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奇妙な暮らしのスタート
嘘ッ!?
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「「「えぇぇぇぇえ!!」」」
落ち着け落ち着けといったジェスチャーで全員を鎮める経理部長、一度咳ばらいをしてから再度話し始める。
「前社長、つまり創業者なのだが……今はバリ島に移り住んで余生を楽しんでいる。これは以前から決まっていたことで、上層部で話し合って誰が社長に就任するのか審議したが、結論がでなかった。そこで、外部に頼みわが社を買い取ってくださる企業を探したところ」
目の前のホワイトボードに何かを書き込んでいく。
【株式会社I.Liberty】と書かれ、おそらくそこがウチを買い取ったのだろう。
「若い社長だが、腕は確かだと思う。詳しくはこれから新社長自らお話いただくので、全員傾注するように」
静かになる部屋、そして、扉が開きコツコツという足音と一緒に現れた姿を見たとき、私の体は固まりユウは口をパクパクとしていた。
いや、だって……キリっと姿勢を正し優雅に歩く姿を私たちは知っている。
「い、いっくん?」
「おっさん?」
コッソリと言ったつもりだったのに、横を通ったとき視線があってしまう。
昨日まで見ていた感じとはまた違い、さらに引き締まった印象になぜか緊張してしまった。
「うげぇ、まじかよ……」
ピクピクと頬を動かしているユウの顔色が悪くなる。
そして、いっくんではなく柿崎 泉社長の話が始まったが、私はまったく集中して聞くことができない。
いったい私の周りで何が起こっているの? どうなっちゃうのよ⁉
新社長の話が終わりザワザワとまだ喧噪が収まらない、それでも全員が気になりつつも通常業務へと気持ちを切り替えようとしている。
泉社長の方針では、元々この会社はそんな大きな黒字ではないがしっかりとした経営ができているので、当面は今のままで良いということを言っていたような気もする。
急展開に次ぐ急展開だらけで、思考も体も追い付かない。
いつものようにメールをチェックしているふりをしながら、パソコンの画面を茫然と見つめていると背後から話しかけられた。
「直江さんに、新人の新発田くんちょっと来てくれないか」
声で誰かわかったが、振り向くのが怖い。
周りの視線が一斉に私たちに向いているのが肌でも感じられるレベルである。
「え、えっと……なんでしょうか? 社長」
ぎこちなく振り向くと、そこに立っているのは私が知っている彼ではなく、何にでも興味が無いような瞳と無表情が印象的だった。
「おっ、しゃ社長様何か御用でしょうか?」
こんなときでも、若干の煽りを入れてくるあたり、ユウのメンタルは想像以上に強いのかもしれない。
「少し話がしたい、着いてきてくれないか? それと、新発田くんは話が終わり次第に人事の人とやり取りしてくれたまえ」
ギシギシと体をこわばらせながら立ち上がると、私たちは先を歩く彼の背中をついていく。
案内されたのは、応接室で社長室が無い弊社としては人目を気にせずに会話ができる数少ない部屋の一つであった。
入ると薄暗い部屋が人を感知し明りがつく、若干の埃っぽさが目立つがいつも綺麗に整理整頓されていた。
「ふぅ……」
ツカツカと急いで歩いていく泉社長、そのままソファーに座ると大きなため息をつく。
「座ってくれ」
手で促され、私たちも座るが隣のユウはなぜかずっと睨んでいた。
「そう睨むな、むしろ睨みたいのは私の方なのだがね」
眼鏡をずらし右手の人差し指と親指で目頭を押して、小さく唸っている。
「え? え? もしかすると、二人ともここで働くって知らなかったの?」
「もちろん! 知っていたら、こんなヤツ採用なんてするものか!」
「は? 知らないっすよ。俺は先輩と一緒が良いから中途の試験受けただけっすからね」
ギリギリと睨みをきつくしていくユウに、ため息ばかりつくいっくん……ハッキリ言っていいですか? それ、私がやりたいことなのですが!
