年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

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志賀樹の正体

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 朝に不思議な肌寒さを感じて目覚めると、空気に若干の重みを感じたので、もう少しで本格的な寒さが訪れる。
 まだ眠っている恋人を抱きしめて熱で温まると、どんな寒い季節でも問題ないように思えてしまう。
 だけど、ずっとくっついている訳にはいかないので、そのとき用の品を今日は買いにいかなければならい。

 本来ならいつも出遅れて買うことが多く、殆ど欲しかったものは無くなり妥協した商品を買う場面が多々あった。

「さて、起きますかね」

 くぅっと、寝息をたてており離れるのは名残惜しいが出かけるとなると話は別だ。
 早めに準備を整える必要があり、こういうとき男性は便利だと思わずにはいられないが、若い人の隣を歩くとなればそれなりに身だしなみに気を使わなければならないと思っている。

「ん? 起きるんですか?」

 トロンとした表情で目をうっすらと開けてこちらを見てくる。
 
「うん、ちょっと準備するから」

 ぎゅむっと抱きしめる力が増して、プルプルと小刻みに体を震わせると樹くんも体をガバっと起き上がらせた。
 まだ完全に目覚めていないのか、目をぱちぱちと動かし袖でゴシゴシとこすっては欠伸をしてベッドから出ようする。

「おはようございます」
「おはよう、ごめんなさいね起こして」
「いえいえ、紗香さんと過ごす時間が増えただけなので」

 小恥ずかしいセリフを起きぬけに言われると、なんだか恥ずかしさも倍増するが、悪い気はしない。
 一度トイレに行き、そのあとから準備を始める。 その間に朝食が完成しており、ある程度で終わらせてご飯を食べた。
 その後に支度を終わらせると、彼も準備が終わっている。

「ねぇ、男性って良いわよね」

「そうですか?」

「着替えて、ちょっと整えるぐらいじゃない」

「いや、友達には二時間以上準備にかかる人もいますよ」

 それは意外なことを聞いたが、やはりそういった人もいるのだろう。
 私ももう少し若いころは、ずいぶんと手間取っていたけれど、最近まではさっぱりとして出かけていた。
 
「ちょっと待って」

 樹くんの後ろを見るとピョンっと寝癖が立っており、私はカバンから櫛を取り出してなおしてあげる。
 猫毛の柔らかい感じで、少し癖もあるのでフワッとした感触が好きで彼の髪はついつい触ってしまう。

「ありがとうございます」
「いいの、それじゃぁ行きますか?」

 揃って玄関から出ていく。
 肌に当たる空気がやはり冷たく、自然とお互いの距離が近くなっていた。
 今まで、これからの季節は少し憂鬱な時期でもあったけれど今年からは違うような気がする。
 
 すっと樹くんから手を握られると、私も握り替えてしまう。
 細くても大きな手が心地よい、近くのレンタカーショップまで新鮮な朝の空気を感じながら歩いていくけれど、いつもと違った風景に見えてしまった。
 アスファルトに差し込む日差しの中にキラキラとしたモノを見つける。

「もう少しで冬ね」

「そうですね、秋って意外とあっという間に過ぎますよね」

「それ、春もそう思うかも」
 
 乾いた道路の日陰には夏の残り香である花が凛として咲いていた。
 寒さと暑さが混ざり合う季節、だけど、確実に近づいている。
 今年の冬はどんな想い出ができるのだろうか? 少し気が早いけれど、ワクワクしてしまう。

 車を借りると、途中のコンビニで買ったコーヒーや清涼飲料水をカップホルダーに置いて出発する。
 車内も楽しく、話題が尽きることはない。
 ただ、難点は年が離れていることで話題が噛み合わないときがたまにある。

「今の若いコの話題にはついていけないかも」
「若いって……でも、知らないこと知っているのは純粋に尊敬しますし、楽しいですよね」

 フォローなのか、私を気遣ってくれているのがわかる。
 以前、干支が一周プラスアルファほど離れている夫婦を見たことがるけれど、それでも仲良く過ごしており、今では家族四人でなぜか離島に移り住み、自由な生活を送っていた。
 
 結局、話題があわなくともやっていけるし、お互い気を遣う場面は必ずでてくるし、尊重しなければならいとも思っている。
 だから、私は彼を応援するし、応援してくれていた。

「もう少しで着きそうですね」

 ナビゲーションが到着までの距離を表示してくれる。
 今日は少し離れて、大型ショッピングモールへと出向いていた。
 
「よっし、今日は買うわよ」

「えっと、この車に入る程度でお願いしますね、やっぱり大きいの借りとけば良かったって落ちにはならないように」

「何を、その時は宅配っていう手段があるじゃない」

「じょ、冗談ですよね?」

「さぁ? どうかしら?」

 若干顔が引きつっている。 大丈夫安心しなさい、そんなに買うモノはないけれど……もし買うことがあるとしたら今後二人の生活が変わるときだろう。
 そんなことを考えると、隣の人といつまでも一緒にいたい気持ちが心をくすぐってくる。
 ソワソワと落ち着きなくなってしまうので、買い物に意識を集中させていく。
 まだ早い時間帯でも、駐車場には車が入っており私たちも空いているスペースに駐車すると外に出た。

「さて、行きますか」

「お手柔らかにお願いします」

 今度は私から手をつなぐと、嬉しそうに握り返してくれる。
 気が早いのか、館内の地図を確認しているとフードエリアが目にとまってしまう。

「今日のお昼何食べますか?」
「そうね、ラーメンとか?」
「いいですね、でもこっちの本格インドカレーも気になりますね」
「悩むわね」

 とりあえず、お昼まで時間はたっぷりあるので買い物しながら食べたい場所を見てまわることにし、入り口から中に入る。
 チラチラと周りを見ても、家族やカップルの割合が自然と高くなっており、この中に私たちも含まれていると考えると少し緊張してしまう。
 背の高い恋人は、楽しいのか辺りを見ては物珍しそうにしていた。
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