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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ⑧
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私はゆっくりとした動作で彼にカップを差し出すと、今度は素直に双眼鏡をポケットにしまい私から受け取った。
「すみません、お気遣いありがとうございます」
「いいの、別にちょっと気を張りすぎなのでは? 元々は私に責任があるんだけれども、相手が本当にASHINAかもわらかないのに」
「おっしゃる通りです。 しかし、何かあってはと思うと、なかなか腰を落ち着けていられないのです」
その気持ちはわかるが、既に相手は準備を整えているようなので、私たちがこれ以上何かできるかと問われると返答にこまる。
そんなときこそ、ゆっくりと落ち着いて行動すべきと私は考えている。
ひと口飲み込んで、小さな息を吐くと肩に力が籠っていたのが抜けてく。
知らずに私も緊張していたのだろう、横目で彼を見ると物珍しそうにマジマジとカップの中の揺れる紅茶を見つめている。
「珍しい?」
「はい、初めてかもしれません」
「バタフライピーのハーブティーよ。 特徴的なコバルトブルーが見ても飲んでも秀逸な一品で、私は好んで飲んでいるの」
アントシアニンを含むこのハーブティーは、美容にもよいとされているので、特にお気に入りだ。
爺がハーブティーと一緒にもってきてくれた薄く切ったレモンのスライスを彼に渡した。
「これは?」
「入れてみて」
手でレモンスライスを一枚とると、それをお茶の中へ入れる。
「へぇ――凄い! 色が変わりました」
純粋な驚きの表情は、先ほどまでの強張った表情とは違い、とてもやわらかく淡い光のような笑顔だった。
今までの色合いとは違い、今度は薄いパープル色に変わったハーブティーを、大切そうに口に運んでいく。
「……。 お、美味しいです」
「よかった」
お茶請けとして用意してくれたのは、爺の拘りなのかバタフライピーにちなんでなのかわからないが、ポメロだった。
「よかったら、こちらもどうぞ」
「ありがとうございます。 これってグレープフルーツですか?」
「ポメロっていうんだけど、ちょっと違うかも? 日本では文旦に一番近いと思うけど、食味は少し違っているかも」
ニ、三度顔を縦にふりながら珍しそうに口に含んだ。
「あ、甘くて美味しいです。 文旦よりも酸味が柔らかい気がします」
彼の言葉を聞いて私も食べると、今が旬なのかかわらないが、とても美味しい味が口に広がる。
私はあまり菓子を好んで食べない、好きではあるが野菜や果実のような甘みが好きで、それを知っている使用人たちはお菓子よりも、このような果実類を私にだしてくれる。
しばし、私たちは無言でお茶を楽しんだ。
最初に食べ終えたのは蒲生さんで、丁寧に食べてくれたのかお皿は綺麗な状態だった。
「ねぇ、少し質問しても?」
彼が再び立ち上がり、双眼鏡を取り出そうとしているのを確認して話しかけた。
「質問ですか? 答えれる範囲であれば」
双眼鏡を再び戻すと、私に体の向きを変えてくれる。
彼を窓から遠ざけるために咄嗟に話しかけたが、よくよく考えてみると質問の内容を考えていなかった。
聞きたいことは山ほどある。でも、すぐに深い部分に触れてはいけないと、私でもわかるが、きっかけとなる最初の質問をどうしようかと悩んでしまう。
男性に年齢を聞いてよいのかわからないので、それ以外となると……。
「何か好きな食べ物ってある?」
私は何を言っているのだろうか? わざわざ呼び止めてまで聞きたい内容ではないだろう。
もっと、知らなければいけない情報は他にもあるのに、例えば「なぜ、私の護衛に立候補したの?」などはとても知りたかった。
