15 / 54
呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑪
しおりを挟む
お風呂上りは、入念なストレッチを行う。 健康を意識している面もあるが、単純にほぐれた体でストレッチを行うととても気持ちがよい。
暖まった体に白湯を入れ、老廃物を出しやすくし、冷えないような恰好で静かに夜を過ごしていった。
さすがにお風呂の近くでは蒲生さんは来なかったが、途中の部屋で音楽を聴きながら待っていた。
「どんな音楽を聴いているの?」
いつも唐突に話しかけているが、本来ならば、一言二言交えてから、聞くのがよいのではないだろうか?
ここにきて、私のコミュニケーション能力の低さが憎まれる。
人と接するのが嫌いなのではなく、単純に苦手という感じがしていた。
それは誰に対してもそうで、普通ならば唐突に本題に入る前になにか言ってから入るほうが良いとは思っている。
それでも、彼は嫌な顔することなく私の質問に答えてくれた。
「私ですか? そうですね。 色々聴きますが、一番聴いているのはアステカ音楽ですかね」
またマニアックな分野を述べてくる。
「どういった音楽なの?」
「なんて言ったらいいんですかね。 細かいことは全然わかりませんが、とにかく綺麗で元気になれます」
さすが南米の音楽というのだろうか、細かい部分はわからないがなんとなく想像できた。
「お嬢様はどんな音楽を聴かれるのですか? 私の勝手なイメージだとクラシックなどをお聴きになっているイメージです」
その質問は想定していたが、いざ答えるとなると緊張する。
なぜなら、大抵の人が私をクラシック好きと勝手に認識するので、本当のことを言い出せないでいる。
クラシックは嫌いではないが、自ら進んで聴いてみたいとは思わなかった。
「なんで、みんな私がクラシック音楽が好きだって思うのかしら?」
毛先の乾かしが甘い髪の毛を、右手の人差し指でクルクルといじってしまう。
「違うのですか?」
どうする、本当のことを言うべきなのだろうか。
少し迷ったが、どうせ一緒に居る時間が増えればバレてしまうことなので、敢えて言うことにする。
「私が好きなのは……。 えっと、ちょっと激しい音楽っていうか……」
最後に向かって尻すぼみになってしまう。
気恥ずかしが増し、濁すような回答になってしまった。
「もしかすると、ハードロックですか?」
一発で言い当てられ、下を向きながら小さく頷く。
あの頭の中が痺れるような感覚が好きで、読書の時間以外はよく聴いている。
逆に読書のときは「無音」を楽しみながら読書をしていた。
いくら無音と言えども、ここは人間が暮らす世界、窓が揺れる音や、廊下で誰かが歩いている音など、完全な「無音」の世界は無かった。
それが好きで、読書の邪魔にもならず心地がよかった。
「そうですか、ちょっと意外でしたが、良いと思います」
何が良いのか問いただしたいが、とりあえず受け入れてくれたことに安堵を覚えた。
その後は部屋まで送ってくれ「おやすみ」と告げ別れたが、いつもは読書をして寝ている。
しかし、今日はベッドへ潜り込むと枕の下にしまってある携帯端末を取り出し、検索エンジンへキーワードを入力していった。
『アステカ音楽とは』
すぐに検索結果が表示され、動画の欄をタップすると自然と音楽が流れ出していく。
急いでイヤホンをすると、耳の奥へ音楽が届きだした。
軽やかで明るいながらも、神秘的な曲調がなんとも言えず、端末を握っている手の人差し指でリズムを刻み始めてしまった。
一曲聴き終えるとイヤホンを外し、小さく息を吐いた。
「ふぅ。 想像してたよりも良いかも」
まだまだ謎の多い私の守護者、それでもわかるのは「悪い人」には思えない。
むしろ、不思議がいっぱいで興味が湧いてくる。
明日は学園があり、外にでていく。 きっと何かしらのハプニングはありそうだが彼ならなんとかしてくれそうだった。
もう一度耳にイヤホンを戻すと、次の音楽を聴きだした。
これも軽やかで軽快なリズムでありながらも、深く神秘的な音色に聞き入ってしまう。
そう思っていると、自然と体の電源が切れていくのがわかった。
慌てて耳から外し、枕の下へ端末をしまうと部屋の明かりを消した。
