私の守護者

安東門々

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呻る双腕重機は雪の香り

第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑫

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 部屋1るとき、念のため顔を隠しながら出ると案の定、彼が廊下で待っていた。
「おはようございま、ってお嬢様なにを?」

 両手で顔を隠しながら出てきた私に対して、もっともらしい言葉が来たが、寝起きの顔を見られるのは慣れていない、もちろん使用人や爺たちにはあまり気にしたことがないが、蒲生さんに見られるとなると恥ずかしさが込み上げてくる。
 
 そんな私に比べ、彼はずいぶんと綺麗な顔をしていた。
 きっちり整えられた服装に、少しだけ乱れた髪と髭の剃り跡がない顔は、朝の新鮮さもあってか、とても綺麗だった。
 
 もともと、化粧をしない私だったが明日からは少しぐらいはしたほうが良いのではないだろうかと思ってしまう。

「な、なんでもないの、それと明日からは朝の迎えはけっこうよ。 学園にいくタイミングでお願いするわ」
 
 彼の頭の上に「?」マークが何個も浮かんでいるが、そんな彼を正面にカニ歩きの恰好で通り過ぎると、いつもより早歩きで向かっていった。
 空気を読んでくれたのか、わからないが追ってはこない点は素晴らしい、昨日の私はそんなことは考えなかった。

 なぜ今日になっていきなり気にしださなければならないのだろうか?

 朝食も素早く済ませ、部屋で念入りに身支度を整えていく。
 特に髪は今までにないくらい念入りにしていく。
 使ったことのない頂いたあんず油でまとめ、引き出しの奥にしまい込んだ、去年の誕生日に父にもらった薔薇の香水を鏡を見ながらうなじへワンプッシュだけ吹きかける。

 香りが馴染むハートノートまでに、授業の確認と制服の汚れをチェックしていく。
 時計を確認し、今日はいつもより早めに出発するため、そろそろ部屋を出なければならない。

 香水の香りが馴染んできたであろう時間にもなり、私はゆっくりと扉を開くと、彼は朝と同じような場所で待っていてくれた。

「行きますか?」

 その問いに頷くと、廊下を玄関に向かって歩きだすが、彼は真横ではなく少し後ろに下がりながらぴったりと離れず付いてくる。
 直に香水の香りがいきそうだが、どう思ってくれたのだろうか?

 外では車が待機しており、うっすらと雪が溶けたボンネットに、まだ溶けていない雪が混ざっていた。
 運転手が扉を開けて、私と蒲生さんを車内へ入れてくれる。
 バタンとドアが閉まると運転手が私を見て微笑みながら言ってくれた。

「おや? 今日は珍しく香水ですか?」
 
 珍しくなんて余計な言葉を付け足さないで欲しかった。
「そ、そうね。 たまには気分を変えてみたくて」
 
 外を眺めて流そうと思ったが、今度反応したのは彼だった。

「やはり、とても良い香りだと思います。 ローズですか? お嬢様にとてもお似合いですよ」

 外を眺めていた私の顔に一気に熱が伝わるのがわかった。
 恥ずかしさが九割で残りの一割は嬉しが占めている。
 それを見た運転士が深く帽子を被って目元を隠すとハンドルを握って出発を告げた。

「それでは、出発いたします」
 

 車が走り出すと一気に緊張感が増してくる。
 なぜならば、昨日の工事現場を避けて通ているが、もし何かしらの行動に出た場合どこからでも追ってこられるルートに現場は位置していた。

「うまい配置ですね。 かなりこちらを研究しているかと」
 
 なんて、蒲生さんは逆に相手を褒めてしまうほど見事な配置のようだ。
 大きく迂回し、工事現場から適度に離れたあたりで何かが弾ける音が聞こえたかと思うと、新雪で濡れた道路の上を車が回転しだした。

「キャアアアア!」
 
「お嬢様!」

 激しい揺れと音に驚いた私を、蒲生さんは身体を重ねて守ってくれる。
 温かな体温と微かに香ってくる彼の匂いに、安堵を覚えるが震える車は止まることなく、ガードレールに激突した。

 ドシャーーン!

「グゥッ!」
 
 運転手が無理やり車を制御し、うまく車体を滑らせ被害を軽減するが、車は走れそうもなかった。
「だ、大丈夫!?」

 私は慌てて二人の安否を確かめると、彼は少しも表情を崩すことなく頷いてくれたが、問題は運転手だった。

「も、申し訳ございません……あ、脚が動かないんで……」

「もういいから! とにかく安静にして」

 窓の外にはこちらの様子を伺うような野次馬と携帯端末を使って誰かに連絡をしている人がチラホラと見える。
 
「お嬢様!」

 蒲生さんがフロントガラスの向こう側を指さした。
 そこには、先日家の周りを取り囲んだ違法改造バイクと車の集団が押し寄せてきている。

「逃げましょう」

「ちょっと! それはできない」

 彼は急いで車内のあちこちを何かを探しはじめたが、運転手を残して逃げるなんてできなかった。

「大丈夫ですよ彼なら、ここは人目も多いうえに、もうじき警察や救急車も着ます。 ですが、ここでお嬢様になにかあってはいけません、おっと、あったあった」

 強めの口調で言い放つと同時に、助手席の下にしまってあった緊急脱出ハンマーを取り出すと、手際よく運転手と私のシートベルトを切り、自分の上着を脱いぐと私にそれを被せてきた。

「ちょっと動かないでください!」

 バリン!! 

 ガラスが割れる音が聞こえ、その後に細かく砕く音が続く。
 視界が塞がれた状態から、一気に解放されたかと思うと、上着を割れた窓ガラスのふちに敷き一人で脱出した。
 
「さあ! お嬢様も急いで」

「で、でも……」

「大丈夫ですよお嬢様、私のことはお気になさらずに」

 苦しそうな笑顔をこちらに向けてきてくれる。 私は下唇を強く噛むと外で手を差し伸べている彼の手を握った。
 すると勢いよく引っ張られ、左手で腹部を抱えられるような恰好で、外へだされた。
 割れたガラスをハンマーで綺麗に取り除き、万が一のことを考えて自分の上着を敷いてくれたのだ。

「さあ、逃げますよ」

「逃げるってどこへ!?」

「とりあえず、お屋敷へ」

 学園に行く予定だった鞄を車の中へ残し、私たちは急いで来た道を戻っていく。

 
 
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