しかし、私も心のどこかでは落ち着いていないのか、いつもより思考が変な方向を向いてしまっているようなきがした。
「え? 食べ物ですか?」
意外な質問内容に拍子抜けしたような顔をする。
当たり前だ。 それでも、彼は少し考える素振りをした後に答えてくれる。
「そうですね?。 食べられるモノでしたらほとんど好きですけど、あえて言うなら、オニギリですかね」
逆に予想外の答えが返ってきてしまった。
確かにオニギリが好きな人は大勢いるが、人に聞かれて答える食べ物ではあまり聞かないきがする。
それに、お昼のお弁当を見ても彼がオニギリを頬張っているような姿をイメージできなかった。
「そうなの? 具は何が好きなの?」
この流れにのってしまった。 これから会話を広げていく切り口の選択肢が少なすぎる。
他には、海苔はパリパリしているのが好き? なんて聞く人はいないだろう。
オニギリが好きと言われたら、やはり具は気になってしまう。
「中身ですか、驚いたのは天むすでしたが、オーソドックスで好きなのはやはり、佃煮の昆布と鮭ですかね。紫蘇昆布でもいいです。さっぱりしているので」
天むすを食べてことのない私にとっては、味を想像するしかできないが、鮭は予想できたが佃煮の昆布がくるとは思わなかった。
紫蘇昆布も名前を聞くだけで美味しそうなので、今度食べてみようと思った。
「普段のお昼はオニギリを食べているの?」
「それがですね。 自分で握ったオニギリってどこか物足りなくて、贅沢なんでしょうが、普段はあまり食べないようにしているんですよ」
自分でオニギリを握ったことのない私、むしろ「料理」の経験がない私にとって、その気持ちは少しわからない。
他の人はどうなんだろうか? 後で爺にでも聞いてみるとしよう。
「握ってくれる人はいなの?」
なんとなく、本当に軽い気持ちで放ってしまった。
私の言葉を聞いた彼は、一瞬ではあるが暗い表情をした。
「そうですね、今ははいませんね」
その表情は一瞬で、瞬きよりも短かったかもしれない。
けれども、普段通りに見える彼に僅かではあるが影が見えた。
それを出させてしまったのは他ならぬ私であり、デリケートな部分だったのかもしれなかった。
「すみません、お気遣いありがとうございます」
「いいの、別にちょっと気を張りすぎなのでは? 元々は私に責任があるんだけれども、相手が本当にASHINAかもわらかないのに」
「おっしゃる通りです。 しかし、何かあってはと思うと、なかなか腰を落ち着けていられないのです」
その気持ちはわかるが、既に相手は準備を整えているようなので、私たちがこれ以上何かできるかと問われると返答にこまる。
そんなときこそ、ゆっくりと落ち着いて行動すべきと私は考えている。
ひと口飲み込んで、小さな息を吐くと肩に力が籠っていたのが抜けてく。
知らずに私も緊張していたのだろう、横目で彼を見ると物珍しそうにマジマジとカップの中の揺れる紅茶を見つめている。
「珍しい?」
「はい、初めてかもしれません」
「バタフライピーのハーブティーよ。 特徴的なコバルトブルーが見ても飲んでも秀逸な一品で、私は好んで飲んでいるの」
アントシアニンを含むこのハーブティーは、美容にもよいとされているので、特にお気に入りだ。
爺がハーブティーと一緒にもってきてくれた薄く切ったレモンのスライスを彼に渡した。
「これは?」
「入れてみて」
手でレモンスライスを一枚とると、それをお茶の中へ入れる。
「へぇ――凄い! 色が変わりました」
純粋な驚きの表情は、先ほどまでの強張った表情とは違い、とてもやわらかく淡い光のような笑顔だった。
今までの色合いとは違い、今度は薄いパープル色に変わったハーブティーを、大切そうに口に運んでいく。
「……。 お、美味しいです」
「よかった」
お茶請けとして用意してくれたのは、爺の拘りなのかバタフライピーにちなんでなのかわからないが、ポメロだった。
「よかったら、こちらもどうぞ」