「ねぇ、なんで急に二人ともとんでもない行動にでるの⁉ ユウの理由は私と一緒に働きたいってだけなの⁉」
コクリと笑顔で頷く、いや、それってどうなのよ? 正直、お、重くないですか? そこまで慕われることをした記憶がないので、なぜ彼がここまでしているのか皆目見当もつかない。
それに、ユウは自分の意思で来たけれど、いっくんは違うと信じたい。
「私はたまたま、たまたまだぞ! 前社長と趣味が一緒でな街の集まりで話す機会も多くなり会社を頼むと言われた」
言われるわけないでしょ、そんな簡単に自分が人生の大半を費やして築いた会社をすんなり渡すなんて考えられない。
「ちなみに、私と彼の趣味は料理教室だ」
誰も聞いてない! あ、でもどうりで今朝のご飯が美味しい理由が判明した。
落ち着け落ち着けといったジェスチャーで全員を鎮める経理部長、一度咳ばらいをしてから再度話し始める。
「前社長、つまり創業者なのだが……今はバリ島に移り住んで余生を楽しんでいる。これは以前から決まっていたことで、上層部で話し合って誰が社長に就任するのか審議したが、結論がでなかった。そこで、外部に頼みわが社を買い取ってくださる企業を探したところ」
目の前のホワイトボードに何かを書き込んでいく。
【株式会社I.Liberty】と書かれ、おそらくそこがウチを買い取ったのだろう。
「若い社長だが、腕は確かだと思う。詳しくはこれから新社長自らお話いただくので、全員傾注するように」
静かになる部屋、そして、扉が開きコツコツという足音と一緒に現れた姿を見たとき、私の体は固まりユウは口をパクパクとしていた。
いや、だって……キリっと姿勢を正し優雅に歩く姿を私たちは知っている。
「い、いっくん?」
「おっさん?」
コッソリと言ったつもりだったのに、横を通ったとき視線があってしまう。
昨日まで見ていた感じとはまた違い、さらに引き締まった印象になぜか緊張してしまった。
「うげぇ、まじかよ……」
ピクピクと頬を動かしているユウの顔色が悪くなる。
そして、いっくんではなく柿崎 泉社長の話が始まったが、私はまったく集中して聞くことができない。
いったい私の周りで何が起こっているの? どうなっちゃうのよ⁉
新社長の話が終わりザワザワとまだ喧噪が収まらない、それでも全員が気になりつつも通常業務へと気持ちを切り替えようとしている。
泉社長の方針では、元々この会社はそんな大きな黒字ではないがしっかりとした経営ができているので、当面は今のままで良いということを言っていたような気もする。
急展開に次ぐ急展開だらけで、思考も体も追い付かない。
いつものようにメールをチェックしているふりをしながら、パソコンの画面を茫然と見つめていると背後から話しかけられた。
「直江さんに、新人の新発田くんちょっと来てくれないか」
声で誰かわかったが、振り向くのが怖い。
周りの視線が一斉に私たちに向いているのが肌でも感じられるレベルである。
「え、えっと……なんでしょうか? 社長」
ぎこちなく振り向くと、そこに立っているのは私が知っている彼ではなく、何にでも興味が無いような瞳と無表情が印象的だった。
「おっ、しゃ社長様何か御用でしょうか?」
こんなときでも、若干の煽りを入れてくるあたり、ユウのメンタルは想像以上に強いのかもしれない。
「少し話がしたい、着いてきてくれないか? それと、新発田くんは話が終わり次第に人事の人とやり取りしてくれたまえ」
ギシギシと体をこわばらせながら立ち上がると、私たちは先を歩く彼の背中をついていく。
案内されたのは、応接室で社長室が無い弊社としては人目を気にせずに会話ができる数少ない部屋の一つであった。
入ると薄暗い部屋が人を感知し明りがつく、若干の埃っぽさが目立つがいつも綺麗に整理整頓されていた。
「ふぅ……」
ツカツカと急いで歩いていく泉社長、そのままソファーに座ると大きなため息をつく。
「座ってくれ」
手で促され、私たちも座るが隣のユウはなぜかずっと睨んでいた。
「そう睨むな、むしろ睨みたいのは私の方なのだがね」
眼鏡をずらし右手の人差し指と親指で目頭を押して、小さく唸っている。
「え? え? もしかすると、二人ともここで働くって知らなかったの?」
「もちろん! 知っていたら、こんなヤツ採用なんてするものか!」
「は? 知らないっすよ。俺は先輩と一緒が良いから中途の試験受けただけっすからね」
ギリギリと睨みをきつくしていくユウに、ため息ばかりつくいっくん……ハッキリ言っていいですか? それ、私がやりたいことなのですが!
「ねぇ、なんで急に二人ともとんでもない行動にでるの⁉ ユウの理由は私と一緒に働きたいってだけなの⁉」
コクリと笑顔で頷く、いや、それってどうなのよ? 正直、お、重くないですか? そこまで慕われることをした記憶がないので、なぜ彼がここまでしているのか皆目見当もつかない。
それに、ユウは自分の意思で来たけれど、いっくんは違うと信じたい。
「私はたまたま、たまたまだぞ! 前社長と趣味が一緒でな街の集まりで話す機会も多くなり会社を頼むと言われた」
言われるわけないでしょ、そんな簡単に自分が人生の大半を費やして築いた会社をすんなり渡すなんて考えられない。
「ちなみに、私と彼の趣味は料理教室だ」
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