年下の男の子に懐かれているうえに、なぜか同棲することになったのですが……

安東門々

文字の大きさ
上 下
22 / 46
元カレ

だいたい悪い予感は当たる

しおりを挟む
 次の日、私は営業部の部長から呼ばれて落胆していた。

「それは、絶対ですか?」

「ん? どうしてだ? 相手が是非とも神薙さんにと名指してきて、こんなに早く返事をくれたんだ。途中で担当が代わるのもアレだしお願いしたいのだがね」

 目の前に出された見積書を見る。
 金額の欄に書かれた数字が七桁なのを見ると、かなり本気で取り組んでくれそうだ。

「いや、肥田さんが……」

「彼はもう少し現場復帰まで時間がかかる。さっそく今日にでも出向いてくれないか? ほら、この金額が動くのは大きいぞ」

 それは理解しているけれども! 乗り気になれない。
 担当欄に漆田くんの名前を見て、小さく心の中でため息をついてしまう。

「お相手さんも随分と気前が良いなぁ、返事を昨日の今日でくれるなんて」

 それほど彼の信頼度が高いのだろう、その日のうちに会議に通して、即決めた。
 小回りのきく小さい会社では稀にあるけれど、早すぎる。

「何かあるのかしら?」

 違和感を感じ、モヤッとした感覚が襲ってくる。
 別に前の彼氏だったからということではなく、純粋に気になってきた。

「なんだって良いじゃないか、とにかく頼んだよ。今日の仕事は部下にまわしてもかまわないから」

 ここまでくれば仕方がない、私は軽く頭を下げると部屋を出て、デスクに戻り今日の仕事を確認していく。
 大した仕事も入っていないようで、事情を周りに話すと快く引き受けてくれた。

「任せてください、係長はいつも私たちの仕事もコッソリやってくださってるので、これぐらいなら全然大丈夫ですよ」

 心強いような気もするが、私がコッソリ仕事を手伝っていたのはどうやらバレていたようで、今度から手伝い難くなってしまった。 
 いや、本当はダメなのだろうがツイツイやってしまう。

「ありがとう、それじゃあお願いするわね」

 必要な書類などを鞄に入れて、身だしなみを整えると会社を出て行く。
 足取りはいつもより重いも、仕事だと割り切り前へと進んでいく。
 
 取引先の会社へは、すぐに着いてしまった。
 具体的には、好きな音楽を五曲聴くか聴かないかの範囲内で通えてしまう。

「こんな近くにいたのね」
 
 本当に人生というのはわからない、今まで巡り会わなかった人と、いつどこで会うのかわからない。 
 
「よし!」

 気合いを入れて入って行くと、すぐに昨日の部屋へと通される。
 同じように準備をして、少し部屋の中を観察していると、ドアが叩かれた。

「すみません、お待たせしました」
 
「いえいえ、全然待っていませんよ」

 昨日よりも笑顔な彼が私に座るように促し、自分も腰を落ち着けた。
 
「すみません、無理を言ってしまい」

「大丈夫ですよ。全然無理ではないですし」

 こちらも営業スマイルをすると、受付の女性が飲み物を持って来てくださった。
 アイスコーヒーにコーヒーフレッシュが二つ、ガムシロップはついていない。

「覚えていたの?」
「まぁね、ちょっと気持ち悪いかな?」

 小さく顔を横に振るって、アイスコーヒーに白い液体を入れていく。 
 漆田くんは相変わらずブラックを飲んでいる。 
 人は変わる、でも、中々変われない習慣や好みもあった。

「よし! それでは、さっそく商談といきますか」

 彼の合図で話しが進められていく。
 流石、出世しているだけあって的確な事を伝えてくる。
 見積書に対し、納期など詳しく打ち合わせし概ね発注してくれる流れになった。

「ありがとうございます」

「いや、こちらこそありがとう」
 
 振込先情報や締め日の確認まで済ませると、私は礼を再度述べて立ち上がろうとしたが、何か言いたげな感じに動きを止めてしまう。

「他にも何か?」

「ん? えっと、そうだなぁ」

 チラッと壁にある時計を確認する。 
 時刻はもう少しで十一時半になろうとしていた。

「少し早いけれど、お昼ご飯どう?」

「ご、ご飯どうって、それもしかして私誘われている?」

「そうだよ」

 そうだよって、随分と軽く誘われてしまう。
 別に急いで会社に戻る必要もないけれど、断るわけにもいかなかった。
 私の手には、契約書が握られ社判も押されている。

「奢ってくれる?」

「どうしようかな、次奢ってくれるなら今回は俺が出そう」

 次? 次もあると言うの? なんだか雲行きが怪しくなってきたので、私はこう言った。

「あら、それなら今日は割り勘ね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...