上 下
4 / 44
転生したけれど……

本性

しおりを挟む
 目覚めはこの世界にきて一番悪いと言っても過言でないくらい、体が動かなかった。
 無理やり爺に起こしてもらい、急いで給仕の人たちに手伝ってもらいながら婚儀の準備を進めていく。

「まったく聖女様、今日がどれだけ大事な日なのかあなたはご存じないのですか⁉」

 語尾になるにつれて口調が険しくなっていく。
 相当イライラしているようだった。
 私は何も考えることができずにおり、ただ憂鬱の中を漂うだけの抜け殻になっているような気がしてならない。
 
 昨日のソマリだって、実は夢なのって言われると信じてしまう。

「私が私でいられる最後のとき……」

 今日の昼には第二王子との結婚式が予定されていた。
 まだ顔も知らない存在に私は嫌とも楽しみともとれない、複雑な感情しかもてないでいる。
 
「まったく、奥様が知ったら大変なことになりますぞ」
 
 私が聖女の資格があると知って、この家に買われてしまう。
 だから、本当の父と母の姿を私は覚えていない。
 だからと言って、今の義母の姿を覚えているのかと問われると、それは否である。

「お義母さま……」

 一度だけ、この家の庭で遊んでいるときにチラッと横顔を見たことはあるものの、ハッキリと姿を見たことはない。
 だって、私は元居た世界でいうならビジネスの道具でしかなく、自分の家が甘い蜜を吸う事以外考えていないのかもしれない。

 そのとき、窓の外に数羽の鳥が真っ青な空へと羽ばたいていく姿が目に入ってくる。

「鳥は羽ばたくもの」

「そうです。鳥は空を飛び、平民は税を貢ぎ聖女様は聖女として生きるべきなのです」

 爺が私の小言に対し言ってきた。
 それはつまり、こちらに自由など無いと言っているようなもの。

「わかっております。私は聖女として仕事をまっとうします」

「仕事? えぇ、存分に励まれてくださいませ、どうか心より願っております」

 嫌味な感じのいい方に不快感を覚えてしまう。
 そんな私の心の内とは関係なく、準備は進められ純白のドレスとベールを身に着けると、そのまま馬車でお城まで送られていく。
 もう、自分の歩きたい道は歩けないのかもしれない……だったらせめて内側からでも世の中が良くなれれば、ソマリーー今私にできる精一杯をやってみるわね。

 お城に到着すると、爺はさっさと馬車に乗り来た道を戻っていく。
 取り残された私に兵士が周りをがっちりと囲み、淡々と歩かされた。
 そして、ある部屋に通されるとムワっと強烈な香水の香りにせき込みそうになる。

「おぉ、来たか」

 ボソッと気だるそうな声に視線を向けると、そこには二人の美女に囲まれ朝からお酒を飲んでいるのか真っ赤な顔の男性がいる。
 歳は今の私とあまり変わりないように見えるが、おそらく年上だろう。

「こりゃ、随分と貧相な女だな……それに礼儀知らずときたか」

 周りの兵士たちがザワっとしだし、小声で私に伝えてくる。

「あの方が聖女様の旦那様となられる……」

「え?」

 私は慌てて前に出て、膝をつくと頭を下げてこう述べた。

「大変失礼いたしました。私はレイナ・アストレアと申します。この度は」

「あぁ、うん、もういい」

 急に言葉を止められ、さらに面倒のような感じで周りの美女たちを遠ざけると、私の近くへとくる。

「二年だ、二年で俺の子を産め。それ以上は待たない」

 唖然とした。 何をこの人は言っているのだろうか?
 
「そ、それはどういった意味でしょうか?」

 ちらっと視線だけ上にあげると、単発の黒髪できりっとした目をしていおり、とても整った顔の人物だ。
 だた、酔っているのか瞳は常に動いており、それは私の姿を捉えていない。

「なに? バカなのか? 俺は誰にも縛られたくない、国のなんちゃらでお前のような平民を抱くなんて考えられないんだよ。だから期限は二年だ、それ以上はお前を抱く理由がない」

 嫌悪感に包まれていく。
 こ、これが初代聖女として活動した彼女が言っていた現実なの? 私も愛のない結婚なんて嫌だ。
 だけど、だけど! そうでもしないとこの世界を少しでも良くはできない。

