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奇妙な暮らしのスタート
不純な動機
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「へん! 料理って、先輩も上手でしたからね。今朝だって凄く美味しかったす」
「!!」
満面の笑みで私が作ったと思い込んでいる。
「? 今朝? あぁ、私が作っておいた朝食のことか……どうだった? 美味しかったか? 愛夏さんも何か作ってくれたのかな? 量が足りないようなら次からもう少し増やそうと思うのだが」
べ、別に私は騙していたわけではないのだけど、話すタイミングが無かっただけで……そのぉ、えっと……。
「え? あれっておっさんが作たの?」
「あれというのが私にはわからないが、今朝冷蔵庫に入っている料理を指しているなら作ったのは私だ。どうだった? 美味しかったか?」
カクカクと首をぎこちない動きをさせながら私を向くユウ。
急いで視線を逸らして、二人に聞こえる声でいった。
「と、とても美味しかったです」
「そうか、それならよかった。暇があるときだけになるがなるべく料理は私が担当したいと思っていてね」
嬉しそうないっくんに引き換え、驚きとショックと悔しさが混ざったような複雑な表情になっているユウ。
私はこの変な空気をどうにかしたく、話題を変えてみることにした。
「ねぇ、いっ……柿崎社長、真実を教えてください」
ぎろっと、少し強めに今度は私が睨むと、先ほどまでユウのには何にも反応していなかったのに、急にタジタジになる。
そして、今まで一番大きなため息をついて、周りに誰もいないことを確認すると小声で話しかけてきた。
「しょ、正直にいうが……だから」
「?」
「?」
私とユウの頭の上にクスチョンマークが浮かぶ、なんて言ったの? まったく聞こえないし、なぜか頬が真っ赤になっていた。
「愛夏さんと一緒に居たくて」
「はぁ⁉ おっさん、まじかよキッモ」
これこれ、おぬしが何を言っておるのじゃ。
いや、ツッコミどころはそこじゃなくて「私」と一緒に働きたいっていう理由だけで「会社を買い取った」と彼は言っていた。
ハッキリ言って二人とも行動力凄すぎて、まったくついていけていない。
「ば、馬鹿なの?」
二人が私を見つめた後にお互いを向く、本人たちは凄くマジメなのかもしれない。
現に自分は正常だと思っているのか、向かい合った相手を「馬鹿」と思っているに違いない。
「だが、これだけは言わせてもらいたい。元々、この会社はウチが買い取る手筈で動いていた。それは、元社長からの頼みでな……あまり乗り気ではなかったが」
私がいたからやる気になったということらしい。
余生を楽しく過ごしたいと願っていた元社長は、どこかで会社を手放すことを考えていたらしく、誰かに継がせることも視野に入れていたが後々の安泰を考えると柿崎新社長に任せるのが吉と思ったようだ。
本当は全て譲渡する計画だったようだけど、いっくんはそれを拒んで正式な手続きを行って社長の椅子に座ることとなった。
「す、凄いわね二人の行動力……動機がかなり不純だけど」
頭を抱えて下を向きそうになるが、隣に座っていたユウが不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「不純って言いますけど、俺にとっては最優先事項だったんすから」
まっすぐ真剣な眼差しで言われると、グッと何かがこみあげてくる。
それを見ていたいっくんも、何を思ったのか私の隣に来て顔を近づけてきた。
「少し邪魔が入ったが、今日から私は愛夏さんの上司であり同居人でもある。そ、その……こちらも譲るつもりはない」
譲れないって、そんな恥ずかしいことよく言えるわね……そう思ってふと彼の顔を見てみると、いつも冷静そうな顔をしているのに頬が朱く染まっている。
かなり恥ずかしいのかもしれない、なんだろうちょっと可愛いと思ってしまった。
最初は「ハイハイ」程度で聞き流そうと思ったが、そんな顔をされるとこっちまで恥ずかしくなってきてしまう。
私は、系統の違う二人の男性に挟まれる形になり、一切身動きがとれなくなってしまった。
困惑と恥ずかしさがあわさり、居心地が悪く早く抜け出してしまいたかった。
「社長だからって、負けないっすからね!」
「あぁ、もちろん自分の地位や権力を利用しようなんて思っていないよ」
すくっと二人同時に立ち上がると、いっくんがユウを連れて部屋の外に出ようとする。
「さて、これから新入社員の説明会を行わなければな、人事部長にお願いしているよ」
「まぢかよ……はやく先輩と一緒に働きたいのに! おっさん、抜け駆け禁止だからな」
「何を言っている? 新入社員と言っただろ?」
いっくんの顔が嫌な感じの笑みに変わった。
ま、まさか……【新入社員】、つまりこの会社に新しく入った人を対象に説明会を行うというつもりなの?