「ありがとうございます。 これってグレープフルーツですか?」
「ポメロっていうんだけど、ちょっと違うかも? 日本では文旦に一番近いと思うけど、食味は少し違っているかも」
ニ、三度顔を縦にふりながら珍しそうに口に含んだ。
「あ、甘くて美味しいです。 文旦よりも酸味が柔らかい気がします」
彼の言葉を聞いて私も食べると、今が旬なのかかわらないが、とても美味しい味が口に広がる。
私はあまり菓子を好んで食べない、好きではあるが野菜や果実のような甘みが好きで、それを知っている使用人たちはお菓子よりも、このような果実類を私にだしてくれる。
しばし、私たちは無言でお茶を楽しんだ。
最初に食べ終えたのは蒲生さんで、丁寧に食べてくれたのかお皿は綺麗な状態だった。
「ねぇ、少し質問しても?」
彼が再び立ち上がり、双眼鏡を取り出そうとしているのを確認して話しかけた。
「質問ですか? 答えれる範囲であれば」
双眼鏡を再び戻すと、私に体の向きを変えてくれる。
彼を窓から遠ざけるために咄嗟に話しかけたが、よくよく考えてみると質問の内容を考えていなかった。
聞きたいことは山ほどある。でも、すぐに深い部分に触れてはいけないと、私でもわかるが、きっかけとなる最初の質問をどうしようかと悩んでしまう。
男性に年齢を聞いてよいのかわからないので、それ以外となると……。
「何か好きな食べ物ってある?」
私は何を言っているのだろうか? わざわざ呼び止めてまで聞きたい内容ではないだろう。
もっと、知らなければいけない情報は他にもあるのに、例えば「なぜ、私の護衛に立候補したの?」などはとても知りたかった。
しかし、私も心のどこかでは落ち着いていないのか、いつもより思考が変な方向を向いてしまっているようなきがした。
「え? 食べ物ですか?」
意外な質問内容に拍子抜けしたような顔をする。
当たり前だ。 それでも、彼は少し考える素振りをした後に答えてくれる。
「そうですね?。 食べられるモノでしたらほとんど好きですけど、あえて言うなら、オニギリですかね」
逆に予想外の答えが返ってきてしまった。
確かにオニギリが好きな人は大勢いるが、人に聞かれて答える食べ物ではあまり聞かないきがする。
それに、お昼のお弁当を見ても彼がオニギリを頬張っているような姿をイメージできなかった。
「そうなの? 具は何が好きなの?」
この流れにのってしまった。 これから会話を広げていく切り口の選択肢が少なすぎる。
他には、海苔はパリパリしているのが好き? なんて聞く人はいないだろう。
オニギリが好きと言われたら、やはり具は気になってしまう。
「中身ですか、驚いたのは天むすでしたが、オーソドックスで好きなのはやはり、佃煮の昆布と鮭ですかね。紫蘇昆布でもいいです。さっぱりしているので」
天むすを食べてことのない私にとっては、味を想像するしかできないが、鮭は予想できたが佃煮の昆布がくるとは思わなかった。
紫蘇昆布も名前を聞くだけで美味しそうなので、今度食べてみようと思った。
「普段のお昼はオニギリを食べているの?」
「それがですね。 自分で握ったオニギリってどこか物足りなくて、贅沢なんでしょうが、普段はあまり食べないようにしているんですよ」
自分でオニギリを握ったことのない私、むしろ「料理」の経験がない私にとって、その気持ちは少しわからない。
他の人はどうなんだろうか? 後で爺にでも聞いてみるとしよう。
「握ってくれる人はいなの?」
なんとなく、本当に軽い気持ちで放ってしまった。
私の言葉を聞いた彼は、一瞬ではあるが暗い表情をした。
「そうですね、今ははいませんね」
その表情は一瞬で、瞬きよりも短かったかもしれない。
けれども、普段通りに見える彼に僅かではあるが影が見えた。
それを出させてしまったのは他ならぬ私であり、デリケートな部分だったのかもしれなかった。
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