私の守護者

安東門々

文字の大きさ
上 下
15 / 54
呻る双腕重機は雪の香り

第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑪

しおりを挟む
 お風呂上りは、入念なストレッチを行う。 健康を意識している面もあるが、単純にほぐれた体でストレッチを行うととても気持ちがよい。
 暖まった体に白湯を入れ、老廃物を出しやすくし、冷えないような恰好で静かに夜を過ごしていった。

 さすがにお風呂の近くでは蒲生さんは来なかったが、途中の部屋で音楽を聴きながら待っていた。

「どんな音楽を聴いているの?」

 いつも唐突に話しかけているが、本来ならば、一言二言交えてから、聞くのがよいのではないだろうか?
 ここにきて、私のコミュニケーション能力の低さが憎まれる。
  
 人と接するのが嫌いなのではなく、単純に苦手という感じがしていた。
 
 それは誰に対してもそうで、普通ならば唐突に本題に入る前になにか言ってから入るほうが良いとは思っている。
 それでも、彼は嫌な顔することなく私の質問に答えてくれた。

「私ですか? そうですね。 色々聴きますが、一番聴いているのはアステカ音楽ですかね」

 またマニアックな分野を述べてくる。

「どういった音楽なの?」

「なんて言ったらいいんですかね。 細かいことは全然わかりませんが、とにかく綺麗で元気になれます」

 さすが南米の音楽というのだろうか、細かい部分はわからないがなんとなく想像できた。

「お嬢様はどんな音楽を聴かれるのですか? 私の勝手なイメージだとクラシックなどをお聴きになっているイメージです」
 
 その質問は想定していたが、いざ答えるとなると緊張する。
 なぜなら、大抵の人が私をクラシック好きと勝手に認識するので、本当のことを言い出せないでいる。
 クラシックは嫌いではないが、自ら進んで聴いてみたいとは思わなかった。

「なんで、みんな私がクラシック音楽が好きだって思うのかしら?」

 毛先の乾かしが甘い髪の毛を、右手の人差し指でクルクルといじってしまう。
 
「違うのですか?」

 どうする、本当のことを言うべきなのだろうか。
 少し迷ったが、どうせ一緒に居る時間が増えればバレてしまうことなので、敢えて言うことにする。

「私が好きなのは……。 えっと、ちょっと激しい音楽っていうか……」

 最後に向かって尻すぼみになってしまう。
 気恥ずかしが増し、濁すような回答になってしまった。

「もしかすると、ハードロックですか?」

 一発で言い当てられ、下を向きながら小さく頷く。
 あの頭の中が痺れるような感覚が好きで、読書の時間以外はよく聴いている。
 逆に読書のときは「無音」を楽しみながら読書をしていた。
 いくら無音と言えども、ここは人間が暮らす世界、窓が揺れる音や、廊下で誰かが歩いている音など、完全な「無音」の世界は無かった。

 それが好きで、読書の邪魔にもならず心地がよかった。

「そうですか、ちょっと意外でしたが、良いと思います」

 何が良いのか問いただしたいが、とりあえず受け入れてくれたことに安堵を覚えた。
 
 その後は部屋まで送ってくれ「おやすみ」と告げ別れたが、いつもは読書をして寝ている。
 しかし、今日はベッドへ潜り込むと枕の下にしまってある携帯端末を取り出し、検索エンジンへキーワードを入力していった。

『アステカ音楽とは』

 すぐに検索結果が表示され、動画の欄をタップすると自然と音楽が流れ出していく。
 急いでイヤホンをすると、耳の奥へ音楽が届きだした。
 軽やかで明るいながらも、神秘的な曲調がなんとも言えず、端末を握っている手の人差し指でリズムを刻み始めてしまった。

 一曲聴き終えるとイヤホンを外し、小さく息を吐いた。
 
「ふぅ。 想像してたよりも良いかも」

 まだまだ謎の多い私の守護者、それでもわかるのは「悪い人」には思えない。
 むしろ、不思議がいっぱいで興味が湧いてくる。
 明日は学園があり、外にでていく。 きっと何かしらのハプニングはありそうだが彼ならなんとかしてくれそうだった。

 もう一度耳にイヤホンを戻すと、次の音楽を聴きだした。
 これも軽やかで軽快なリズムでありながらも、深く神秘的な音色に聞き入ってしまう。

 そう思っていると、自然と体の電源が切れていくのがわかった。
 慌てて耳から外し、枕の下へ端末をしまうと部屋の明かりを消した。
 
 外からは風が弱まったのか、夜の話声がよく聞こえてくる。
 これが、もう少したつと雪たちに変わってしまう。 そうなる前に夜たちは一生懸命別れを惜しむかのように話し続けていた。

 その声はとても安らかで、いつも私を眠りに誘ってくれる。 
 明日はきっと素敵な日になりそうだ。 買う候補の本の一覧を脳内で整理していると、いよいよ瞳が閉じだし小さな声で「おやすみ」を告げ眠りに入っていった。

 次の日の朝起きると気持ち温かい、これはと思い窓の外を覗くと予想通り雪がちらつきだしていた。

 窓を開け右手を伸ばし雪を掴むとそっと部屋の中へ入れる。

 小さな雪の結晶は瞬く間に手のひらの上で消えていく。 それをゆっくりと眺め終えると窓を閉め、暖房のスイッチを入れた。
 待っている間に軽く櫛で髪の毛を整え、鏡で寝起きの顔をチェックする。

 少しだけムクんだ顔に手をやり、ギュウギュウと絞り出すように追いやったが、あまり改善できていない。
 そうしているうちに暖房は部屋を暖め始め、パジャマから部屋着へ着替えると爺が朝食の合図を鳴らした。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜

藍沢咲良
青春
小さな頃には当たり前に会っていた、その人。いつしか会えなくなって、遠い記憶の人と化していた。 もう一度巡り会えたことに、意味はあるの? あなたは、変わってしまったの──? 白雪 桃歌(shirayuki momoka) age18 速水 蒼 (hayami sou) age18 奥手こじらせ女子×ツンデレ不器用男子 ⭐︎この作品はエブリスタでも連載しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

ほつれ家族

陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。

野球小説「二人の高校球児の友情のスポーツ小説です」

浅野浩二
青春
二人の高校球児の友情のスポーツ小説です。

Cutie Skip ★

月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。 自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。 高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。 学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。 どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。 一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。 こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。 表紙:むにさん

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...