私の守護者

安東門々

文字の大きさ
上 下
14 / 54
呻る双腕重機は雪の香り

第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑩

しおりを挟む
  別に友だちがいないわけではない、幼いころから遊んでいる友人もいる。
 しかし、連絡を取り合うほどの関係になった人は少なく、お互い忙しさもあってか遊ぶ時間も中々あうことがなく、自然と離れていった。
 
 今ではいつ連絡をとったのかわからない友人が数名と、家族の名前が電話帳に記載されているだけだった。
 学園に行けば、話す相手はいるし寂しさを感じたことはない、困ったことなどを感じたことはない。
 
 それでも、久しぶりに加わったデータに思わず頬が少しだけ緩んでしまう。
 枕に置いてたペンダントも首にかけて、鏡をみてみる。
 意外と違和感もなく、むしろ似合っているように思う。
 今まで聞いたことない花だが、とても素敵だ。 ペンダントを開けてみると、そこには小さな装置があり、中央に赤いボタンがある。
 
 これを押すと、彼が駆け付けてくれるという安心感がペンダントを伝い、私を包み込んでくれた。
 そう思うだけで、明日からも無事に過ごせるような気がしてきた。
 ペンダントを閉じて、描かれた花を見ているとまた部屋が温まりだし、私の意識は心地よい微睡まどろみ中へと消えていった。

 爺が夕ご飯の報せを告げてくれるベルの音で意識を取り戻した。
 すぐに行くと告げると、まだ重い瞼を擦り鏡に向かって櫛で髪の毛を整えていく。
 変な寝方をしたせいなのか、久しぶりのお昼寝は頭がボーとして、気持ちのよいものではなかった。 
 せっかくの休日も終わってしまう。

 そう思いながらも、寝起きの重い体に気合を入れながら廊下にでると、そこには蒲生さんが立っていた。

「休まれましたか?」
 
 優しく微笑みながら私に問いかけてくる。
 慌てて顔を両手で隠すと、恥ずかしさが込み上げてきた。
 なぜ寝ていたのがバレたのだろうか? 部屋にコッソリと入ってきた感じはしないので、私の顔を見て言っているに違いない。

「そんなに酷い?」

 もしかすると、顔がむくんでいるかもしれない、寝癖がなおっていない可能性もあった。
 
「いいえ、スッキリされております。 知らずに緊張なさっていたんでしょう。」
 
 自分だけでなく、彼も私を見ていてくれた。 そう思うと何か違和感が胸をかすめる。
 先ほどまで重かった体が急に軽くなるような感覚が襲ってくる。
 つま先から、頭のてっぺんに向かってふわふわと軽くなる感じだ。
 
「お食事のご用意ができております。 いきましょう」

 そう告げると、先を歩き始める。
 私はその後をついていくが、廊下の冷たく重い空気とは真逆に私の足取りは軽く、床をうまく踏みしめないでいた。

  食事を終えて、いつもより早めにお風呂に入る。
 服を脱ぎ終わり自分の髪の毛を整えながら、横目で鏡を見るとなんとなく指で体を確認していった。
 自分に自信があるわけではない、むしろ無いと思っている。
 綺麗な人はたくさんいるし、私のようにコミュニケーションが下手でなく、上手な人もいる。

 まるで自分に輝きなんて、一つもないように思えてくる。
 卑屈にならないようにしているつもりだが、どうしても人と比べてしまう。
 普段はあまり気にしないようにしているが、今日はなぜか気にしてしまった。

 それでも、少しばかりではあるが成長を感じれる体をみると、どことなく安心でき、急いで扉を開けて湯煙が立ち込める中へと入っていく。
 シャワーからお湯を出し、専用のタオルに洗剤を含ませるとモコモコと泡立てていく。
 お風呂は好きだ。 何を考えるにしても、考えないにしても、とにかく捗る。
 嫌なことをたまに思い出すが、前向きになれるような感じがした。
 
 冬の露天風呂は気持ちがよい、お父様に言って造ってほしいと言ったこともあるが、爺たちになぜか止められた。
 そんなときは、旅行がいい。 雪がシトシトと舞う季節に温泉に入り火照った体を緩やかに冷やしていくのがたまらない。