「え? え?」
まだ理解していないユウ、ポンっと肩を新社長から叩かれて外へ行くように促される。
「抜け駆け? 安心しなさい。私もこの会社について殆ど理解していないに等しいんだ。お互い新入社員ということで、これから二人で会社について学ぼうではないか」
「⁉ お、おっさん社長じゃん、い、意味ないだろう!」
「意味が無い? そんなことはない、業務内容や収支、社員状況福利厚生、会社周辺の環境などは自分でも調べられる。だが、そこで働くとは別で小さなローカルルールや細かい決まり事までは把握していないんだよ。良い機会だから学ぼうと思ってね」
ユウが後ろを振り返り、私に嫌そうな顔を見せてくるが手をヒラヒラと振って「がんばれ~」とだけ、心の中から発信しておいた。
それにしても、いっくん真面目だなぁ……普通社長が社員と一緒に研修は受けないでしょう。
出ていく二人の背中を見送ると、私も部屋の外へでて自分の業務へと向かおうとするも周囲の視線が先ほどより増している。
これは、お昼休み質問攻めが待ち受けていると予想された。
「もう、なんなのよ……」
朝から疲れてしまった。
起動させていたパソコンにパスワードを打ち込んで、画面を開くとメールアプリをクリックしてお客様の対応を開始していった。
「!!」
満面の笑みで私が作ったと思い込んでいる。
「? 今朝? あぁ、私が作っておいた朝食のことか……どうだった? 美味しかったか? 愛夏さんも何か作ってくれたのかな? 量が足りないようなら次からもう少し増やそうと思うのだが」
べ、別に私は騙していたわけではないのだけど、話すタイミングが無かっただけで……そのぉ、えっと……。
「え? あれっておっさんが作たの?」
「あれというのが私にはわからないが、今朝冷蔵庫に入っている料理を指しているなら作ったのは私だ。どうだった? 美味しかったか?」
カクカクと首をぎこちない動きをさせながら私を向くユウ。
急いで視線を逸らして、二人に聞こえる声でいった。
「と、とても美味しかったです」
「そうか、それならよかった。暇があるときだけになるがなるべく料理は私が担当したいと思っていてね」
嬉しそうないっくんに引き換え、驚きとショックと悔しさが混ざったような複雑な表情になっているユウ。
私はこの変な空気をどうにかしたく、話題を変えてみることにした。
「ねぇ、いっ……柿崎社長、真実を教えてください」
ぎろっと、少し強めに今度は私が睨むと、先ほどまでユウのには何にも反応していなかったのに、急にタジタジになる。
そして、今まで一番大きなため息をついて、周りに誰もいないことを確認すると小声で話しかけてきた。
「しょ、正直にいうが……だから」
「?」
「?」
私とユウの頭の上にクスチョンマークが浮かぶ、なんて言ったの? まったく聞こえないし、なぜか頬が真っ赤になっていた。
「愛夏さんと一緒に居たくて」
「はぁ⁉ おっさん、まじかよキッモ」
これこれ、おぬしが何を言っておるのじゃ。
いや、ツッコミどころはそこじゃなくて「私」と一緒に働きたいっていう理由だけで「会社を買い取った」と彼は言っていた。
ハッキリ言って二人とも行動力凄すぎて、まったくついていけていない。
「ば、馬鹿なの?」
二人が私を見つめた後にお互いを向く、本人たちは凄くマジメなのかもしれない。
現に自分は正常だと思っているのか、向かい合った相手を「馬鹿」と思っているに違いない。
「だが、これだけは言わせてもらいたい。元々、この会社はウチが買い取る手筈で動いていた。それは、元社長からの頼みでな……あまり乗り気ではなかったが」
私がいたからやる気になったということらしい。
