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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑪
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お風呂上りは、入念なストレッチを行う。 健康を意識している面もあるが、単純にほぐれた体でストレッチを行うととても気持ちがよい。
暖まった体に白湯を入れ、老廃物を出しやすくし、冷えないような恰好で静かに夜を過ごしていった。
さすがにお風呂の近くでは蒲生さんは来なかったが、途中の部屋で音楽を聴きながら待っていた。
「どんな音楽を聴いているの?」
いつも唐突に話しかけているが、本来ならば、一言二言交えてから、聞くのがよいのではないだろうか?
ここにきて、私のコミュニケーション能力の低さが憎まれる。
人と接するのが嫌いなのではなく、単純に苦手という感じがしていた。
それは誰に対してもそうで、普通ならば唐突に本題に入る前になにか言ってから入るほうが良いとは思っている。
それでも、彼は嫌な顔することなく私の質問に答えてくれた。
「私ですか? そうですね。 色々聴きますが、一番聴いているのはアステカ音楽ですかね」
またマニアックな分野を述べてくる。
「どういった音楽なの?」
「なんて言ったらいいんですかね。 細かいことは全然わかりませんが、とにかく綺麗で元気になれます」
さすが南米の音楽というのだろうか、細かい部分はわからないがなんとなく想像できた。
「お嬢様はどんな音楽を聴かれるのですか? 私の勝手なイメージだとクラシックなどをお聴きになっているイメージです」
その質問は想定していたが、いざ答えるとなると緊張する。
なぜなら、大抵の人が私をクラシック好きと勝手に認識するので、本当のことを言い出せないでいる。
クラシックは嫌いではないが、自ら進んで聴いてみたいとは思わなかった。
「なんで、みんな私がクラシック音楽が好きだって思うのかしら?」
毛先の乾かしが甘い髪の毛を、右手の人差し指でクルクルといじってしまう。
「違うのですか?」
どうする、本当のことを言うべきなのだろうか。
少し迷ったが、どうせ一緒に居る時間が増えればバレてしまうことなので、敢えて言うことにする。
「私が好きなのは……。 えっと、ちょっと激しい音楽っていうか……」
最後に向かって尻すぼみになってしまう。
気恥ずかしが増し、濁すような回答になってしまった。
「もしかすると、ハードロックですか?」
一発で言い当てられ、下を向きながら小さく頷く。
あの頭の中が痺れるような感覚が好きで、読書の時間以外はよく聴いている。
逆に読書のときは「無音」を楽しみながら読書をしていた。
いくら無音と言えども、ここは人間が暮らす世界、窓が揺れる音や、廊下で誰かが歩いている音など、完全な「無音」の世界は無かった。
それが好きで、読書の邪魔にもならず心地がよかった。
「そうですか、ちょっと意外でしたが、良いと思います」
何が良いのか問いただしたいが、とりあえず受け入れてくれたことに安堵を覚えた。
その後は部屋まで送ってくれ「おやすみ」と告げ別れたが、いつもは読書をして寝ている。
しかし、今日はベッドへ潜り込むと枕の下にしまってある携帯端末を取り出し、検索エンジンへキーワードを入力していった。
『アステカ音楽とは』
すぐに検索結果が表示され、動画の欄をタップすると自然と音楽が流れ出していく。
急いでイヤホンをすると、耳の奥へ音楽が届きだした。
軽やかで明るいながらも、神秘的な曲調がなんとも言えず、端末を握っている手の人差し指でリズムを刻み始めてしまった。
一曲聴き終えるとイヤホンを外し、小さく息を吐いた。
「ふぅ。 想像してたよりも良いかも」
まだまだ謎の多い私の守護者、それでもわかるのは「悪い人」には思えない。
むしろ、不思議がいっぱいで興味が湧いてくる。
明日は学園があり、外にでていく。 きっと何かしらのハプニングはありそうだが彼ならなんとかしてくれそうだった。
もう一度耳にイヤホンを戻すと、次の音楽を聴きだした。
これも軽やかで軽快なリズムでありながらも、深く神秘的な音色に聞き入ってしまう。
そう思っていると、自然と体の電源が切れていくのがわかった。
慌てて耳から外し、枕の下へ端末をしまうと部屋の明かりを消した。
外からは風が弱まったのか、夜の話声がよく聞こえてくる。
これが、もう少したつと雪たちに変わってしまう。 そうなる前に夜たちは一生懸命別れを惜しむかのように話し続けていた。
その声はとても安らかで、いつも私を眠りに誘ってくれる。
明日はきっと素敵な日になりそうだ。 買う候補の本の一覧を脳内で整理していると、いよいよ瞳が閉じだし小さな声で「おやすみ」を告げ眠りに入っていった。
次の日の朝起きると気持ち温かい、これはと思い窓の外を覗くと予想通り雪がちらつきだしていた。
窓を開け右手を伸ばし雪を掴むとそっと部屋の中へ入れる。
小さな雪の結晶は瞬く間に手のひらの上で消えていく。 それをゆっくりと眺め終えると窓を閉め、暖房のスイッチを入れた。
待っている間に軽く櫛で髪の毛を整え、鏡で寝起きの顔をチェックする。
少しだけムクんだ顔に手をやり、ギュウギュウと絞り出すように追いやったが、あまり改善できていない。
そうしているうちに暖房は部屋を暖め始め、パジャマから部屋着へ着替えると爺が朝食の合図を鳴らした。
暖まった体に白湯を入れ、老廃物を出しやすくし、冷えないような恰好で静かに夜を過ごしていった。
さすがにお風呂の近くでは蒲生さんは来なかったが、途中の部屋で音楽を聴きながら待っていた。
「どんな音楽を聴いているの?」
いつも唐突に話しかけているが、本来ならば、一言二言交えてから、聞くのがよいのではないだろうか?
