上 下
9 / 44
転生したけれど……

夢絵空事

しおりを挟む
 外側から変える? 自国を憂いて変えていこうとするも、邪魔が多いので外に出て仲間を集っているということなのだろうか?
 だとすると、彼も私たちと同じ志を持っている可能性が高い、若干の違いはあるだろうが概ね向いている方角は一緒のはずだろう。

「そうなの、それで? 私を助けてどうするつもりだったの?」

「簡単な話、俺たちは以前からレイナに目をつけていた。本来なら式典を狙って救い出す手筈だったのがな、でも想像以上に腕がたつとみる」

 私を狙っていた? どういうつもりなのだろうか、正直圧倒的な戦力増強になるような人ではないし、ソマリがいたからある程度は闘えるが以前は本当に何もできなと言っても過言でない。
 
「俺たちには象徴たる人物が必要だった。それは俺ではダメだ、この国を貪ってきた血筋ではなく神や民に愛され人々の心の拠り所になり得る人物が……」

「それが私ということなの?」

 こくりと頷く、でも疑問が残る。
 聖女を象徴にしたてたい気持ちは理解できるが、なぜ【私】でなければいけないのだろう? 率直な疑問を彼に訊いてみた。

「ん? あぁ、一応聖女の人柄は調べさせてもらっていた。悪く思わないでくれ、それでレイナは歴代の聖女たちとは違い、利権に欲がなく勤勉でどことなく雰囲気も違ったらしい。だから、俺たちは決めていたんだレイナをって」

 利権云々に関して言えば、ずっと小さいころから聖女のあり方について学んできたので、殆ど傀儡化しているなんて思いもしなかった。
 本来は幼い頃より聞かされ、お城にも出入りし皆がその甘い蜜の虜になっているそうなのだが、私だけは違ったようで家の外にも出してもらえない。
 もしかすると、私を守っていた? 誰が? なんのために? 次々に疑問が浮かんでくるが、今は話を進めなければならい。

「つまり、私を反政府軍の形だけの象徴に使いたいということなのかしら?」

「おいおい、それは随分な言い方だな、まぁ大筋は逸れていない。だが、俺たちが望むのは更に先だ」

 更に先――それを言ったラバルナは外を見て月の光に顔を照らしていく。
 淡く、神秘的な光が窓から入ってくると火の灯りと混ざり合い彼の瞳を彩り、その揺れる真珠のような輝きの奥には何を描いているのだろうか?
 
「誰もが聖女を知っており、聖女を嫌っている。だが、ここに本来の役目を担った存在が現れるとする。それは救いであり希望でもある。だから俺たちは立ち上がる。これを待っていたんだ……この砂漠を照らす存在が現れるのをそれがレイナ――キミだ」

 グッと立ち上がると私に近寄ってくる。
 私も立ち上がろうとすると、ぐらっと倒れそうになってしまった。

「おっと、大丈夫か?」

 がつっと抱きかかえられる形で彼に受け止められてしまう。 
 武骨な感じの鍛えらられた身体に、少し汗の匂いと砂の香りが混ざっており、なんとも不思議な感じのする香りだった。

「ご、ごめんなさい」

「いいんだ、疲れただろう? 少し休め、すまない呼び止めてしまって」

 自力で歩けることを告げると、私を部屋へと案内してくれる女性を呼んでその場を離れる。
 少し粗末だが、ベッドと布団はあるようで私はそこに倒れるように横になった。
 正直言うと、立っているのも辛いほど疲弊してきっており、今にも目が閉じてしまいそうだった。

「象徴ね……」

 結局、私という存在を利用したいだけなのかもしれない。
 だけど、今はそれで良いんだ……だって、この世界を救えるのなら多少腑に落ちないことでもやれるきがする。
 それに、私一人ではどのみち無理だったろう、一気に大勢の仲間ができたことで希望が見えてきた。

「見ていないさいよ」

 あのいけ好かない元婚約者の顔面に拳をお見舞いすることを考えると、体に力がこもる。
 私は起き上がることもできずに、そのまま一気に眠りの世界へと向かっていく。

『レイナ、おやすみなさい』
「ソマリ……う、ん……お、やす、み……」

 
***

 その頃、イスファ聖教国のお城では今まで無いほど慌ただしい状況になっていた。

「クソッ! あの女生かしちゃおかねぇ! ムカつくムカつく」

 イライラと周りの人に当たり散らしている男性の前には、白髪でありながら威厳を兼ね備えた人物が座っている。

「うろたえるな息子よ、民には式典は中止し代わりの聖女を今探させている。もう少し待て」

「代わりなんざ欲しくねぇよ! 俺はあの女と兄貴の首が欲しい! オヤジも今まで見過ごしきたが、今回ばかりは許さねぇぞ」

「ふむ、確かに今まで息子だからと言って、多少のことは目を瞑ってきたが我が国を追放になった聖女を助け、国家の転覆を企てているというなら話は別だ。ラバルナよ……今をもって息子の縁を切る! 彼の物は国家反逆者として手配せよ‼ よいか、このイスファ聖教国を何としてでも存続させるのだ、飾りだけの聖女と世の中を知らぬアホどもを殺せ、良いか殺すのだぁ!」

 多くの兵たちが準備を始める。
 王を中心にどす黒い渦が広がりだしていく、それは遠く離れた砂漠を飲み込む勢いで月の光も通さぬほど深い闇であった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。 召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。 美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。 そして美少女を懐柔しようとするが……

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...