余生を楽しく過ごしたいと願っていた元社長は、どこかで会社を手放すことを考えていたらしく、誰かに継がせることも視野に入れていたが後々の安泰を考えると柿崎新社長に任せるのが吉と思ったようだ。
本当は全て譲渡する計画だったようだけど、いっくんはそれを拒んで正式な手続きを行って社長の椅子に座ることとなった。
「す、凄いわね二人の行動力……動機がかなり不純だけど」
頭を抱えて下を向きそうになるが、隣に座っていたユウが不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「不純って言いますけど、俺にとっては最優先事項だったんすから」
まっすぐ真剣な眼差しで言われると、グッと何かがこみあげてくる。
それを見ていたいっくんも、何を思ったのか私の隣に来て顔を近づけてきた。
「少し邪魔が入ったが、今日から私は愛夏さんの上司であり同居人でもある。そ、その……こちらも譲るつもりはない」
譲れないって、そんな恥ずかしいことよく言えるわね……そう思ってふと彼の顔を見てみると、いつも冷静そうな顔をしているのに頬が朱く染まっている。
かなり恥ずかしいのかもしれない、なんだろうちょっと可愛いと思ってしまった。
最初は「ハイハイ」程度で聞き流そうと思ったが、そんな顔をされるとこっちまで恥ずかしくなってきてしまう。
私は、系統の違う二人の男性に挟まれる形になり、一切身動きがとれなくなってしまった。
困惑と恥ずかしさがあわさり、居心地が悪く早く抜け出してしまいたかった。
「社長だからって、負けないっすからね!」
「あぁ、もちろん自分の地位や権力を利用しようなんて思っていないよ」
すくっと二人同時に立ち上がると、いっくんがユウを連れて部屋の外に出ようとする。
「さて、これから新入社員の説明会を行わなければな、人事部長にお願いしているよ」
「まぢかよ……はやく先輩と一緒に働きたいのに! おっさん、抜け駆け禁止だからな」
「何を言っている? 新入社員と言っただろ?」
いっくんの顔が嫌な感じの笑みに変わった。
ま、まさか……【新入社員】、つまりこの会社に新しく入った人を対象に説明会を行うというつもりなの?
「え? え?」
まだ理解していないユウ、ポンっと肩を新社長から叩かれて外へ行くように促される。
「抜け駆け? 安心しなさい。私もこの会社について殆ど理解していないに等しいんだ。お互い新入社員ということで、これから二人で会社について学ぼうではないか」
「⁉ お、おっさん社長じゃん、い、意味ないだろう!」
「意味が無い? そんなことはない、業務内容や収支、社員状況福利厚生、会社周辺の環境などは自分でも調べられる。だが、そこで働くとは別で小さなローカルルールや細かい決まり事までは把握していないんだよ。良い機会だから学ぼうと思ってね」
ユウが後ろを振り返り、私に嫌そうな顔を見せてくるが手をヒラヒラと振って「がんばれ~」とだけ、心の中から発信しておいた。
それにしても、いっくん真面目だなぁ……普通社長が社員と一緒に研修は受けないでしょう。
出ていく二人の背中を見送ると、私も部屋の外へでて自分の業務へと向かおうとするも周囲の視線が先ほどより増している。
これは、お昼休み質問攻めが待ち受けていると予想された。
「もう、なんなのよ……」
朝から疲れてしまった。
起動させていたパソコンにパスワードを打ち込んで、画面を開くとメールアプリをクリックしてお客様の対応を開始していった。
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