ここにきて、私のコミュニケーション能力の低さが憎まれる。
人と接するのが嫌いなのではなく、単純に苦手という感じがしていた。
それは誰に対してもそうで、普通ならば唐突に本題に入る前になにか言ってから入るほうが良いとは思っている。
それでも、彼は嫌な顔することなく私の質問に答えてくれた。
「私ですか? そうですね。 色々聴きますが、一番聴いているのはアステカ音楽ですかね」
またマニアックな分野を述べてくる。
「どういった音楽なの?」
「なんて言ったらいいんですかね。 細かいことは全然わかりませんが、とにかく綺麗で元気になれます」
さすが南米の音楽というのだろうか、細かい部分はわからないがなんとなく想像できた。
「お嬢様はどんな音楽を聴かれるのですか? 私の勝手なイメージだとクラシックなどをお聴きになっているイメージです」
その質問は想定していたが、いざ答えるとなると緊張する。
なぜなら、大抵の人が私をクラシック好きと勝手に認識するので、本当のことを言い出せないでいる。
クラシックは嫌いではないが、自ら進んで聴いてみたいとは思わなかった。
「なんで、みんな私がクラシック音楽が好きだって思うのかしら?」
毛先の乾かしが甘い髪の毛を、右手の人差し指でクルクルといじってしまう。
「違うのですか?」
どうする、本当のことを言うべきなのだろうか。
少し迷ったが、どうせ一緒に居る時間が増えればバレてしまうことなので、敢えて言うことにする。
「私が好きなのは……。 えっと、ちょっと激しい音楽っていうか……」
最後に向かって尻すぼみになってしまう。
気恥ずかしが増し、濁すような回答になってしまった。
「もしかすると、ハードロックですか?」
一発で言い当てられ、下を向きながら小さく頷く。
あの頭の中が痺れるような感覚が好きで、読書の時間以外はよく聴いている。
逆に読書のときは「無音」を楽しみながら読書をしていた。
いくら無音と言えども、ここは人間が暮らす世界、窓が揺れる音や、廊下で誰かが歩いている音など、完全な「無音」の世界は無かった。
それが好きで、読書の邪魔にもならず心地がよかった。
「そうですか、ちょっと意外でしたが、良いと思います」
何が良いのか問いただしたいが、とりあえず受け入れてくれたことに安堵を覚えた。
その後は部屋まで送ってくれ「おやすみ」と告げ別れたが、いつもは読書をして寝ている。
しかし、今日はベッドへ潜り込むと枕の下にしまってある携帯端末を取り出し、検索エンジンへキーワードを入力していった。
『アステカ音楽とは』
すぐに検索結果が表示され、動画の欄をタップすると自然と音楽が流れ出していく。
急いでイヤホンをすると、耳の奥へ音楽が届きだした。
軽やかで明るいながらも、神秘的な曲調がなんとも言えず、端末を握っている手の人差し指でリズムを刻み始めてしまった。
一曲聴き終えるとイヤホンを外し、小さく息を吐いた。
「ふぅ。 想像してたよりも良いかも」
まだまだ謎の多い私の守護者、それでもわかるのは「悪い人」には思えない。
むしろ、不思議がいっぱいで興味が湧いてくる。
明日は学園があり、外にでていく。 きっと何かしらのハプニングはありそうだが彼ならなんとかしてくれそうだった。
もう一度耳にイヤホンを戻すと、次の音楽を聴きだした。
これも軽やかで軽快なリズムでありながらも、深く神秘的な音色に聞き入ってしまう。
そう思っていると、自然と体の電源が切れていくのがわかった。
慌てて耳から外し、枕の下へ端末をしまうと部屋の明かりを消した。
外からは風が弱まったのか、夜の話声がよく聞こえてくる。
これが、もう少したつと雪たちに変わってしまう。 そうなる前に夜たちは一生懸命別れを惜しむかのように話し続けていた。
その声はとても安らかで、いつも私を眠りに誘ってくれる。
明日はきっと素敵な日になりそうだ。 買う候補の本の一覧を脳内で整理していると、いよいよ瞳が閉じだし小さな声で「おやすみ」を告げ眠りに入っていった。
次の日の朝起きると気持ち温かい、これはと思い窓の外を覗くと予想通り雪がちらつきだしていた。
窓を開け右手を伸ばし雪を掴むとそっと部屋の中へ入れる。
小さな雪の結晶は瞬く間に手のひらの上で消えていく。 それをゆっくりと眺め終えると窓を閉め、暖房のスイッチを入れた。
待っている間に軽く櫛で髪の毛を整え、鏡で寝起きの顔をチェックする。
少しだけムクんだ顔に手をやり、ギュウギュウと絞り出すように追いやったが、あまり改善できていない。
そうしているうちに暖房は部屋を暖め始め、パジャマから部屋着へ着替えると爺が朝食の合図を鳴らした。
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