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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑩
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別に友だちがいないわけではない、幼いころから遊んでいる友人もいる。
しかし、連絡を取り合うほどの関係になった人は少なく、お互い忙しさもあってか遊ぶ時間も中々あうことがなく、自然と離れていった。
今ではいつ連絡をとったのかわからない友人が数名と、家族の名前が電話帳に記載されているだけだった。
学園に行けば、話す相手はいるし寂しさを感じたことはない、困ったことなどを感じたことはない。
それでも、久しぶりに加わったデータに思わず頬が少しだけ緩んでしまう。
枕に置いてたペンダントも首にかけて、鏡をみてみる。
意外と違和感もなく、むしろ似合っているように思う。
今まで聞いたことない花だが、とても素敵だ。 ペンダントを開けてみると、そこには小さな装置があり、中央に赤いボタンがある。
これを押すと、彼が駆け付けてくれるという安心感がペンダントを伝い、私を包み込んでくれた。
そう思うだけで、明日からも無事に過ごせるような気がしてきた。
ペンダントを閉じて、描かれた花を見ているとまた部屋が温まりだし、私の意識は心地よい微睡み中へと消えていった。
爺が夕ご飯の報せを告げてくれるベルの音で意識を取り戻した。
すぐに行くと告げると、まだ重い瞼を擦り鏡に向かって櫛で髪の毛を整えていく。
変な寝方をしたせいなのか、久しぶりのお昼寝は頭がボーとして、気持ちのよいものではなかった。
せっかくの休日も終わってしまう。
そう思いながらも、寝起きの重い体に気合を入れながら廊下にでると、そこには蒲生さんが立っていた。
「休まれましたか?」
優しく微笑みながら私に問いかけてくる。
慌てて顔を両手で隠すと、恥ずかしさが込み上げてきた。
なぜ寝ていたのがバレたのだろうか? 部屋にコッソリと入ってきた感じはしないので、私の顔を見て言っているに違いない。
「そんなに酷い?」
もしかすると、顔がむくんでいるかもしれない、寝癖がなおっていない可能性もあった。
「いいえ、スッキリされております。 知らずに緊張なさっていたんでしょう。」
自分だけでなく、彼も私を見ていてくれた。 そう思うと何か違和感が胸をかすめる。
先ほどまで重かった体が急に軽くなるような感覚が襲ってくる。
つま先から、頭のてっぺんに向かってふわふわと軽くなる感じだ。
「お食事のご用意ができております。 いきましょう」
そう告げると、先を歩き始める。
私はその後をついていくが、廊下の冷たく重い空気とは真逆に私の足取りは軽く、床をうまく踏みしめないでいた。
食事を終えて、いつもより早めにお風呂に入る。
服を脱ぎ終わり自分の髪の毛を整えながら、横目で鏡を見るとなんとなく指で体を確認していった。
自分に自信があるわけではない、むしろ無いと思っている。
綺麗な人はたくさんいるし、私のようにコミュニケーションが下手でなく、上手な人もいる。
まるで自分に輝きなんて、一つもないように思えてくる。
卑屈にならないようにしているつもりだが、どうしても人と比べてしまう。
普段はあまり気にしないようにしているが、今日はなぜか気にしてしまった。
それでも、少しばかりではあるが成長を感じれる体をみると、どことなく安心でき、急いで扉を開けて湯煙が立ち込める中へと入っていく。
シャワーからお湯を出し、専用のタオルに洗剤を含ませるとモコモコと泡立てていく。
お風呂は好きだ。 何を考えるにしても、考えないにしても、とにかく捗る。
嫌なことをたまに思い出すが、前向きになれるような感じがした。
冬の露天風呂は気持ちがよい、お父様に言って造ってほしいと言ったこともあるが、爺たちになぜか止められた。
そんなときは、旅行がいい。 雪がシトシトと舞う季節に温泉に入り火照った体を緩やかに冷やしていくのがたまらない。
「雪、降るかな?」
窓の無い浴室の天井を見上げる。 そこには、澄んだ空気のおかげで綺麗に見えるであろう星空を思い浮かべた。
雪が本格的になると、それは見れない。 短い時期に条件が重なると見れる。
雪は嫌いではない、むしろ好きで冬は暖かい場所で過ごしたくない。
もっと、冬を満喫できないだろうかと考えてしまう。
「ことしは何をしようかしら……」
左手の甲に右手を被せ、思いっきり前に伸ばした。
硬く縮まった筋肉が伸びていく感じがして、きもちがよい。
せっかくなので、暖炉の温もりを感じながら本を読んでみたい、膝に毛糸で編んだブランケットに本を重ねて読むことを想像しただけで、楽しくなってきた。
そのためには煙突を造らなければならない、後で爺に相談してみよう。
何か一つでも、冬を感じることができたら、私は満足だ。
それに、今年は蒲生さんも一緒にいる。 彼は冬といったらどんなことを考え、連想するのだろうか?
