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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑬
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「やられた」
手を握りながら走っていると、新雪のぬかるんだ路面にローファーでは踏ん張りがきかず、思うように走れない。
そうしているうちに、私たちの退路がドンドンと断たれていった。
何度も道路を迂回しているうちに、屋敷には近づいていくが不穏な空気も同時に彼は嗅ぎとっていた。
「うまいもんです。 これほどの連携をしてくるなんて」
そう、私たちは追われながら徐々にあの工事現場付近まで追い詰められている。
もう目と鼻の先に現場が見えた。
「お嬢様! 絶対私から離れないでください!」
理解しているが、先ほどから走りっぱなしなうえに、靴に雪が染み込んで何とも言えない不快感と、つま先の感覚が鈍りだしてきている。
足から意識を遠のけようと周りの景色をみようとすると、違和感に気が付いた。
「ねぇ! 周りの家に人がいない!」
先を走っていた蒲生さんが急に立ち止まる。
息一つ乱れておらず、私はその場に倒れそうになるのをこらえ、必死に体中に酸素を送り込んでいった。
「確かに……。 静かすぎる。 家の明かりも灯っていないうえに、車も一台もない」
ゴクリと生唾を飲み込む。 ここの住宅街は昼でもよく近所のお母さんたちが立ち話をしている光景がある明るい感じの住宅街であった。
雪が降ったからという理由もあるが、それにしても生命感がまるで感じられなかった。
「くる――!」
蒲生さんが急に反転し、私を抱きかかえながら裏路地へ飛び込んだ。
するとすぐに、大きな駆動音が辺りに響き渡り、顔を少しだけ出して確認すると、先の交差点から曲がってくる大きな工業用機械が見えた。
私は見たことのないタイプで、腕が二本もついている珍しい機械である。
「なんてモノ引き出してきたんだ! 新型の双腕重機か⁉」
確認を済ませると、少しの間考える素振りを見せると直ぐに、走りだそうとする。
「お嬢様、苦しいでしょうが今は我慢してください」
コクリと頷くと、彼はまた走りだそうとする。 しかし、私の足がもつれ前に倒れそうになった。
「え……」
ガクンと膝から崩れ落ちるように倒れていくと、硬く力強い腕が私の体を支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとう」
口では大丈夫なセリフを吐くが、下半身はブルブルと震え力が入らない。
つま先の感覚は既になく、走ったのにも関わらず寒さが全身を支配し始めていた。
「ちょっと無理そうですね……。 失礼します!」
「ヒャッ!」
いきなりのことでビックリしたが、いきなり私の足と肩に手をまわしたかと思うと、勢いよく抱え上げた。
いわゆる『お姫様抱っこ』状態である。
「嫌かもしれませんが、今は我慢してください」
後方からは駆動音が大きくなり、マシンの軋む音までも聞こえてくる。
こちらを見つけたのか、大きくエンジンがふけあがり、塀を壊しながらこちらに向かって突撃してきた。
「ちょっと! 塀壊れてる!」
「そのためでしょうね。 近隣の住民をどこにやったのかわかりませんが、人的被害が及ばないのは、こちらもラッキーです」
そう言っても、相手は人的被害を気にせずにこちらに向かってこれるとも受け取れた。
私を抱えながらも軽やかに駆ける蒲生さん。 とても頼りになるうえに、なんていうのか、その……。 顔の位置が至近距離なうえに、たくましい身体つきを直に感じられ、逃げているのに不謹慎だが、恥ずかしい気持ちになってくる。
それに、私を軽々と担いではいるが、本当は重いのではないだろうか? 今、そのような現状ではないのは理解していが、なぜか気になってしまう。
平均よりは少し痩せてはいるが、もし仮に【重たい】なんて思われているなら、どうしよう。
なんて馬鹿なことを考えているのだろうか、自分が嫌になる。
ただ真っすぐ私のために走ってくれている人を目の前に、そんな考えをすること事態間違いだと気が付く。
「私のために……」
自分の心のうちを、なぜか呟いてしまった。
気が付いているのかいないのかわからないが、彼は無言のまま走り続けた。
「お嬢様、聞こえますか!?」
大きな声で問いかけてる。 後方にはゆっくりと確実に迫ってくる双腕重機なる機械がある。
「あれは新型の双腕重機で、遠隔操作が可能です! 先ほどミラーで確認しましたが、操縦者はいません! どこかで我々を見ているはずです」
なるほど、ならばどこかに身を隠せれば、一時的に凌げる可能性はでてきた。
敵は必ず、見晴らしのよい場所でこちらを伺っている。
揺らぐ空を見上げるがヘリコプターのような飛翔体は確認できない、ならばどこだろう⁉ 一つ深呼吸をし落ち着いて考えた。
昔からここで暮らしている。 まるで鳥が上空から地上を見下ろすように、周辺の地図を脳内に描いていった。