「し、しかし、恐れながら申し上げますと、私にも聖女としての務めがあり、より良い世の中にすべく努力を……」


 その瞬間、ベールを無理やりはがされると私の髪の毛を掴み、無理やり顔をあげさせられた。

「い、痛い!」

「おいおいおいおい! お前、何か勘違いしてないか? 聖女? ヘッ! あんなお飾りに仕事なんざねぇよ。次の聖女候補が現れるまでお前はただいるだけだ、いい生活だろ? 何もせず、俺に抱かれているだけで何不自由のない生活が二年は約束されているんだ。平民のお前にはもったいない生活がな‼ 聖女はお飾りなんだよ? わかるか? 役目ってのは唯一あるなら、その名を借りて俺たちは貧乏人たちから金を貰う。そのための道具となれ」

 そう言って、バンっと乱暴に手を離された。
 後ろで見守っている兵士たちはガクガクと震えて何もできないでいる。

「……いる」

「あ? なんだ? 文句でもあるのか?」

 今度は蹴りを入れようとしてくるのを無意識に私の腕がとめた。

「は? なんだ? やろうってのかよ?」

 私の中で何かが囁く、それはずっと眠っていた心を強くたたき始めた。

『レイナ、お願い。これが現実なの……あなたならできるわ』

 わからない、何ができるって言うの? でも先日の市場でみた人の顔が脳裏に浮かぶ、こんな世界が許されるなんて、それは聖女という姿を使いさらに貪ろうとしている。そんなこと私にはできない!
 ただ敷かれたレールの上を走るために生まれたんじゃない、ソマリお願い力を貸してちょうだい、あなたが私にこの世界を変えられ可能性があるっていうのなら、少しでも光ある方向へと変えてみたい。

『ありがとう、大丈夫よ。私がずっと傍にいるから安心して』

「おい、なんとか言えよ! どうせ顔は隠れるんだ、少し傷ついても誰も気が付かねぇだろ」

 ぐっと、掴まれていないもう片方の足で私を蹴ろうとするが、ズッと力を入れて足を引き込むとバランスを崩してお尻から床に倒れてしまう。
 なんてみっともない、慌てた兵士たちが駆け寄ろうとしていた。
 私は立ち上がり、ギリっと相手を見下ろして告げる。

「腐っているって言ったのよ! その反吐がでる息で私に話しけないでください、この場をもって婚約は破棄とさせていただきます! そして、今をもって聖女としての資格も捨てます」
 
 首に飾られた白銀のネックレス、これは私を聖女として縛り付けている物、こんなものは必要ない。
 ゆっくりと外し、目の前の男に向かって投げ捨てた。

「ぶっ! こ、このクソがぁ‼ 殺せ、殺すんだ!」

「し、しかし、相手は……」

「うるせぇ、俺が殺せって言ってるんだ殺せよ! できないなら、俺がやる!」

 椅子に戻り、宝石に彩られた剣をもって私に向かってくる。
 兵士たちは何をしてよいのか理解できないでいるスキを狙い、腰から剣を奪った。

「な! 正気なのか⁉ おやめください!」

 不思議、私は剣なんて一度も扱ったことなんてない、だけど体が勝手動いてくれる。
 スッと構えると呼吸を整えていく、あぁソマリあなたって随分と活発だったのね。

 彼女の気配が私を包み込み、小さな光の粒が現れてきた。

『うふふ、そうよ。みんな勘違いしているけれど、私はすごくお転婆だったんだから』

 
「ソマリと一緒なら」
「レイナと一緒なら」

 どこまでも行けそうな気がしてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

異世界、肺だけ生活

魔万寿
ファンタジー
ある夏の日、 手術で摘出された肺だけが異世界転生!? 見えない。 話せない。 動けない。 何も出来ない。 そんな肺と、 生まれたての女神が繰り広げる異世界生活は チュートリアルから!? チュートリアルを過去最短記録でクリアし、 本番環境でも最短で魔王に挑むことに…… パズルのように切り離された大地に、 それぞれ魔王が降臨していることを知る。 本番環境から数々の出会いを経て、 現実世界の俺とも協力し、 女の子も、異世界も救うことができるのか…… 第1ピース目で肺は夢を叶えられるのか…… 現実世界では植物人間の女の子…… 時と血の呪縛に苦しむ女の子…… 家族が魔王に操られている女の子…… あなたの肺なら誰を助けますか……

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...