「雪、降るかな?」
 
 窓の無い浴室の天井を見上げる。 そこには、澄んだ空気のおかげで綺麗に見えるであろう星空を思い浮かべた。
 雪が本格的になると、それは見れない。 短い時期に条件が重なると見れる。

 雪は嫌いではない、むしろ好きで冬は暖かい場所で過ごしたくない。
 もっと、冬を満喫できないだろうかと考えてしまう。

「ことしは何をしようかしら……」

 左手の甲に右手を被せ、思いっきり前に伸ばした。
 硬く縮まった筋肉が伸びていく感じがして、きもちがよい。
 せっかくなので、暖炉の温もりを感じながら本を読んでみたい、膝に毛糸で編んだブランケットに本を重ねて読むことを想像しただけで、楽しくなってきた。
 
 そのためには煙突を造らなければならない、後で爺に相談してみよう。

 何か一つでも、冬を感じることができたら、私は満足だ。
 それに、今年は蒲生さんも一緒にいる。 彼は冬といったらどんなことを考え、連想するのだろうか?

 好きな食べ物にオニギリと答えたのは意外だったが、他に何も彼のことは知らない。
 丁寧に体を洗い終え、湯船の中へと入る。
 つま先から熱が徐々に伝わり、皮膚がチリチリと刺激を受けた。

 まずは、上半身を出してゆっくりと体を温めていく、湯気に交じってほのかに香ってくるのは、柚子の香り。
 とても可憐で、心がスッキリとしていった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冬の夕暮れに君のもとへ

まみはらまさゆき
青春
紘孝は偶然出会った同年代の少女に心を奪われ、そして彼女と付き合い始める。 しかし彼女は複雑な家庭環境にあり、ふたりの交際はそれをさらに複雑化させてしまう・・・。 インターネット普及以後・ケータイ普及以前の熊本を舞台に繰り広げられる、ある青春模様。 20年以上前に「774d」名義で楽天ブログで公表した小説を、改稿の上で再掲載します。 性的な場面はわずかしかありませんが、念のためR15としました。 改稿にあたり、具体的な地名は伏せて全国的に通用する舞台にしようと思いましたが、故郷・熊本への愛着と、方言の持つ味わいは捨てがたく、そのままにしました。 また同様に現在(2020年代)に時代を設定しようと思いましたが、熊本地震以後、いろいろと変わってしまった熊本の風景を心のなかでアップデートできず、1990年代後半のままとしました。

C-LOVERS

佑佳
青春
前半は群像的ラブコメ調子のドタバタ劇。 後半に行くほど赤面不可避の恋愛ストーリーになっていきますので、その濃淡をご期待くださいますと嬉しいです。 (各話2700字平均) ♧あらすじ♧ キザでクールでスタイリッシュな道化師パフォーマー、YOSSY the CLOWN。 世界を笑顔で満たすという野望を果たすため、今日も世界の片隅でパフォーマンスを始める。 そんなYOSSY the CLOWNに憧れを抱くは、服部若菜という女性。 生まれてこのかた上手く笑えたことのない彼女は、たった一度だけ、YOSSY the CLOWNの芸でナチュラルに笑えたという。 「YOSSY the CLOWNに憧れてます、弟子にしてください!」 そうして頭を下げるも煙に巻かれ、なぜか古びた探偵事務所を紹介された服部若菜。 そこで出逢ったのは、胡散臭いタバコ臭いヒョロガリ探偵・柳田良二。 YOSSY the CLOWNに弟子入りする術を知っているとかなんだとか。 柳田探偵の傍で、服部若菜が得られるものは何か──? 一方YOSSY the CLOWNも、各所で運命的な出逢いをする。 彼らのキラリと光る才に惹かれ、そのうちに孤高を気取っていたYOSSY the CLOWNの心が柔和されていき──。 コンプレックスにまみれた六人の男女のヒューマンドラマ。 マイナスとマイナスを足してプラスに変えるは、YOSSY the CLOWNの魔法?! いやいや、YOSSY the CLOWNのみならずかも? 恋愛も家族愛もクスッと笑いも絆や涙までてんこ盛り。 佑佳最愛の代表的物語、Returned U NOW!

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

刈り上げの春

S.H.L
青春
カットモデルに誘われた高校入学直前の15歳の雪絵の物語

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

処理中です...