年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

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元カレ

外で会ってくれないか?

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 それから、しばらくの間は彼からの連絡もなく平和に過ごしていく。
 
「神薙さん、今日も遅いんですか?」
 
 大学の授業も大詰めに差し掛かり、卒論提出をすればすべての単位が取得できるとなってか、志賀くんは家にいる頻度が増してきた。
 その代わりに、アルバイトに専念する時間も多くなっていた。

「そうね、ちょっと冬に向けての企画が多くなる時期だから」

 私が所属している企画部では、冬に待っているイベントへの対応で忙しくなっている。
 営業部にいたころは、一生懸命売ることに専念していたけれど、いざ商品を企画する側にまわると大変さがわかった。
 慣れるまで時間が必要だったけれど、今ではきっちりとこなせていると思う。

「そっか、大変ですね。了解しました」

 私は彼に行ってきますを告げると、家を出ていく。
 今ではお互いほとんど違和感なく過ごせており、居住も何も問題は起こっていない。

「さて、今日も頑張りますか」

 しかし、暑さが遠のいた朝の爽やかさとは裏腹に会社に到着すると同時に、営業部の部長さんから呼び出しを受けた。

「おはようございます。どうかいたしましたか?」

「お、おはよう、すまないね忙しいところ」

 ニコニコとした笑顔の奥に何かがあるような気がして嫌な感じがしてくる。

「すまないが、またあの会社に出向いてくれないか? ほら」

 そういって、私に見せてくれたのは見積の依頼で漆田くんがいる会社からだった。

「早くないですか?」
 
 最初の取引でかなりの量を収めたのに、もう発注? 私は数量を確認して唖然とする。

「こ、この量って……」

 コクリとうなずく部長、書かれていた数量は前回の三倍で金額も比べ物にならないほどだった。

「そんな、これおかしいですよ絶対に」

「おかしい? どこがおかしいんだい? 相手が売れて利益が出て、我々も潤うんだから変なことは言わないでくれ、ほらメールでもう一度煮詰めたいって来ているから頼んだよ」

 いったい何を煮詰めるのだ、前回かなり細部まで説明しているのに、また?
 確かに私たちの会社は売上があがり、とても嬉しいことだが、昨日の今日でこんなにも発注がくるのかしら? それとも、彼がもつパイプが想像以上に太いか複数あるかのどちらかなのかもしれない。

「わかりました。それでは準備をすませて向かいます」

 この場でウダウダしていても仕方が無い、私は前回同様に仕事を任せて会社を出る。
 漆田くんの会社に到着すると、すぐに受付の人が私の顔を見るなり笑顔で「こちらです」と言って案内してくれた。
 まだ日中は残暑が残る季節だけど、部屋の中は冷房が動いていないのか蒸し暑かった。

「節電かな?」

 これから来客がある場合は事前に冷房を動かしておく必要がありそうだけど、エネルギー問題もあるのでギリギリまで節電をしているのかもしれない。
 
「お、ごめんごめん、お待たせ」

 今までと違い、軽いノリで部屋に入ってくる彼。
 私は半分呆れたような顔をしながら、応えた。

「ねぇ、煮詰めたいってなに? 前回でかなり細部までおこなったつもりだったけど」

 立っている私の横を通り過ぎて、エアコンのスイッチを押すとブワァっと、生温い風が送られくる。
 座ってくださいと、促され少し痛んだソファーに腰を落ち着けた。

「それで? 煮詰めたい部分ってどこかしら?」

 私は資料を取り出して説明をいつでも始められる準備をしていく。
 
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。こちらが欲しい情報は前で殆ど頂いているから」

 やはり、思った通りだ。
 だったらなんでわざわざ私を呼ぶようなことをしたのかを聞いてみると、返ってきた返事は意外過ぎた。

「紗香に会いたいっていう理由じゃダメかな?」

「え?」
 
 ニッコリと微笑みながら伝えてくるが、正直ちょっと引いてしまう。

「そ、その程度のためにわざわざこんなことまでしたの?」

 見積もり依頼書を鞄から取り出して見せる。
 金額は三倍までいかないけれど、それなりの額になっていた。

「いや、これは本当だよ。ただ煮詰めたいっていうことはちょっと嘘をついたのかもしれない。その点に関しては謝るよ」

 思わずため息を漏らしてしまう。
 なんてこった……この忙しい時期になんてことをしてくれるのだろうか。

「でも、さっきワザワザって言ってくれたけれど、俺が直接連絡してら会ってくれるのかい?」

 サクッ。
 私の内側に何かが刺さる感覚がした。

「え? それってつまり会社外ってこと?」

「そう、仕事を抜きにして俺に会ってくれる?」

 先ほどまでのゆるんだ表情から真剣な眼差しに変わっている。
 そんな顔で見つめられると、なんだか断るのが悪い感じがした。

「べ、べつにいいわよ」

 私の返事を聞いてまた笑顔に戻る。
 それに、特に断る理由も思い浮かばなかったので、今はこう返事をしておこうと思った。
 それと、また会社に意味不明な理由で呼ばれても困る、こっちは今繁忙期なのだから、仕事の時間は仕事に集中したかった。

 
 
 
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