私は詳しく教えた。
おそらく、ASHINAの傘下に入っている建設会社なのだろうが、まさかこうも大胆な手段を使ってくるとは思わなかった。
それでも、警察にはコネが薄いらしく、運転手からは無事を告げるメッセージと、警察車両が違法改造車を追い回している情報が手に入った。
これで、私たちはあの双腕重機に集中すればよいだけとなる。
「不思議です。 お嬢様の情報が正しければ、敵は相当強い電波によってあの機械を操っていることになりますが、それは現実的に考えて不可能でしょう」
「そうね、途中に人材を揃えて連絡を取り合っているような感じもないし、直接操縦していると思うけど」
お互い考えを巡らせていると、私の頬に冷たい感触があった。
そらを見上げると、そこには雪が降りだし鉛色の空に色を添えている。
ふとしたことで緊張が緩み、私の体は一気に冷えだし、今まで忘れていたつま先の深いな感覚が蘇ってきた。
「うっ――」
思わず辛い声が漏れてしまった。 それを聞き逃すような蒲生さんではなく、慌てて私に近づくと少々躊躇ったような表情をしたが、深呼吸を一回大きくすると、長く逞しい腕で私を抱き寄せると、今まで走り続けてきた暖かな体温と、筋肉質な体が優しく包んでくれた。
「も、申し訳ございません。 辛いと思いますが、私が絶対お嬢様をお守りいたします。 それと嫌かもしれませんが、今は我慢してください」
照れたような、しどろもどろな口調に頬が緩む。 首を小さく左右に振ると、私はそのまま彼の胸板に体重を預けた。
一瞬で彼の香りに包まれ、なんとも言えないホワホワとした感覚になる。
「今日、本を買えなくなってしまったし、皆勤賞も無くなってしまった」
私のどうでもよい我儘に、彼はただ「申し訳ございません」を連ねていく。
別に怒っているつもりはなく、むしろ、この状況で黙っているのが無理だった。
次第に体に熱が伝わり、寒さが和らいでいく。
気になる足も、今は彼の存在が大きすぎてそれほど気にならない。
あまりにも近すぎて呼吸が苦しくなったので、少しだけ視線をあげてみると、ふと視界に何か入った。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「ねぇ、あれってなんのアンテナ?」
私が指さす方向を蒲生さんが見る。
「あれは、テレビでもないですね……。 もしかすると⁉」
彼はいきなり今までの表情ではなく、キリッとした表情に変わると何かを考え始めた。
そっと体を離すと、今まで気が付かなかったが吐く息が白い。
それほど空気が冷たかったのかと思うと、この現状がいかにこちらに不利なのかを物語っている。
「お嬢様、ここに隠れていてください」
「一人でやるの?」
なんとなく、彼がやりそうなことが見えている。
「私はあなたの楯です。 安心してください、必ずお守りいたします」
そっとペンダントへ手を伸ばし強く握りしめた。
それを見た彼は満足そうに笑うと呼吸を整え、壁を登り始める。
壁よりも上に行くと、確実に視界に入る。 つまり、居場所が特定されてしまう。
発見され、攻撃されるよりも素早くあのアンテナを破壊しなければならない。
「うっしょ!」
壁を一気にのぼると、一旦遠くで響いていたディーゼル音が急にこちらに向かってくるのがわかった。
「急いで!」
キザに親指をたてて一回微笑むと、そのまま雪が残る屋根の上を走りだした。
「うぉ!」
足を滑らせ、転がりそうになるが持ち前の身体能力と鍛えた筋力でもちこたえ、また走っていく。
それと同時に、障害物を破損しながら近づいてくる双腕重機は、新型ということもあってか、動きが早い。
操縦者も相当の腕前と思えた。
「頑張って!」
私の声が聞こえているのかわからないが、その頼りになる背中に向かって声を振り絞った。
「よっしゃ!」
先にアンテナに到着したのは蒲生さん、急いでアンテナの破壊に取り掛かるが、敵も敵でしっかりと保護されたアンテナは強固で、足場が不安定な彼の力では容易く破壊できそうもない。
そうしているうちに、双腕重機は彼の目の前まで来ている。
それを横目で確認しながら、何度も蹴りをアンテナに繰り出すが、間に合いそうもない。
「もう少し――‼」
私に何かできないだろうか? このひ弱な私でも、彼を助ける術はないのか。
そう考えているうちに、勝手に体が動き隠れていた路地を出て、敵から一番目立つ場所にでると思いっきり腕を振ってアピールした。
それを見つけた蒲生さんは、信じられないような表情をしたが、それは敵も一緒で双腕重機の動きが一瞬鈍り、速度が落ち、腕がこちらを向こうとする。
察した彼はこれを好機と認識し、一気にアンテナへ向かって攻撃をしていった。
操縦者も理解したのか、慌てて車体を戻し彼に迫ろうとしたが、その一瞬が勝敗を分けた。
「これで! どうだ!」
バキンッ‼‼
大きなアンテナが耳に残る音をたて屋根から滑り落ちっていった。
「す、すごい……‼」
私の予想通り、ここ周辺を一望できるのは、南にある大きな建設会社のビルだけ、しかし、そのビルからはここの通路は死角になっているので、気付かれる心配はなかった。
それでも、いつまでもここが安全とか限らない、相手はこちらを見失ったことにより、なりふり構わず探しだすだろう。
それまでの小休止はできそうだ。
「お嬢様、凄いです! よく死角だってわかりましたね」