外からは風が弱まったのか、夜の話声がよく聞こえてくる。
これが、もう少したつと雪たちに変わってしまう。 そうなる前に夜たちは一生懸命別れを惜しむかのように話し続けていた。
その声はとても安らかで、いつも私を眠りに誘ってくれる。
明日はきっと素敵な日になりそうだ。 買う候補の本の一覧を脳内で整理していると、いよいよ瞳が閉じだし小さな声で「おやすみ」を告げ眠りに入っていった。
次の日の朝起きると気持ち温かい、これはと思い窓の外を覗くと予想通り雪がちらつきだしていた。
窓を開け右手を伸ばし雪を掴むとそっと部屋の中へ入れる。
小さな雪の結晶は瞬く間に手のひらの上で消えていく。 それをゆっくりと眺め終えると窓を閉め、暖房のスイッチを入れた。
待っている間に軽く櫛で髪の毛を整え、鏡で寝起きの顔をチェックする。
少しだけムクんだ顔に手をやり、ギュウギュウと絞り出すように追いやったが、あまり改善できていない。
そうしているうちに暖房は部屋を暖め始め、パジャマから部屋着へ着替えると爺が朝食の合図を鳴らした。
暖まった体に白湯を入れ、老廃物を出しやすくし、冷えないような恰好で静かに夜を過ごしていった。
さすがにお風呂の近くでは蒲生さんは来なかったが、途中の部屋で音楽を聴きながら待っていた。
「どんな音楽を聴いているの?」
いつも唐突に話しかけているが、本来ならば、一言二言交えてから、聞くのがよいのではないだろうか?
ここにきて、私のコミュニケーション能力の低さが憎まれる。
人と接するのが嫌いなのではなく、単純に苦手という感じがしていた。
それは誰に対してもそうで、普通ならば唐突に本題に入る前になにか言ってから入るほうが良いとは思っている。
それでも、彼は嫌な顔することなく私の質問に答えてくれた。
「私ですか? そうですね。 色々聴きますが、一番聴いているのはアステカ音楽ですかね」
またマニアックな分野を述べてくる。
「どういった音楽なの?」
「なんて言ったらいいんですかね。 細かいことは全然わかりませんが、とにかく綺麗で元気になれます」
さすが南米の音楽というのだろうか、細かい部分はわからないがなんとなく想像できた。
「お嬢様はどんな音楽を聴かれるのですか? 私の勝手なイメージだとクラシックなどをお聴きになっているイメージです」
その質問は想定していたが、いざ答えるとなると緊張する。
なぜなら、大抵の人が私をクラシック好きと勝手に認識するので、本当のことを言い出せないでいる。
クラシックは嫌いではないが、自ら進んで聴いてみたいとは思わなかった。
「なんで、みんな私がクラシック音楽が好きだって思うのかしら?」
毛先の乾かしが甘い髪の毛を、右手の人差し指でクルクルといじってしまう。
「違うのですか?」
どうする、本当のことを言うべきなのだろうか。
少し迷ったが、どうせ一緒に居る時間が増えればバレてしまうことなので、敢えて言うことにする。
「私が好きなのは……。 えっと、ちょっと激しい音楽っていうか……」
最後に向かって尻すぼみになってしまう。
気恥ずかしが増し、濁すような回答になってしまった。
「もしかすると、ハードロックですか?」
一発で言い当てられ、下を向きながら小さく頷く。
あの頭の中が痺れるような感覚が好きで、読書の時間以外はよく聴いている。
逆に読書のときは「無音」を楽しみながら読書をしていた。
いくら無音と言えども、ここは人間が暮らす世界、窓が揺れる音や、廊下で誰かが歩いている音など、完全な「無音」の世界は無かった。
それが好きで、読書の邪魔にもならず心地がよかった。
「そうですか、ちょっと意外でしたが、良いと思います」
何が良いのか問いただしたいが、とりあえず受け入れてくれたことに安堵を覚えた。
その後は部屋まで送ってくれ「おやすみ」と告げ別れたが、いつもは読書をして寝ている。
しかし、今日はベッドへ潜り込むと枕の下にしまってある携帯端末を取り出し、検索エンジンへキーワードを入力していった。
『アステカ音楽とは』
すぐに検索結果が表示され、動画の欄をタップすると自然と音楽が流れ出していく。
急いでイヤホンをすると、耳の奥へ音楽が届きだした。
