年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

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志賀樹の正体

いや……気持ちはわかるけど、そこまで?

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 朝礼までの時間、私は取り囲まれている。
 しかもなぜか、外で珈琲を飲んでいた営業部の部長にまで見られていたようで、彼もこの場にいて面白そうな目で見つめてくる。
 

「いやぁ、神薙さんも隅に置けませんなぁ」

 いや、そのキャラなに? 営業部に戻ってください部長。
 
「係長! 凄いですね、チラッとしか見えませんでしたが、あの人って確か……」

 手毬さんが企画部の人たちに説明していく。
 以前に会っていたので、人物像を細かく説明しているが、当時酔っ払い状態だった彼女の話は盛に盛られて収集がつかなくなりつつあった。
 
「えぇ、年下? イケメン、お金持ち? って漫画みたいじゃないですか⁉」

 要素だけ抜くと確かにその通りなのだけど、自家用機まで持っているのは間違いなのでしっかりと訂正しておこう。
 先ほどから苦笑いしかできない私は、その場の空気を落ち着かせるため、席について仕事の準備をしていく。

「ほ、ほら私のことなんてどうでもいいからもう少しで朝礼の時間よ? 今回は手毬さんが担当だったような?」

 しかし、収まらない。
 なんなのよ! 確かに人の恋愛模様ってなぜか面白いし興味もあるけれど、いざ自分が中心になるとかなり居心地が悪かった。

「どこで知り合ったのですか?」
 
 家に到着したら全裸だったなんて言えない。

「付き合ってますか? どれぐらいの頻度で会っているんですか?」

 毎日でしかも一緒に住んでいるなんて言えるわけがないし、しかも最初は同居人という関係から恋人になったのはつい最近という情報も言い出しにくいと思う。

「やっぱり神薙さんがリードする感じですか? しっかりしてますもんね係長って」

 いや、結構リードされているし、むしろベッドの中だとまったく抗えないなんて死んでも言えなかった。
 
「凄いです! 本当に、羨ましいです!!」

 私は乾いた「アハハハ」という言葉しか出てこない。
 どうしよう、これ本当のことが知れたら絶対面倒なことになると思うのよね。
 だから、今度からはもっと用心深く行動しないといけないのかもしれない。
 
 ただ、コソコソという意味ではなく、普通に食事には行くしショッピングも楽しみたい。
 仕事の面に関して、今日のようなミスを無くしていこうという心構えだった。

「ほら! 朝礼の時間だ。 それじゃぁ神薙さん、またあとで」

「部長もお忙しいので、ご無理はしなくとも」

 チクっと刺しておいたが、笑顔で手を振りながら戻っていく姿をみると嫌な予感しかない。
 なんとかっていうヤツで黙らせることはできないだろうか? できそうだけど、そこまでする気にはなれなかった。

 今まで楽しんでいた面々が部長の一声で席に戻っていき、朝礼の準備を始める。
 そして、時間になり当番である手毬さんがニコニコしながら話を始めた。

「えっと、今日の朝礼の豆知識なのですが……実は筋肉一キロ増やすと基礎代謝が十三キロカロリー消費されるって話題だったのですが! 急遽話題を変更しまして、神薙さんの馴れ初めをインタビューしたいと思います!」

 おぉ――!! っと、拍手が巻きおこる部署内、いや、あり得ないだろう。 しかもちょっと消費カロリー気になるし?
 
「いやいや、今は仕事中よ? そういった話は別でしてくれると助かるかしら……」

 ビシッと言うつもりが、なぜか尻すぼみになってしまう。
 全員が私の顔を見てくる。 あ、これは「空気読めない」や「冷める」みたいな感じなのだろうか? 
 私が特殊な出会いをしたのは認めるけれど、やはり仕事のときにまで話す内容だとは思えなかった。

 しかし、皆ニタニタと笑顔になると大きくうなずいて私に詰め寄ってくる。

「それじゃぁ、仕事が関係ない場所ならOKなんですか?」

「へ?」

「それじゃぁ、今度飲みましょう!」

 パチパチと拍手が起こる。
 いや、ごめんなさい。 意味がわからない……企画部は部長などはいないけれど、課長はいる。
 ただ、普段はあまり部屋には入らないで総務の机の場所にいることが多いのだけれど、その課長がいつの間にかこの輪に混ざっていた。
 恐るべし隠密スキルになんで飲み会まで企画されているの? これが、昨今の恋愛に対する【ノリ】なのだろうか?
 
「べ、別にそこまでしなくとも……」

 タジタジな私をしり目に、全員がやる気をだして仕事を開始していく。
 週末までに全部終わらせるそうなので、これはきっと飲み会は実行される流れなのだろう。
 
 ……気持ちはわかるけれど、そこまで? それに、なんだか嫌な予感しかしないという。
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