関心したように、若干乱れかかった息を整えながら、私を見つめて来る蒲生さんの額に、うっすらと汗が見える。
「そ、その。 もう、降ろして……」
あまりの距離感に恥ずかしくなり、慌てて降ろしてもらうように頼むと、彼は気が付き、私を丁寧に降ろしてくれた。
「申し訳ございません。 気が付かずに、それにしても敵はどこから、我々を監視しているのでしょうか?」
その問いに関して、私は詳しく教えた。
おそらく、ASHINAの傘下に入っている建設会社なのだろうが、まさかこうも大胆な手段を使ってくるとは思わなかった。
それでも、警察にはコネが薄いらしく、運転手からは無事を告げるメッセージと、警察車両が違法改造車を追い回している情報が手に入った。
これで、私たちはあの双腕重機に集中すればよいだけとなる。
「不思議です。 お嬢様の情報が正しければ、敵は相当強い電波によってあの機械を操っていることになりますが、それは現実的に考えて不可能でしょう」
「そうね、途中に人材を揃えて連絡を取り合っているような感じもないし、直接操縦していると思うけど」
お互い考えを巡らせていると、私の頬に冷たい感触があった。
そらを見上げると、そこには雪が降りだし鉛色の空に色を添えている。
ふとしたことで緊張が緩み、私の体は一気に冷えだし、今まで忘れていたつま先の深いな感覚が蘇ってきた。
「うっ――」
思わず辛い声が漏れてしまった。 それを聞き逃すような蒲生さんではなく、慌てて私に近づくと少々躊躇ったような表情をしたが、深呼吸を一回大きくすると、長く逞しい腕で私を抱き寄せると、今まで走り続けてきた暖かな体温と、筋肉質な体が優しく包んでくれた。
「も、申し訳ございません。 辛いと思いますが、私が絶対お嬢様をお守りいたします。 それと嫌かもしれませんが、今は我慢してください」
照れたような、しどろもどろな口調に頬が緩む。 首を小さく左右に振ると、私はそのまま彼の胸板に体重を預けた。
一瞬で彼の香りに包まれ、なんとも言えないホワホワとした感覚になる。
「今日、本を買えなくなってしまったし、皆勤賞も無くなってしまった」
私のどうでもよい我儘に、彼はただ「申し訳ございません」を連ねていく。
別に怒っているつもりはなく、むしろ、この状況で黙っているのが無理だった。
次第に体に熱が伝わり、寒さが和らいでいく。
気になる足も、今は彼の存在が大きすぎてそれほど気にならない。
あまりにも近すぎて呼吸が苦しくなったので、少しだけ視線をあげてみると、ふと視界に何か入った。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「ねぇ、あれってなんのアンテナ?」
私が指さす方向を蒲生さんが見る。
「あれは、テレビでもないですね……。 もしかすると⁉」
彼はいきなり今までの表情ではなく、キリッとした表情に変わると何かを考え始めた。
そっと体を離すと、今まで気が付かなかったが吐く息が白い。
それほど空気が冷たかったのかと思うと、この現状がいかにこちらに不利なのかを物語っている。
「お嬢様、ここに隠れていてください」
「一人でやるの?」
なんとなく、彼がやりそうなことが見えている。
「私はあなたの楯です。 安心してください、必ずお守りいたします」
そっとペンダントへ手を伸ばし強く握りしめた。
それを見た彼は満足そうに笑うと呼吸を整え、壁を登り始める。
壁よりも上に行くと、確実に視界に入る。 つまり、居場所が特定されてしまう。
発見され、攻撃されるよりも素早くあのアンテナを破壊しなければならない。
「うっしょ!」
壁を一気にのぼると、一旦遠くで響いていたディーゼル音が急にこちらに向かってくるのがわかった。
「急いで!」
キザに親指をたてて一回微笑むと、そのまま雪が残る屋根の上を走りだした。
「うぉ!」
足を滑らせ、転がりそうになるが持ち前の身体能力と鍛えた筋力でもちこたえ、また走っていく。
それと同時に、障害物を破損しながら近づいてくる双腕重機は、新型ということもあってか、動きが早い。
操縦者も相当の腕前と思えた。
「頑張って!」
私の声が聞こえているのかわからないが、その頼りになる背中に向かって声を振り絞った。
「よっしゃ!」
先にアンテナに到着したのは蒲生さん、急いでアンテナの破壊に取り掛かるが、敵も敵でしっかりと保護されたアンテナは強固で、足場が不安定な彼の力では容易く破壊できそうもない。
そうしているうちに、双腕重機は彼の目の前まで来ている。
それを横目で確認しながら、何度も蹴りをアンテナに繰り出すが、間に合いそうもない。
「もう少し――‼」
私に何かできないだろうか? このひ弱な私でも、彼を助ける術はないのか。
そう考えているうちに、勝手に体が動き隠れていた路地を出て、敵から一番目立つ場所にでると思いっきり腕を振ってアピールした。
それを見つけた蒲生さんは、信じられないような表情をしたが、それは敵も一緒で双腕重機の動きが一瞬鈍り、速度が落ち、腕がこちらを向こうとする。
察した彼はこれを好機と認識し、一気にアンテナへ向かって攻撃をしていった。
操縦者も理解したのか、慌てて車体を戻し彼に迫ろうとしたが、その一瞬が勝敗を分けた。
「これで! どうだ!」
バキンッ‼‼
大きなアンテナが耳に残る音をたて屋根から滑り落ちっていった。
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