好きな食べ物にオニギリと答えたのは意外だったが、他に何も彼のことは知らない。
丁寧に体を洗い終え、湯船の中へと入る。
つま先から熱が徐々に伝わり、皮膚がチリチリと刺激を受けた。
まずは、上半身を出してゆっくりと体を温めていく、湯気に交じってほのかに香ってくるのは、柚子の香り。
とても可憐で、心がスッキリとしていった。
しかし、連絡を取り合うほどの関係になった人は少なく、お互い忙しさもあってか遊ぶ時間も中々あうことがなく、自然と離れていった。
今ではいつ連絡をとったのかわからない友人が数名と、家族の名前が電話帳に記載されているだけだった。
学園に行けば、話す相手はいるし寂しさを感じたことはない、困ったことなどを感じたことはない。
それでも、久しぶりに加わったデータに思わず頬が少しだけ緩んでしまう。
枕に置いてたペンダントも首にかけて、鏡をみてみる。
意外と違和感もなく、むしろ似合っているように思う。
今まで聞いたことない花だが、とても素敵だ。 ペンダントを開けてみると、そこには小さな装置があり、中央に赤いボタンがある。
これを押すと、彼が駆け付けてくれるという安心感がペンダントを伝い、私を包み込んでくれた。
そう思うだけで、明日からも無事に過ごせるような気がしてきた。
ペンダントを閉じて、描かれた花を見ているとまた部屋が温まりだし、私の意識は心地よい微睡み中へと消えていった。
爺が夕ご飯の報せを告げてくれるベルの音で意識を取り戻した。
すぐに行くと告げると、まだ重い瞼を擦り鏡に向かって櫛で髪の毛を整えていく。
変な寝方をしたせいなのか、久しぶりのお昼寝は頭がボーとして、気持ちのよいものではなかった。
せっかくの休日も終わってしまう。
そう思いながらも、寝起きの重い体に気合を入れながら廊下にでると、そこには蒲生さんが立っていた。
「休まれましたか?」
優しく微笑みながら私に問いかけてくる。
慌てて顔を両手で隠すと、恥ずかしさが込み上げてきた。
なぜ寝ていたのがバレたのだろうか? 部屋にコッソリと入ってきた感じはしないので、私の顔を見て言っているに違いない。
「そんなに酷い?」
もしかすると、顔がむくんでいるかもしれない、寝癖がなおっていない可能性もあった。
「いいえ、スッキリされております。 知らずに緊張なさっていたんでしょう。」
自分だけでなく、彼も私を見ていてくれた。 そう思うと何か違和感が胸をかすめる。
先ほどまで重かった体が急に軽くなるような感覚が襲ってくる。
つま先から、頭のてっぺんに向かってふわふわと軽くなる感じだ。
「お食事のご用意ができております。 いきましょう」
そう告げると、先を歩き始める。
私はその後をついていくが、廊下の冷たく重い空気とは真逆に私の足取りは軽く、床をうまく踏みしめないでいた。
食事を終えて、いつもより早めにお風呂に入る。
服を脱ぎ終わり自分の髪の毛を整えながら、横目で鏡を見るとなんとなく指で体を確認していった。
自分に自信があるわけではない、むしろ無いと思っている。
綺麗な人はたくさんいるし、私のようにコミュニケーションが下手でなく、上手な人もいる。
まるで自分に輝きなんて、一つもないように思えてくる。
卑屈にならないようにしているつもりだが、どうしても人と比べてしまう。
普段はあまり気にしないようにしているが、今日はなぜか気にしてしまった。
それでも、少しばかりではあるが成長を感じれる体をみると、どことなく安心でき、急いで扉を開けて湯煙が立ち込める中へと入っていく。
シャワーからお湯を出し、専用のタオルに洗剤を含ませるとモコモコと泡立てていく。
お風呂は好きだ。 何を考えるにしても、考えないにしても、とにかく捗る。
嫌なことをたまに思い出すが、前向きになれるような感じがした。
冬の露天風呂は気持ちがよい、お父様に言って造ってほしいと言ったこともあるが、爺たちになぜか止められた。
そんなときは、旅行がいい。 雪がシトシトと舞う季節に温泉に入り火照った体を緩やかに冷やしていくのがたまらない。
「雪、降るかな?」
窓の無い浴室の天井を見上げる。 そこには、澄んだ空気のおかげで綺麗に見えるであろう星空を思い浮かべた。
雪が本格的になると、それは見れない。 短い時期に条件が重なると見れる。
雪は嫌いではない、むしろ好きで冬は暖かい場所で過ごしたくない。
もっと、冬を満喫できないだろうかと考えてしまう。
「ことしは何をしようかしら……」
左手の甲に右手を被せ、思いっきり前に伸ばした。
硬く縮まった筋肉が伸びていく感じがして、きもちがよい。
せっかくなので、暖炉の温もりを感じながら本を読んでみたい、膝に毛糸で編んだブランケットに本を重ねて読むことを想像しただけで、楽しくなってきた。
そのためには煙突を造らなければならない、後で爺に相談してみよう。
何か一つでも、冬を感じることができたら、私は満足だ。
それに、今年は蒲生さんも一緒にいる。 彼は冬といったらどんなことを考え、連想するのだろうか?
好きな食べ物にオニギリと答えたのは意外だったが、他に何も彼のことは知らない。
丁寧に体を洗い終え、湯船の中へと入る。
つま先から熱が徐々に伝わり、皮膚がチリチリと刺激を受けた。
まずは、上半身を出してゆっくりと体を温めていく、湯気に交じってほのかに香ってくるのは、柚子の香り。
とても可憐で、心がスッキリとしていった。
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