「……! わかった。 この先の交差点で左に曲がって! 五十メートル先に、狭い路地があるの、そこに一旦避難して!」
「了解!」
手を握りながら走っていると、新雪のぬかるんだ路面にローファーでは踏ん張りがきかず、思うように走れない。
そうしているうちに、私たちの退路がドンドンと断たれていった。
何度も道路を迂回しているうちに、屋敷には近づいていくが不穏な空気も同時に彼は嗅ぎとっていた。
「うまいもんです。 これほどの連携をしてくるなんて」
そう、私たちは追われながら徐々にあの工事現場付近まで追い詰められている。
もう目と鼻の先に現場が見えた。
「お嬢様! 絶対私から離れないでください!」
理解しているが、先ほどから走りっぱなしなうえに、靴に雪が染み込んで何とも言えない不快感と、つま先の感覚が鈍りだしてきている。
足から意識を遠のけようと周りの景色をみようとすると、違和感に気が付いた。
「ねぇ! 周りの家に人がいない!」
先を走っていた蒲生さんが急に立ち止まる。
息一つ乱れておらず、私はその場に倒れそうになるのをこらえ、必死に体中に酸素を送り込んでいった。
「確かに……。 静かすぎる。 家の明かりも灯っていないうえに、車も一台もない」
ゴクリと生唾を飲み込む。 ここの住宅街は昼でもよく近所のお母さんたちが立ち話をしている光景がある明るい感じの住宅街であった。
雪が降ったからという理由もあるが、それにしても生命感がまるで感じられなかった。
「くる――!」
蒲生さんが急に反転し、私を抱きかかえながら裏路地へ飛び込んだ。
するとすぐに、大きな駆動音が辺りに響き渡り、顔を少しだけ出して確認すると、先の交差点から曲がってくる大きな工業用機械が見えた。
私は見たことのないタイプで、腕が二本もついている珍しい機械である。
「なんてモノ引き出してきたんだ! 新型の双腕重機か⁉」
確認を済ませると、少しの間考える素振りを見せると直ぐに、走りだそうとする。
「お嬢様、苦しいでしょうが今は我慢してください」
コクリと頷くと、彼はまた走りだそうとする。 しかし、私の足がもつれ前に倒れそうになった。
「え……」
ガクンと膝から崩れ落ちるように倒れていくと、硬く力強い腕が私の体を支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとう」
口では大丈夫なセリフを吐くが、下半身はブルブルと震え力が入らない。
つま先の感覚は既になく、走ったのにも関わらず寒さが全身を支配し始めていた。
「ちょっと無理そうですね……。 失礼します!」
「ヒャッ!」
いきなりのことでビックリしたが、いきなり私の足と肩に手をまわしたかと思うと、勢いよく抱え上げた。
いわゆる『お姫様抱っこ』状態である。
「嫌かもしれませんが、今は我慢してください」
後方からは駆動音が大きくなり、マシンの軋む音までも聞こえてくる。
こちらを見つけたのか、大きくエンジンがふけあがり、塀を壊しながらこちらに向かって突撃してきた。
「ちょっと! 塀壊れてる!」
「そのためでしょうね。 近隣の住民をどこにやったのかわかりませんが、人的被害が及ばないのは、こちらもラッキーです」
そう言っても、相手は人的被害を気にせずにこちらに向かってこれるとも受け取れた。
私を抱えながらも軽やかに駆ける蒲生さん。 とても頼りになるうえに、なんていうのか、その……。 顔の位置が至近距離なうえに、たくましい身体つきを直に感じられ、逃げているのに不謹慎だが、恥ずかしい気持ちになってくる。
それに、私を軽々と担いではいるが、本当は重いのではないだろうか? 今、そのような現状ではないのは理解していが、なぜか気になってしまう。
平均よりは少し痩せてはいるが、もし仮に【重たい】なんて思われているなら、どうしよう。
なんて馬鹿なことを考えているのだろうか、自分が嫌になる。
ただ真っすぐ私のために走ってくれている人を目の前に、そんな考えをすること事態間違いだと気が付く。
「私のために……」
自分の心のうちを、なぜか呟いてしまった。
気が付いているのかいないのかわからないが、彼は無言のまま走り続けた。
「お嬢様、聞こえますか!?」
大きな声で問いかけてる。 後方にはゆっくりと確実に迫ってくる双腕重機なる機械がある。
「あれは新型の双腕重機で、遠隔操作が可能です! 先ほどミラーで確認しましたが、操縦者はいません! どこかで我々を見ているはずです」
なるほど、ならばどこかに身を隠せれば、一時的に凌げる可能性はでてきた。
敵は必ず、見晴らしのよい場所でこちらを伺っている。
揺らぐ空を見上げるがヘリコプターのような飛翔体は確認できない、ならばどこだろう⁉ 一つ深呼吸をし落ち着いて考えた。
昔からここで暮らしている。 まるで鳥が上空から地上を見下ろすように、周辺の地図を脳内に描いていった。
「……! わかった。 この先の交差点で左に曲がって! 五十メートル先に、狭い路地があるの、そこに一旦避難して!」
「了解!」
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