軽やかで明るいながらも、神秘的な曲調がなんとも言えず、端末を握っている手の人差し指でリズムを刻み始めてしまった。
一曲聴き終えるとイヤホンを外し、小さく息を吐いた。
「ふぅ。 想像してたよりも良いかも」
まだまだ謎の多い私の守護者、それでもわかるのは「悪い人」には思えない。
むしろ、不思議がいっぱいで興味が湧いてくる。
明日は学園があり、外にでていく。 きっと何かしらのハプニングはありそうだが彼ならなんとかしてくれそうだった。
もう一度耳にイヤホンを戻すと、次の音楽を聴きだした。
これも軽やかで軽快なリズムでありながらも、深く神秘的な音色に聞き入ってしまう。
そう思っていると、自然と体の電源が切れていくのがわかった。
慌てて耳から外し、枕の下へ端末をしまうと部屋の明かりを消した。
外からは風が弱まったのか、夜の話声がよく聞こえてくる。
これが、もう少したつと雪たちに変わってしまう。 そうなる前に夜たちは一生懸命別れを惜しむかのように話し続けていた。
その声はとても安らかで、いつも私を眠りに誘ってくれる。
明日はきっと素敵な日になりそうだ。 買う候補の本の一覧を脳内で整理していると、いよいよ瞳が閉じだし小さな声で「おやすみ」を告げ眠りに入っていった。
次の日の朝起きると気持ち温かい、これはと思い窓の外を覗くと予想通り雪がちらつきだしていた。
窓を開け右手を伸ばし雪を掴むとそっと部屋の中へ入れる。
小さな雪の結晶は瞬く間に手のひらの上で消えていく。 それをゆっくりと眺め終えると窓を閉め、暖房のスイッチを入れた。
待っている間に軽く櫛で髪の毛を整え、鏡で寝起きの顔をチェックする。
少しだけムクんだ顔に手をやり、ギュウギュウと絞り出すように追いやったが、あまり改善できていない。
そうしているうちに暖房は部屋を暖め始め、パジャマから部屋着へ着替えると爺が朝食の合図を鳴らした。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俯く俺たちに告ぐ
凜
青春
【第13回ドリーム小説大賞優秀賞受賞しました。有難う御座います!】
仕事に悩む翔には、唯一頼りにしている八代先輩がいた。
ある朝聞いたのは八代先輩の訃報。しかし、葬式の帰り、自分の部屋には八代先輩(幽霊)が!
幽霊になっても頼もしい先輩とともに、仕事を次々に突っ走り前を向くまでの青春社会人ストーリー。
猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由
中岡 始
青春
中学生の陽向の前に、ある夜突然現れたのは、一匹のキジトラ猫。
「やっと開けたか」
窓を叩き、堂々と部屋に入り込んできたその猫は、「トラ老師」と名乗り、陽向にだけ言葉を話す不思議な存在だった。
「本を読め。人生がちょっとはマシになるかもしれんぞ」
そんな気まぐれな言葉に振り回されながらも、陽向は次第に読書の魅力に気づき始める。
ただの文字の羅列だったはずの本が、いつしか新しい世界の扉を開いていく。
けれど、物語のような劇的な変化は、現実には訪れないはずで──。
「現実の中にも、物語はある」
読書を通して広がる世界。
そして、陽向とトラ老師の奇妙な関係の行方とは。
これは、一人の少年と一匹の猫が織りなす、終わりのない物語の始まり。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

俺は決してシスコンではないはず!〜周りはシスコンと言うが、ただたんに妹が可愛すぎるだけなのだが?〜
津ヶ谷
青春
東條春輝は私立高校に通う2年生だった。
学校では、書道部の部長を務め、書の世界でも、少しずつ認められてきていた。
プロのカメラマンを父に持ち、1人で生活することの多かった春輝。
そんな時、父の再婚が決まった。
春輝は特に反対せず、父の再婚を受け入れた。
新しい母は警察官僚で家にほとんど帰らないが、母の連子である新しい妹は人見知りな所があるが、超絶美少女だった。
ほとんど家に帰らない両親なので春輝は新しい妹、紗良とのほぼ2人暮らしが幕を開ける。
これは、兄妹の甘々な日常を描いたラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる